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三井ホームが木造マンションブランド「MOCXION(モクシオン)」を立ち上げ! マンションも脱炭素時代へ突入か?

2021年10月13日公開(2021年10月13日更新)
山下和之:住宅ジャーナリスト

注文住宅を手掛ける三井ホームは、人にやさしく、サステナブルな建築資源である「木」を構造材に用いた新ブランド「MOCXION(モクシオン)」を立ち上げた。鉄筋コンクリート造が当たり前のマンションに、「木」の時代が来るのだろうか。(住宅ジャーナリスト・山下和之)

木造マンション「MOCXION(モクシオン)」、住宅性能表示制度の最高等級を取得

 三井ホームは2×4(ツーバイフォー・枠組壁工法)の注文住宅を軸に、低層賃貸住宅のほか5000棟を超える住宅系建築物の実績を持っているが、それをさらに発展させるため、今後マンション分野に本格的に参入する。

 木造マンションの新ブランド「MOCXION(モクシオン)」は、脱炭素社会に向けた取り組みであり、建設時CO2を大幅に削減して地球環境に貢献する一方、高い断熱性や省エネ性・耐久性・耐震性・遮音性を備えるという面でもサステナブルなマンションを目指している。

 ちなみに、名称のMOCXION(モクシオン)は、「Mitsui Home Original Construction method」の頭文字と、「Mansion」と「minus Ion」の語尾を組み合わせた造語だそうだ。

 事実、MOCXION(モクシオン)の第1弾である「(仮称)稲城プロジェクト」は、国が定める住宅性能評価制度において、断熱等性能等級(*)は4を獲得。ほかにも、住宅で使用する電気やガスが石油や石炭などの一次エネルギーに換算してどの程度になるかを示す「一次エネルギー消費量等級」、住宅の寿命をはかる評価項目である「劣化対策等級」のいずれも最高等級を取得している。
*断熱等級:「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に定められた住宅の省エネ性能の基準。等級1~4まであり、等級4は次世代省エネ基準と言われる最高レベル。

木造マンション第1弾は、木質の温かみが宿る賃貸マンション

「(仮称)稲城プロジェクト」の外観イメージ(写真提供:三井ホーム)
「「MOCXION INAGI(モクシオン イナギ)」」の外観イメージ(写真提供:三井ホーム)

 この「(仮称)稲城プロジェクト」は、2020年11月に、東京都稲城市で着工した。2021年5月には上棟を終え、2021年11月竣工の予定、名称は「MOCXION INAGI(モクシオン イナギ)」と決まった。

 まずは、賃貸マンションとして三井ホーム自身が管理しながら問題点などを確認、その結果を活かし、いずれは木造の分譲マンションも供給していきたいと考えているという。

 1階は鉄筋コンクリート造で2階から5階が木造。専有面積は50㎡台の2LDKから90㎡台の3LDKなどの間取りで、賃料は間もなく始まるテナント募集時に公表される見込みだ。

 外観イメージ写真にあるように、デザインも木質の温かみを表している。同時に、内部もエントランスや内廊下などの共用部分のほか、居室内部に木材の素材をそのまま使用しているため、木の香りに包まれた空間が形成されることになる。

木造マンションの弱点だった耐震性、耐久性は、「高強度耐力壁」で克服

三井ホームの高強度耐力壁(写真提供:三井ホームズ)
三井ホームの高強度耐力壁(写真提供:三井ホームズ

 木造のマンションといえば、断熱性、省エネ性、耐久性、耐震性、遮音性などのさまざまな面で鉄筋コンクリート造に劣るのではないかと懸念する人が多いかもしれないが、三井ホームではそうした課題を解決するため、さまざまな技術を開発してきた。

 写真にあるのは、同社が独自開発した「高強度耐力壁」で、国内最高レベルの壁倍率30倍の高強度耐力壁となっている。この開発によって、耐震性、耐久性のアップはもちろんのこと、従来に比べて壁厚を半分程度に減らすことができ、建物の有効面積が広がり、設計自由度が高まるというメリットもうまれた。

遮音性の高い床システムと低コストの面材

 木造建築物は鉄筋コンクリート造に比べて工期の短縮、建物の軽量化などのメリットがある半面、遮音性の確保が大きな課題とされてきた。そこで、「(仮称)稲城プロジェクト」の建設に当たっては、鉄筋コンクリート造と同等クラスの高性能遮音床システムを開発、重量床衝撃音LH-55以下、軽量床衝撃音LL-45以下を実現した。

 また、「(仮称)稲城プロジェクト」では、床組みとして「NLT (Nail Laminated Timber)」と呼ばれる面材を活用しているのが大きな特徴。NLTは小さな木材を釘のみで接合してつくりだすので、接着剤を必要とする集成材などに比べて、コストを抑えることができ、構造材としての強度は元の木材を大きく上回る。短い製材をつなぎ合わせて長尺のパネル製造も可能になり、「大空間」の設計を実現する。

 一方、国内初の試みとして、国産材による大断面の枠組壁工法製材(2×10材)を床組みの一部として利用している。さらに三井不動産グループの保有林で伐採適齢期を迎えた木材や間伐材を、軒裏や内装材として活用している。それによって、地域の林業の活性化に貢献するとともに、建物や室内が木材の温かみを感じる空間が可能になるのも大きなメリットだろう。

 ただ、一般的には、木造の建築物は鉄筋コンクリート造の建築物に比べて、耐震性などの面でやや劣るのではないかというイメージが強いのも現実。木造マンションの普及拡大に当たっては、そうした木造の弱点と見なされるようなイメージをいかに払拭できるのかが大きな課題といえよう。

海外では18階建ての木造高層マンションも

 わが国の木造マンションの建設は緒についたばかりだが、海外では木造の高層マンションが決して珍しくない。

 たとえば、カナダのブリティッシュ・コロンビア州にある州立大学の学生寮はCLT(直交集成版)を用いた18階建てで、400人の学生が暮らしている。基礎と1階の柱、2つの階段室であるコア部分を鉄筋コンクリート造で構築、2階から17階の柱にはベイマツによる集成材を、床に5層構造の「CLT」を用いているそうだ。

 CLTというのは、ひき板を並べた上に、繊維方向が直交するように何重にも接着した木質系の材料で、従来の木材に比べて格段の強度を有する。1990年代後半からオーストラリアを中心に発展、現在ではヨーロッパ各国、カナダ、アメリカでもCLTを使った高層建築が建てられるようになっている。

 わが国でも、これからCLTを活用したマンションが増えると期待されている。

木とコンクリートのハイブリッド高層マンションも誕生!

 純粋な木造ではないが、鉄筋コンクリート造とのハイブリッド工法の分譲マンションがすでに登場している。それが、野村不動産と竹中工務店による「プラウド神田駿河台」。柱・壁などの構造部に木質系構造部材を使用した、14階建ての、わが国初の木造ハイブリッド高層分譲マンションだ。

野村不動産「プラウド神田駿河台」完成予想図(資料:野村不動産リリース資料より)
野村不動産「プラウド神田駿河台」完成予想図(野村不動産リリース資料より)

 中層階には単板積層材と鉄筋コンクリート造耐震壁を組み合わせた「LVLハイブリッド耐震壁」を、高層階にはCLT集成板を用いた「CLT耐震壁」と耐火集成材「燃エンウッド」を使用した。

 いずれも表面を耐火被覆材などで覆うことなく、木肌を現しで使用し、木の温もりを感じさせると同時に、木造のマンションに住むことで環境に貢献しているという高揚感を感じるデザインになっている。

 東京都千代田区神田駿河台1丁目に位置し、最寄り駅は徒歩5分のJR中央線・総武線「御茶ノ水」駅という好立地であり、坪単価が500万~700万円台で、億ションも含む高額物件ながら、竣工前に完売する人気だった。

 多少高くても、メリットがあれば十分に売れるということであり、今後のマンションの木造化に弾みをつけることになりそうだ。

地上70階建ての木造高層ビルの計画?!

木造賃貸オフィスビルの外観イメージ(資料:三井不動産リリース資料より)
木造賃貸オフィスビルの外観イメージ(三井不動産リリース資料より)

 マンション以外にもさまざまな木造ビル計画がある。

 2020年9月、三井不動産と竹中工務店は、東京・日本橋に国内最大・最高層の木造賃貸ビルを建設すると発表している。地上17階建て、高さ約70mで、構造材に使用する木材量は国内最大級の1000㎥超となる見込み。

 三井不動産グループが所有する北海道の森林の木材を積極的に活用し、環境問題に貢献すると同時に、林業の振興により地域経済の活性化にも役立つとしている。2023年に着工、2025年の竣工を目指している。

 さらに、実現はまだ先のことになるが、気宇壮大な計画もある。2018年に注文住宅大手の住友林業は、高さ350m、地上70階建ての木造超高層ビルの構想を発表している。あくまでも「構想」レベルであり、いつ、どこに建てられるのかは明確ではないが、夢のある計画ではある。

住友林業70階ビル
写真を拡大 住友林業の70階建て木造高層ビル構想(画像提供:住友林業・日建設計)

 マンションからオフィスビルまで、木造化がこれからの大きな流れになっていきそうだ。

 このような木造のマンションやオフィスの建築は、鉄筋コンクリート造と違って人と地球環境にやさしいのは言うまでない。建築に当たっては、鉄筋コンクリート造に比べてCO2排出量を2分の1に削減できる。

 それに、わが国は国土の7割が森林で占められており、その木材の有効活用を行えば、世界に冠たる資源大国になり得る。もちろん、衰退気味の林業の振興に貢献するなどの期待もある。わが国が木造のマンションやオフィスで世界をリードする、その日が来るのを期待したいものだ。

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