【元不動産セールスが語る】絶対に担当したくない新築マンション、戸建ての特徴とは?

2025年6月3日公開(2025年6月3日更新)
神納まお:フリーライター

マンションでも戸建てでも、人気物件と不人気物件がある。不動産セールスは物件を選べるチャンスが少ないし、なかには絶対担当したくない物件の担当になることもある。マンションと戸建ての企画から販売までを14年にわたって経験した元不動産セールスが様々な担当物件について語る。

不動産営業の担当エリアはどう決まる?

 不動産セールスは、所属する会社にもよるが、基本的に自分で担当物件を選ぶことはできない。多くの不動産会社では、支店やチーム単位でおおまかな担当エリアが決められており、物件の割り振りは販売時期や上司の判断によって左右されることが多い。

 セールス担当者にとって、どの物件を担当するかは極めて重要で、それによって営業成績やメンタル面、さらにはボーナスや昇給、将来のキャリアにも影響を及ぼす。不動産営業においてはもちろん営業力も重要だが、実際のところは「売りやすい物件かどうか」の要素が大きく、担当物件によって成果が大きく変わるのが実情である。

担当したい物件の条件とは?

営業担当が売りたい物件とは?(画像はイメージです、出典:PIXTA) 

営業担当が売りたい物件とは?(画像はイメージです、出典:PIXTA) 

 マンションと一戸建てでは、相場や価格設定、販売手法が異なる。用地営業の段階では、ボリュームチェックや収支計画をもとに1戸あたりのおおよその販売価格を算出し、過去の販売実績などを参考に、その価格が現実的かどうかを見極める。

 重要なのは、そのエリアの購買層にとって「無理なく手が届く価格」に収まっているかどうかである。価格が相場より高ければ販売に苦戦し、最終的に値引きや赤字に繋がるケースもある。一方で、価格が妥当であれば必ず売れる、という単純な話でもない。販売動向は、需給バランスやタイミングにも左右されるのが実情だ。

 では、不動産セールスにとって「担当したい物件」とはどのようなものか。ここでは、大きく2つのタイプに分けて解説する。

①強みが明確な物件は売りやすい

 販売価格が「ストライク・ゾーン」から外れている、つまり割高に見える物件には、他の物件にはない明確な“強み”が必要である。逆に、そうした強力なストロングポイントがあれば、一見売りにくい物件でも売りやすい物件に逆転する。

 マンションで言えば、駅前や駅直結といった特化された交通ロケーション、城やパワースポット、ランドマークタワー(東京タワーや中部電力未来タワーなど)が見えるといった付加価値だ。

 実際に筆者が過去に担当した物件では、日当たりが悪く価格も高いマンションがあった。名古屋市内の物件で、地下鉄の駅は近いのだが目の前に7階建てのマンションが建っており、全戸の半分くらいは日当たりも眺望も望めず、しかも価格は安くない。最初に現地を見たときは絶望的な気持ちになり、売れ残ったモデルルームで呆然とする自分が目に浮かんだ。

 しかし、実際に販売がスタートすると抽選になる住戸もでるほどの人気ぶりで、完成前に完売してしまった。

 実は、このマンションに近い小学校は人気学校区で、学区内で探していた客層がたくさんいたのだ。日当たりや眺望よりとにかく学校区が優先、多少の予算オーバーは仕方がない。しかも他社や戸建てなどの供給も少なかったため、競合する物件もなかったので子育て世帯が殺到した。不動産のセールスには時に目に見える条件より目に見えない条件が大事だ。

②郊外でも割安なら勝機あり

郊外でも割安なら勝機あり(画像はイメージです、出典:PIXTA) 
郊外でも割安なら勝機あり(画像はイメージです、出典:PIXTA) 

 これは戸建て物件の例だが、駅やスーパーなどの生活施設がすべて遠くにあるにもかかわらず、「安くて広い」という理由だけで売れてしまうケースがある。背景には、生活のすべてを自動車でまかなうライフスタイルを持つ層の存在がある。

 とはいえ、こうした物件が必ず売れるわけではない。実際に売れているケースの多くは、「市街化調整区域」にある“既存宅地”を活用した物件である。

 市街化調整区域とは、本来は家を建てられない地域だが、過去にすでに家が建っていた土地=既存宅地と認められれば、例外的に建築が許可される。

 このような土地はそもそも数が少ないため、供給そのものが限られている。

 例えば「多少不便でも、同じ市内で広くて安ければ買いたい」といったニーズは確かにある。だが、そのニーズを見込んで開発を進めすぎると、需要を超えてしまい、急に売れ行きが鈍るリスクもある。

 この“供給のさじ加減”を正確につかむには、用地担当者だけでなく、日々顧客と向き合っている販売現場の営業との密なコミュニケーションが不可欠である。

 実際に私が担当した愛知県稲沢市の物件では、最初に販売した5棟がすぐに完売し、「次に出たら教えてほしい」といった声が複数寄せられるほど反響があった。

 しかし、次に供給できたのは2年後。その間に需要は落ち着いて即完売とはいかなかったが、購入希望者の中には「車を3台置ける家が欲しい」「仕事でトラックを使うため、広い敷地が必要」といった、立地よりも“広さ”を重視する人たちが一定数存在していた。

絶対に担当したくない物件とは?

 担当したくない物件とは、平たく言えば売りにくい物件ということになる。不動産セールスの成績に響き、査定やボーナスにも影響する。なにより売れないというのは精神的にしんどい。また、入居後にクレームがあると、その対応に追われる事態にもなりかねない。

①中途半端で特徴のない物件

 交通ロケーションも生活ロケーションも販売価格もすべての条件が可もなく不可もないという物件は少なくない。

 マンションでも戸建てでも、そこそこの住宅地で日当たりも悪くなく広さも平均程度。そして競合物件も多くはないが少なくもない。目立った特徴はないもののこれといった欠点もない

 不動産セールスにとってこのような物件は実はもっとも売りにくい。なぜかというと、セールスポイントがぼやけているからだ。セールスが顧客に対して購入を促進できる最大のポイントは、できるだけシンプルな、買う理由を与えることだ。「このエリアで駅に近いのはこれしかない」「この広さでこの価格は他にない」といった強い後押しが必要で、潜在的にも顧客はその押しを望んでいる。

 欠点はないが中途半端な物件には、欠点はないが購入意欲もそこそこな「顧客」が見に来る傾向がある。属性も悪くなく収入もそこそこ、借金もなくローンも問題なく借り入れでき、「良い物件があれば買いたい」とは思っている。

 そしていくつかの物件を見て回っている。しかし、物件にも顧客にも特徴がなく決め手に欠ける結果、担当セールスには中途半端なストレスだけが掛かり続けるのだ。

②入居後に判明する“見えないトラブル”

入居後に判明する“見えないトラブル”は存在する(画像はイメージです、出典:PIXTA) 

入居後に判明する“見えないトラブル”は存在する(画像はイメージです、出典:PIXTA) 

 たとえば、線路やお墓が近くにあるといった“見た目でわかるネガティブ要素”は、あらかじめ説明できるため、あとで大きなトラブルになることは少ない。

 一方で、マンション販売においては眺望に関するトラブルがよく起こる。たとえば、入居から間もないうちに目の前に別の建物が建ち、景色が大きく変わってしまうケースだ。 ただしこれは、どのマンションにも起こりうるリスクであり、売り手側も「絶対に建たない」とは言わない。多くの顧客もある程度は認識している。

 より厄介なのは、入居後になって初めて明らかになる近隣トラブルだ。たとえば臭いや騒音、または入居者同士の人間関係など、契約前には把握しづらい問題である。

 実際、私が過去に担当した戸建て分譲(全10棟)のケースでは、近隣に精肉加工工場があり、月に2〜3回行われる焼却作業で強い悪臭が発生していることが、建設中に判明した。ところが、用地取得時にはこの事実を把握できず、販売も週末中心だったため、工場が稼働していないタイミングと重なり、臭いに気づくことができなかった。

 入居後、住民から「昨日、ものすごい臭いがした」と指摘を受け、調査したところ原因が判明。悪臭のせいで窓も開けられず、洗濯物も干せないという状況が起きていた。

 もちろん工場側にクレームを入れたが、「後から住宅地ができた」という理由で対応は難航。行政も交えて何度も協議を重ね、最終的には脱臭フィルターの設置で解決に至った。

 こうしたトラブルが一定の深刻さに達すると、会社の顧問弁護士が対応に入ることもあるが、それでも現場の不動産営業が完全に手を離せるわけではない。

 対応には時間も労力もかかり、精神的な負担も大きい。このような“目に見えないトラブル”を抱える物件は、問題が長期化しやすく、不動産営業としては正直なところできれば担当したくない案件だ。

まとめ

 営業の成績は営業力だけではなく、物件との相性やタイミングに左右されることも多い。売れ筋物件に恵まれれば成果につながりやすく、反対に売りにくい物件では苦労が絶えない。だからこそ、どんな物件を担当するか、どんな戦略で向き合うかが、不動産営業にとって大きなカギになる。そして、この視点は、購入を検討している人にとってもヒントになるかもしれない。

 価格や広さだけでなく、エリアのニーズや競合状況、見えにくいリスクまで含めて冷静に見極めていくことで、自分にとって納得のいく物件に出会える可能性が高まるのではないだろうか。

【関連記事はこちら】
>>不動産購入時に、営業担当のやる気をそぐ”NG行為”とは? 元トップ営業マンの“不動産芸人”が教える「大損しない家の買い方」【前編】

【関連記事はこちら】
>>なぜ積水ハウスは「地面師たち」にだまされたのか? 不動産詐欺にだまされないための対策も

  • RSS最新記事

注目記事>>新築・中古マンション市場動向は? 注目物件や在庫状況など最新市況を不動産アナリストが解説
 

【注目の大規模物件】 【新築マンションの基礎】
HARUMI FLAG(晴海フラッグ)
三田ガーデンヒルズ
グランドヒルズ南青山
パークタワー勝どきミッド/サウス
ワールドタワーレジデンス
パークタワー西新宿
新築・中古マンションの市場動向
最新の新築マンション相場や価格は?
値引きをする会社はどこ?
「音」のトラブル!遮音性の確認法
管理のチェックポイント
住み心地を決める「階高」
◆新築マンション人気ランキング
TOP