葛飾区は、荒川や江戸川など6つの河川が流れる自然豊かなエリアですが、同時に水害リスクも存在するエリアです。ここでは、葛飾区の洪水ハザードマップや駅の標高などから、浸水の危険性を探ります。また、川辺の住環境についても紹介します。葛飾区内で不動産購入を検討されている方は参考になさってください。(ライター・藤本惣平)
葛飾区の地域、河川、駅の標高
川はわたしたちにたくさんの恵みをもたらしてくれます。また河川周辺の地域は、河川敷や公園などが整備されており、子育て世代にも多大な人気があります。ただし、近年頻発する集中豪雨などによる水害リスクについて、よく知っておく必要があります。
本企画では、葛飾区の川の流れや歴史を追うことで、水景に刻まれた都市の物語を読み解くとともに、水害リスクについても紹介していきましょう。
葛飾区は東京都内23区の北東部に位置し、都内では城東地域に分類されます。北は大場川を境として埼玉県八潮市・三郷市に、東は江戸川を境に千葉県松戸市に向かい合い、西は足立区・墨田区、南は江戸川区に接しています。
葛飾区の総面積は34.80km²で23区内7位、23区の総面積(627.53km²)の5.55%を占める区です。
葛飾区の地域と河川の位置関係
葛飾区内は7つの地域(水元地域、金町・新宿地域、柴又・高砂地域、亀有・青戸地域、南綾瀬・お花茶屋・堀切地域、立石・四つ木地域、奥戸・新小岩地域)に区分けされています。
また、葛飾区には、江戸川、荒川、綾瀬川、中川、新中川、大場川の6河川が流れています。
「水元地域」の川辺の住環境や水害の歴史
西水元(大場川・中川)、南水元(中川)、水元公園(小合溜・大場川)、水元・東水元(河川なし)
水元地域は、葛飾区の北東部に位置しています。中川、大場川、江戸川の幾度かの氾濫による氾濫低地と、中川、大場川、小合溜(旧 小合溜井)沿いに形成された自然堤防の微高地からなっているのが特徴です。
水元公園内の中央公園の標高は約2.9m。水元地域の東西南北各端を加えた平均標高は約1.84mと葛飾区内ではもっとも標高の高い地域です。なお、水元地域に鉄道路線は走っていません。
水元地域の川辺の住環境
水元地域には中川、大場川の2つの河川と江戸時代(1729年)に作られた小合溜(こあいだめ)(旧 小合溜井)が流れています。
「溜井」とは、河川をせき止めて作った用水池のことで、小合溜は当時の50あまりの町村の水源であったことから、この地を「水元」と呼ぶようになったとされています。1991年に準用河川※に指定されています。
※準用河川とは、河川法の規定の一部を準用し、市町村長が管理する河川を指し、一級水系,二級水系,単独水系にかかわらず設定される。

小合溜は葛飾区と三郷市の境で水元公園を囲むように広がっており、西端は「水元小合溜水質浄化センター」で、溜井内の水はこちらで浄化・循環させています。
東端は金町・新宿地域の東金町8丁目河川敷で江戸川に向けて開かれています。
水元公園の総面積は約96万㎡で、東京都内唯一の水郷景観を持った自然公園です。春は桜、梅雨時は花ショウブなど四季折々の花が咲き、園内の釣り堀「釣仙郷」は多くの釣り客でにぎわっています。
また水害防止として、小合溜井に沿って桜土手が築かれており、都内でも有数の花見の名所となっています。
水元地域の水害の歴史と危険性
東京都建設局の「区市町村別水害データ(葛飾区)」では、1974年以降のこの地域における水害はすべて大量の降雨による内水氾濫※1で、河川のいっ水※2による被害は記録されていません。
※1 内水氾濫とは、堤防から水が溢れなくても、河川へ排水する川や下水路の排水能力の不足などが原因で、降った雨を排水処理できなくて引き起こされる氾濫のこと
※2 いっ水とは、堤防がない川などの水があふれ出ること。堤防のある川の水があふれる出る場合は「越水」という
浸水被害も大きなものはまれであり、これまでの治水事業の備えに負うものです。しかし、甚大な被害をもたらした2019年の台風19号以降、水害対策の見直しが図られており、新たなハザードマップが発行されています。
中川氾濫時のこの地域における浸水は想定されていませんが、江戸川の氾濫では浸水の恐れがあります。
また、930hPa以下の大型台風が接近した場合、高潮による浸水が発生する恐れもあり、情報収集に努める必要がある地域といえるでしょう。
「金町・新宿地域」の川辺の住環境や水害の歴史
金町2丁目〜6丁目・金町浄水場(江戸川)、新宿(中川)、東金町(江戸川・小合溜)
金町・新宿地域は、葛飾区の中央東部寄りに位置しています。金町駅周辺は微高地となっていますが、それ以外はほぼ氾濫低地で占められています。
金町・新宿地域東端の東金町8丁目近辺の標高は約2.9m。中央に位置する京成金町駅の標高は2.5m、西端の新宿2丁目の標高は約1.4m、南端の金町2丁目は約1.1mと、西南に緩やかに傾斜しているのが特徴です。
金町・新宿地域の川辺の住環境
金町・新宿地域には江戸川、中川の2つの河川と江戸時代(1729年)に作られた小合溜(旧 小合溜井)があります。
水元公園に沿う小合溜は、その南端付近で水元地域と金町・新宿地域の境を東に向かい、東京外環自動車道の下を抜けたあたりから東金町8丁目へ入り、河川敷の先で江戸川に向けて開かれています。
金町・新宿地域の水害の歴史と危険性
東京都建設局の「区市町村別水害データ(葛飾区)」では、1974年以降のこの地域における水害のほとんどが江戸川と中川両河川によるものです。ただし、いっ水は少なく、河川沿いの内水氾濫となっているのが特徴です。
また、2000年〜2009年にかけて、東金町8丁目近辺の江戸川沿いの高規格堤防整備事業により、堤防の高さ6mの約30倍の幅をもった190mのスーパー堤防が完成しました。
水元地域と同様、中川氾濫時のこの地域における浸水は想定されていませんが、荒川および江戸川の氾濫では浸水の恐れがあります。
また、930hPa以下の大型台風が接近した場合は高潮による浸水が発生する恐れがあり、情報収集に努める必要がある地域です。
「柴又・高砂地域」の川辺の住環境や水害の歴史
柴又(江戸川)、高砂(中川・新中川)、細田(新中川)、金町1丁目・鎌倉(河川なし)
柴又・高砂地域は、葛飾区の東南部に位置しています。金町・新宿地域と同様に駅所在地は微高地となっていますが、それ以外はほぼ氾濫低地が占めています。
地域内鉄道駅所在地および江戸川寄りの平均標高は約2mと比較的高く、西南に向かうほど0m台へと低くなるのが特徴です。
柴又・高砂地域の水害の歴史と危険性
東京都建設局の「区市町村別水害データ(葛飾区)」では、1974年以降のこの地域における水害の発生の多くが、中川流域の内水氾濫によるものです。ただし、いっ水は少なく、ほとんどが河川沿いの内水氾濫です。
また、1989年から1994年にかけて「寅さん記念館」のある柴又公園の整備と一体で行われた高規格堤防整備事業により、現況堤防の高さ7mの10倍を超す、幅90mのスーパー堤防が完成しています。
柴又・高砂地域は葛飾区東部に位置するほかの地域と同様、大雨による中川の氾濫での浸水は起きないとされています。
ただ、江戸川の氾濫や、930hPa以下の大型台風が接近した場合は、高潮などによる浸水が発生する恐れがあるため、情報収集に努める必要があるでしょう。
「亀有・青戸地域」の川辺の住環境や水害の歴史
亀有・青戸2丁目〜8丁目(中川)、西亀有3丁目〜4丁目・白鳥4丁目(河川なし)
亀有・青戸地域は、葛飾区の西部に位置しています。JR常磐線亀有駅近辺および東端の中川沿いは微高地となっていますが、それ以外は0m台の氾濫低地となっているのが特徴です。
亀有・青戸地域の水害の歴史と危険性
中川が流れる亀有・青戸地域では、東京都建設局の「区市町村別水害データ(葛飾区)」によると、1974年以降は水害の発生もほぼ中川流域の内水氾濫によるものです。
流域も短く、件数としてはほかの地域に比べて少ないですが、ハザードマップによると、100年、200年に一度の大規模降雨時には、荒川、中川の氾濫による水害が予想されており注意が必要です。
さらに、930hPa以下の大型台風が接近した場合は高潮などによる浸水が発生する恐れがあり、情報収集に努める必要があります。
「南綾瀬・お花茶屋・堀切地域」の川辺の住環境や水害の歴史
堀切・宝町2丁目・小菅(荒川・綾瀬川)、西亀有1丁目〜2丁目・東堀切・お花茶屋・白鳥1丁目〜3丁目(河川なし)

南綾瀬※・お花茶屋・堀切地域は、葛飾区の西端に位置しています。ほかの地域と同様、駅近辺は微高地になっていますが、標高は0m台。氾濫低地部はマイナス標高となっています。
※南綾瀬とは、東京府南葛飾郡にかつて存在した町で、現在の葛飾区の西北部に位置していた。
同地域の北端に当たる小菅4丁目で、ー0.2m。堀切・お花茶屋・宝町もー0m台。西端にある堀切菖蒲園はー1.2mと、南西に向かうほど低くなっています。
南綾瀬・お花茶屋・堀切地域の水害の歴史と危険性
東京都建設局の「区市町村別水害データ(葛飾区)」では、1974年以降のこの地域における水害の発生の多くが綾瀬川流域の内水氾濫によるものです。初期はいっ水によるものもありましたが、ほとんどは内水氾濫となっています。
南綾瀬・お花茶屋・堀切地域は、葛飾区西部に位置するほかの地域と同様、大雨による荒川、中川の氾濫による浸水が想定されています。
また、930hPa以下の大型台風が接近した場合の高潮などによる浸水が発生する恐れがあり、情報収集に努める必要がある地域です。
「立石・四つ木地域」の川辺の住環境や水害の歴史
青戸1丁目・立石・東立石(中川)、東四つ木(荒川・綾瀬川・中川) 四つ木(荒川・綾瀬川)、宝町1丁目(河川なし)
立石・四つ木地域は、葛飾区の西部に位置しています。西端の川沿いは標高1m台の微高地となっていますが、それ以外はー0m〜1m台の氾濫低地となっています。
京成電鉄押上線四ツ木駅近辺は1m台ですが、ほぼ全域にわたって0m台、ー0m台となっています。
立石・四つ木地域の水害の歴史と危険性
東京都建設局の「区市町村別水害データ(葛飾区)」では、1974年以降のこの地域における水害のほとんどが中川流域で発生しています。初期はいっ水によるものもありましたが、ほとんどが内水氾濫となっています。
立石・四つ木地域は葛飾区西部に位置するほかの地域と同様、大雨による荒川、中川の氾濫による浸水が想定されています。
また、930hPa以下の大型台風が接近した場合の高潮などによる浸水が派生する恐れがあり、情報収集に努める必要があるでしょう。
「奥戸・新小岩地域」の川辺の住環境や水害の歴史
奥戸(中川・新中川)、新小岩・西新小岩(荒川・中川)、東新小岩(中川)
奥戸・新小岩地域は、葛飾区の南部に位置しています。中川、新中川沿いは0m台の微高地となっていますが、地域内中央部がー0m台の氾濫低地で占められています。
奥戸・新小岩地域は3つの川に囲まれており、それぞれの川沿いは微高地となっていますが、中央部、とくに新小岩のあたりは、ー0m台からー1m台となっています。また、奥戸の地名は亀有・青戸地域の青戸と同様、かつて港があったことを示しています。
奥戸・新小岩地域の水害の歴史と危険性
東京都建設局の「区市町村別水害データ(葛飾区)」では、1974年以降のこの地域における水害の発生も、ほぼ中川流域の台風や集中豪雨による内水氾濫によるものです。
ただ、近年はかつてほどの甚大な水害には至っていません。ハザードマップによると、中川、江戸川が氾濫しても、南部地域は浸水しない想定にはなっていますが、1000年に一度の大規模降雨時には、荒川が新小岩駅付近のJR総武線鉄橋部で氾濫した場合、広い範囲での浸水の可能性があるとされています。
さらに、930hPa以下の大型台風が接近した場合は、高潮などによる浸水が発生する恐れがあり、情報収集に努める必要がある地域です。