どれだけ慎重に住まい選びをしても、引っ越してからはじめてわかることがある。それがブラック住民の存在だ。いわゆる「隣人ガチャ」にハズレないよう、1000棟以上のマンションを見てきたマンションのプロが、ブラック住民が潜む“住んではいけない物件”の特徴を、実際にあった隣人トラブルの実例とともに解説する。今後の物件選びの参考にしていただきたい。(マンショントレンド評論家・日下部理絵)
「隣人ガチャ」にハズレても住まいをすぐに替えるのは難しい…
新生活に向けて、この春にマンションを購入された方、引っ越しされた方も多いのではないか。なかにはまさに今、住まい探しに奔走している人もいるだろう。
マンションを購入したり、賃貸物件を探したりする際には、予算や立地など諸条件に合う物件のなかから、幾度もなく内見し、限られた時間の中で比較検討したうえで決定し、契約を交わしたであろう。
しかし、どれだけ慎重に検討しようにも引っ越してからはじめてわかることもある。専門書やマニュアルを読み込んだだけではわからないこと。まさに、隣人ガチャにハズレるというやつだ。
もし、あなたが失敗した場合でも、住まいは一度、購入や引っ越しをすれば、すぐに住み替えるのは至難の業だ。できるだけトラブルは事前に回避したい。その方法を解説する前に、まずはブラック住民のトラブルの種類から見ていこう。
隣人トラブルで最も多いのは騒音
隣人トラブルで最も多いのは、ズバリ騒音である。
騒音といってもさまざまだが、「子どもが走り回る足音」「物が落下する音」「ピアノの楽器音」などが代表的だ。
なかには、車のアイドリング、ゴミ置場の扉の開閉、エレベーターなどの機械音が騒音と化すこともあるが、いずれにしてもその発生の根源は、我々人間であることが多い。
実際に国土交通省がおおよそ5年に一度実施している最新の「マンション総合調査」でも、発生したトラブルについて、「居住者間のマナーをめぐるトラブル」が55.9%と最も多く、次いで「建物の不具合に係るトラブル」が31.1%、「費用負担に係るトラブル」が25.5%となっている。
「居住者間のマナーをめぐるトラブル」をより詳細に見ると、最新のデータで下記の通りだ。
1位 生活音(38.0%)
2位 違法駐車・違法駐輪(28.1%)
3位 ペット飼育(18.1%)
※出典:平成30年度マンション総合調査結果からみたマンション居住と管理の現状(国土交通省)
この生活音のトラブルは、コロナ禍による、テレワークなどの在宅時間が増えたことにより、気になるようになったという方も多い。
たとえば、換気のため窓を開けていたら、WEB会議やテレビなどの音が気になったり、おうち時間の増加により、DIYやホームパーティーなどの音が気になるということも。
たとえそこまで大きな音でなくても、一度、気になってしまうと、気になり続け、気が休まらないのが騒音というものだ。
注意やお願いをしにいくのも、今後の生活を考えると気が引けるのではないか。注意をしたことにより、さらなるトラブルに発展することもある。
ストレスや睡眠不足から、突発性難聴になるケースも
都内のマンションに単身住まいの小泉正樹さん(仮名、32歳)は、21時を過ぎても子どもの走り回る音が続き、勇気を出して上階に丁重にお願いしに行ったところ、謝るどころか子どもには伸び伸びさせたいと逆切れされてしまったという。
直接言ってもらちがあかないと思い、翌日管理会社に相談したところ、まもなくして掲示板に注意文を貼り、全戸に投函もしてくれた。
しかし配布後、数日はおさまるもののすぐにうるさくなるの繰り返しである。ひどい日には、日付を越えても走り回る音や笑い声が続いていた。
数カ月が過ぎたころ、繁忙期も手伝いストレスや睡眠不足から、突発性難聴になってしまう。医師からは、ストレスの原因が家なら早急に引っ越しをすすめられてしまった。
今は耳鳴りとめまいも伴い実家に避難中である。自宅に帰るとまたうるさいのかと思うと憂鬱だ。症状が落ち着いたら、引っ越しを検討したいと思う。
このように、加害者は何食わぬ顔で住み続け被害者が引っ越しするしか解決しないこともある。
【関連記事】>>最新マンションでも必ず起こる騒音トラブル!床や壁の遮音性を確認する方法とは?
臭いや汚れに悩まされるたばこトラブル
ブラック住民に困っているのは、小泉さんの騒音トラブルだけではない。
佐藤景子さん(仮名、42歳)は、たばこトラブルで困っている。そもそも臭いが苦手なのだが、先日に至っては、洗濯物にたばこの灰と思われる汚れが付いており、外干しするのが怖くなってしまった。
発端はといえば、換気のために窓を開けていたところ、ベランダで喫煙していると思われるたばこの煙が入ってきたことだ。
その時は、いわゆるマンションなどの集合住宅のベランダで喫煙をする”ホタル族”がいるのだなと思いつつも、窓を閉めて解決した。しかし、しばらくすると窓を閉めても、たばこの臭いがしてくるのだ。
これは、マンションのベランダや外壁にある24時間換気用の外気給気口から、近隣のたばこ臭が流入していることが原因とされることが多い。
マンションによっては、火災などを懸念し、そもそもベランダやバルコニーなどで、喫煙不可というルールを設けている物件もある。
このような物件では、換気扇の下などの室内で吸うことになるが、このたばこの臭いが、換気扇などから隣接住戸に流入して臭気問題になるケースも珍しくない。
騒音の発生源も特定に困難を極めることがあるが、臭いも外気を介すとより発生源が特定しづらい。そもそも発生源として疑われる住戸に調査に入れないことも多いものだ。
佐藤さんのマンションのようにベランダなどでの喫煙者が多い場合、注意文のほか、管理組合でルール化し、決められた場所以外での喫煙をやめてもらうしかない。
個人でできることといえば、洗濯は乾燥機や部屋干しを徹底し、住戸側の外気給気口に脱臭フィルターを設置するぐらいしかない。
佐藤さんは、全自動洗濯機から、ドラム式洗濯乾燥機に買い替えた。高い買い物で出費はつらかったと嘆く…。騒音も辛いが、同じく発生源がわかりにくく目に見えない臭気トラブルも辛いものがある。
隣人ペットトラブルは犬アレルギーで悩むケースも
山田裕貴さん(仮名、38歳)は、隣人の飼うペットトラブルで悩んでいる。山田さんは、ペット好きではあるものの犬アレルギーなのだ。
数年前に今のマンションを購入した際には、ペット飼育可の物件ではあるものの上下近隣の住戸が犬を飼育していないか、確認をしてから購入し、引っ越しをした。
それが最近になって、目のかゆみやくしゃみ、鼻づまりがあり、花粉症かと思い病院に行き検査したところ、犬アレルギーによるものということがわかった。
近隣に犬を飼っている住戸はなく、外出時に飛散した毛などで発症したのだろうと思ったが、念のため、管理員さんに近隣住戸にペット飼育の住戸がないか確認した。
すると、右隣りの部屋が転勤で数年程、家を空けるため、数カ月前に定期借家契約で賃貸に出し、その賃借人が犬を飼っていることがわかった。
犬アレルギーは完治しないため、症状の悪化を防いだり、軽減させたりする対症療法しかない。つい先日、風邪でもないのにせきが続いたこともあった。ひどくなると、呼吸困難やじんましん、アトピー性皮膚炎になる頻度も高くなるという。
いまのところ、こまめな換気や部屋の掃除、空気清浄機などを活用して、何とか大丈夫であるが、これ以上の症状が出たら…と不安で仕方ない。
犬も大切な生命に変わりはない。しかし、本音をいえば隣人一家には一日も早く引っ越してほしい。定期借家契約の再契約がされないことを願うばかりだ。
トラブル発生の有無を簡単に見抜く方法は?
騒音トラブル、喫煙トラブル、ペットトラブルなどが日常的に起こっている場合、必ずといっていいほど、管理組合の掲示板に注意文やお願い文が掲示されていることが多い。
また明らかに表面化するほどひどいトラブルの場合は、不動産会社が入手できる重要事項説明書に記載がある。物件を選ぶ際には掲示板を見ること、不動産会社に特記事項などないか確認するのはマストである。
さらに内見時には、案内された部屋の階以外も確認したい。
たとえば、各階の共用廊下や共用施設などを回り、放置自転車や粗大ゴミ、置き配などの物の放置がある場合、マナー違反のブラック住民がいるばかりか、火災などイザというときに避難の妨げになる可能性もある。
マンションの外からバルコニー全体を眺めてみて、鳥よけネットが設置されているなら、ハトやカラスなどの鳥類トラブルがあり、大量の私物や倉庫、パラボラアンテナの設置などが見られる場合は、ルールを守らないブラック住民が潜んでいる可能性がある。
【関連記事】>>中古マンション見学のポイントを解説!住宅設備や建物外観で確認しておくべき箇所とは?
隣人ガチャはいつ発生するかわからない
マンションなどの集合住宅であれば、上下左右の隣人すべてにブラック住民が潜んでいる可能性があるといっても過言ではない。隣人ガチャでいつハズレを引くかは分からないのだ。はたまたあなた自身が、元凶になることもある。
前出マンション総合調査においても、特にトラブルがない分譲マンションはたった23.2%しかなく、何らかのトラブルを抱えているマンションが増加している。戸建て以上にマンションの方が隣人トラブルに巻き込まれやすいともいえるだろう。
人生において一番大きい買い物といわれる住宅。物件選びをする際にはできる限りの注意を払い、快適なマンションライフを過ごしたいものだ。
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