今、札幌、仙台、広島、福岡など地方4市の地価が上がっている。福岡では前年比15%上昇している地点もある。これまで地価上昇と言えば、東京、大阪など大都市での話だった。これら地方中核都市の地価はなぜこれほど上がっているのだろうか。(住宅ジャーナリスト・山下和之)
東京、大阪、名古屋三大都市圏の地価は、横ばいで推移
日本の地方中枢都市である札幌市、仙台市、広島市、福岡市の4市をまとめて、「札仙広福」(さつせんひろふく)と呼ぶことがある。今、この「札仙広福」(さつせんひろふく)に注目が集まっている。
国土交通省が2021年9月下旬に発表した『令和3年度都道府県地価調査』(基準地価)では、図表1にあるように、全国の住宅地の前年変動率は0.5%の下落で、商業地も0.5%のダウンだった。住宅地は前年調査より若干下落率が縮小したものの、商業地はむしろ拡大するという結果だった。コロナ禍の影響からなかなか脱することができない現状が浮き彫りになった形だ。
都市圏別にみると、三大都市圏(首都圏、名古屋圏、大阪圏)の住宅地は0.0%の横ばいで、商業地は0.1%の上昇にとどまった。地価の回復時には三大都市圏、なかでも東京圏から上がり始めることが多いのだが、今回の基準地価では住宅地、商業地ともに前年比0.1%の上昇にとどまっている。
数字上は上昇とはいえ、この程度の変化であれば、実態的には横ばいといっていいだろう。なかでも、大阪圏はインバウンドの消滅による影響が大きく、住宅地が0.3%、商業地が0.6%の下落だった。
図表1 令和3年度の用途別・エリア別地価の対前年変動率
住宅地 | 商業地 | |
---|---|---|
全国 |
▲0.5% |
▲0.5% (▲0.3%) |
三大都市圏 | 0.0% (▲0.3%) |
0.1% (0.7%) |
東京圏 | 0.1% (▲0.2%) |
0.1% (1.0%) |
大阪圏 | ▲0.3% (▲0.4%) |
▲0.6% (1.2%) |
名古屋圏 | 0.3% (▲0.7%) |
1.0% (▲1.1%) |
地方都市圏 | ▲0.7% (▲0.9%) |
▲0.7% (▲0.6%) |
四大都市 (札幌、仙台、広島、福岡) |
4.2% (3.6%) |
4.6% (6.1%) |
※▲はマイナス、カッコ内は2020年の対前年変動率(資料:国土交通省『令和3年都道府県地価調査』)
札幌市の住宅地、福岡市の商業地は、7%台の上昇!
そうした中、際立った動きをしているのが、札幌市、仙台市、広島市、福岡市の地方4市。いわゆる“札仙広福”(さつせんひろふく、さっせんひろふく)と総称される地方中枢都市だ。
上の図表1でも分かるように、三大都市圏以外の地方都市圏は住宅地、商業地ともに前年比0.7%の下落だが、地方都市圏でもこの地方4市だけに限ると、住宅地は4.2%、商業地は4.6%の上昇。全国平均や三大都市圏が足踏み状態であるのに対して、好調な動きを続けている。
4市それぞれの『2021年都道府県地価』における、前年変動率を見ると、次のようになる。広島市はやや上昇率が低いものの、他の三市はいずれも3%台から7%台の高い上昇率になっている。
住宅地 | 商業地 | |
---|---|---|
札幌市 | 7.4% | 4.2% |
仙台市 | 3.6% | 3.7% |
広島市 | 0.7% | 1.7% |
福岡市 | 4.4% | 7.7% |
福岡市の商業地、博多などでは、前年比15%台の上昇地点も
中でも、注目しておきたいのが福岡市だ。
『令和3年都道府県地価調査』の対前年変動率が高いだけではなく、全国の商業地上昇率のベスト3を独占し、上位10地点のうち7地点を福岡市内の調査地点が占めている。いまひとつ、福岡県太宰府市からも1地点が入っているので、福岡県の調査地点が8地点に達する。
しかも、上昇率を見ると、福岡市博多区綱場町、博多区冷泉町、中央区高砂のベスト3は前年比15%台の高い上昇率だった。これらのエリアは、福岡市の2つの中心街である天神と博多駅前のほぼ中間に位置する。
天神や博多駅前では現在も大規模な再開発が進められているが、中心街はある程度高くなっていることもあって、地価上昇の波が、天神と博多駅前の中間的な場所にも及びつつあるといっていいだろう。
図表2 全国の商業地基準地価の上昇率上位10位
アジアの玄関口としての福岡への注目度が高まる
福岡市は、福岡県だけではなく九州ブロックの経済・社会の中心として存在感を日増しに高めている。1963年に5市の合併によって北九州市が誕生した当初こそ、人口では県内2位になったものの、間もなく県庁所在地としてトップの座を回復し、その差を年々大きくしている。
九州の中心としてだけではなく、アジアの玄関口としての役割が高まっている。飛行機であれば、ソウルまで1時間10分で、福岡空港から関西空港までの所要時間とほとんど変わらない。
また、上海が1時間30分で、こちらは福岡空港と羽田空港の所要時間と同じ。台北は2時間30分だから、福岡空港・千歳空港間の2時間20分とほとんど変わらず、発展する中国、アジア経済を背景に、その存在感を高めている。
福岡市の人口は2035年まで増え続ける見込み
そのため、地方4市のなかでも、ひときわ将来性が高く評価され、地価の上昇につながっているのだろうが、それを裏付けるのが図表3だ。これは、国立社会保障・人口問題研究所の将来人口の予測(2018年推計)だが、一見しただけで、紺色の折れ線グラフの福岡市が突出していることが分かる。
その他の都市は2025年や2030年までに人口のピークを迎え、減少に転じる見込みだが、福岡市は2035年まで増え続け、その後も急速に減少することはなく、2045年でも2015年を100とする指数で107.5を維持している。
それに対して、東京都は2030年には102.7でピークに達し、その後は減少に転じる見込みだし、その他の都市ではそれ以前にピークアウトして減少に転じると予測されているだけに、福岡市の人口増加見込みがひときわ目立っている。
図表3 三大都市と地方都市4市の人口予測(2015年を100とした指数)
北海道では札幌市への一極集中が進む
福岡市と並んで『令和3年都道府県地価調査』の地価変動率が高かったのが、北海道の札幌市。福岡市が福岡県の中心としてだけではなく、九州ブロックの中心として、周辺から人口を吸収しているように、北海道では、北海道ブロックの経済・社会の中心である札幌市に集中が進んでいる。
日本全国では東京への一極集中が進んでいるが、ブロック別では、九州では福岡市に、北海道では札幌市への一極集中が進むという二重構造になっているといっていいだろう。
その札幌市では、三大都市圏や仙台市、広島市、福岡市と比べて、住宅地の上昇率が高いのが目立っている。しかも、それが札幌市だけではなく、周辺の都市にも及んでいるのが大きな特徴だ。
札幌市は周辺都市が買われ、住宅地の地価が上昇
全国の住宅地の地価上昇率上位10位を見ると、トップの沖縄県宮古島市城辺を除くと、残りの9地点は2位の北広島市共栄町、3位の北広島市若葉町の調査地点など、すべて札幌市の周辺都市の調査地点が占めているのが分かる。
調査をまとめた国土交通省の担当官によると、「札幌市の中心部は地価が高くなりすぎているので、その周辺が買われているのではないか」としている。
その結果、先の図表2の人口予測に関しても、札幌市は2030年までは2015年を100とする指数で100以上を維持している。その後は、若干低下する見込みだが、それでも90以上を維持している。
図表4 全国の住宅地の基準地価上昇率上位10位
地価の上昇は、三大都市圏から「札仙広福」へ
説明してきたように、福岡市、札幌市をはじめとする地方4市、「札仙広福」の地価上昇は際立っている。
こんなことは、これまで考えられなかった事態で、それだけ地価上昇の波が三大都市圏から地方圏に移り始めていることを意味しているのではないだろうか。これが、パンデミック下での一時的な事態なのか、あるいはこれからのトレンドになるのか、今後の動きを注目しておく必要がありそうだ。
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