コロナ禍で売り上げを大きく落とす業界が多いなか、住宅業界は好調、住宅価格も上昇している。住宅購入に関するアンケートを分析してみると、コロナ禍での外出自粛や在宅勤務の増加により、住まいに対する考え方に変化が出ていることがわかる。(住宅ジャーナリスト・山下和之)
コロナ禍でも、住宅の買い控えは起きていない
オミクロン株の出現によって、ますます長期化しそうなコロナ禍。それだけに、住まい選びについても、コロナ前に比べて大きく変わらざるを得ないが、実際にどんな変化があるのだろうか。
「リクルート」では、毎年「住宅購入・建築検討者」を対象とした調査を実施しているが、2020年の新型コロナウイルス感染症拡大を受けて、調査の実施頻度を高めて、時系列でどんな変化が出ているかを検証できるようにしている。
その結果が図表1だが、新型コロナウイルス感染症が拡大し始めた当初は、モデルルーム見学を取りやめるなど、マイホーム購入が「抑制された」とする割合が4割近くに達し、多くの人が影響を受けていた。それが、2021年になると、「抑制された」は22%に減少し、「促進された」の20%とほとんど変わらない水準に至っている。一方、「影響はない」がその間に43%から58%に増えている。
状況にかかわらず、必要なときに、必要な住まいを手に入れる。そんな考え方が強くなっているのかもしれない。
図表1 コロナ禍拡大の住まい探しへの影響
不動産業界は活況、売り上げを伸ばす
不動産仲介企業が加入する「不動産流通経営協会」では、毎年、住宅を取得した人を対象に実態調査を行っている。2020年度に住宅の引き渡しを受けた人を対象とする最新版(2021年度)の調査では、コロナ禍の影響についてさまざまな質問をしている。
それによると、34.2%の人が、新型コロナウイルスが住宅購入に「影響した」とし、逆に65.7%の人は、「影響しなかった」と回答している(図表2)。つまり、3人に2人は、コロナ禍に影響されずに、コロナ前と同様にマイホーム購入活動を続けたわけだ。
だからこそ、コロナ禍でもマンションなどの住宅が売れ、価格が上昇している。さまざまな業界がコロナ禍の影響で売り上げを大きく落としたなかでも、住宅業界は堅調に推移しており、売上高を伸ばしている企業が多い。
図表2 新型コロナウイルスが住宅購入に与えた影響の有無
年収1000万円以上は、購入時期を早めた人が5割を超える
しかし、住宅の選び方のあり方にはかなりの変化が生じている。新型コロナウイルスが住宅購入に「影響した」と回答した人に対して、どんな形で影響したのか聞いたところ、いくつかの注目すべき変化が浮かび上がってくる。
まず、住宅購入時期への影響については全体としては54.3%の人が、「当初予定よりも、購入時期を早くした」と答え、「当初予定よりも、購入時期を遅くした」は8.6%にとどまっており、「特に影響はなかった」としたのは、36.8%とだった(図表3)。
年収別にみると、400万円未満では、「早くした」は36.8%にとどまり、年収400万~800万円未満は47.0%に増え、800~1000万円未満が62.1%と最も多くなる。1200万~1600万円未満、1600万~2000万円未満も50%台の高い水準だった。
つまり、ある程度の年収に達していて、住宅購入環境が整っている人は、コロナ禍で生じた新たな住宅ニーズに対応して、当初予定より早めに住宅購入に動いた人が多いのではないかと推測される。
図表3 世帯年収別・住宅を購入した時期の変化
より広い住宅が求められるように
一方、コロナ禍で生じた新たな住宅ニーズは何かといえば、まずは住まいの広さへのニーズの拡大だろう。
先の「リクルート」の調査によると、コロナ禍拡大による住宅に求める条件の変化のトップには「収納量を増やしたくなった」と「広いリビングがほしくなった」が並び、「部屋数がほしくなった」が3位で続くなど、上位10項目中5項目が住まいに広さを求める内容だった。
たとえば、テレワークの定着によって、住まいのなかで落ち着いて仕事ができるワークスペースが必要になった。また、在宅時間の長期化によって趣味やフィットネスの空間がほしくなったといったニーズだ。
「不動産流通経営協会」の調査でも、「当初予定よりも、部屋数を増やした」とする人が13.1%に達している(図表4)。予算に限りがあるため、年収の低い層ではその割合が低いが、年収1200万~1600万円未満では16.7%に増え、1600万~2000万円未満では23.3%と、ほぼ4人に1人に増える。
図表4 世帯年収別・購入した住宅の間取りの変化
一戸建ての価格は、マンションをしのぐ10%以上の大幅アップ
広さを求める傾向は、一戸建て住宅の注目度の高まりにもつながっているのではないかと考えられる。
「東日本不動産流通機構」の調査によると、
・新築一戸建て:成約価格は3902万円 前年比11.6%の上昇
・中古一戸建て:成約価格は3451万円 前年比10.5%の上昇
新築一戸建ては、立地難から新規販売戸数が激減しているため、成約件数も減っているものの、成約価格は3902万円、前年比11.6%増と二けた台のアップだった。また、中古一戸建ては成約件数が17.1%増えて、成約価格は3451万円と前年比10.5%の上昇を記録した。
一方、マンション価格は以下のようになっている。
・中古マンション:前年比7.5%の上昇
・新築マンション:前年比2.9%の上昇
マンション価格も上がっているが、一戸建ての上がり方には及ばないことがわかる。(参考:不動産経済研究所)
また、住まいの広さをみると、成約物件の平均は、中古マンションの専有面積が64.68㎡に対して、中古一戸建ての建物面積は104.25㎡と40㎡近い差がある。コロナ禍で広い住まいを求める傾向が強まっている変化に対応しやすいのが一戸建てであり、そのため故購入希望者が増加、物件数はむしろ減少する傾向にあるため、需要と供給のバランスが崩れて、価格が上がっているのではないだろうか。
都心から離れていてもOKなのか?
とはいえ、一戸建てで一定の広さを求めるとなると、都心からの時間距離が長くなってしまうという問題がある。
しかし、コロナ禍で在宅ワークが増えて、通勤の頻度が減っているなかでは、通勤時間の長さはさほどの問題にならない。いずれは、ウィズコロナからポストコロナになり、在宅ワークの比重が多少低下したとしても、在宅中心のワーカーは一定数存在することになるとみられる。
そのため、図表5にあるように、16.1%の人が「コロナ前は利便性の高い場所にする予定だったが、コロナの影響で郊外の住宅を選択した」としている。反対に、「コロナ前は郊外の住宅にする予定だったが、コロナの影響で利便性の高い場所の住宅を選択した」は3.0%にすぎない。「特に影響はなかった」が80.7%となっている。
全体としては、「特に影響がなかった」とする人が中心とはいえ、都心の利便性の高い場所よりは郊外――という流れが生じているのかもしれない。特に、年収1200万~1600万円未満では、コロナの影響で郊外にしたとする人が31.7%と3割を超える。
在宅ワーク率が高く、高度なデスクワークが中心となる高年収の人は、都心でなくてもOKと考えるようになっているようだ。
図表5 世帯年収別・購入した住宅の立地の変化
コロナ禍での住宅購入の注意点は?
この先オミクロン株感染の終息が見えてきたとしても、いつまた、次の新種の登場で、感染者数の拡大が始まるか分からない。なかなか出口の見えない中だけに、見てきたような住まい選びの傾向は、今後も続くことになるのではないだろうか。
これから住宅購入を考えている人は、どのエリアにどの程度の広さの家を買うのか、しっかりと検討しておく必要がありそうだ。
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