「トフロム ヤエス タワー」誕生で八重洲はどう変わる? 丸の内との都市競争に注目

2025年6月20日公開(2025年6月20日更新)
山下和之:住宅ジャーナリスト

JRの東京駅をはさんだ丸の内側と八重洲側はさまざまな面で好対照だが、今その力関係が大きく変わろうとしている。八重洲側に51階建てのビルが誕生し、丸の内側に遅れをとっていたのを取り返そうとする動きが始まっているのだ。(住宅ジャーナリスト・山下和之)

丸の内はビジネスとショッピングの街に

 江戸時代、江戸城に近い丸の内は、武家屋敷など広い敷地が集まる場所だったことから、明治以降はその土地を活かして街づくりが行われてきた。現在では、大手町・丸の内・有楽町を合わせた「大丸有(だいまるゆう)」エリアとして、世界有数の金融センターのひとつに数えられている。

 エリア内に多数のオフィスビルを有する三菱地所は、「丸の内の大家さん」としてわが国を代表するデベロッパーとされてきた。近年では、その三菱地所が中心となって丸の内仲通りに世界的なファッションブランドを誘致、ショッピング街としても集客力を高め、平日の昼間人口だけではなく、休日や夜間人口も増加、24時間対応のエリアとなっている。

 それに対して、八重洲側はもともと商人や職人の街だったため、近代に入ってからも雑然とした街並みが続き、開発の波に乗り遅れていた観が否めない。古くからの雑居ビルや木造住宅などが残り、丸の内側に比べると東京の玄関口としては、ややもの足りないエリアとみられてきた。

八重洲再開発が本格化!「日八京」エリアの今

 丸の内側の「大丸有」エリアの開発の主役が三菱地所とすれば、日本橋、八重洲、京橋の「日八京」エリア開発の主役は、三菱地所と並ぶデベロッパーである三井不動産だ

 三井不動産は、江戸時代に三井高利が越後屋(現在の三越)を日本橋に開いたことを起点に、このエリアの発展に深く関わってきた。近年では「コレド室町」などの大規模再開発を手がけ、さらに八重洲・京橋エリアにも開発を広げている。2023年には、六本木、日比谷に続く3つ目の「東京ミッドタウン」シリーズとして「東京ミッドタウン八重洲」を開業し、大きな話題を呼んだ。

 そこにもともと八重洲に本社を置くデベロッパーの東京建物が、「日八京」エリア開発に満を持したかのように参戦してきた

 それが東京駅と地下街で直結する文字通りの駅前で進められている「東京駅前八重洲一丁目東地区第1種市街地再開発事業」だ。

 開発地の敷地はおよそ1万2000m2で、A地区とB地区から成る。A地区には地下2階・地上10階建ての低層棟「TOFROM YAESU THE FRONT」(トフロム ヤエス ザ フロント)を建設する。構造は鉄骨造・鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造で、設計・施工を大成建設が担う。竣工は26年7月を予定する。

トフロム ヤエス タワー完成予想図(出典:公式ホームページから)
トフロム ヤエス タワー完成予想図(出典:公式ホームページから)

 一方、B地区には地下4階・地上51階の高層棟「TOFROM YAESU TOWER」(トフロム ヤエス タワー)が建つ。鉄骨造・鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造・CFT造で、設計を大林組、施工を大林組・大成建設JV(共同企業体)が担当する。

地上約250mの複合ビル「トフロム ヤエス タワー」、東京駅前に誕生へ

 「トフロム ヤエス タワー」は地上約250mの高さで、八重洲アドレスでは最高層になる超高層ビルである。事務所、医療施設、劇場、カンファレンス、バスターミナル、店舗、住宅などで構成され、単なるオフィスビルに止まらない、さまざまな機能を持ったビルになる。ただ住宅は権利者向けの住戸だけで、一般向けの分譲は行われない。

 オフィスには、ウェルビーイングの向上に資する施設やプログラムなどを多数実装することによって、オフィステナント企業の人的資本経営や人材採用・維持・強化に貢献することを目指している。

 東京駅、八重洲エリアに関しては、首都高速の地下化、日本橋再生計画や羽田空港アクセス線による東京駅から羽田空港へのダイレクトアクセス化、つくばエクスプレスの都心部・臨海地域地下鉄との直通構想など、さまざまなプロジェクトが想定されており、その玄関口に位置する「TOFROM YAESU(トフロム ヤエス)」への期待はますます大きくなりそうだ。

 ちなみに、街区名称の「TOFROM YAESU(トフロム ヤエス)」のTOFROMは、英語の「TO」と「FROM」を組み合わせた造語で、日本中、世界中のヒト・モノ・コトがここに集まってつながり、ここから多様な価値が生み出され、発信されていく場所になってほしいという思いが込められているそうだ。

オフィス賃料や空室率には大きな差がある

 この「TOFROM YAESU(トフロム ヤエス)」の誕生で、「日八京」エリアへの注目度が高まれば、丸の内側に負けないビジネス街、ショッピング街が形成され、より多くの会社員、買い物客が集まるようになると期待されている。

 現状では、丸の内側は千代田区で、八重洲側は中央区であり、ビジネス街の評価のひとつの目安というべきオフィス賃料や空室率には大きな差がある。図表1にあるように、千代田区の3.3㎡当たりの賃料の平均は2万2,000円円台に対して、中央区は1万8,000円台となっている。

 空室率も千代田区は1.90%とほとんど空室のない状態で、空きを待っているウェイティング客が多数いるといわれている。一方、中央区の空室率は4.49%とやや高め。一般的には空室率5.0%がオフィスビルの採算ラインといわれ、5.0%以下ならオーナー優位の市場で、賃料の上昇も期待できるが、中央区はようやく5.0%を切っているものの、千代田区のレベルにはほど遠いのが現実だ。

図表1 千代田区と中央区の3.3㎡当たり平均オフィス賃料と空室率

(資料:三木商事「オフィスマーケット」)
(資料:三木商事「オフィスマーケット」)

「日八京」から「YNK」(インク)へ

 しかし、「TOFROM YAESU(トフロム ヤエス)」の誕生で、「日八京」エリアの環境が大きく向上しているようだ。 

 「トフロム ヤエス」の名称決定時に開催した記者会見の場での東京建物によると、竣工の1年前の段階でオフィスのテナントは6割方決まっているそうで、しかも賃料は「丸の内側並みの設定になっています」としている。

 新築の大型ビルであり、雨に濡れることのない駅直結という利点があるとはいえ、いよいよ丸の内側並みになったと自信をみせているのだ。その自信の表れか、最近では、「日八京」ではなく、八重洲のY、日本橋のN、京橋のKから「YNK」(インク)と呼ぶようになっている。東京建物としては同社の社是のひとつでもある「You Never Know(やってみなければわからない!)」のマインドも表しているとしており、八重洲側の変貌を象徴するネーミングと位置付けている。

2028年には日本一の高さを誇るビル「トーチタワー」が誕生へ

トウキョウトーチ完成予想図(出典:公式ホームページから)
トウキョウトーチ完成予想図(出典:公式ホームページから)

 この東京駅を挟んだ丸の内側と八重洲側を含めた一帯を、もう一段活性化させる動きとして、三菱地所が東京駅日本橋口前で進めている、「TOKYO TORCH(トウキョウトーチ)」街区の再開発プロジェクトを挙げることができる。東京駅の北側に位置し、丸の内側と八重洲側の結節点ともいうべき場所での大規模再開発だ。

 約3.1万㎡の敷地に下記4つのビルから成るビッグプロジェクトだ。

①38階建ての「常盤橋タワー(A棟)」
②62階建てのトーチタワー(B棟)
③地下4階の変電所棟(C棟)
④9階建ての下水道局棟(D棟)

 ①の常盤橋タワー、➂の変電所棟のⅠ期は21年6月に竣工し、➃の下水道局棟は22年3月に完成しており、残るのは62階建てのトーチタワーで、竣工時には高さ約390mになり、300mのあべのハルカス、330mの麻布台ヒルズを抜いて高さ日本一のビルになる。基準階約2000坪の超高層オフィスで、低層階には大規模商業施設が入り、最上階には日本一の高さを活かした展望施設、高級賃貸住宅(恐らく日本一の高額家賃設定?)、ウルトララグジュアリーホテル、約2000席のホール機能などさまざまな機能が盛り込まれる。

 東京の玄関、日本の玄関にふさわしい圧倒的なスケール感、世界に誇るランドマークとして完成が待たれ、竣工は2028年2月の予定だ。

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まとめ:新たな日本の顔として発展していく可能性

 東京、日本の玄関ともいうべき東京駅の周辺は、「TOFROM YAESU(トフロム ヤエス)」、そして「TOKYO TORCH(トウキョウトーチ)」の誕生で、大きく変貌することになる。交通アクセスの一段の向上に加えて、新たなオフィス、ショッピングやエンターテイメント機能などが誕生、まさに新たな日本の顔として発展していくことになるのではないだろうか。

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