新築マンションの価格高騰が止まらない。不動産経済研究所が公表する2023年上半期、東京23区の平均価格は1億2962万円と、1973年の調査開始以来、上半期では初めて1億円を突破。こうも高いと、どうせ買うなら「成功者の証し」ともいわれるタワーマンションにしたいと思う人もいるのではないか。そこで、この記事では購入後に後悔しがちなポイントや、選んではいけないタワマンの特徴を解説する。(マンショントレンド評論家・日下部理絵)
そもそもタワマンとは何か? タワマンの歴史を解説
タワマンというと、夜景にスパやゲストルームなどの豪華な共用施設があるというイメージがあるのではないか。では、そもそもタワマンとは何か。
タワマンの定義
一般的に20階以上、高さ60mを超える超高層マンションをタワーマンション(通称タワマン)と定義している。
それ以外に〇〇戸以上といった戸数の縛りや、共用施設の中身などは定義されているわけではない。
タワマンは38都道府県に1,464棟・38万戸超もある
タワマンというと、希少性も魅力の一つとされる。
しかし、東京カンテイの「全国の超高層マンションの供給動向とストック数に関する調査」によると、2022年12月末時点における全国のタワマンストック数は、1,464棟で38万4,581戸もあるという。
タワマンの歴史を解説!日本初のタワマン建設は1976年
タワマンというと、近年か、せいぜいここ十数年の居住形態と思うかもしれない。しかし、実は日本初の分譲タワマンが建設されてから既に40年以上たっているのをご存じだろうか。
歴史はさかのぼり、前回の東京オリンピックを目前にした1963年に建築基準法の規制である特定街区が改正され、続く70年の法改正によって、31mに規制されていた高さ制限が解除。この影響を受けて70年代からタワマンの先駆けといわれる高層マンションが建設されることになる。
日本初のタワマンは、76年に建設された、高さ66m、22階建ての「与野ハウス」(埼玉県与野市・住友不動産)である。高さが異なる4棟からなり、うち2棟が高層棟、総戸数463戸である。
70年代から90年代半ばでは、現在より容積率や日照権などの規制が厳しく、超高層マンションを建設するためには広大な敷地が必要であった。そのため、敷地面積を確保しやすい河川の近くや郊外が建設地として選ばれていた。
それが1997年の建築基準法の大改正によって容積率や日照権などの規制が大幅に緩和。これにより主要駅周辺の人口集積地域にも、タワマンの建設が可能となる。
これらの背景を受けて98年には、タワマンの代名詞ともいわれる東京・月島に54階建ての「センチュリーパークタワー」が完成する。また、早稲田駅から徒歩約2分に「西早稲田シティタワー」も完成、駅近で利便性が高いタワマンも建設された。
ここから都市部でのタワマン建設が継続している。
日本のタワマンは、建築基準法の規制緩和の影響を受けて、高さや立地における自由度を広げている。2023年だけでも47棟、1万3,862戸が予定され、既に2040年頃まで、全国にタワマンの建設・計画の増加が見込まれている。
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タワマン購入後、後悔しがちなポイントは?
タワマンの購入で失敗しないために、住んでから後悔しがちなポイントについて下記にまとめた。特に注意しておきたい大規模修繕に関するところを中心に解説していく。
1.修繕積立金・管理費など維持費の負担が大きい
タワマンの修繕工事は一般の中高層マンションと比べると事情が異なる。そのため、修繕積立金や管理費など、住民の負担が大きくなる可能性がある。
また、先述のとおり1997年の建築基準法の改正でタワマンが建設しやすくなり、ブームが到来したのが2000年頃。首都圏では03~09年まで年間50棟以上のタワマンが竣工された。
タワマンの大規模修繕は、おおよそ15~18年の周期といわれており、これから首都圏では多くのタワマンで大規模修繕が予想される。それにより、一時金の徴収などもあるかもしれない。
以下、タワマンの大規模修繕に関する背景についても見ていこう。
タワマンの大規模修繕費はどれくらい高いのか?
中高層など一般的なマンションの大規模修繕費の相場は国土交通省の「マンション大規模修繕工事に関する実態調査(令和3年度)」によると、1回目は1戸あたり約110万円の負担割合といわれる。タワマンの場合は110万円よりも高くなることが多い。たとえば以下の通り。
1998年築、55階建て、高さ185m、総戸数650戸、約12億円
○センチュリーパークタワー(東京都中央区)・・・1戸あたり230万円
1999年築、54階建て、高さ180m、総戸数756戸、約17.5億円
○ザ・ガーデンタワーズ(東京都江東区)・・・1戸あたり170万円
1997年築、39階建て、高さ134.3m、サンライズタワーとサンセットタワー2棟で構成、総戸数470戸、約8億円
また工事金額の総額が大きいため、長期修繕計画の試算が甘いと修繕積立金の不足が起きやすい。
特に物価上昇や消費税の増税を組み込めていなかった管理組合は、近年の工事費上昇についていけず、一時金の徴収や計画より遅い築20年前後で1回目の大規模修繕を実施するなど考えあぐねている。
ただし、一般的なマンションの大規模修繕が12年前後の周期に対して、タワマンは15~18年周期と後ろ倒しが多く、戸あたりは高く見えても実質的に安い場合もある。
タワマンの大規模修繕が高額になる理由
タワマンの大規模修繕はまだ事例が少なく、工法やノウハウが、広く一般に確立されたとまではいかない。タワマンの構造上、特に高層階では風対策をはじめとした、特殊かつ高度な作業ノウハウが求められる。
また工期も2〜3年と長期間に及ぶことも珍しくない。そのため、タワマンの大規模修繕を行うのは、新築時に建物を建設したゼネコンや、その子会社など一部の施工業者に集中するケースが多い。
足場(修繕工事の際に上部に上れるようにするための仮設構造物)は、一般的なマンションの大規模修繕で使用される「組み立て式」ではなく、屋上からつり下げる「ゴンドラ」や、柱を立てて設置する「移動昇降式足場」を使用することが多い。
そのため、風対策や飛散、落下防止対策のほか、雨などの気象状況によって工事の進捗度が大きく影響を受けやすい。
外観フォルムが独特であるなどデザイン性が高いタワマンは、高層階と中層階、低層階では、足場の種類、工事の方法を変えるなど複雑になることもある。
販売時は魅力的だったラウンジやカフェ、スパやプール、屋上デッキといった共用施設やさまざまな設備は、独自性を打ち出していればいるほど、別途改修が必要で費用もかさむ。
区分所有者が多く、合意形成が難しい
一般的なマンションは平均戸数が60戸程度なのに対し、タワマンは戸数規模が大きく、1棟100戸以上、なかには1,000戸以上のものも存在する。
大規模修繕の工事内容にもよるが、共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く)に該当すると判断される場合、総会での「特別決議」(区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数)で決することになる。
そのため、管理組合の合意形成が難しいとされる。特に高層階と低層階では区分所有者の世帯収入や価値観の違いも影響する。
高層階では、雨風の影響などで外壁に損傷を受けやすいなど、層階によって抱える問題も異なる。しかし、修繕積立金の負担は、一般的に階層は関係なく専有部分の床面積割合で決定している。場合によっては、割に合わない維持費を払うことになりかねないのだ。
2.眺望に魅力を感じないケースもある
タワマンのだいご味である眺望に関しては、早い人だと3日で飽きた、近くにもタワマンができ眺望が悪くなった、という意見もある。
3.全面ガラス張りで不都合なことが多い
タワマンといえば、全面ガラス張りのリビングを想像する人も多いだろう。すてきな印象を受けるかもしれないが、いざ住んでみると全面ガラス張りだと、不都合も多い。
温室状態で、日差しが入りすぎてしまったり、カーテンの既製サイズが合わず特注で高くなってしまったり。また窓掃除のため、ゴンドラに乗った作業員の方と目があってしまい気まずかった、しっかりと服を着ていたタイミングで良かったという声もある。
4.オール電化でガスが使えない。電気代の負担増
またオール電化のタワマンも多く、鍋やフライパンなどの器具を選ぶほか、電磁調理器(IH調理器)特有の「ブーン」「ジー」という音に悩む方も多い。しかも特定の方には「キーン」という高い音が聞こえたり、補聴器の装用に大きな雑音を発生させる場合もある。
音以外にも取っ手にわずかな振動を感じたり、調理器具が動いたりすることもある。IHは、電磁誘導という電気の特性を活用して温めるのだが、これはIHに調理器具が共振して出る音である。
鍋などの位置をずらしたり、置き直したり、火力を落とすことで、音が止まったり小さくなったりする。調理器具を変えると収まることも。
もしガスを使いたい場合、マンション全体・全室がオール電化だと、ガスを導入するには管理組合の合意形成が必要で極めて困難である。ガスと電気の併用・オール電化の選択ができるようなマンションであれば可能性はある。よく確認が必要だ。
さらにオール電化は電気代のほか、停電時に使用制限がかかることも多い。エレベーターが止まれば、共用部分が薄暗いなか高層階まで階段を上り下りしなければならない。
エントランスのオートロックの解除のほか、電子キーのみの採用だと部屋の玄関ドアすら開かない。防犯設備があだになり、便利が不便を招くといった事態になりかねないのである。
5.洗濯物の外干し禁止
タワマンだけではないが、近年のマンションは落下防止のため、洗濯物の外干しが禁止されていたり、タワマンではそもそもベランダ自体が設置されていないことも珍しくない。
6.エレベーター待ちなどの負担と心理的ヒエラルキー
次に最近のタワマンでは、低層階用、高層階用など階層ごとに停止階を決めたエレベーターを採用するなど工夫はされているが、やはりエレベーター待ちの時間は避けられない。
階層ごとにエレベーターを分けたことが、ヒエラルキーにつながりやっかみが起こることもある。
また宅配ボックスがある低層階まで荷物を取りに行ったり、ゴミ置き場が各階になければゴミを持ってエレベーターを行き来することになり、とても不便である。特にセキュリティーのため、2階などの低層階でエレベーターを乗り換えるタワマンだと不便極まりない。
7.携帯電話やWi-Fiがつながりにくい
タワマン全てではないが、携帯電話の基地局からの電波は、一般的に下方向に向かって出ているため、高層階には届きにくい傾向がある。
また基地局が遠い場合は、携帯電話側からの弱い電波が届きにくい。基地局からの電波を使っているポケットWi-Fiも同様である。
さらにインターネットの速度が遅いことも。携帯各社では電波を上向きにしたり、電波環境や電波を増幅させる装置などのレンタルで対応している場合もあるのでよく確認したい。
8.外出がおっくうになる
特に高層階の場合、外出するのが面倒になりがち。食事も買い物も宅配が利用しやすくなっている昨今では、外に出る機会が減り、運動不足になる懸念もある。
9.引っ越し費用が高額
低層でエレベーターがないマンションも高額になりがちだが、タワマンの引っ越し費用も高額になりやすい。防災センターに事前申請や養生箇所の指定、使用できるエレベーターの制限、引っ越し日時の制約、引越し業者が指定され選べないなど、通常の引越しとは異なるルールがあることが多い。
選んではいけないタワマンの特徴
成功者の証しのように思われるタワマンも、住んでみて初めてわかるデメリットがたくさんある。
最後にいま購入を検討している人は、次の特徴があるタワマンだけはやめておいた方が無難だ。購入後の維持費が家計に重くのしかかる可能性がある。
・細長いなど戸数が少ない
・デザイン性が高いなどいびつ、特殊な形状をしている
・戸数の割に維持費がかかるスパやプール、カラオケ施設などがある
・タワー式などの機械式駐車場があり、しかも空きが多い
・24時間有人管理でスタッフ数が多い
羨望のまなざしで見られがちなタワマンだが、棟数が増え希少性が薄れてきた現代においてタワマンというだけで飛びつくのは危険だ。
購入する際は後悔しないよう、くれぐれも慎重にご検討いただきたい。
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