新築アパート投資中心に10棟の購入を経験したという不動産投資家の五十嵐未帆さん。父親の相続を機に大家業を始めたが、育児との両立のため会社員をやめて、専業大家となったのを機に投資を加速。得意の財務スキルを活かした堅実投資で、一部売却しながら最大8棟78室まで規模を拡大したという。数少ない成功する女性不動産投資家の1人として活躍している五十嵐さんが注力する、新築アパート投資について話を聞いた。
子育てをしながら会社員、大家業!
目の回るような日々で専業大家を決意
――所有物件について教えてください。
現在、7棟63室を所有しています。いずれも自宅から車で30分圏内の横浜・川崎エリアの単身者向け1Kアパートです。
不動産投資の総額は9億1500万円で、現在の年間家賃収入は5400万円ですね。これまで10棟購入してきて、そのうち9棟が新築アパートです。5棟の売却も経験しました。
――五十嵐さんが不動産経営をスタートしたきっかけは何だったんでしょうか?
15年前にサラリーマン大家だった父が事故で急逝し、3棟の物件を家族で相続したことがきっかけです。当時、私は28歳で長女を出産したばかり。いずれは大家業を引き継ぐことを考えて、簿記やFPの資格を取得していたのですが、実務に関しては全くノータッチでした。
家族の中でも、私が中心でやっていくしかない状況だったので、相続関連の手続きを行い、右も左もわからないところから自主管理をスタートしました。育休から復職後は、本業の財務コンサルタントの仕事も加わって、忙しくなっていきましたね。
――子育てしながら、本業の仕事と不動産投資をどのようにこなしていたんですか?
とにかく、自分で何とかしようとがむしゃらに取り組んでいました。当時は、周りに相談できる人が全然いませんでした。頼りにしたかった不動産会社からは「若い女性じゃ大家は務まらない」「子育てしながらは無理」「机上の勉強だけではうまくいかない」と冷たくあしらわれたりしていましたね。
古い物件だから管理できないと断られたものもあり、自主管理を続けていました。仕事中に「水漏れしている」「トイレが詰まった」とクレームの電話がかかってきて対応に四苦八苦したのをよく覚えています。
3年ほど自主管理をやりましたが、管理会社を見つけて預けるようになってからは随分楽になりましたね。
――そこから、大家業に専念すると決めたのはどうしてでしょうか?
3人の子どもに恵まれましたが、さらに目の回るような多忙な日々を送るようになっていました。財務コンサルタントの仕事では、子どもの具合が悪くなって急遽クライアントのアポを変更してもらったり、会社を休まざるを得なくなったり。病気の子どもを保育園に預けてまで働いているのも子どもに申し訳なくて、八方塞がりでした。「周りに迷惑をかけながら、仕事をしている」と罪悪感がどんどん強くなっていったんです。
そんなある日、時短勤務で月30万円だった当時の給与が、父から相続したアパート1棟の家賃収入と同じであることに気づきました。大家を始めて5年たって、ただ存在しているだけで収入が発生するアパートに心底ありがたみを感じたんです。
そして、東日本大震災を経験したことが大きな決定打になりました。職場で被災した私が0歳児だった3番目の子を保育園に迎えに行けたのが夜中の2時。「本当にごめんね」と罪悪感でいっぱいで…。同時に「これからはもっと家族を大切にしながら、誰にも迷惑をかけず、自分1人で稼げるようになりたい」と強く思い、会社員を辞めて大家業を本業にすることにしたんです。
最初の中古RCで手痛い経験
そこから新築アパート投資へ方針転換
――大家業に専念してからは、どんな経営をしていったのですか?
父から相続した資産管理法人と個人事業で所有する不動産の経営と同時に、新たに物件を購入して収入を増やすべく、私自身が代表の法人を立ち上げました。
その法人で最初に購入したのが、関西にある築20年ほどのRC物件でした。積算評価※が出て、利回りが高いことが決め手だったんですが、ふたを開けてみると、思ったより家賃収入が少なく、支出も多くてキャッシュがあまり残らなかったんです。さらに、当初はなかった多額の大規模修繕が必要だという話が出てきて、想定外のことが続きました。
※積算評価=不動産の評価方法。銀行が融資を実行する際、担保価値がどの程度あるかを調べる方法でもある。土地価格、建物価格をそれぞれ計算して、合計したもの。土地価格は、路線価でみることが多く、建物価格は経年劣化を考慮した時価でみる。
また、満室にするための努力をしたくても、小さい子どもを置いて遠方(関西)の物件まで行けず、自助努力でカバーできなくて…大変でしたね。とにかく物件を「買いたい」気持ちが先立ってしまい、リサーチが甘かったのが反省点です。
――最初の購入はどうしても見極めが難しいですよね。その後は、順調にいったんでしょうか?
新築アパート投資にシフトしてから、経営的に安定するようになりました。最初の中古RC購入後に、自宅から通える範囲で新築アパートを購入していて、その魅力に気づいたんです。
新築だから入居がスムーズに決まりますし、家賃が最も高い時期なのでしっかりキャッシュが残ります。子育てしながら無理なく大家業を続けたい私にとっては、手間がかからず、経営的にメリットが大きいと感じました。
――新築アパートは、どんな業者から購入してきたのですか?
業者が土地仕入れから建物竣工まで行う「建売(たてうり)」で購入することが多いですが、土地の情報が出てきた段階で、建築申請前の間取り図や設備の提案をいただき、そこで様々なリサーチをして購入を判断しています。
土地の分譲から建物の建築まで一括してプロデュースする「売建(うりたて)」の業者から紹介を受け、土地を先行決済して建築請負契約を結ぶケースや、自分で土地を探して購入し、施工会社に建築を依頼したケースもあります。
その際は、複数の施工会社にボリューム図を出してもらい、検討しました。会社によって、戸数や平米数が全く変わってきますし、費用も数百万から1千万円以上違ってくるので、過去の実績と合わせて、よく吟味することが大事だなと思います。
――優良業者と契約するためには、どうしたらよいでしょうか?
まずは、しっかりした提案ができる売り主業者を知っている売買仲介業者と関係を築くことだと思います。
私は、信頼している仲介担当者からの紹介で最初の新築アパートを購入しました。とにかく売ろうとしてくるのではなく、将来的なプランも含めて不動産投資を親身にアドバイスしてくれる仲介業者とのお付き合いを続けています。すでに売却した分を含めて、これまで9棟の新築物件を購入してきましたが、やはり不動産は人を介して情報が入ってくるとつくづく実感しますね。
ただ、直近で購入した物件では、予想外のトラブルを経験しました。初めて売り主業者と直接契約したケースだったんですが、竣工直前にロフトの開口部が狭くてロフトに入れない、当初予定していたサイズの洗面台が入らないことが判明。結局、やり直してもらったのですが、入居がスタートしてからは、生活音に関するクレームが多くて。ちょっとした振動や音が伝わってしまうようです。施工会社によって、こんなにクオリティーの差が出るんだと改めて痛感しました。
徹底した現地調査とリスク確認が、
不動産投資の成功を左右する
――不動産投資で失敗しないために、五十嵐さんが重視していることは何でしょうか?
買付証明書を出す前に、現地リサーチを徹底して行っています。リサーチの結果、100件以上は見送ってきたと思います。例えば、駅近の立地でも急な階段を上った先にある土地だったり、周りに賃貸物件が多く、競争が激しくなりそうだったりして見送ったことがあります。現地に行くと、さまざまなことがわかります。
特に、エリアの賃貸仲介会社を複数回って、周辺の家賃を聞くことは欠かせないですね。実勢の家賃相場は、売り主業者が出した想定家賃より低くなる場合がほとんどです。なので、実勢に近い家賃をもとにシミュレーションして、本当に収益が望める物件なのかを冷静に見極めることが大事なんです。
他には、周辺住民の方に、「このあたりで事件や事故は起きていないか」「トラブルを起こしそうな人が住んでいないか」などを聞いたりしています。
――なるほど。購入後に何かあってからでは取り返しがつかないですからね。
そうですね。現地リサーチ情報に加えて、マクロな不動産市況から見て売値は適正価格なのか、立地エリアの人口増減や商業施設の開発予定、家賃下落リスクなど将来予測も含めて考慮しています。
不動産投資では、メリットや家賃収入に目が行きがちなのですが、リスクを洗い出しておくことが何より重要です。
新築アパート投資では、竣工までに半年から1年ほどかかるので、すぐに家賃が発生するわけではありません。その間に、良い中古物件を見つけても銀行融資が下りない可能性が出てきます。また、竣工時に金利が決まるので、金利の変動リスクもありますね。
業者の都合で竣工が予定より伸びることがあることも頭に入れておくべきでしょう。特に、3月末竣工予定の場合は注意が必要です。4月以降にズレ込むと、当初の家賃設定から下げないと貸せなくなる可能性があるからです。
――これまで10棟の購入を経験してきた五十嵐さんですが、現在は、どんな基準で物件探しをしているのですか?
立地は、ある程度の乗降客数がある駅から徒歩10分圏内、横浜など大きなターミナル駅なら徒歩15分圏内を基準にしています。ただ、駅から多少距離があっても、周辺に利便性の高いスーパーや商業施設があるなど住環境が良いエリアは検討対象に入れていますね。
利回りは、横浜・川崎エリアで新築木造だと7.5%以上、新築RCだと6%以上で考えています。2011年に初めて購入した新築木造アパートは利回り9.6%でしたが、経験を重ねるうち、利回りが高ければよいわけでないと実感しました。
利回りが高い物件は、間取りが悪い、周辺に便利な施設がない、駅から遠いなど利便性が良くない点があり、退去率が高くなることがあります。すると、客付けや原状回復費用など費用がかさんで結局キャッシュフローが悪化する。今は多少利回りが下がっても、利便性の高い立地で、高めの家賃で長く住んでもらえそうな物件に注力しています。
ただ、全体的に見ても、この10年で利回りは下がっている傾向はありますね。投資家の増加に伴い、良い物件を巡って競争が激化したこと、土地の値上がりや建築資材の高騰などいろいろな要素があると思います。
――ありがとうございました!次回は、五十嵐さんの強みを活かした経営手法や、女性の不動産投資家と初心者に向けたアドバイスについてお聞きしたいと思います。(取材・文/猿渡彩乃)
【後編はこちら】>> 新築アパート投資に絞って成功した五十嵐さん<後編>銀行に提出する資料を工夫して、金利削減も!