神戸市は「タワマン空室税」の導入を検討すると今年1月に表明しました。タワーマンションは、居住目的だけでなく、富裕層の投資や節税目的で購入されるケースが増えています。特に、都心部では転売目的のマンション購入が問題視されていますが、空室税を課税することで抑止効果はあるのでしょうか。不動産事業者の視点から考察します。(一心エステート株式会社代表取締役:高田一洋)画像:神戸市の風景/出典:PIXTA
目次
神戸市が検討している「タワマン空室税」とは?
2025年1月、神戸市がタワーマンションの空室所有者に対して新たな税金を課す検討を始めました。この「タワマン空室税」は、住民登録のない空き部屋に対して課税するというものです。市の有識者会議が提案し、久元喜造神戸市長も検討を進める意向のようです。
「タワマン空室税」の主な目的は、マンションの適正管理の促進です。有識者会議の報告書によれば、タワーマンションに空室が増えると修繕や将来の解体における合意形成が困難になり、修繕積立金の引き上げもできなくなる恐れがあるとされています。また、貴重な住宅ストックが活用されないという問題も指摘されています。
投資目的や富裕層の節税を目的としたタワマン購入を抑止し、居住目的の購入が促進されることで、安定した税収にも繋がるという目論見もあるのでしょう。実際に、有識者会議の報告書によると、神戸市内のタワーマンションにおいて住民登録がない部屋数の割合は16.6%で、6件に1件は住民票を置いていないことがわかっています。
関西圏で2番目に大きい政令指定都市である神戸市の人口は約148万人(2025年4月現在)。しかし、実は2011年をピークに神戸市の人口は減少の一途をたどっています。人口の流出を止めるとともに、いかにして定住者を増やすかが大きな課題になっています。
神戸市は、これまでもタワーマンションやワンルームマンションの規制をかなり厳しく実施してきました。2020年にはタワーマンションの林立を防ぐ条例を施行し、JR三ノ宮駅周辺では、住宅の新築を禁止しています。さらに、周辺の都心エリアでは1000平方メートル以上の敷地の住宅容積率の上限を400%に制限するなど、かなり踏み込んだ規制を行っています。
京都市では「空き家税」が2029年から施行される

神戸市の「タワマン空室税」が話題になったことで、京都市の「空き家税」が比較対象として引き合いに出されています。
京都市では「非居住住宅利活用促進税」という名称で、2022年3月に条例が可決・成立しました。2029年から施行される予定で、全国初の空き家に課税する試みとなります。
京都市の空き家税は、市街化区域内で利用されていない空き家や別荘、セカンドハウスなどを対象に、家屋の固定資産税評価額の0.7%を課税するものです。京都市によれば市内の空き家は約10.6万戸、別荘・セカンドハウスも約2,200戸あり、そのうち課税対象となる住宅は約1.5万戸と見込まれています。
この税導入の背景には、非居住住宅の存在が新たな住宅供給の可能性を狭め、特に若年層・子育て層の定住人口が伸び悩んでいることが挙げられます。空き家に課税することで所有者が売却や賃貸活用に向かうことを期待し、住宅供給の増加と定住促進を目指しています。
ただし、導入後5年間は相続税評価額が100万円未満の住宅は課税対象外となるため、対象となる空き家は全体の約1割程度とされています。また見込まれる税収は10億円弱ですが、徴収コストに年間2億円以上かかるとの試算もあります。
現在、空き家に対しては固定資産税等の住宅用地特例により固定資産税が1/6に、都市計画税も1/3に減額される措置があるため、空き家を更地にするよりも建物を残しておいた方が税制上有利でした。
しかし、今後、京都市では「管理不全空家」や「特定空家」と指定されれば、これらの特例が受けられない可能性に加え、さらに空き家税が課されることになります。やはり京都市の空き家税も、神戸市同様に定住者を増やすことを目的とした課税であることがわかります。
タワマン空室税は、投資・節税目的の購入を抑止するのか
都市部のタワーマンションを購入する層には、実際に住む人と、そうでない人に分かれます。居住目的ではない場合は、富裕層の投資目的や節税対策、あるいは単に資産保全のためにタワマンを購入するケースに当たります。
特に高級物件・タワーマンションは節税効果が大きく、タワーマンションは相続評価額が実勢価格より低く設定されることが多いため、相続税対策に購入されるケースも多いのです。
では、実際に「タワマン空室税」が投資・節税目的の購入を抑止する効果があるのでしょうか。正直、効果はほぼないと言っていいでしょう。
今回の「タワマン空室税」は、自治体独自の「法定外税」による検討が進められています。総務省の解説を確認すると、法定外税新設においては「国税又は他の地方税と課税標準を同じくし、かつ、住民の負担が著しく過重となること」においては、総務大臣は同意しない可能性があることがわかります。
つまり、「タワマン空室税」が施行されたとしても、課税額は(少なくともタワマンを購入できる資産家や富裕層にとっては)軽微になる可能性が高いと考えられます。
本気で取り組むのであれば、相続税をもっと厳しくしたり、タワーマンションの評価額を実勢価格に近づけるといった措置ならば、一定の効果があるかもしれません。税額を定める路線価と実際の売買価格には大きな差があり、それを正していく方がよほど効果的です。
都心の新築マンションで起こっている”買い占め”問題
ただし、効果はないといいつつも、何も対策を講じないというのも問題です。東京や大阪などの人気エリアの新築マンションは、投資目的の購入者によって価格が押し上げられ、本当に住みたい人が買えない状況が生まれています。
たとえば「晴海フラッグSKY DUO」の抽選倍率は最高で640倍になるなど、そもそも購入する権利を得ることすら難しいといった事態になっています。これはいわば、富裕層による不動産の「買い占め」のようなものです。
転売目的でチケットやグッズを買い占める転売ヤーは社会的に批判されるのに、不動産投資という形での「買い占め」はあまり批判されないのは不思議な話です。そういった方々に対して何かしらのペナルティや税金を課すというのは、一方で見れば正しいことだと思います。
東京でも湾岸エリアのタワーマンションが実際に住まわれず、違法な民泊運営に使われているといった噂が広がるなど、タワーマンションや富裕層向け物件に対する反感や不満の声も少なくありません。こうした状況に対して、何らかの対策を講じることには一定の意義があるでしょう。
【関連記事】>>話題の「晴海フラッグ」、なぜこんなに盛り上がっているのか? 転売ヤーからでも買うべきか?
「ローカル億ション」が売れている現象
今回の「タワマン空室税」は神戸市が起点となりましたが、全国の地方都市でタワーマンションや高級物件が供給されていることにも驚かされます。
LIFULLが発表した「LIFULL HOME'S 2025年トレンド」では、2025年の注目トレンドとして「ローカル億ション」という言葉が紹介されています。
地方都市でも億を超えるような高級マンションが売れ始めているという現象で、2020年には47都道府県中18県でしか確認されていなかった億ションが、2024年には37都道府県まで増え、億ションがない県の方が珍しい状況になっています。

地方で億を超えるマンションが売れる理由について、LIFULLのレポートでは富裕層やパワーカップル、DINKSの増加、インバウンド需要などをあげています。
ただ、一般的に考えて地方都市のマンション購入が経済的に合理的かといわれると疑問です。資産性という観点では、人口増加と不動産価格の上昇には相関関係があるからです。
人口が減少に転じている地方都市であってもなお、高額な物件が売れるのは、その地域の有力者や名士と呼ばれるような人々が、ステータスや相続対策などを目的に購入しているのでしょうか。地方のごく限られた好立地に商機を見出し、億ションを企画し販売するデベロッパーにはあっぱれと言うほかありません。
「住まい」としてのマンションに立ち返る
不動産業は本来、地域に根ざした産業です。特に都市部では、不動産業は地場産業として、そこに住んでいる人たちのためにあるはずです。ところが、住むための不動産という本来の姿から離れ、お金を増やすための投資商品や節税という側面が強くなっています。
街のインフラ整備は税金で行われ、その恩恵を受けて利便性の高い立地に建てられたマンションが、投資・節税目的で購入され、空室のまま放置される状態となれば問題です。タワマンや高級物件と呼ばれる不動産も、本来の住まいという基本的な前提に立ち返って、その在り方を考え直すタイミングなのかもしれません。