再開発が進む羽田エリア。観光の玄関口としてだけでなく、住宅地、ビジネス拠点としての可能性も広がりつつある。豊洲のように、再開発が進み将来は丸の内のような都市へと育つポテンシャルを持っている。羽田エリアの変貌の兆しを読み解いていく。(経済ジャーナリスト・アナリスト 山下努)
羽田エリアに広がる静かなマンションラッシュ
京急空港線の主要駅で下車すると意外にマンションが多いことに気づく。分譲や賃貸の物件、建設中の現場も目立ち、空港線の起点である京急蒲田駅、糀谷(こうじや)駅、大鳥居駅、 穴守稲荷駅などでも、1年前より確実にマンションが増えている。
京急空港線糀谷駅周辺は、下町らしい商店街がありながらマンションが立ち並ぶ住宅地となっている。
空港に隣接する羽田1丁目から6丁目にかけてはバス通りを中心にホテルやマンションが多数立地している。
天空橋周辺に広がる開発の本命地

なかでも用地が広がるのは天空橋駅周辺だ。すでに羽田周辺の下町には数多くのビジネスホテルや賃貸マンションが建設されている。住宅地としての価値が認識されてくれば、開発も進むことになるだろう。
「土地代データ」によると、大田区の2025年の基準地価は平均77万2,135円/m2。前年より7.54%も上がった。坪単価なら、255万2,513円となる。
「全国1,736市区町村の中で地価ランキング」は22位、「地価上昇率ランキング」では70位と上位に入る。
天空橋駅から天草橋を渡った一帯は戸建てや分譲・賃貸マンションなど住宅地が広がっていて、のどかな下町の雰囲気。近隣には物流施設やホテルも点在している。今後、開発が進むことで、状況は一変する可能性は十分にある。
羽田空港の歴史と再開発の背景

羽田エリアの歴史を振り返ろう。羽田空港(当時、羽田飛行場)は、広い干潟を利用して開設された。終戦直後の1945年にはGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の軍用地のため、没収されることになり、周辺地域の住民が48時間以内の強制退去を命じられた。
現在の天空橋周辺には、町工場が集まり、昔の築地や月島のような雰囲気もある。この地が注目を集め始めたのは、羽田空港の国際化に向け、空港の正面に広がる東京湾が埋め立てられ、滑走路を沖合に移設する沖合展開事業が完了したためである。
その結果、以前空港として使われていた内陸側の土地が不要になり、大田区に返還された。現在、その土地には空港の機能の強化のための施設が整備されている。
もともと天空橋駅(東京モノレールおよび京急羽田線)の北側には滑走路や空港関連施設があったが、騒音問題や敷地の狭さから、1990年代に滑走路が東京湾側へと移されたことで、現在の羽田空港(東京国際空港)が誕生した。
沖合展開事業によって移転した羽田空港(東京国際空港)の跡地は現在、2つの開発ゾーンを中心に構成される再開発事業により「HANEDA GLOBAL WINGS」として生まれ変わろうとしている。
HANEDA GLOBAL WINGSと未来の可能性
空港跡地は「HANEDA GLOBAL WINGS」と名付けられ大きな開発計画が動いている。
羽田空港および市街地との近接性を有する第1ゾーンは天空橋駅に直結し、手ゼネコンの鹿島建設ら9社が組んだコンソーシアムが手がけるHANEDA INNOVATION CITYが誕生している。健康医療、ロボティクスなどの先端企業やイベントホールといった先端・文化産業の発信拠点となっている。
国際線地区に直結する第2ゾーンは住友不動産のプロジェクトチームが手がけるHANEDA AIRPORT GARDEN。国際線ターミナル直結のホテルと約90店舗の商業施設や天然温泉などの複合施設が予定されている。

一方、海老取川の西側には下町情緒が漂う昔からの住宅街や商店街が広がっている。
こうしたエリア特性から海外と連結できる最適の場所として世界に向けてアピールすることもできる。さらに、居住地としての地域イノベーションでもあり、住宅地として開発する価値も大いに見込めるであろう。
羽田の都市構造はどう変わる?
全国の人口が首都圏に集まり、中でも都心にシフトし、
一方、日本経済の世界における比重は、この20年で大きく後退した。かつてはグローバル経済におけるGDPの約18%を占めていた日本の存在感も、現在ではわずか3%程度にまで縮小している。
この状況下で重要性を増しているのが、国際空港の役割だ。日本経済の比重が落ちるほど、海外との接続点としての空港インフラが価値を持つ。羽田空港はその象徴的存在として、経済・文化の“玄関口”であると同時に、いざという時の“非常口”としての機能も備える。
日本のGDP(国内総生産)は近くインドに抜かれると見られており、IMD(スイスの国際経営開発研究所)による世界競争力ランキングでも、タイやインドネシアを下回る状況だ。一人当たりのGDPでは、シンガポール、韓国、台湾に加え、中東の資源国とも大きな差が開いている。
こうした逆風下においても、羽田には都市としてのポテンシャルがある。円安によって訪日外国人観光客は増加し、交通の要衝である羽田の存在感は高まり続けている。近年の再開発によって、羽田は単なる空港エリアから、ビジネス・居住・観光が交わる複合都市へと姿を変えつつある。
今後、羽田の滑走路のさらなる増設(沖合展開)、羽田に国際線を全面集中させるかわりに、成田に国内地方路線の発着(役割を終えた国内路線)を全て移す、横田基地を米軍から返還してもらう(那覇、小松空港のような軍民共同利用の選択肢も)といった奇策も想定だけならできる。
都市構造は、経済の沈み込みを逆手に取り、新たな上昇気流を捉えることで変わっていく。羽田もその一例になるかもしれない。2030年頃までに住宅を含めた先行投資の動きが活発になり、「将来の大手町は羽田」といった声が現実味を帯びてくる可能性もある。
羽田アクセスと再開発で注目される東急池上線エリア

池上線沿線の住環境と蒲蒲線による交通改善
京急蒲田駅とJR蒲田駅は約800m離れており、現状では駅間の連携が課題となっている。これに対応する動きとして、東急が主導する「蒲蒲線(新空港線)」構想が進行中だ。渋谷方面から羽田空港へのアクセス向上を目指しており、今後、東急線や京急線との相互乗り入れも視野に入っている。
ただし、両線で軌道(線路幅)が異なる点など技術的ハードルもあり、現時点では事業化には至っていない。
また、整備区間の前半部分(東急多摩川線の矢口渡駅から京急蒲田駅まで)だけでも、約1,500億円超の費用がかかると試算されている。なお、現行のアクセス手段としては、都営浅草線が羽田空港と都心をすでに直結しており、今後のインフラ整備はその補完的役割を担うことになるだろう。
羽田アクセス線の整備と臨海部の開発ポテンシャル
上記の東急による蒲蒲線構想に加え、JR東日本による羽田空港アクセス線(仮称)も進められている。
東京駅と羽田空港を直結することで現在30分程度要するところ、乗り換えなく約18分で到着することが可能となる。
大田区は、全国の空き家数ランキングで世田谷に次ぎ2位となっている。しかし、世田谷区と違って海に隣接している。開放的で発展できる余地がある。そして山手には昔からの高級住宅街もある。価格面でも手ごろで、世田谷よりずっと将来性がある。
そればかりではない。横浜からの人口北上の波を受け止められるのが、川崎市や大田区だ。東京の街の中心が南部にシフトしているが、これからは品川からさらに南東方向にシフトするだろう。
JR大森駅と京急大森海岸駅に挟まれたエリアは、古い街が残っており、非常に味わい深い。大森駅の北側は、古い商店街が残されている。
ぱっとしない工場街が高級住宅地に変身した事例が豊洲だ。京急線の羽田エリアは豊洲のような住宅街・ビジネス街になる可能性がある。古い公営住宅や工場街が残るのも江東区の湾岸エリアと同じだ。
2030年までに羽田エリアは現在の豊洲エリアへ
同じような現象で、世田谷に隣接する大田区は、これから「買い」となるであろう。これは一般目線にはないので、今がチャンスだ。地下鉄有楽町線の延伸が決まった江東区でも「豊洲」を冠したマンションが増殖する動きに拍車がかかりそうだ。
2001年から数年間は、「豊洲なんて変なところの地名をマンション名につければ売れ行きが悪くなる」ということで、手頃な価格のマンションが大量に供給され、「東京」などの名を冠した地名のない格安マンションが増殖した。豊洲駅徒歩5分でも新築で坪単価は150万円、広さは100㎡弱で5,000万円弱の物件も豊富だった。
造船関連産業の名残もあり、当時から海外ルーツの住民が多く暮らしていた。小学校のPTA通信も日本語、韓国語、中国語、タガログ語で発信されており、多言語が共存する地域性に惹かれて、購入候補地として選ばれた。当時は市場評価も低かったが、現在は英語を使用する外資系企業の関係者も多く住み、オフィス街へと変貌を遂げている。
こうした背景があって、20年近く前は、あえて名前に豊洲を冠しない「豊洲隠し」のマンションは普通にあった。駅前の中古物件でも意外に値上がりせず、発売価格の2倍には届いておらず、タワマンでないためか掘り出し物が実に多い。今の豊洲の新築価格は、豊洲隠しの時代の単価の2倍〜3倍の価格だ。(さらに詳細を知りたい方は『2030年 不動産の未来と最高の選び方・買い方を全部1冊にまとめてきた』をご参照ください)。
まとめ
これからは、フロンティアとしての大田区に注目が集まるだろう。2030年までに、「羽田ブレーク」を見越して先行投資するという選択肢も十分に考えられる。
なにより、羽田空港という日本の玄関口を抱えている点は大きい。日本経済全体は人口減少と高齢化の影響で縮小傾向にあり、今後、日本企業が成長市場を海外に求める動きはさらに強まると見られる。
また、蒲田の魅力として、私鉄とJRの線路に挟まれた独特の下町商店街の文化がある。両駅が一体化していないことが逆に人の流れを生み、今なお昔ながらの活気ある商店街が残っているのも特徴的だ。
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