築古、ボロボロ、再建築不可、事故物件。市場に取り残された悪条件の住宅を高利回りの物件へ再生してきた加藤薫さん。28棟217戸を所有し、年間家賃収入1億4000万円まで拡大してきた。関西で有名な不動産投資家の会「ドリーム家主倶楽部」を主宰し、スケールメリットを活かした大家業にも定評がある。前編では、不動産投資家・加藤さんがたどってきた道や実際の再生事例を紹介してもらった。
バラエティーに富んだ物件で、年間家賃は1億4000万円
――まずは、加藤さんが所有する物件について教えてください。
現在、所有するのは28棟217戸です。兵庫県を中心に1棟マンション、アパート、戸建て、店舗、ビル、倉庫、シェアハウス、土地、駐車場と多岐にわたっていて、海外ではカンボジアに区分所有している物件があります。年間家賃収入は約1億4000万円です。他には、民泊や太陽光事業なんかもやっています。
加藤さんが所有している戸数の推移
――バラエティーに富んでいますね。なぜ、多種多様な不動産経営をしているのでしょうか?
父親が開業した地元の不動産会社を引き継いで経営しており、さまざまなご縁を介して情報が入ってくるためです。町の不動産屋だから、賃貸、管理、駐車場、売買仲介、開発、分譲などありとあらゆる不動産事業を経験してきたのが功を奏したのだと思います。良いと判断した物件を購入するうち、今のようなポートフォリオになりました。
ボロ物件再生手法との出会い
――加藤さんの大家業の原点とは何でしょうか?
15年前に、知人に依頼されて個人で購入した長屋を賃貸に出したのが一番最初の経験です。もともと収益目的ではなかったのですが、ローン返済が大変だったので貸すことに。立地が良いので、結果的には稼ぎ頭になってくれ、今でも所有しています。
当時から不動産業者として大家業にはずっと興味を持っていました。エンド向け(個人向け)の売買仲介を数多く手掛けてきましたが、基本は一度きりのお付き合い。一方、収益物件を買う大家さんはリピート購入してくれる。顧客としても事業としても大家という存在がすごく気になっていたんです。
―――そこから、本格的に大家業を事業にしたのはなぜですか?
経理をやっていた母親が亡くなったことで、自社の財務が実は大ピンチであることを知りました。会社にほとんどキャッシュがなく、あのとき感じた危機感は相当でしたね。
税理士に相談して事業を組み直し、資金調達に東奔西走しました。ただ、資金はそのまま寝かせていても目減りしていくだけですから、有効な運用方法として大家業に目をつけて、リサーチしていたんです。一般的な利回りだとローン返済が追い付かないから、利回りが高い物件を運営する必要性を感じていました。
――なるほど。それで古い物件を安く買い始めたということですか。
今の物件再生スタイルに行きついたのは、ある大家さんに影響を受けたのがきっかけです。誰も買わないような古い物件や難あり物件を驚くほど安く仕入れ、リフォームして貸し出していました。「こんなやり方があるのか!」と衝撃を受けて、価値観が大きく揺さぶられました。不動産のプロからするとお客様には絶対に勧めないような物件をしっかり商品化して成功しているんですからね。
さらに感銘を受けたのが、この大家さんが1人ではなく仲間内で集団を作って活動していたこと。不動産投資業で一番の肝になる「仕入れ情報」を、集団であれば個人よりも取得しやすいんです。私も一業者として、本当に良い物件は資金力のある企業に流れてしまうのを痛感してきたので、購買力をアピールするには、私一人で実践するには限界があると思っていました。
家主の会を作り、仕入れ力を高める
――それで、家主の会を作ることになったわけですね。
はい。10年ほど前に、不動産投資業に興味のある仲間を集めて「ドリーム家主倶楽部」を結成しました。メンバー全員がこの会の名刺を持ち、不動産会社を回って「売れなくて困っている物件があれば紹介してもらえないか?」と営業活動を始めました。
そして、会のメンバー全体で週2~3件購入していくうち、どんどん物件を紹介してもらえるようになりました。「市場では売れない古い物件でもドリーム家主俱楽部なら買ってくれるらしい」と業界内で知られる存在になったんですね。
ーー共同体で動くスケールメリットは、仕入れ以外には何があるでしょうか?
リフォームのノウハウが蓄積されているので、どんな物件にも対応できるところですね。ボロボロの物件では、屋根に穴が開いていたり、床が抜けていたり、ハードな状態が当たり前です。いろいろなパターンを経験しているから、一見、再生が難しそうな場合でもあきらめずに解決策を導き出せるんです。
あとは、客付けも会のメンバーで協力して賃貸仲介会社を回って営業しています。一人で動くより断然効率よく客付けできるのもメリットです。
利回り15%以上の再生事例とは
ーーこれまで、どんな物件を再生してきたのでしょうか? 代表的な事例を教えてください。
【ケース①】ツタに覆われた10年放置の戸建て
こちらは、ドリーム家主倶楽部のあるメンバーが初めて買った物件です。施設入居後10年放置されるうち、ツタに覆われて外壁が全く見えない状態でした。
100万円で購入しましたが、このツタの撤去を業者に依頼するとさらに100万円近くの予算がかかってしまうことに。そこで家主の会で協力者を募って、総勢十数名で1日かけてツタを撤去しました。かなり重労働でしたが、経験値は増えましたね(笑)。
この建物はたまたま軽量鉄骨だったのが幸いして、屋根の一部は抜けていたものの躯体は頑丈だったんです。木造で10年放置だと腐ってしまって使い物にならないですから。
470万円ほどでリフォームして、1週間で入居者が決まりました。最初の想定家賃は6万円でしたが、7万2000円で決まり、利回りは15.2%。現在、5~6年たちますが最初の入居者が今も住んでいます。
【ケース②】長屋を改造した使い勝手の悪い一軒家をシェアハウスに
私が購入した物件です。2軒の長屋の壁を抜いて1軒にリフォームした家でした。なので、お風呂やキッチンが2つずつ付いています。再生するにも一軒家で賃貸するには採算が合わず、活用に困っていました。前の道幅も50センチ程度しかない、再建築不可の物件です。
そこでシェアハウスの企画をしている知人から知恵を借りて、当時関西では珍しかったシェアハウスに再生することに。リビングなど共同スペースのほか、7室の個室を作りました。1室当たり3万6000円で貸し出しています。
【ケース③】“ゴミ屋敷”を利回り22.2%の倉庫に
借主が住んでいる小さな一軒家でしたが、家の周辺にものすごい量の荷物が置いてありました。1年後までに荷物をどけてもらうという約束で60万円で購入。しかし、1年経っても荷物は放置されたままだったので、片づけてキレイにしました。最終的に入居者は退去したのですが、室内を見てびっくり。床がほとんど抜けていたんです。どうやら入居者は玄関で暮らしていたようでした。
この「ゴミ屋敷」問題、地元ではらちが明かなかったそうです。警察が訪問しても改善されず、近所の人はとても迷惑していたとか。それだけに、キレイになってとても感謝されたのが印象に残っていますね。 立地は駅から近く、周辺に飲食店や事務所があるエリアだったので、倉庫として貸し出しています。60万円で最低限のリフォームをして、賃料は月2万円。利回り22.2%で運営中です。
ーービフォーアフターでこんなに変わるものなのですね! アパートやマンションでも難のある物件を購入しているのですか?
はい。基本的には、市場に取り残された物件が対象なので、ヘビーな物件が多いですよ。
私が初めて購入した1棟マンションは、14室中12室が空室でした。空室の中には、床を覆いつくすほどの大量の蜂が住んでいた部屋があって、天井にあった大きな巣を駆除するところから始めました。1000万円で購入し、リフォームに2000万円をかけて、年間家賃収入705万円、利回り23.5%の物件へと再生させました。
自主管理をするのが厳しくなって、半室以上空室になった集合住宅はたくさんあります。こうした物件をリフォームでいかに商品価値を付けていくのかが、腕の見せ所になりますね。
ーー後編では、物件再生での基本となるリフォームのポイントや、これまで最も苦労したエピソード、大家業で大切な経営視点について話してもらいます。(取材・文/猿渡彩乃)
【後編】「不動産投資初心者は、なぜ戸建て投資から始めるべきなのか?」はこちら
築古、ボロボロ、再建築不可、事故物件など、悪条件の住宅を高利回りの物件へ再生してきた不動産投資家。28棟217戸を所有し、年間家賃収入1億4000万円まで拡大してきた。関西で有名な不動産投資家の会「ドリーム家主倶楽部」を主宰。