2025年7月、東京都千代田区が不動産協会に対して、投機目的のマンション転売を規制する要請を出しました。この転売規制は、どんな効果をもたらすのか、マンションの価格高騰を抑えることにつながるのか。不動産事業者の視点から感じることをお伝えします。また、昨今の価格高騰で都内マンションが手に入れにくくなっている今、どのような購入戦略を持てばいいのか、あわせて解説します。(一心エステート株式会社代表取締役:高田一洋)

千代田区によるマンション転売規制について
2025年7月、東京都千代田区が不動産協会に対して「投機目的でのマンション取引等に関する要請」を行いました。この要請の内容は、「購入者が引き渡しを受けてから原則5年間は物件を転売できないように特約を付すこと」と「同一建物において同一名義の者による複数物件の購入を禁止すること」が主なものです。(※参照:千代田区ホームページ「千代田区内の投機目的でのマンション取引等に関する要請について」)
区の発表によると、「現在、区内においてマンション等の住宅価格の高騰が続いており、同時に国外からの投機を目的としたマンション取引が行われていると考えられる」という背景があります。
また、所有者が住まないケースが7割にも及ぶという実態調査の結果も公表されました。居住実態のない住戸が相当数存在しており、管理組合の運営に支障をきたし、住環境の悪化にもつながっているということです。
ただ、この要請の対象は「総合設計などの都市開発諸制度を活用する事業及び市街地再開発事業」で販売されるマンションという限定的なものです。つまり、容積率緩和や高さ制限の緩和を受けた事業で建設されたマンションに対してということになります。
千代田区マンション市場の現状
東京23区のマンション平均価格は、中古でも1億円台になったことが大きく報じられたように、いまもなお上昇しています。そのなかでも都心三区に含まれる千代田区の価格はさらに高騰しています。

代表的な千代田区の高額物件として、「パークコート千代田富士見 ザ タワー」「平河町森タワーレジデンス」「ザ・パークハウスグラン三番町」などがあります。
その他、大規模タワーマンションとして「プラウドタワー千代田富士見」「THE CENTER TOKYO」「東京パークタワー」「アルファグランデ千桜タワー」など枚挙にいとまがありません。
千代田区には、番町やお茶の水、神田明神の周辺など、人が住めるのは本当にわずかなエリアしかなく、その希少性がマンションの価格を押し上げています。
そのため、例えば、千代田区と北側で隣接する台東区では、道路を挟んだだけで同スペックのマンション価格が1割程度異なります。
マンション転売規制の効果はあるのか?
今回の千代田区マンション転売の抑制ですが、もし本当に実施された場合、価格の高騰を抑えることができるのでしょうか。実際にある程度効果はあると思います。ただ、正直なところ、本当にわずかなものではないかという印象です。
5年の転売規制については、価格を抑えていきたいとか投機目的を抑制したいという目的としてはよく分かります。
しかし、今やペアローンで買う方がほとんどの中で、5年は転売できないことになると、もし離婚したときや転勤を命じられた場合などはどうするのかといった問題が出てきます。こうしたことを考えると、本当に消費者を向いている規制なのかどうか疑問に思う部分もあります。
それであれば、短期売買時の税負担を大きくする方法でもいいのではないでしょうか。転売を規制する以外にも、さまざまなやり方があるのではないかと思います。
加熱する外国人の不動産取引に対して
もっと言うなら、不動産事業者の視点では、外国人の不動産取引をある程度規制した方がいいと感じているのが本音です。
不動産業界からすれば、外国人も含めていろいろな人が購入した方が、業界は活性化する、という見方もあるでしょう。しかし、外国人の不動産取引においては、その国の現地法人が日本に立ち上がっていて、日本の企業が絡めない取引がたくさん行われています。
外国人が土地や建物を買うほど、リセールは同胞に任せるわけですから、結果的にその国の人たちの事業資金になり、また新しい海外からの買い手が来ることになります。
こうして都心マーケットが切り取られていくような状況が起こっています。マーケットが大きくなっているというよりは、日本の不動産事業者が切り離されている、その結果、顧客となる国内の消費者もマーケットから遠ざかってしまう、と強く感じます。
土地や建物の所有権は大切な資産なので、規制や抑制については、国や行政が主導権を握って進めていただきたいと思っています。
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急激な価格高騰でも、都内マンションを手に入れる方法はある

マンション価格の高騰で、一般消費者にとっては、簡単には手が届かなくなってきた都内のマンション。お客様視点になれば「頑張って価格抑制しろ」ということになるのかもしれません。
しかし、一般の人が買えるようになる、たとえば東京の23区のマンション価格が5000万円になったとしたら、どんな経済になっているでしょうか。おそらく日経平均は半分になっているでしょう。最悪の状況です。またデフレの時代に逆戻りです。
お金を使わなくなって経済が回らなくなり、企業は内部留保を溜め続けて給料は上がらない、商品を買わなくなり、流通も活発化しないといった状況になります。不動産価格は重要な経済指標です。不動産価格が大幅に下がれば、日本の経済成長も連動して右肩下がりになってしまう可能性が高いでしょう。
高騰する都心マンションは売れなくなってきている?
高騰している都心マンションですが、引き続き好調に取引されています。市場に出れば売れていますし、成約事例も下がっていません。ほぼ横ばいという状況です。
売れずに販売期間が伸びている印象もあまり受けません。物件ポータルサイトなどを見ていても、成約・入れ替わりしているように感じますし、同業の事業者に聞いても動いているという話をよく聞きます。
今の価格が高くなっていることとは関係なく市場は回っているのですが、そもそも民意として「価格がどこまで上がるんだ」「一般の人は買えないよ」という声があるのも事実です。
そもそも、現状では手の届かない分不相応な場所に住むことは、経済の合理性に沿ったものではないですが、実はごく一般の人であっても都内にマンションを購入することは可能です。それは、住み替えにおいて「ハンカチ理論」を活用するという方法です。
「ハンカチ理論」とは? 住み替えで都心にステップアップ
不動産は、1カ所・1エリアのみが突出して価格が上がるわけではありません。ちょうど机に広げたハンカチの真ん中をつまみ上げた際に、その周辺も一緒に持ち上がるように、不動産も同じように上昇したエリア周辺も同時に値上がりしているのです。こうした現象を「ハンカチ理論」といいます。
千代田区の価格が上がれば連動して港区も上がり、文京区も上がっています。千代田区、港区が上がらずして、いきなり新宿区だけ上がることはありません。「都心の値上がりが、3カ月後には横浜に来る」と昔から言われているのですが、まさにこの理論に当てはまります。
中心部が上がっていったら「ハンカチ理論」で周辺部も上がるのですから、その周辺(外側)を買えばいいのです。そして、どんどん都心部に向けて住み替えて、ステップアップしていくのです。
いきなり1件目で都心のマンションを買うというのは、よほどのことがない限り難しい市況感だと感じます。急がず徐々に住み替えて資産形成する。現在、一般の方たちが都心で無理せずにマンションを購入するためには、この方法しかないのではないでしょうか。
最初は今後値上がりしそうなマンションを購入し、残債を減らしながら楽しく生活し、次の住み替えのタイミングで使える「含み益」を増やしていくというのが、今の時代に合った正しい不動産戦略です。
まとめ
千代田区のマンション転売規制は、投機的取引を抑制するという目的は理解できますが、その効果は限定的だと考えています。
根本的な問題は、外国人による投機的な購入が、日本の不動産マーケットを歪めていることにあり、この部分にメスを入れなければ真の解決にはならないでしょう。
そして、一般の方が都心のマンションを手に入れるためには、住み替えによるステップアップという現実的な戦略を取ることが重要です。いきなり千代田区といった都心部を狙うのではなく、ハンカチ理論を活用して、徐々に都心に近づいていく。これが今の時代の賢い不動産戦略だと考えます。
不動産価格の適正化を求める声は理解できますが、価格が大幅に下落すれば経済全体に深刻な影響を与えることも忘れてはなりません。バランスの取れた政策と個々人による現実的な資産形成戦略の両方が求められているのではないでしょうか。