20年独裁した管理組合の末路、ウーバーイーツもヘルパーも禁止されたマンションから学ぶ教訓(ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス<下>)

【第2回】2025年6月7日公開(2025年6月7日更新)
栗田シメイ:ノンフィクションライター

「身内や知人を宿泊させる場合は1万円」「ウーバーイーツ禁止」「土日は介護事業者やベビーシッターが出入りできない」「購入時は管理組合との面接」などの謎ルールに疲弊する秀和幡ヶ谷レジデンスの住民たち。住民たちと管理組合と1200日にも及ぶ闘いのカギは「過半数の委任状を集めること」。マンション、集合住宅に住む人なら身近に潜んでいるトラブルについて2回に分けて紹介する。なお、書籍にて攻防戦の結末にも触れられており状況は改善されている。【栗田 シメイ著:書籍『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』(毎日新聞出版)から転載】<前回の記事はこちら

秀和幡ヶ谷レジデンス
書籍『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』

有志の会にて作戦会議、静かに始まった反撃

 有志の会は、ここで大胆な決断に出る。総会前の2019年1月に、外部オーナーだけでなく、全区分所有者向けの匿名文書を送付したのだ。判明している謎ルールや、浴室にはバランス釜しか認めない理不尽なリフォームが、資産価値を下げている実情を記した。その上で2月の総会に出席し、自らの目で判断してほしいと組合員全員に問いかけたのだ。

 対象を広げたことで、アンケートの戻りは急増。より具体的な記述も目立つようになってきた。その切実なる声の数々は、驚愕に値するものだった。区分所有者から返ってきた自由記述欄の内容には、以下のようなものが記されていた。

区分所有者から多くの声が集まった(出典:PIXTA)

●複数の不動産屋によると、このマンションは1000万円近く価値を下げていると私も聞きました。バランス釜、物干し、面接等。

●大手不動産の出入り禁止は異状です。理事も同じ人が何十年も努めていることも異状です。

●怖くて本当の事が書けませんし、言えませんでした。

●現在の管理会社の方は、ゴミ置き場等で挨拶もしてくれないし、置き場所を聞くと舌打ちされたり、面倒くさそうにされたり、工事関係の方と外で怒鳴りあっていたこともあり、今までで一番感じが悪いです。

●資産価値が、まさかこんなに低いとは、知りませんでした!

●自分の持ち家なのにお風呂は今のままいじれない。風呂釜は高くて使いづらい。年を重ねれば、足も今ほど上げられなくなるかもしれません。せめてお風呂はゆっくり入れるものにしたいと思っていましたので、とても残念です。

●他の人に借りてもらうことすら難しく困っています。

●入居前面談で希望者が却下され空室です。わかることは賃貸募集の所有者にかかる経済的負担、不利益、迷惑をまるで考慮していないということです。

●入居者の退室にあたって、次からは「入居前面談」をすると聞いて驚きました。「規約」を読み直しましたが、そんなことはどこにも書いていません。

●総会で意見を言っても議事録には残されません。酷い理事会の運営、高圧的な態度です。

●現理事会が決めた「修繕計画」が本当に必要なものか検討すべき。

●「介護ヘルパーも出入り業者とされ利用は夕方5:00まで。日曜、祝日に呼んではいけない。これはルールだから」と言われました。介護保険にはそのようなルールはありません。

●救急隊はすぐに来たのですが、救急隊員が、親族と連絡がとれてからの搬送になるので、親族の連絡先を管理室に確認していました。結局、男性が意識を回復したので、そのまま救急車は出発しました。幡ヶ谷は「区分所有法」を無視した運営が目立ちます。つまるところ「所有者」を無視した運営です。

 これらはあくまで一部の声に過ぎない。

 全区分所有者へ向けた郵送物の送付は、自分たちの存在を明らかにする意味合いもあった。有志の会の存在を公にすることは、理事会との対立構図をはっきりさせることでもある。会のメンバーの一部からは「時期尚早」という意見も出ていた。それでも、手探りで進めてきた1年間の活動の“現在地”を知る必要があった。

 同時に、理事会に対して次のような内容の要望書も送った。総会に際して、論点をはっきりさせるためにも必要なアクションだった。

●今年も含め、今後の総会を組合員が出席しやすい休日にする

●欠席者が意見表明しやすい議決権行使書とする

●議決権行使の内訳(数)を現物とともに開示する(結果の数だけの報告としない)

●15年訴訟の経緯および判決内容を口頭でなく書面をもっての説明を希望する

 送付文書を手島が書く。1500枚(登記で判明した250室分)の印刷を佐藤が行う。桜井、今井の呼びかけで集会所に集まる10数人の高齢女性たちが、送付名簿に合わせ流れ作業で封入する。友の会から発展した有志の会スタイルがここに誕生した。

 「知りたい人は見たらいい。百聞は一見にしかずで、とにかく総会を見てもらえれば人は動く、と考えたのです。無関心を打開していくには、参加していただくことが最も効果的な方法であると―」

有志の会の戦略で風向きが変わった総会

 2019年2月27日。草の根活動開始から1年が経過したこの年の総会では、例年にない変化が生じていた。2年に1度の理事会の役員選任の場であることも影響したが、毎年20~30人程度だった参加者が65人と大幅に増えていた。

総会参加者
総会参加者は1年前よりも増えた(出典:PIXTA)

 例年は250票ほどの欠席委任で、管理組合は決まり文句をもとに総会を進めていた。

 「9割以上の厚い信任を得て運営をしている。我々は“問題のない管理組合” である」

 ここでいう“厚い信任”は、欠席委任状のことを指す。

 しかし、この年は違った。昨年の倍以上の総会参加者が会場に足を運んでいた。さらに、一部で手島や佐藤ら有志の会に対して委任状を預ける者も現れていた。

 ホワイトボードに記された数字をもとにざっくりとした計算になるが、2019年の総会時点で管理組合側の委任状総数は185程度だった。例年の9割未満である。そんな数の変化を、理事たちも感じ取っていたのだろう。総会は、いつもにも増して白熱した。

 まず議題に上がったのは、前年の管理費の値上げについて。参加者からは厳しい追及の声が飛ぶも、前年と同じような曖昧な説明に終始した。有志の会にとっては、ここまでは想定通りでもあった。

 事前に下調べしていた区分所有者の訴訟を問う。有志の会は、「住民に開示すべきではないか」と主張した。理事たちは「不適切な区分所有者であった」という説明のもと、「個人情報を理由にお答えできない」と応戦する。

 有志の会がリスクを覚悟で追及姿勢を崩さなかったのは、参加者を味方に引き込みたかったのが最大の理由だ。ここで折れずに踏ん張ることで、口コミで理事会の対応が住民に広がっていく。そのためには多少の劇場型の演出も必要であった。この日は、二の矢、三の矢まで用意していた。

 総会前には管理組合の収支決算書を可能な範囲で調べ尽くした。そこで、いくつか気になる点を発見していた。一つは活動費についてであった。数年前まで毎年20万円で推移していた理事会の活動費用が倍増していた。2018年には60万円ほどに上昇している。さらにドリンク代の名目で18万円の支出もあった。何に必要か分からない工事の項目も目についた。大規模修繕の工事費用についても、金額面で疑問を持った。区分所有者たちに、自分たちが預けた管理費用の透明性が担保されていない可能性を提示する。そんな二の手、三の手を繰り出していった。

 ただし、理事会の応対もまた周到に用意されていた。総会の場での言及を避けて、「調べてお答えします」という対応に終始した。とくに金銭が伴う議題については徹底しており、回答なしか、後日お答えする、の2択だった。

 区分所有者にとって、理事会に対して意見を述べられる機会は1年に1度の総会に限定される。後日示された回答の妥当性を問うことは困難なのだ。参加者たちの目には真摯な回答ではなく、はぐらかしているようにしか映らなかった。

 会場では、理事会に対する不満が募りつつあった。有志の会が作り出した空気は、狙い通り区分所有者に伝播していく。

過半数の委任状の壁に跳ね返された声、住民の挫折

 「このままの勢いで総会の流れを支配したい」。有志の会の面々は高揚していた。そんな雰囲気が一気に壊されたのが、議題が役員選任へと進んだ時だった。

 「みなさんに役員を継続してもらいます」

 吉野理事長が反対意見を遮るように放った一言が、理事会と参加者たちの力関係を示していた。過半数を超える委任状は理事会が保有していた。どれだけ住民が総会に参加し、総会で異を唱えようが過半数の委任状の前には意味をなさなかった。

 候補者の名前が読み上げられ、承認するか、承認しないかの事務的な作業が行われていく。承認しない、という意見が出ても「私たちは過半数の賛同を得ている」と議論にすらならない。

 参加者の中で「過半数の賛同」の重みを最も深く理解していたのは、おそらく手島だった。1年間の蓄積で培った区分所有法や総会運営の法律と照らし合わせても、理事会の言い分に対して反論できる余地はなかった。

 有志の会のリーダー的な役割を担った手島は、活動の中では極力感情を抑えるようにしていた。大勢が決まったこの場で、異を唱えることは得策とはいえない。だが、理事選任という重要事項を簡易的に進めていくやり方にどうしても納得がいかず、思わず声を上げていた。

 「せめて理事一人ひとりが自己紹介し、挨拶すべきではないか」

 理事長はこの要求を聞いた。再任候補者が1人ずつ自己紹介を行い、不適切な支出ではないかという有志らの追及にざわついていた出席者たちも、選任場面では再任を支持した。役員の継続があっさりと決まり、総会は閉会する。完敗だった。

 「いったい何の茶番を見せつけられたんだ」

 総会会場に足を運んだ中島は、憤りを隠せずにいた。自身がこれまで見聞きした吉野理事長の人物像と、会場での独裁的な姿は一致した。むしろ、想像を大きく超えていた。

※本記事は転載にあたり、読みやすさを考慮して一部編集・再構成しています。なお、太字部分は当編集部によるものです。

このように、マンションの管理において、理事長が持つ権力は大きな影響力を持っている。この後、住民たちは管理組合に対してあくことない議論を重ね、最終的には大団円を迎えることとなる。その経緯については書籍で。

【関連記事】>>秀和幡ヶ谷レジデンス事件が突きつけたマンション管理への無関心の代償

ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス
栗田シメイ著・毎日新聞出版
秀和幡ヶ谷レジデンス

人気ヴィンテージマンションで起きた、管理組合と住民の1200日に及ぶ闘い。「身内や知人を宿泊させる場合は1万円」「ウーバーイーツ禁止」など常識を超えた独裁ルールが支配するマンションに、住民たちはどう立ち向かったのか?

週刊誌記者などを経てノンフィクションライターとなった著者が秀和幡ヶ谷レジデンス事件を取材!
マンション住民は、マンション管理への無関心の代償やトラブルが起きた際の立ち向かい方を理解しておこう。

 

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