2025年4月の金利引き上げやトランプ政権の関税政策など経済情勢が変化するなか、不動産市場はどうなっていくのでしょうか。不動産価格が上昇・下落する要因をふまえて、今後のシナリオについて考察します。(一心エステート株式会社代表取締役:高田一洋)

4月の金利上昇で、不動産の売り行きや反響に変化はあったか
2025年4月に入り、一時的に不動産購入検討者からの反響が鈍くなったように感じます。要因としては4月から銀行が軒並み金利を0.25%ほど上げたこと、それから国際情勢、特にアメリカのトランプ政権の関税政策への不安が市場に影響を与えているという側面があります。
ただ、様子見の顧客が増えている一方で、全く問い合わせが来ないというわけではありませんでした。私個人の意見では、不動産価格は今後も上昇すると考えています。その理由や今後の不動産価格をどう見るか。株価と不動産価格の関係性、上昇・下落する要因などについて考えて見たいと思います。
今後の不動産価格の推移をどう見るか

不動産価格の将来予測を語る前に、まず現状の分析からしていきましょう。私の見立てでは、都心の不動産価格は「日経平均株価に限りなく等しい値動きをする」傾向があります。(※詳しく知りたい方は、以前私が書いた記事「中古マンションの将来価格は予測できる?実は日経平均株価と相関関係があった!」を参照ください。)
過去を振り返ると、平成バブルのときには、日経平均株価が最高値をつけた1年後に不動産価格がピークになったという歴史があります。最近の分析では、反応の早いエリアだと3カ月、あるいは東京都心のような活発な市場だと1カ月程度で株価の動きに連動する傾向が見られます。そういう意味では、今の株安が不動産市場にどう影響するか、非常に神経質になっていますね。
一方で、不動産価格だけを見ていると、まだ下落の兆候は明確には現れていません。これは、実際の取引と価格変動にはタイムラグがあるからです。特に不動産取引は、株式のように即時に売買ができるわけではなく、売買の検討から契約完了までには数週間から数カ月かかりますから、市場の変化が実際の価格に反映されるまでには時間がかかります。
不動産価格の上昇要因
では、今後の不動産価格の見通しはどうなるのか。まずは上昇要因から見ていきましょう。
まず、不動産は基本的にインフレに強いと言われています。物の価値が全体的に上がっていく環境では、実物資産である不動産の価値も上がりやすい。特に都心部では、金利が上昇しても「景気がいい証拠だ」「インフレが起きているんだから投資するべきだ」という投資マインドが健在です。
つまり金利上昇の裏側には、投資の側面もあるということです。景気が良くなってインフレが起きているからこそ金利を上げているわけで、それは経済が成長している証拠とも言えます。ですから、単純に「金利が上がったから不動産は下がる」というわけではありません。特に都心部の不動産は、経済のファンダメンタルズに支えられている部分が大きいです。
それから、東京都心は、2030年まで再開発が続く予定で、長期的な成長が見込まれています。日本の経済が30年ほど停滞していたのは例外的な現象で、世界全体を見れば経済は成長し続けるものです。こうした長期的な視点で見ると、不動産価格は基本的に上がっていくと考えることができます。
不動産価格の下落要因

一方で、懸念材料もいくつかあります。まず最大の懸念は、トランプ政権の関税政策です。もし厳しい関税が課されれば、日経平均株価が下落する可能性があります。
正直なところ、関税が世界経済全体にどれほど影響を与えるのかはわかりませんが、事実として日経平均株価やNYダウには多大なる影響を与えました。市場は、日経平均株価と不動産価格の連動を認知しているからこそ、不動産価格の下落を懸念していることは間違いありません。
関税政策が実際に導入された場合、日本の輸出産業に大きな打撃となり、企業収益の悪化から株価下落につながる可能性があります。そうなると円高傾向になり、外国人投資家からみると日本の不動産は割高に映るため、海外からの投資が減少するでしょう。
その結果、特に大規模な商業施設や大型のマンションプロジェクトへの投資が滞る可能性があります。そうなれば、不動産市場全体の流動性が低下するリスクがあります。
また、金利上昇も無視できません。4月から各銀行が貸出金利を0.25%程度引き上げていますが、これは住宅ローンの返済負担を増加させます。特に変動金利でローンを組んでいる人は、全体の約7割を占めることから、金利上昇は購買力の低下につながるといえるでしょう。
この影響は、特に地方で顕著に現れる可能性があります。都心部では「金利が上がったけど、そこまで大きな影響を受けるとは思わない」と考える層が多いですが、地方の5,000万円クラスの戸建て物件などは、購買力の低下の影響を強く受けるでしょう。つまり、同じ金利上昇でも、影響の出方は地域や価格帯によって大きく異なるということです。
資材高騰も懸念材料です。建設資材の価格上昇や人件費の高騰は、新規物件の供給コストを押し上げています。特に地方の工務店や建設会社は、資材高騰、利益率の低下、顧客の購買力の低下という三重苦に直面しています。これは地方の不動産市場をさらに冷え込ませる要因になるでしょう。
不動産価格調整のシナリオ
こうした上昇要因と下落要因を考慮すると、今後の不動産市場はどのようなシナリオが考えられるでしょうか。
1つ目のシナリオは、価格は下がらないけれど取引が滞るというパターンです。これは価格の「粘着性」が強く働くケースです。原価の上昇を価格に転嫁せざるを得ない状況のため、企業は簡単に物件価格を下げることができなくなります。
そうなると、市場が凍結して「不良債権化」するリスクがあります。つまり、価格は高止まりしたまま(損切もできない状況)、取引が成立しなくなるという状態です。これは2008年のリーマンショック後にも一部で見られた現象です。
2つ目のシナリオは、最終的には企業が損切りを迫られ、「ダンピング合戦」になる可能性です。市場が長期間凍結し、キャッシュフローの問題から企業が耐えられなくなると、急激な価格調整が起こる可能性があります。過去には、東日本大震災直後の湾岸エリアのタワーマンションは、3000万円台まで暴落したという時期もありました。
もっとも、今回はそこまでの極端な価格調整が起きるかどうかは不透明です。なぜなら、価格を支える要素として原価の上昇という背景があるからです。建設資材の高騰や人件費の上昇は、すでに企業が「吸収しきれない原価アップ」として価格に転嫁せざるを得なくなっています。こうした原価上昇は、どうすることもできないインフレであり、簡単に価格を下げることはできません。
3つ目のシナリオは、エリアや物件タイプによって明暗が分かれるという可能性です。都心の優良物件は価格を維持し、場合によっては上昇する一方で、郊外や地方の物件は価格調整を余儀なくされるかもしれません。私の予想としては、この二極化現象がより顕著になってくると考えられます。
結局のところ、今は売り時? 買い時?
こうしたシナリオを踏まえると、「今は売り時なのか、買い時なのか」という疑問に答えるのは難しいですね。あえて答えるなら、私は「今は買い時」だと考えます。
確かに、金利の上昇やトランプ関税などによって、市場は一時的に下落する可能性があります。しかし、これはあくまで調整局面であって、長期的には右肩上がりのトレンドは変わらないでしょう。
長期的に見ると経済は必ず成長するもので、成長しない経済というのは日本のバブル後の30年間くらいで、極めて特殊な事例です。世界経済全体で見れば、成長は続いていますし、これからも続くでしょう。
特に都心部の不動産は、この30年間、日本の経済停滞期に価値を大きく下げることなく、場所によっては上昇してきた実績があります。今後も東京を中心とした都市部では、再開発や都市機能の充実によって不動産価値は上昇する可能性が高いです。繰り返しますが、「場所さえ間違えなければ」今は買い時だと考えています。
ただ、すべての物件が同じように値上がりするわけではありません。地域や物件タイプによって明暗が分かれることは十分に考えられます。だからこそ、物件選びは慎重に行うべきです。私が顧客にアドバイスしているのは、「買うなら一流の立地、売るなら三流の立地」ということです。
まとめ
不動産市場は現在、金利上昇やトランプ関税政策の影響で「様子見」のムードが広がっていますが、これは一時的な調整局面と捉えるべきでしょう。都心の不動産価格は日経平均株価と連動する傾向があり、短期的な変動はあっても、長期的には上昇トレンドが続くと考えられます。
売却を検討すべき物件は、金利上昇の影響を受けやすい地方物件、立地条件の劣る物件、再開発計画が不透明なエリアの物件などです。一方で「場所さえ間違えなければ」今は買い時であり、特に都心の優良物件は将来性があります。不確実性の高い時代だからこそ、さまざまな視点から、慎重に判断する必要があります。