3Dプリンターによる住宅の研究、開発を行っているセレンディクスは、2024年9月に2人世帯向け「serendix50」の第1号棟を、復興住宅モデルとして石川県珠洲市に建設した。2025年には550万円という信じられない価格で販売計画の本格フェーズに入る。(住宅ジャーナリスト・山下和之)
3Dプリンター住宅なら50㎡の家が550万円で供給可能

セレンディクス(本社・兵庫県西宮市)は、無人でロボットが家をつくることを目指すスタートアップ企業として、2019年12月に日本で初めて3Dプリンターによる住宅を造るプロジェクトをスタートさせた。
2022年3月には「serendix50」という3Dプリンターによる住宅をわずか23時間12分で完成させて注目された。
「serendix50」は専有面積50㎡の1LDKで、価格は550万円と低価格。セレンディクスのCOO飯田國大氏はこう語る。
「日本の会社員は平均4000万円の住宅ローンを組んでマイホームを買っています。30年以上にわたってローンを返済し、完済時には定年を迎えています。ローンに縛られて自由がありませんが、ほんとはもっと自由に生きていい。その点、家の価格が550万円であれば、クルマを買うような感覚で家を手に入れることができます。そうなれば、ローンに縛られることなく、自由に生きることができるはずです」
日本の住宅は20年で価値がゼロになるといわれる。過去、50年間に860兆円かけて建てられた家の価値が340兆円に下がり、差し引き500兆円以上の資産が泡のように消えているわけで、大変な社会的損失である。
住宅に投じられている資金を起業や投資などに回せば社会の活力源となる可能性が高いのではないだろうか。
「国土交通白書」で未来技術として紹介された
では、3Dプリンターでつくる住宅とはどんな住まいなのだろうか。一言でいえば、3Dプリンターと複合素材を用いて造り、建設の工程を無人化することで家づくりのコストの大半を占める人件費を大幅に低減できる。
建設は、熊本県、千葉県、沖縄県に設置(2025年時点)された3Dプリンターで作成した部材を現地に運搬し、組み立てるだけなので、建物自体は1日あれば建ってしまう。だからこそ50㎡の住まいを550万円で供給できるわけだ。
本当にそんなことが可能なのか不安に感じる人もいるかもしれないが、実はさまざま面で、国の“お墨付き”を得ているので安心感がある。
2024年度の国土交通省の「国土交通白書」では、セレンディクスの建築物が取り上げられている。3Dプリンターによる施工は自由度が高く、デザイン性の高い空間を創りだすうえ、無人化と工期短縮を実現する未来技術として紹介されているのだ。
能登半島の被災地に3Dプリンター住宅を建設

2024年10月には、能登半島地震の被災地である石川県珠洲市に、3Dプリンターによる住宅、「serendix50」を完成させている。
3Dプリンターで完成された住宅だが、建築基準法に適合した壁式鉄筋コンクリート造の住宅として検査済証が発行されていて、文字通り“お墨付き”を得ているわけだ。
この珠洲市の「serendix50」は、もともと地元のオーナーからグランピング施設として建設したいというオーダーで、建設に向けて計画が進められていた。しかし、2024年1月に最大震度7の能登半島地震が発生した。
しかも、豪雨災害が追い打ちをかけたが、「被災した地域の人たちに生活再建の希望を持ってもらうために、丈夫かつ安価で建築できる住宅の形を伝えたい」というオーナーからの強い意向で、3Dプリンター住宅を建てることになった。
そこで、セレンディクスは長野県佐久市で計画を進めていた「serendix50」の販売第1棟目の予定を急遽変更し、珠洲市に建設することになった。

建設に当たっては本体だけではなく、基礎部分にも3Dプリンターを活用した。通常は職人が型枠を組み、そこにコンクリートを流し込んで打設する。しかし、型枠も3Dプリンターを使用することで、基礎部分と一体化して造ることができるようになり、コストダウンが可能になった。
こうして完成した「serendix50」は、被災した住民向けの無料宿泊体験や見学会として利用された。

まだまだインフラの整備が十分とはいえないので、2棟目、3棟目の建築には至っていないが、地震などで住まいを失った人たち向けの仮設住宅ではなく、住み続けられる住まいとしての3Dプリンター住宅が建設される日が来ることになるだろう。
鉄道の駅舎やウクライナの復興住宅建設にも採用

被災地だけではなく、さまざまな場所で3Dプリンター住宅が建てられるようになっている。
2024年5月には、JR西日本と業務提携して鉄道関連施設の建設にも着手している。JR西日本では労働力不足の問題などによって、駅舎やその他の関連施設の設備の更新、メンテナンスの維持が大きな課題となっている。
また、鉄道交通という特殊性から工事は夜間の限られた時間帯に短時間で済ませなければならない。
まさに、省力化、迅速化が得意な3Dプリンター建築物の本領発揮で、当初6時間で完成させる予定だった駅舎を2時間で完成させることに成功した。もちろん、3Dプリンターによる駅舎の建築は世界でも初めてのことである。
セレンディクスでは、一般消費者を相手とする販売活動(BtoC)を念頭に置いてきたが、産業界からのニーズも強く、BtoBの分野での活動も増えそうだ。
さらに2024年には、日・ウクライナ経済復興推進会議において、ウクライナの復興住宅に関して現地の建設会社と覚書を締結している。
復興住宅の建設に必要なデジタルデータをセレンディクスが設計し、無償で提供。ウクライナでは現地の協力企業がコンクリートで住宅の部材を出力して施工することになる。まずはプロトタイプの建設から始めて、本格的なプロジェクトを進めていくことになる。
3Dプリンター住宅の活動範囲は国内だけではなく、世界にも広がっていきそうだ。
2025年は販売計画の本格フェーズに
こうした動きを踏まえてセレンディクスでは、いよいよ研究、開発フェーズから本格的な販売活動を展開したい意向だ。
「これまでの研究と開発の成果を踏まえ、2025年からは販売計画の本格フェーズに入ります。すでに国内外から1万4000件以上の問い合わせが入っています。こちらの体制が整えば、serendix50が全国に建つようになるでしょう」と飯田氏は話す。当面の目標は5年間で3000棟の着工を目指している。
なお、研究・開発に主眼を置いているだけに、資金の確保など、経営面は大丈夫なのか気になるが、そこは問題なさそうだ。
セレンディクスは2018年に設立のスタートアップ企業だが、その技術力は内外の企業からも高い評価を得ており、各社からの出資が相次ぎ、資本準備金および余剰金は6億円を超えている。将来の成長に向かった資金の確保など経営面においても盤石の体制が整っている。
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