「第三者管理」とは、新築マンションの管理を外部のプロに任せる方式である。この方式を採用することで、「マンション管理が合理的になり、自由な時間を楽しめる」といったメリットが期待できるかもしれない。しかし、新築マンションを選ぶ際には、多くの人が予算や立地、間取りに関心を寄せ、管理方式については深く考えないことが多い。管理方式は簡単に変更できるものではないため、購入前に「第三者管理」について正しく理解しておくことが重要である。なぜこれが重要なのか、詳しく説明していこう。(住宅ジャーナリスト/山本久美子)
マンションの管理は誰がする? 管理組合の役割とは?
まず、「マンション管理を誰がするか」の基本について簡単に説明しておこう。マンションの住戸を購入した人(区分所有者)は、必ずマンションの「管理組合」に加入する。これは、自分たちがマンションを管理する“当事者”ということだ。
管理組合では合議制でさまざまな事柄を決めていき、「総会」を開いて重要な案件を決議する。ただし、常に全員で話し合うことはできないので、役員を募って「理事会」を組織し、理事会が管理や維持に必要な業務、管理組合を運営するためのお金の管理などをする。
「理事会」には、理事長、副理事長、理事、監事などの役職があり、「理事長」が区分所有法上の「管理者」となって、その管理組合の代表となる。管理組合の銀行口座の名義が理事長名になるのは、こうした理由からだ。
理事会の役員の選び方はマンションによって異なるが、一般的には、任期1年で全員が交代するか、任期2年で毎年半数ずつ交代するかで、あらかじめ順番を決めて(輪番制)持ち回りで選任することが多い。理事会の役員になると、おおむね月1回程度の理事会に出席して、検討が必要な議案について合議していく。
とはいえ、管理組合の組合員は、管理の専門知識があるわけでも、管理業務に専念できるわけでもないので、通常は、「管理会社」に管理業務を委託する。管理会社は、マンションに管理員を派遣して日常の管理業務に当たらせ、理事会や総会などの運営を支援し、管理組合の会計業務を代行する。
理事会の機能不全が外部の専門家に管理を委ねる道を開く
誰もが自分のマンションで快適に暮らしたい、マンションの資産価値をできるだけ保ちたいと思うものだろう。当初はマンションの管理への関心が高かったとしても、30年、40年と住み続けると、所有者も60代や70代と高齢になっていく。
マンション自体も30年、40年たてば老朽化が進み、大規模な修繕工事を繰り返すことになる。修繕積立金で工事費用がまかなえればよいが、不足する場合は必要な工事を先延ばしにしたり、不足する額を徴収したりといった検討をすることになる。
管理組合員の高齢化とマンションの高経年化、これが「マンションの2つの老い」だ。理事会として解決すべき課題が複雑になる一方で、高齢化などによって理事会の役員になれないという人が増えていく。理事会の担い手不足は、理事会の機能不全につながり、管理組合の運営そのものが困難になるリスクを抱える。
そこで、国土交通省は、理事会に外部の専門家を参加させて、理事会の役員の負担を減らそうという動きに出た。
管理業務を受託している管理会社は外部専門家の想定外だった
国土交通省では、まず、理事会の役員は区分所有者に限定するという項目を緩和した。次いで、「マンション標準管理規約」などを改正して、マンションの管理を外部の専門家に委託する手法を提示した。そのための「外部専門家の活用ガイドライン」を作成したのは、2017年のこと。
国土交通省が提示した、外部専門家活用のパターンは3つあるが、このときに主流とされたのは、「理事会の役員を外部専門家に委託する」もの。副理事長や監事などに外部専門家が就任して、理事会として判断すべき課題や判断基準などを提示すれば、理事会の負担は軽くなる。外部専門家が理事長=管理者となる場合も想定されている。
すでに理事会が機能不全に陥っている場合は、「外部専門家が管理者となり、管理組合は総会でそれを監督する」パターンもある。理事会を設けない代わりに、区分所有者から「監事」、あるいは監査法人などの外部監査により外部専門家を監視したり、管理組合の総会が監視したりする。
ただし、このとき国土交通省が外部専門家として想定していたのは、マンション管理士や弁護士などだ。ところが、管理組合から管理業務を受託する管理会社が、外部専門家として管理者となる事例が増加している。この想定外の実態に対して、国土交通省が2024年にガイドラインを改定したのが、「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」だ。
管理会社が管理者になるときのルールを整備した2024年版のガイドライン
国土交通省がなぜ、外部専門家に管理会社を想定していなかったかというと、管理組合と管理会社は“利益相反”の関係にあるからだ。たしかに管理会社には管理に関する専門知識があるが、管理業務を発注する側と受注する側が同じになるので、管理組合にとって不利益となる場合も起こりうる。
そこで、国土交通省では、2023年に「外部専門家等の活用のあり方に関するワーキンググループ」を設置し、実態の把握と課題の解決に乗り出した。
国土交通省が管理業者に対して、同年9月と12月に行った「第三者管理者方式に関する実態調査」では、管理会社のうち35%が管理組合の代表である「管理者」になって管理業務を受託している事例があると回答しており、その場合の多くが、「理事会を設置しない」パターンであることが分かった。つまり、管理会社が管理を丸抱えする方式だ。
さらに、管理業務を行う部署と管理者として業務を行う部署が同じである場合も多かった(「同一の部署であり、責任者も同じ〈42%〉+「同一の部署であるが、責任者が異なる〈18%〉」)。同じ部署で発注と受注の立場にあれば、利益相反のリスクが高くなるわけだ。
そこで、管理会社が外部専門家となる場合に適切なルールに基づいて行われるように改定したのが、2024年版のガイドラインだ。ガイドラインでは、外部管理者方式の中でも、マンション管理会社が外部管理者になる場合を「管理業者管理者方式」と呼んでいる。
ガイドラインでは、管理業者管理者方式の場合のルールを整備している。その中から、一般ユーザーに特にチェックしてほしい5つの項目をピックアップした。
「管理業者管理者方式」でチェックしたい5カ条(ガイドラインから抜粋)
- 通常の管理業務を受託する場合と管理組合の管理者に就任する場合で、それぞれ委託契約書を分ける。
- 管理会社内で、管理業務と管理者の担当者をそれぞれ分ける。
- 管理者の任期は原則1年程度とする(毎年開催する総会で継続・不再任などの決議を行う)ことが望ましい。
- 管理規約には、管理者として管理会社などの固有名詞を記載しないことが望ましい。
- 利益相反を防止するために、総会で承認を得た金額以上の支出や関連企業との取引については、総会で承認を得る。
ピックアップした5項目について少し説明しよう。2と5は利益相反を抑制するためのもので、1と3と4は管理組合が管理方式を変えたり管理者を変えたりすることのハードルを下げるためのものだ。
1は、管理者を委託する契約書を作らずに、管理業務を委託する際の「マンション管理委託契約書」に管理会社を「外部専門家として管理者に指定する」と盛り込む事例を防止するためのもの。委託契約書を分けないと、管理者だけを変えることはできず、管理業務の委託そのものを解約することになり、管理者を変えるハードルが高くなってしまうからだ。
4は、マンションのルールブックである「管理規約」に、管理者として○○会社を指定するなどと記載する事例を抑制するためのもの。特定の名前が記載されていると、管理者を変えるには、管理規約を改正する必要がある。管理規約の改正は、過半数の普通決議ではなく、4分の3以上の特別決議によることになるので、管理者を変えるハードルが高くなるからだ。
3の任期については、1年ごとに管理者を見直すタイミングを設けることで、任期を定めずに管理者が無条件で継続することを抑制している。
さらに、ガイドラインでは、新築マンションの場合は、購入時ではなく購入を検討している期間に、管理業者管理者方式に関する情報提供項目について、購入希望者に詳しい説明をすることを求めている。
契約前に5カ条を確認しよう
既存のマンションで管理組合として管理会社に外部専門家としての
特に新築マンションを購入する場合は、
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