首都圏の中古一戸建てがかつてない勢いで売れている。新築に比べて安い、広いなどの優位性があるからだろうが、コロナ禍にもかかわらずこんなに好調なのは、それだけではなかなか説明がつきにくい。その背景にはどんな事情があるのだろうか。(住宅ジャーナリスト・山下和之)
2021年4月、首都圏の中古一戸建て成約件数は前年同月比で約2倍!
東日本不動産流通機構(東日本レインズ)によると、2021年4月の首都圏中古一戸建ての成約件数は1347件だった。図表1を見れば分かるように、2020年4月はコロナ禍の影響で成約件数が686件まで減少していただけに、前年同月比では実に98.1%の増加と、ほぼ2倍に増えたことになる。首都圏の前年同月比の増加は、2020年7月以来、10カ月連続だ。
しかも、2021年4月の1347件という成約件数は、調査に当たっている東日本レインズが1990年5月に設立されて以来、4月としては過去最高の成約件数になる。この月単位での過去最高記録は、2020年に入って以来4カ月連続であり、首都圏中古一戸建て市場が盛況を極めていることを示している。
実際、不動産仲介市場の現場からは、「売り物件が出ればすぐに客がつく状態なのに、物件が出てこなくて困っている」「どこも物件探しに躍起になっている」という声が聞かれるほどだ。
図表1 首都圏中古一戸建ての成約件数と前年同月比の推移
成約価格は、前年同月比で約25%も上昇
好調な市場を反映して、成約価格も上昇を続けている。図表2をご覧いただきたい。首都圏の中古一戸建ての成約価格は、2020年4月には2722万円だったものが、2021年4月には3406万円に上がっている。前年同月比の上昇率は24.8%に達する。
図表2 首都圏中古一戸建ての成約価格と前年同月比の推移
もちろん、2020年4月はコロナ禍で成約件数が減少、価格も下落していた時期だから、大幅な上昇も当然といえば当然なのだが、2020年1月は3100万円、2月は3169万円。つまり、コロナ禍以前の水準と比べても大きく上回っていることが分かる。
この中古市場の好調さは、一戸建てだけではなくマンションも同様だが、一戸建ての上昇率がひときわ高くなっている。そのため、先高観から、「まだ上がるのではないか、いま売っては損、もう少し待ったほうがいい」と、売り惜しみ傾向もみられ、それが物件不足につながり、さらなる値上がりを呼んでいる面もありそうだ。
コロナ禍でマイホーム取得意欲が高まったという人も
この値上がりの背景には、実はコロナ禍が影響しているのではないかという見方もある。
コロナ禍で生活の先行き不透明感が高まり、収入が減少したり、仕事を失ったりして、マイホームどころではないという人が少なくない。一方、コロナ禍でむしろ住宅取得意欲が高まったという人もいるのだ。
リクルートが2020年9月から12月にかけて実施した、「『住宅購入・建築検討者』調査 (2020年)」によると、「コロナ禍で住まいの検討を中止した」など、マイホーム取得意欲がコロナ禍により「抑制」されたという人が27%に達している。その半面、むしろ住まい探しの後押し要因になったなど、コロナ禍で取得意欲が「促進」されたという人も21%に達している。
在宅勤務の増加、外出自粛といった生活の変化などに対応して、住まいへのニーズが変化した。それがマイホーム取得を促進、なかでも中古一戸建てへの関心を高める要因になっているのではないかと推測されるのだ。
家族の将来や住まいについて考える時間が増加
しかも、コロナ禍で在宅時間が長くなっているので、家族や住まいの将来について考える時間が増え、それが住宅ニーズを高めているという面もあるだろう。コロナ禍で、自分たちの将来はどうあるべきなのか、そのためにはどんな住まいが必要なのかと考えるようになったわけだ。
そうしたなかで浮かび上がってきた住宅ニーズで主なものを挙げると、次のような点に集約できるのではないだろうか。
- ①在宅ワークに集中できるワークスペースが欲しい
- ②家族全員がそれぞれゆったりと過ごせる空間が欲しい
- ③家で子どもたちが多少騒いでも、近所迷惑にならない住まいが欲しい
- ④ウイルスを気にせず安全・安心に過ごせる住まいが欲しい
- ⑤コロナ禍で先行き不透明なので、できるだけ安い住宅にしたい
中古一戸建てなら、新築より格段に安く手に入る
これらのさまざまな要素を充足できるのが、一戸建て、それも中古の一戸建てということになるのではないだろうか。
たとえば、価格面、資金計画面で無理をしたくないという点からいえば、中古一戸建てには新築に比べて価格が安いというメリットがある。図表3にあるように、2021年4月の一戸建て成約価格をみても、新築が3956万円に対して、中古は3406万円で500万円以上の差がある。
図表3 首都圏一戸建ての成約価格の推移
しかも、この東日本レインズの新築住宅のデータは、仲介市場で取引されている大量生産・大量販売による低価格を売り物にしている物件が中心で、大手不動産や大手住宅メーカーなどが手がける比較的規模の大きい新築一戸建ては含まれていない。
規模の大きい一戸建ては平均でも5000万円台以上と格段に高くなるので、中古一戸建てとの価格差はいっそう大きくなる。
中古一戸建てなら価格が安い分、少ない自己資金、少ない住宅ローン負担で取得できるので、コロナ禍の不安な時期でもある程度安心して購入できるというメリットがある。
中古一戸建てなら、コロナ禍のさまざまな住宅ニーズにも対応しやすくなる
中古一戸建ては価格が安い上に、面積が広いという特徴がある。図表4にあるように、2021年4月の成約物件の床面積は新築が97㎡台に対して、中古は105㎡台で、中古のほうが8.25㎡広くなっている。
1畳1.62㎡とすれば、約5畳分広い住まいを手に入れることができる計算。5畳あれば、たとえばワークスペースの確保など、コロナ禍で発生したニーズに対応しやすい。
図表4 首都圏一戸建ての成約物件の床面積の推移
床面積だけではなく、土地面積に関しても中古のほうが広いので、建築基準法などを遵守する範囲で増築したり、別棟を建てたりできるかもしれない。また、広い庭があれば、外出しにくい環境なのでガーデニングを楽しんだり、バーベキューを楽しんだりもできるだろう。
隣近所の騒音問題にしても、住まいが独立している一戸建てなら、子どもが多少騒いでもさほど気にする必要はない。マンションなら両隣だけではなく、上下階も気にしなければならないので、その点でも一戸建てには安心感がある。
マンションより一戸建てという人が増えている
実際、リクルートの調査によると、長引くコロナ禍で住まいに対する考え方にも変化が生じていることが明らかになっている。
マイホーム取得に当たっては、集合住宅(マンション)か一戸建てかと迷う人が多いが、その検討において、図表5にあるように、「ぜったい一戸建て」「どちらかといえば一戸建て」という割合が、2019年には59%だったのが、2020年には60%に増加。反対に「ぜったい集合住宅」「どちらかといえば集合住宅」の合計は28%から25%に減少している。なかでも、東海エリア、関西エリアでその傾向が強い。
図表5 マイホームは一戸建てか集合住宅どっちがいい?
それも、価格が安くて広い住まいを手に入れられる中古一戸建てを希望する人が増えている。図表6にあるように、2019年と2020年を比較した場合、新築一戸建てや新築マンションを検討する割合は減っているのに対して、中古一戸建て、中古マンションは増えていて、なかでも中古一戸建てのポイントが高くなっている。
図表6 検討種別の2020年〜2019年の差分ポイント
中古一戸建ての人気は、ポストコロナでも続くのか?
こうした変化は、コロナ禍の一過性に終わる可能性もあるが、ワクチンや治療薬で新型コロナウイルス感染症を抑え込むことに成功したとしても、ニューノーマルの考え方は当分継続されることになるのではないだろうか。
いきなりマスクをはずして通勤したり、飲食を楽しんだりできるようになるわけではないだろうし、ポストコロナでも一定の割合で在宅ワークが継続される可能性が高い。
そう考えると、現在の中古一戸建て人気は、まだしばらくは続くことになるのではないだろうか。
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