マイホームといえば、何千万円もの住宅ローンを組んで20年、30年かけて返済するのが当たり前になっているが、それではあまりにも人生の自由がなさすぎる。そんななか、3Dプリンターを活用して24時間、500万円で建つ家を広げることで、人生の自由を取り戻してほしいと取り組んでいる企業がある。果たして、どんな家なのだろうか。(住宅ジャーナリスト・山下和之)
百貨店の福袋に「3Dプリンターで建てる家」が登場
2023年の高島屋の福袋に、3Dプリンターで建てる家が登場した。「Sphere(スフィア)3Dプリンターハウス福袋」がそれで、価格は330万円、1棟の限定販売だ。この3Dプリンターで建てる家を提供するのは、兵庫県西宮市に本社を置く、スタートアップ企業のセレンディクス株式会社。
「Sphere(スフィア)3Dプリンターハウス」は、セレンディクスが2022年10月から販売を開始しており、2022年度の販売予定の6棟は完売している。場所も長野県や大分県などさまざま。
海外の3Dプリンターメーカーに建設を依頼して国内に運び、トレーラーで各地に運んで設置できるので、土地さえあれば設置場所はどこでもOKというわけだ。約10㎡の球体型なので、自宅とは別に、山のなかや湖のほとりなどに自由に建てることができ、グランピングや趣味を楽しむ離れ家などにぴったりだろう。
構造はコンクリート造なので10㎡でも重量は22tあり、安定性は問題ない。しかも24時間で建築可能となっている。
その実績を踏まえて、セレンディクスでは、やはり3Dプリンターを使った本格的な住宅の開発を行っている。下の写真にあるような、1LDKの一戸建て「フジツボモデル」の開発に着手しており、2023年春には500万円での販売を行えるようにしたい考えだ。
フジツボモデルは高さ4mほどの平屋建ての1LDK、49㎡の広さで、高い天井の室内となっている。電気、水道を導入し、水回りも完備。一般住宅では壁だけでも複数の素材を使用し、屋根はさらに別の素材を使用するが、3Dプリンターの家はコンクリートのみの単一素材で施工する、わが国では初めての住宅になる。こちらも、建築に要する時間は24時間だ。
構造は球体の鉄筋コンクリート造で、自然災害にも強い
そうはいっても、そんなに安い住まい、防災などの安全面は大丈夫か不安になりそうだが、「Sphere(スフィア)3Dプリンターハウス」は球体の構造なので、地震には強いし、「フジツボモデル」も、一般の住宅にはないさまざまなメリットがある。
構造の基本が球体であるため、物理的に地震の揺れを吸収するなどの特性があり、構造は鉄筋コンクリート造であるため耐火性や断熱性にも優れており、独特の外観デザインにできるというメリットもある。
しかも、球体が基本であるため表面積が少なく、材料の使用量を低減でき、地球にもやさしい住まいになるという特性もある。
さらに、セレンディクスでは、3Dプリンターによる住まいに特化した住宅向けの保険商品も開発予定で、火災や風水害などによる被害が出た場合でも補償できるようにして、普及を促進したい考えだ。
3Dプリンター住宅で、住宅ローンからの開放を目指す
わが国では、30歳代、40歳代などの働き盛りの時期に、20年、30年の住宅ローンを組んでマイホームを購入するのが当たり前になっているが、セレンディクスのCOO飯田国大氏は、それを何とか打破していと考えているそうだ。
「ある調査によると、住宅ローンの返済が終わる年齢の平均は何と73歳というのが現実です。住宅ローンのために働き盛りの時期の自由が奪われ、住宅ローンが終わるときには精も根もつき果てるのがいまの日本人ではないでしょうか。住まいが多くの日本人から、大切な人生の時間を奪っているのです。その住宅ローンからの開放を目指して3Dプリンター住宅に取り組んでいます」
現在、大手住宅メーカーの戸建住宅は1棟当たりの単価が4000万円を超えるようになっている。大量生産によるコスト引下げでローコスト住宅の供給を行っている、いわゆるパワービルダーの住まいでも大手の半分、2000万円程度にするのがやっとだろう。
しかし、3Dプリンターの住まいなら、500万円だから人生の大半を住宅ローンに縛られることはない。定年退職後の高齢者なら、退職金の蓄えで購入できるかもしれないし、若い世代であっても、堅実な家計管理を実践している世帯なら、500万円以上の預貯金があるのではないだろうか。そうであれば、住宅ローンを組むまでもなく、現金買いが可能になる。
5年後には、年間3000棟を供給できる体制に
この3Dプリンターによる住まいについては、日本はおろか世界中で報道されているため、すでに、多くの問い合わせが入っているそうだ。
「3Dプリンターで家を建てたいという申込みがこれまでに1800件入っています。この潜在顧客数は大手住宅メーカーの四半期の問い合わせ件数にも及び、たいへん強いニーズを感じています」(飯田氏)
そのため、早急に国内生産体制を整え、2023年度の初年度の目標を24棟としている。すでに国内に建設用3Dプリンターを3台設置しているが、さらに春には5台とし、早く体制を整備し、5年後には3000棟を供給できる体制にもっていきたいという。
そのための起爆剤のひとつに考えているのが、2025年の大阪・関西万博。まだ詳しい内容は決まっていないが、何らかの形で出展して、日本中、世界中に3Dプリンター住宅の浸透を計っていきたい考えだ。
3Dプリンターで建てる家を購入しているのはどんな人か
ところで、すでに1800件の申込みが入っているということだが、どんな人たちが申し込んでいるのだろう。飯田氏が説明してくれた。
「価格が500万円と安いこともあって、自宅の住宅ローンが終わって、現在は無職というご高齢の方々が中心です。マイホームは持っているものの、若いうちに買った住宅は老朽化が進んでおり、耐震性やバリアフリー性能などさまざまな問題があります。かといって、買い換えには何千万円もかかるし、リフォームをするとなるとそれだけで1000万円もかかってしまう。だったら、3Dプリンターを使って建て替えればいいのではないかというわけです」
その前提となるのが、3Dプリンターの家を建てる土地を持っているという人になる。 古くてもマイホームのある人なら、それを解体して3Dプリンターの住まいに建て替えるのであれば、500万円の取得費に、解体費などの多少のプラスαの負担増ですむ。
地方の空き家を解体して建てることも可能
では、マイホームを持っていない人はどうなのかといえば、地方の地価が安い土地を取得して3Dプリンターの住まいを建てる方法が考えられる。定年退職後の世代であれば、地方への移住もまったく問題ないだろうし、若い世代でもテレワークを前提にすれば、大都市部の地価が高いエリアにこだわる必要はない。
東京では一戸建てを建てる土地の取得には何千万円もかかるが、地方なら1000万円以下で取得できるエリアが多いし、多少の不便を覚悟すれば、100万円単位で手に入る場所もあるだろう。
地方出身者であれば、田舎に父母や祖父母が住んでいた家が空家になっているかもしれない。空家は持っているだけでは固定資産税などの維持費がかさむだけだが、解体してしまえば、維持費が不要になる上、安く3Dプリンターの家を建てることができるようになって一石二鳥だ。
マイホームがないまま高齢化していくと、しだいに保証人などの問題で賃貸住宅を借りにくくなる。マイホームを持っていない人も3Dプリンター住宅なら老後の備えになりそうだ。
住宅を自動車のように気軽に買い換える時代に
耐久消費財の代表格である自動車は、何百万円単位のクルマを定期的に買い換えていくのが一般的だが、住宅についても価格が500万円まで下がれば、自動車同様に買い換えることが可能だ。
しかも24時間で建つとなれば、いつでもどこにでも希望の場所に、希望の住まいを建てることできる。 住宅も自動車のように、気軽に買い換える時代がくるのかもしれない。セレンディクスの3Dプリンター住宅の動向に注目だ。
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