注文住宅を建てる際、まずは住宅展示場に足を運んで情報収集するという人が多い。その住宅展示場にも、複数の会社が出展する「総合住宅展示場」、ひとつの会社が複数のモデルハウスを出展する「単独展示場」などがある。それぞれどんなメリットがあるのかを理解した上で、有効かつ効率的に情報収集したいものだ。(住宅ジャーナリスト・山下和之)
注文住宅の情報収集は住宅展示場が主役
住宅に関する情報収集といえば、かつてはリクルートなどが発行する紙のメディアである情報誌が中心だったが、この10年、20年ほどの間に、すっかりインターネットが主役になった。
無料かつ、いつでもどこでも情報を入手できる利便性から、紙媒体はあっという間に駆逐され、フリーペーパーはかろうじて存在するものの、有料の情報誌はほとんど絶滅してしまったといっても過言ではないだろう。
国土交通省が実施している「住宅市場動向調査」の最新版である令和4年度版をみると、取得した住宅の形態別の情報収集の方法は、全国で図表1のようになっている。
図表1 取得した住宅形態別の施工者・物件に関する情報収集の方法
分譲戸建住宅(建売住宅)、分譲集合住宅(新築マンション)、既存(中古)戸建住宅、既存集合住宅(中古マンション)のいずれでも、情報収集のトップはインターネットで、他のメディアに大きな差をつけている。
そのなかで、唯一の例外が注文住宅。インターネットも41.6%あるものの、それよりは住宅展示場が47.2%と上回り、トップに挙がっているのだ。
住宅展示場で、住宅メーカーの信頼性をチェックする
戸建住宅でも建売住宅なら、多くの場合、建物が完成してから販売されるので、実物を見ながら検討できるが、注文住宅はそうはいかない。どこに建てるのか場所は決まっているにしても、建物はどんなものを建てるのか、モデルハウスを見ながら検討するしかない。
だからこそ、どの住宅メーカーや工務店に建ててもらうのか、依頼先の信頼性のチェックが極めて重要になってくる。そのためにも、実際に住宅展示場を訪問して、どんな会社なのか、どんな家を建ててくれるのか、信頼性を確認する必要があるだろう。
取得した住宅の決定理由を見ると、図表2にあるように建売住宅、新築マンション、中古戸建住宅、中古マンションなどでは、住宅の立地環境、価格、デザインなどの項目が上位に挙がっているが、注文住宅では、「信頼できる住宅メーカー/不動産業者だったから」がトップに挙がっているのだ。
図表2 取得した住宅形態別の住宅の決定理由
注文住宅では、物件の内容とともに会社の見極めが大切であり、そのためには、住宅展示場で実際にその会社のモデルハウスに触れ、担当者を通して会社の信頼性を確認しておく必要があるということではないだろうか。
住宅展示場には3つのパターンがある
ひとくちに住宅展示場といっても、大きくは3つの種類があり、以下にあるような特徴があるので、それぞれの特徴を理解した上で、上手に活用したい。
・複数の住宅メーカー、ビルダーのモデルハウスが立っている
・1カ所で工法、商品タイプなどが異なる住まいを見て比較検討できる
・他社と競うので大型で高額物件のモデルハウスになりやすい
・1社で同じ場所に異なる複数のモデルハウスを建設する
・ひとつの会社の商品を比較検討できる
・住宅メーカー、ビルダーなどの経営姿勢、考え方などがわかりやすい
・既存の街中にモデルハウスを1棟建てて展示場とする
・一定期間モデルハウスとして使ってから建売住宅として販売する
・リアルサイズのモデルハウスが多い
まず、最も多くの人が利用しているのが、「総合住宅展示場」だろう。一定の広さを確保して、最低でも10棟程度から、多い場合には40棟、50棟のモデルハウスが立っている展示場だ。
出展の中心は、ダイワハウス、積水ハウス、住友林業などの大手住宅メーカーだが、最近はアイダ設計、アキュラホーム、アイ工務店などの中堅ビルダーの出展も増えている。
そのほか、それぞれの地元を中心に活動している地域密着型の中小工務店も地元の展示場に出展していることが多い。
総合住宅展示場は、注文住宅の建築を考えている人からみれば、大手メーカー、中堅ビルダー、地元工務店まで幅広くチェックできるのが最大のメリット。たいていは事前の予約が必要だが、1日に何軒かのモデルハウスを見学できるので、比較検討が可能で、効率的に見学できる。
「総合住宅展示場」のメリット
総合住宅展示場の主なメリットは以下の通りだ。
工法の違いを比較検討できる
戸建住宅には、大きく分けると、日本の在来工法である木造軸組工法、主な部材を工場で生産するプレハブ工法、欧米の在来工法である2×4(ツーバイフォー)工法などの違いがあり、構造的には木造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造などの違いがあるが、「総合住宅展示場」であれば、それらの違いを比較検討できるメリットもある。
工法、構造などが違えば、外観デザインなども違ってくるので、理解が進むのではないだろうか。複数のモデルハウスを見ることで、知識を深めることができる。
価格による外観や設備の違いがわかる
また、価格的にみても、ダイワハウス、積水ハウスなどの大手の注文住宅は、1棟平均の単価が4000万円を超えるのがふつうだが、中堅ビルダーだと2000万円から3000万円が多く、中小の工務店になると2000万円を切るケースもある。
価格帯が違えば、外観デザインから主要部材、住宅の設備も大きくグレードが異なってくる。キッチンひとつとっても、数十万円のセットから数百万円までさまざまだから、そうした違いもみてとれるだろう。
「単独展示場」のメリット
単独展示場のメリットは、同じ会社のモデルハウスを複数チェックできる点だ。
最近は、何社もの会社が出展するのではなく、ひとつの会社だけで複数のモデルハウスを建てる1社による「単独展示場」が増えつつある。
埼玉県などの首都圏を中心とするポラスグループがそうだし、関西からスタートして、いまや全国的に市場を拡大しているアイ工務店などが各地に、単独展示場を展開している。
さらに、つい最近もアイフルホームが青森に2棟の展示場を開設したというニュースもあった。その先駆けとなったのがポラスグループ。「体感すまいパーク」としてグループの4つの主要ブランドのモデルハウスを1か所に建設、自社の物件を同時に比較検討できるようにしている。
2023年11月現在、千葉県船橋市、千葉県柏市、埼玉県さいたま市、埼玉県越谷市、埼玉県朝霞市の5カ所に展開している。一部の建物については、無料で宿泊体験もできるようになっている。
ある程度情報収集が進んで、この会社に依頼したいという考えがまとまってきた人にとっては、実際にどの物件にするのか最終決定する前の確認に好都合ではないだろうか。
「まちかど展示場」のメリット
ただ、そうはいっても、総合住宅展示場や単独展示場は、敷地面積が150平方メートルから200平方メートルあって、延べ床面積も広めのモデルハウスが中心で、イメージアップを図るため、仕様・設備もグレードの高い物件が多い。
特に総合住宅展示場では、他社との差別化を図るため、最上級モデルを建設するのがふつうで、同じような家を建てるとなると1億円を超えてしまうといった例が少なくない。一般の会社員にとっては、現実離れしたモデルハウスが多いわけだ。
それに対して、実際に多くの人が建設するような「リアル」なサイズの家を見学できるのが「まちがと展示場」のメリットだ。
既存の市街地のなかの100㎡から150㎡程度の敷地に、延べ床面積100㎡程度のモデルハウスを建てる。まわりの街並みに合致したグレード、デザインなどを採用し、予算も抑え気味になっていて、多くの人にとっては馴染みやすいモデルハウスとなる。
どんな場所に、どのグレードの注文住宅を建てたいのかが決まっていて、それに合致するようなまちかど展示場があれば、リアルサイズとしてたいへん参考になるはずだ。
通常はモデルハウスとして1年程度使用したあと、分譲住宅として通常の建売住宅よりは若干安くして販売するケースが多い。
展示場がない工務店の場合は?
なお、地元密着型の工務店など、住宅展示場で公開していない会社も多い。そのような場合は、実際にその工務店で建てた施主の家を見学させてもらうのも手だ。工務店と施主が良好な関係を築けているなら、施主も快く許可してくれるだろう。まずは、工務店に相談してみることをおすすめする。
住宅展示場は情報収集の段階に応じて使い分ける
これから情報収集を始める段階であれば、総合住宅展示場からスタートするのが無難だろうし、ある程度絞られてきたら単独展示場がいいかもしれない。
また、より自分たちが実際に建てるだろうサイズに近いものを見るなら、まちかど展示場を探してみてもいいだろう。
それぞれの段階、ニーズに合わせて、見学先を使い分けるのが注文住宅選びの成功への近道になるはずだ。
【関連記事】>>住宅展示場見学のコツとチェックポイントとは? コロナ禍でオンラインのモデルハウス見学も可能!
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