たまたま結婚した奥さんの実家が地主で「婿入り」したことで不動産投資を始めた「地主の婿養子大家さん」。今では投資総額30億円を超えるメガ大家として大手不動産投資サイトで人気コラムニストとしても活躍している。今回は、自主管理へのこだわり、今後の目標などについて聞いた。
[参考記事]
●取得資産30億円、家賃収入年間2億5000万円!リアル地主の婿養子大家さんの家業のリアルとは?
地主の婿養子大家 第1回
3年間不動産売買の現場で修業!
--婿入り後に、不動産会社に転職した理由を教えてください
片手間では家業としての不動産賃貸業は絶対務まらない思っていたので、どこかで一回自分が全て把握できる状態にしないといけないと思っていました。不動産会社ならどこでも良かったんですけど、縁あって東急リバブルに入って不動産売買の仲介営業をしました。元来負けず嫌いの性格なので営業を頑張って数字あげたけど、会社のための数字だし、営業力を伸ばしても、不動産力は伸びないんですよね。だから難しい案件に首突っ込みながら、不動産に詳しくなるよう、収益物件に詳しくなるようにしていました。そのうえで上から文句を言われないように数字もあげていく。3年やりました。
--家業を継ぐためと割り切っていた部分があった?
完全に割り切っていましたね。店長から「お前は逃げ道があるから、本気になれないんだ!」と数字が上がらないと罵声を浴びせられていました。それが悔しくて、頑張っていましたけど。
--その後、家業の賃貸経営に専念されるわけですね。苦労された点は?
正直ないんですよね。まあ、あったんでしょうけど、苦労というほどじゃなかったというか。費用を多めに払ったとかはあると思います。
わからないことがあった時に、ネットで調べたり、業者に聞いたりと、わからないままにすることは絶対しないんです。だから、気がつけば何でもできるようになっていました。
業者に作業をお願いした時に、作業する様子を見て、何が原因でどんな対応をしているのか、わかるように吸収しているんです。そうすると、次お願いする時、業者の方で原因がわからなくても、僕がわかるなんてことが出てきます。
--世間では、地主は寝ていてもお金が入ってくるイメージがありますが、実際は?
実際、1日の生活なんて何もなければ普通に暇ですよ。「やることいっぱいあるし、覚えることも多いし大変だよ」っていう人もいると思うけど、サラリーマンとして身を粉にして働いていた経験からすると、やることなんて知れています。労力の1割も割かない状態だし、ある程度やり方覚えてしまうとやることない。いま自主管理で230戸管理していますけど、500戸から700戸くらいまでならサラリーマン時の自分の労力で管理ができると思います。がんばれば1000戸もできるんじゃないかと。まあやらないですけど(笑)。
地主の婿養子になったことでアイデンティティがなくなった
--割と世間のイメージ通りということですね。羨ましい。
ただ、地主の婿養子になった時にアイデンティティがなくなったんです。収益不動産って不労所得の代表のように言われるじゃないですか。正直、自分が稼いでいる実感が無いんですよ。妻とか子供に対して、自分が働いて家を守っている感覚が一切ない。与えられたものがあるからやれている。じゃあ自分は何のために働くのか、アイデンティティの喪失です。
そのときはモチベーションを維持するのに苦労しましたね。自分の能力でやっている感じが一切しなかったので。すでに所有している不動産からのキャッシュフローがあるし、さらに購入して将来雪だるま式に増えてくこともわかっている。そのために自分ができることとしてコスト削減とかやるんですけど、それで家族を養っているとは到底思えなくて。そもそも自分の人生設計になかったことなので、それが一番大変だったかも。婿になるというのは、言葉とか形式の話じゃなくて、自分の心をどう維持するのかというのが大変なのかもしれない。
--「ラッキーじゃん」と思う人もいるかもしれないけど、そうではない?
そこは、考え方しだいなんでしょうね。たぶん、そういう人だと楽ばかりして家を駄目にしちゃうんじゃないかな。頑張りたいという心がある人には、環境が整いすぎていて、頑張りたいけど、頑張れないという辛さがあります。
--婿養子さんにとって、モチベーションとは?
このままだと人として駄目だし、親として背中見せられないなと考えていました。婿になって家のための義務的なもの、相続対策とか資産を守るというのは出来上がったんですよ。正直あとはバカでもできる。
じゃあ、自分が前向きに、自己実現のため、働いている実感が欲しいと思った時に、はじめて規模の拡大に舵を切れた。あとは自主管理を続けること。子供が自分の背中を見た時に、親の仕事が何かを理解できるまでは自主管理でやろうと思っています。
別に労働が美徳とは僕は思わないんですけど、これを管理委託に出したら本当になにもないから。
もちろん金銭的な理由もありましたけど、当初はキャッシュフローも厳しかったから。今は全部委託して大丈夫だけど、それをやらない理由はそこにある。
--どれくらいまで規模を増やしたい?
そういうのはないですね。漠然と無理な拡大は考えてないから、子どもたちに残す負担も考えると、精算しきれる範囲でと考えています。規模的には100億円くらいじゃないですかね。僕が引退するまでやったとしても。もっと小さくいくなら、他に何かやることを見つけた場合は50億円くらいかなと。
子どもに対して何を見せられるか?を意識する
--「何か」というのは。
「何か」とは、今僕がやっている執筆活動もそうなんですけど、お金のためじゃなくて、お金に余裕ができたからこそできること、むしろそっちのほうが僕は子供に対して僕の存在意義を見せられるんじゃないかなと。別のものが見つかればそっちに力入れるかもしれない。
「仲介会社とかやればいいのに」とか周りに言われることもあるけど、それは違うと思う。
結局仲介は、日銭を稼ぐための商売なんですよ。日銭はもう稼げるから、そうじゃなくて違うことを考えたい。もちろん仲介でも本当に人のためにやっている人もいるとは思うんですけどけどね。
今は自分が信じた道を進んで、手の届く人を助けたり、自分のノウハウを伝えてくことに力を入れている感じがします。ただ、これも自分のためなんですよね。
--相続対策が出来上がって、考えが変わった感じですか。
そうですね。相続の、家の義務が大丈夫と思える余裕が生まれたから、拡大しようと思えたし、執筆もやり始めた。
--婿養子さんがいう「相続対策」とは?
漠然と言えば、資産が2倍ないと相続対策にならないんです。要は相続って4割税金でもっていかれるから。もちろんちゃんと対策すると2割や1割で済んだりする。
相続時に純資産を蓄えられているかどうかがポイントなんです。5年前におばあちゃんが亡くなっていて、それに備えるためにお義父さんは不動産投資をはじめました。でも相続には間に合わなくて、不動産を担保にして借金をしています。
次、お義父さんがなくなったら、10年以上先でしょうけど、それが早まったとして仮に明日何かあっても大丈夫なように、今ある現金でまかなえる状態にはなっています。
--つまり、いつでも相続税を納付できると。
そうです。もちろん借りますけどね。手元の現金は使いません(笑)。イメージとして、不動産の規模を2倍にしておかないと、そこから返済も固定費もあるから、時間的に間に合わないということです。
--そういうものなのですね。不動産投資をしている人で相続まで考えている人は少ない印象です。
今頑張っている人たちが将来無借金になって、子供に相続する時にそれを失わない、プラスアルファを残すにはもうひと頑張りが必要なんです。
僕が10年戦略として、コラムにも書いたんですけど、一次相続から二次相続(※残された配偶者も亡くなる)って早ければ1、2年で発生するけど、不動産のスパンだと準備に10年かかる。
10年経つとだいたい、純資産の半分くらい得られる感じです。10年かけて用意したものが半分なので、20年かけてやっと思っていたくらいの資産が残せる。
そうすると、40代、30代と自分の年齢で逆算する計算しやすい。不動産の景気も10年スパンなので、いつはじめたかを押さえておく。買ったときが一番借金が多いので一番相続対策になって合わせやすい。
次にリセッションが来たら追加投資するじゃないですか。その時に、義父の借金を増やすのが目標です。
税金面で考えればそのタイミングが死期に近いのが理想的ということになる。うちはそれをお義父さんと話し合える関係性だからしっかり話をし対策もできている。でもふつうはなかなか難しいですよね。自分の死期を予定して子どもと相続も話をしたり、対策するのは。
それができる器がお義父さんにはあった。その年齢になった時、はたして自分が同じことができるのかとは思いますけどね。※2020年2月に取材
(取材・文/栗林 篤 撮影/山本佑之)
地主の婿養子大家 プロフィール
不動産投資歴14年で総投資額は30億円、総戸数269戸、家賃収入は年間2億5000万円。不動産事業は自身、義両親二人、妻と妻の姉の5個人と3法人で運営中。不動産投資サイトで絶大な人気を誇るコラムニストとしても活躍中。