大阪ミナミの地面師事件で約15億円がだまし取られた! 不動産詐欺から身を守る対策とは

2025年6月30日公開(2025年6月30日更新)
神納まお:フリーライター

数年ぶりに大規模な地面師事件が大阪で発生した。これは不動産の買い手(購入者)側が合計で約15億円をだまし取られた事件。不動産を勝手に売却されたり騙されて大金を失わないための対策はあるのかを解説する。

大阪で地面師による大規模な不動産詐欺事件が発生

大阪で地面師による不動産詐欺事件が発生し容疑者が逮捕された
大阪で地面師による不動産詐欺事件が発生し容疑者が逮捕された(出所:PIXTA)

 大阪ミナミの地価高騰エリアで、ビル3棟と土地を標的にした地面師による不動産詐欺事件が発生した。これらの不動産は、大阪市中央区に拠点を置く同族経営の不動産会社(代表は70代の女性)が所有していたもの。

 容疑者の地面師グループが共謀し、昨年の2月から3月にかけて被害女性の後継代表を装い、別の不動産会社2社と売買契約を締結。その結果、合計約15億円をだまし取った疑いが持たれている。

 この地面師グループには60代と70代の女性メンバーがおり、住民票の不正取得や偽造書類の準備など、役割を分担して取り引きを進めていたとみられている。
※以下も含め2025年6月前半時点での報道による

事件は住民票からスタート

 住民基本台帳法に基づき、訴訟や相続の手続き、債権の回収と保全などの理由や目的があれば、借用書などの金銭貸借契約を示す書類や本人確認書類を提出すると、第三者による住民票の写しの取得が認められている。

 この取得された住民票で、不動産所有者の偽造免許証の作成や、代表を務める会社の登記変更が行われた

 事件に先立ち、2023年、被害女性の居住する地域の役所で、容疑者の男性に対し、被害女性の住民票の写しが交付されていた。大阪府警によると、男は窓口で女性の債権者を装い、偽造された数十万円の借用書を提示して手続きしていたことが判明したという。

印鑑登録から会社登記を無断で変更

 2024年1月下旬には、同じ役所にて女性の印鑑登録が女性に無断で変更されていた。窓口での申請時には、女性名義で偽装された運転免許証が提出され、その顔写真は被害にあった70代女性に酷似していたという。

 つまり、女性の住民票の情報を基に偽造免許証が作成され、60代女性の手引きでグループ内の70代女性が被害女性本人になりすましたとみられる。

 容疑者グループは女性の会社登記も無断で変更している。新たな代表に就任したのは70代女性容疑者で、元代表は辞任という虚偽内容の書類が法務局に提出された。それらは偽造された臨時株主総会の議事録が用いられていた。

 個人の売り主確認においては、本人になりすました人物が現れるため、身分証明書で発覚する可能性がある。

 しかしながら、売り主が法人の場合、代表者が変更されたように登記が書き換えることができ、売買の場には登記簿上の所有者が現れる。そのため、外見上は全く不審な点はなく、登記の事実に基づいて本人確認を行うため、司法書士ですら気付きにくいだろう。

 法人の登記変更は比較的容易に行えるため、いかなる法人も狙われる可能性がある。これは極めて深刻な問題である。つまり、誰でも不動産を買う際に騙される可能性はあるということで、自分が所有している不動産を知らないうちに売られてしまう、ということになる。

地面師による不動産詐欺の2つの手口

 地面師による不動産詐欺にはさまざまな手口がある。ここでは主な手口である「手付け金詐欺」と「売買代金詐欺」の2つを取り上げる。

手付け金詐欺

 不動産詐欺の手口のひとつである手付金詐欺。これは、売り主と偽る地面師グループが買い主に物件を紹介し、売買契約を結んで手付金を受け取った後に行方をくらますというもの

 手付け金の相場は通常、販売価格の5%~10%程度だが、手付け金詐欺はそれ以上の金額を要求されることが多い。

 手付け金の授受は契約時に行われる。必要な物は、売り主または代理人の身分証明書(運転免許証やパスポートなど)だけ。登記識別情報通知(従来の登記済権利証)、売主の印鑑証明書および固定資産評価証明は、決済時、つまり残金の支払いの際に必要となる。

 手付け金のみではあるが、地面師グループにとってはリスクが少ない。手付け金とはいえ物件によっては億単位になるし、偽造などのスキルは高くなくても可能である。さらに現金で授受するため検挙されるリスクは下がる。

 大阪で発生した今回の事件も、現在のところ手付け金詐欺とみられている。

売買代金詐欺

 手付け金詐欺に対し、売買代金詐欺は不動産の決済の段階まで進み、契約金全額を詐取する手口だ。

 2017年に大手不動産会社である積水ハウスが55億円以上の被害に遭った事例は、決済から詐欺発覚までの時間差を利用したもの。不動産取引の決済と所有権移転の手続きが完了しても、詐欺にあたるならば登記は却下される。しかし、却下に至る数日間に詐欺師は逃亡を図った。

 地面師のリターンは大きいが、偽造スキルや関与する人員が増えるため、途中で発覚・検挙されるリスクも高くなる。

【関連記事】>>なぜ積水ハウスは「地面師たち」にだまされたのか? 不動産詐欺にだまされないための対策も

地面師にだまされないための対策

 不動産は高額な財産であり、いったん被害に遭うと回収が困難である。では、地面師にだまされない、狙われないために、どのような対策があるかを説明していく。

購入者側の対策

 まずは信頼できる仲介業者に依頼すること。営業年数や取引実績などの客観的な基準で選ぶこと。

 物件はかならず現地へ出向き、建物内の確認をすることも必須だ。疑問点や不審点については解消しておくこと。納得できるまで話を進めないことがポイント。とくに気に入った物件ほど、契約を急かされると焦りからだまされやすくなるため注意が必要だ。急かされたときは詐欺を疑うべきである。

 地面師グループによる詐欺対策でもっとも重要なのは本人確認だ。可能なかぎり対面で、複数の書類を用いて行うこと。依頼した司法書士に任せきりにはせず、売り主にしか知り得ない内容を尋ねるほか、不自然な点がないか会話の中でも確認してほしい。

 今回の事件に即すと、法人所有のケースはとくに注意が必要だ。最近になって法人の代表者が変更されている、本人確認を行ったり契約する場所を売り主の会社で行うことを嫌がる、権利書がない、支払いを現金で求められるなどの点が該当する。

 すべてが詐欺案件とはかぎらないものの、慎重に進めるべきサインと言える。売り主から苦言を呈されても「詐欺が多いのでご理解ください」と前置きすること。それでも、「他に売ってもいい」などと急かされるようであれば、詐欺を疑うべきだ。

所有者側の対策

 ターゲットになりやすい不動産は、空き家になっている、長く名義変更がされていない(所有者が高齢)、所有者が近隣に住んでいないなど、不正な動きに気づかれにくい状態にある。

 そのため、時々現地へ出向いたり近隣の居住者と話したりすることも有効な対策となる。空き家は売却することがもっとも安全な策であるが、難しい場合は「この不動産は売却に出していない」という趣旨の看板を出しておくのも一案。

 また、「不正登記防止申出」という制度を活用する方法もある。権利証や印鑑証明書などを紛失したり、盗難にあった場合に、不正な登記を未然に防ぐための制度である。法務局へ不正登記防止申出書を提出すると、その3カ月以内に登記が申請された際に申し出た本人に登記の通知がされる。

 法務局の登記情報はオンラインでも確認可能で、定期的にチェックすることもできる。法人所有の場合は会社の登記情報も同様に確認しておきたい。

 そして、今回の地面師事件は住民票の取得から始まっている。取得されると被害に遭う可能性がある。あらかじめ「本人通知制度」を役所に登録しておけば、住民票の写しなどを本人以外の第三者に交付したことが通知されるようになる。

 現状では完璧な対策を講じることは難しいが、警戒を強めることで地面師からの被害リスクを減らすことが可能だ。

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