新築マンション価格が高騰し、多くの人が中古マンションへの注目が高まっている。しかし、築年数が進んだマンションには、高齢化や修繕費用不足、管理の問題など見逃してはならない課題がある。国土交通省が発表した「令和5年度マンション総合調査」の結果をもとに、中古マンションを購入する際に注意しておくべき3つのポイントについて解説する。(不動産アナリスト・岡本郁雄)
ポイント1:マンション所有者の高齢化とその影響
築年数の進んだマンションが抱える課題の一つが「高齢化」だ。
マンション居住の現状では、世帯主の年齢層の高齢化が目立つ。令和5年(2023年)度調査では、70歳以上の世帯主の割合が25.9%と過去最高を記録。特に、1984年以前に建てられた築年数の古いマンションでは、その割合が55.9%に達した。一方、2005年~2014年に完成した比較的新しいマンションでも、70歳以上の割合が15.9%にのぼり、高齢化は確実に進行している。
高齢化による影響として、修繕積立金の増額や大規模修繕の合意形成が困難になるケースがある。年金以外の収入が少ない世帯が多い傾向があり、負担増への反発が起こるからだ。また、築年数が増すほど修繕費用の負担は重くなり、適切な管理や修繕が行われなければ建物の劣化が進み、資産価値の低下が避けられない。これにより、建て替えや売却が難しくなる点もマンション所有者の高齢化による問題と言えるだろう。
築40年以上のマンションは急増中
築年数が古いマンションが増え続けている実態も、この問題と密接に関わっている。国土交通省の予測によると、2023年末で築40年以上のマンションは約136.9万戸。これが2033年末には274.3万戸、2043年末には463.8万戸と急増する見込みだ。
築40年以上の分譲マンション数の推移予測
さらに、築年数が古いマンションほど、管理費や修繕積立金の滞納が多い傾向があることも見逃せない。滞納が増えれば管理組合の運営が滞り、適切な管理や修繕が行えなくなるケースも出てくるだろう。計画的な修繕や適切な管理が行われないことで、より住民への負担増加や老朽化による資産価値の低下が加速する懸念がある。
長寿命化が課題解決のカギ
このような背景の中、求められるのはマンションの長寿命化だ。長寿命化とは、計画的な修繕積立金の設定や長期修繕計画の実施を通じて、建物劣化を防いだり、資産価値を維持したりと、できるだけ寿命を伸ばすこと。特に築年数が増えるほど修繕費用は増大し、管理運営の難しさが増すため、早期からの備えが重要となる。
本調査によると、全体の88.4%のマンションが長期修繕計画を作成済みであり、長寿命化の重要性が認識されつつある。しかし、25年以上の長期修繕計画に基づいて修繕積立金を設定しているマンションは59.8%にとどまっている。残りの約40%は修繕計画が不十分、または積立金が不足している可能性がある。
これらのマンションでは、突発的な一時金の徴収や急な修繕費用負担が発生するリスクが高い。購入後の思わぬ負担を避けるためにも、修繕積立金の状況や長期修繕計画の有無、さらに管理組合が機能しているかどうかを確認することが、中古マンション選びの重要なポイントとなる。
ポイント2:修繕費用と修繕積立金の増加による負担
マンションの修繕費用を確保するために不可欠な修繕積立金であるが、その積立方式が将来的な負担を左右する要因となる。修繕積立金の積立方式には大きく分け「均等積立方式」と「段階増額積立方式」がある。
均等積立方式はその名の通り、毎月の積立額を一定に設定する方法であり、段階増額積立金方式は、入居当初の負担を軽減するために、初期の積立額を低く設定し、後から段階的に増額していく方法だ。
1985年~1994年に完成したマンションでは、52.4%が均等積立方式を採用しているが、2015年以降に完成した新築マンションの81.2%が段階増額積立方式を採用。近年では修繕積立金の初期負担を抑える傾向があるが、この方式は将来的なリスクが潜んでいる。
完成年次別の修繕積立金の積立方式
将来的な積立金の大幅増額リスク
段階増額積立方式は、初期負担を軽減できる一方、将来的な大幅値上げのリスクがある。本調査では「長期修繕計画上と実際の修繕積立金の額に差がある」としたマンションが36.6%にのぼり、計画に対して20%以上不足しているマンションが11.7%存在することも分かった。
一方、計画に比べて余剰があるとの回答は39.9%あり、マンションごとに修繕計画の準備状況が大きく異なっているということがわかる。
さらに、昨今の物価上昇や人手不足の影響で、大規模修繕にかかる費用は増加傾向にある。修繕積立金が不足しているマンションでは、一時金の徴収や積立金の急激な引き上げが必要になることが多い。
中古マンションの場合は、管理の重要事項調査報告書によって大規模修繕の実施状況や管理組合の修繕積立金の積立額を事前に確認することができる。これにより、修繕費用の不足や管理不全のリスクをある程度見極めることが可能だ。建物の状態だけでなく、管理組合の運営や計画が適切に実施されているかを十分に確認することが重要である。
一方で、新築マンションでは積立金を段階増額積立方式で低く設定するケースが多い。例えば、2005年~2014年完成物件の平均修繕積立金は月額13,485円と低めだが、これは入居当初の負担軽減を目的としているため、将来的な増額が前提となっている。
この点を踏まえると、中古マンションでは現在の積立金額が適切かどうかだけでなく、過去の修繕履歴や長期修繕計画が実行されているかを確認することで、将来的な費用負担のリスクを避けることができるだろう。
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ポイント3:マンション管理の外部委託が招くリスク
近年、マンション管理の現場では、役員の担い手不足を背景に「外部管理者方式」が広がっている。これは、管理業者が管理事務を受託するだけでなく、管理者として選任される仕組みだ。新築マンションでは、管理業者が管理者に就任することを前提に分譲されるケースも増えている。
こうした外部管理者方式の場合、住民の負担が軽減できる一方で、不適切な管理、管理組合と管理業者との利益相反の発生(業者が高額な契約を住民に押し付けるケースなど)、管理業者に支払うコストの増大などが生じる可能性が出てくる。マンション管理の主体は本来、区分所有者で構成される管理組合であるが、この方式が普及することで適切な運営が難しくなってくる。
こうしたリスクに対応するため、国土交通省は「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」を2024年6月に策定した。
このガイドラインには導入の進め方や住民参加の重要性が明記されている。適正な運営を担保し、管理組合に不利益が生じることを防ぐ指針としている。
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老朽化マンションの建て替えという選択肢
老朽化が進んだマンションでは、単に修繕や適切な管理を行うだけでは問題を解決できないケースがある。その場合に出てくるのが建て替えという選択肢だ。資産価値を維持し、住環境を改善する有効であるが、その実現には多くのハードルがある。
2024年3月時点で48件の建て替え実績のある旭化成不動産レジデンス株式会社のマンション建替え研究所によれば、建て替え等の発意から建て替え等決議までの平均年数は6.3年かかっている。
また、建て替え等の発意から建て替え等決議までの期間が2年以下のマンションは、区分所有者数が20人未満や20人~40人未満。小規模マンションでスムーズに合意形成がされる一方、大規模マンションでは調整が難航することが多い傾向にある。また、再建マンションの住戸の再取得率は、平均で60%だが近年は低下している。
一方で建て替えが成功した事例もある。筆者は、1967年竣工、総住戸数490戸の東京23区内最大級の大規模団地であった石神井公園団地の建て替えプロジェクト「Brillia City 石神井公園 ATLAS」の街開きイベントを2023年11月に見学した。
このプロジェクトでは建て替え期間は、3年にも及んだものの、総戸数844戸のうち新たな分譲住戸は543戸。多くの住民が再取得しており、愛着の強さと継承されるコミュニティーの良さが実現された好例と言える。
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まとめ
マンション居住者の高齢化や修繕積立金の不足、外部管理者方式による管理運営の課題などは、中古マンション購入時に見逃せないポイントとなってくる。特に築年数が古くなるにつれ、計画的な修繕や適切な管理が資産維持に直結する。購入を検討する際には、修繕計画や管理状況を十分に確認し、適切な対応を取ることが重要である。
新築マンションの高騰を受けて中古マンションへの注目が高まる中、こうした注意点をしっかり理解し、安心して暮らせる物件を見極める目を養うことが大切だ。
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