参入する企業や利用するユーザーが増えている不動産投資クラウドファンディング。投資家は、何に注意してこのサービスの利点を生かしていくべきなのか。今回、不動産クラウドファンディングサービス「CREAL」を運営し、不動産クラウドファンディング協会の代表理事も務めるクリアル社(東京都港区)の横田大造社長にインタビューし、不動産クラウドファンディングの基礎から投資リスクの見極め方、業界の現状と今後の展望まで幅広く話を聞いた。
不動産クラウドファンディングは1万円から投資可能
ーー昨今、不動産投資クラウドファンディングが色々な観点から注目されていますが、改めてどんな仕組みの投資と考えればよいでしょうか。
横田:不動産投資クラウドファンディングは、インターネットを通じて広く資金を募り、それを元に不動産を購入して運用するファンドです。従来の不動産投資と比べて、少額から始められる点が大きな特徴です。
具体的には、我々のような運営会社が魅力的な不動産物件を見つけ、それをファンド化します。投資家の皆さまはそのファンドに投資することで、間接的に不動産投資に参加することができます。
ーー従来の不動産投資と比べて、どのような違いがありますか。
横田:最も大きな違いは、投資金額のハードルの低さです。従来の不動産投資では、一棟のマンションや商業ビルを購入するため、数千万円から数億円という大きな資金が必要でした。
それに対し、クラウドファンディングでは、会社によって最低金額は異なりますが、1万円という少額から参加できます。
また、物件の管理や賃貸の手続きなど、煩雑な作業を全て我々プロが行います。投資家の皆さまは、手軽に不動産投資ができるわけです。
ーーREIT(リート:不動産投資信託)との違いは何でしょうか。
横田:各サービスによって違いがありますが、「CREAL」に限って言えば、REITとの主な違いは3つあります。
1つ目は、投資単位です。REITは通常、証券取引所で株式のように取引され、1口当たりの価格が数万円から数十万円になることもあります。それに対し、「CREAL」は1万円から投資可能です。
2つ目は、元本に対する安定性です。REITの持分は、株式同様に公開市場で売買が可能なことから株式市場の影響を受けやすく、価格が大きく変動することがあります。
一方、「CREAL」の場合、株式市場とは異なり、その評価は原則として不動産鑑定評価に基づくことから、対象物件が生み出す賃料等によるキャッシュフローが重要な要素となります。そのため、着実な収益を生み出す物件の価格は、比較的安定しています。
3つ目は、情報の分かりやすさです。REITは複数の運用物件を含むため、個々の物件の詳細を把握するのが難しいことがあります。一方、「CREAL」は1ファンド1物件で、その物件の詳細な情報を提供しています。
ユーザーの中心は、30代~50代の現役世代
ーー国内における不動産クラウドファンディング業界の現状は、どうなっていますか。
横田: 不動産クラウドファンディング市場は、急速に成長しています。昨年の段階で約70社が参入しており、現在も増え続けています。また、一人あたりの投資金額も年々増加していて、特に、30代から50代の現役世代の方々を中心に人気が高まっています。比較的、高年齢の個人投資家や機関投資家が多いREITなどと比べて、全体的にかなり若い個人の方に注目されているといえるでしょう。
女性の投資家も増えていますね。「CREAL」の投資家数は現在7万5000人ほどいますが、約3割が女性です。REITでは女性投資家は10%もいないといわれていますので、女性が多いのも不動産クラウドファンディングの特徴です。こういう点で、従来のREITではカバーしきれない投資家の多様な不動産投資ニーズの受け口となっているかもしれません。
一方で、不動産クラウドファンディング業界には、新たな懸念も生じてきています。例えば、高い利回りや、やや過激な文言で投資家の注目を集めようとする企業が今後出てくる可能性も否めません。
こうした企業の案件に出資してトラブルが発生すれば、業界の健全な発展を阻害してしまうでしょう。対策として、私が代表理事を務める不動産クラウドファンディング協会という業界団体では、業界ルールやガイドラインの策定などを進めているところです。
ーー今お話いただいたことは、2024年6月、1000億円以上の資金を集めた「みんなで大家さん」が行政処分を受けたことにも通ずるところがあると思います。この件に関して投資家はどう捉えるとよいでしょうか。
横田:「みんなで大家さん」の件では、対象不動産の建設計画の変更があったにも関わらず、その説明を投資家の皆さまに十分にしていなかったことや、書類の記載ミスのほか契約手続上の過誤が指摘されたと聞いています。
投資する側は、魅力的な文言や高い利回りに惹かれてしまいがちですが、開示情報をしっかりと精査し、案件のリスクを理解したうえで冷静に判断することが重要です。
この件があって、当社内でも今一度、正確かつ透明性の高い情報開示の徹底について話しました。投資家の方々も改めて慎重にご判断いただく機会にしていただければと思っています。
リターンが高ければ、リスクも高くなるのが投資の大原則
ーー注意すべき投資案件も一部あるといえる不動産クラウドファンディングですが、メリットはどういう点にあるでしょうか。
横田:不動産投資クラウドファンディングの最大の魅力は、「手軽さ」と「プロ並みの運用」が両立できる点です。
従来の不動産投資では、物件の選定から購入、そして管理まで全て自分で行う必要がありました。これは非常に時間と労力のかかる作業です。また、大きな資金も必要でした。
一方、不動産投資クラウドファンディングでは、少額から始められ、かつプロが全ての運用を行ってくれます。
つまり、これまで敷居の高かった不動産投資の門戸を広く一般個人投資家へ開放し、株式投資のように日常的な投資の選択肢として不動産を提供しているのです。
また、不動産投資は、ミドルリスク・ミドルリターンの特性を持つ商品です。株式ほどボラティリティ(価格変動性)は高くありませんが、債券よりは高いリターンが期待できます。そのため、ポートフォリオ(資産の組み合わせ)の分散効果を高める上でも有効です。
一方で、投資には必ずリスクが伴います。不動産価格の下落、賃料収入の減少、予期せぬ修繕費用の発生など、さまざまなリスクがあります。そのため、十分に理解した上で、慎重に始めていただきたいと思います。
ーー不動産投資クラウドファンディングを始めようと考えている初心者の方へのアドバイスはありますか。
横田:まず、身近な地域の物件から始めることをおすすめします。自分がよく知っている場所の物件なら、その価値を判断しやすいでしょう。例えば、「あの駅前のビルか。確かにあの辺りはにぎわっているな」といった具合に、自分の実感と照らし合わせながら投資を検討するのがよいと思います。
次に、リスクとリターンのバランスに注意を払ってください。繰り返しになりますが、リターンが高すぎる案件は、それだけリスクも高い可能性があります。初心者の方は、まずは安定した案件から始めるのが賢明です。
物件の立地、稼働率(テナントの入居状況)、開発案件かどうかなども重要なポイントです。特に初心者の方は、すでに完成して稼働している物件から始めるのがよいでしょう。何かをゼロから開発するような案件は、潜在的なリターンは高いかもしれませんが、それだけリスクも高くなります。
情報開示の程度にも注目してください。物件に関する様々な情報をきちんと開示している企業の商品を選ぶことで、投資判断の精度が上がります。
ーー他にも、初心者が事前に注意すべき点があれば、教えてください。
横田: まず、運用期間に注意してみてください。「CREAL」のファンド案件は、2年程度の短期のものが中心ですが、中には5年、7年といった長期の商品もあります。自分のニーズに合った期間の商品を選びましょう。
また、不動産クラウドファンディングは、中途解約が基本的にできないことも理解しておく必要があります。「CREAL」でも相続発生などのやむを得ない事情を除き、原則として中途解約はできません。そのため、運用期間中は資金が固定されると考えてください。他社が提供するものには解約可能な商品もありますが、基本的に解約できないケースが多いです。
配当金の税金についても理解しておく必要があります。匿名組合型(※)の不動産クラウドファンディングの配当金は、基本的に雑所得として総合課税の対象となります。つまり、他の所得と合算して課税されます。
最後に、これは投資全般に言えることですが、余裕資金での運用を心がけてください。生活に必要な資金を投資に回すのは危険です。あくまで余裕資金で始めることが重要です。
※匿名組合型…投資家と匿名組合契約を結んだ事業者が運用を行う。投資家は出資のみを行い、運用には関与しない。物件の所有権は事業者にあり、投資家は分配金を受け取る権利のみ持つ。不動産クラウドファンディングでは、この匿名組合型を採用しているケースが多い。
クリアルでは、機関投資家向けと同等の情報を開示
ーー数ある不動産投資クラウドファンディング運営会社の中でも、クリアルならではの特徴はどんな点にありますか。
横田:「CREAL」の最大の特徴は、情報開示へのこだわりです。不動産投資は従来、情報の非対称性が問題視されてきました。つまり、売り手と買い手の間で持っている情報に大きな差があった。そこで我々は、プロの機関投資家から求められるものと同レベルの情報を、個人投資家の方々にも提供することを心がけています。
例えば、物件の外観や内部、周辺環境を紹介する動画を用意しています。これは他社ではあまり見られない取り組みです。また、投資のポイントを豊富なイラストとともに解説したり、リスクについても詳細に説明したりしています。
さらに、投資家向けにさまざまなシナリオでのリターンシミュレーションも提供しています。例えば、物件の売却時の利回り(キャップレート)が予想より低かった場合、どの程度のリターンになるのか、最悪の場合どの程度の損失が出る可能性があるのかなどを、具体的な数字で示しています。
また、エンジニアリング・レポート(ER)という詳細な建物評価資料や、不動産鑑定士による調査報告書なども公開しています。
ーー動画や資料を作成するのは、かなり労力がかかりますね。そこまで詳細な情報を開示するのは、なぜでしょうか。
横田:我々の目標は、不動産投資を一般の方々にも広く普及させることです。日本では、個人の金融資産の大半が預金で運用されています。しかし、適切にリスク管理された不動産投資は、中長期的には預金よりも高いリターンが期待できます。
ただ、多くの方が不動産投資に二の足を踏む理由の一つが、情報不足による不安があるからだといえます。だからこそ、私たちは徹底的な情報開示によって、投資家の皆さまの不安を取り除き、安心して投資していただける環境を作りたいと考えています。
ーー他にも、クリアルならではの特徴はありますか。
横田:クリアルが意識しているのは、リスクとリターンのバランスです。ミドルリスク・ミドルリターンのファンドを中心に扱っていて、年利3%から5%程度の安定した運用を目指しています。
これは、投資家の皆さまの資産を守るという我々の理念に基づいたものです。確かに高リターンは魅力的です。しかし、それだけリスクも高くなります。我々は、適度なリターンを安定的に得られる商品をネット上で気軽に買えることが、多くの投資家の皆さまにとって本当に価値があると考えています。
こうした試みが支持されているのか、「CREAL」ではリピーターの方による投資率は約9割となっています。多くの方が投資したファンドが満期になっても、資金の引き出しをせず、そのまま新規ファンドに投資する流れが出来ていますね。
他には、良質で幅広い商品ラインアップを取りそろえていることです。我々の商品開発チームは、不動産ファンドでの勤務経験が豊富なメンバーで構成されており、多様化する投資家の皆さまのニーズに応える幅広い投資商品を提供しています。
不動産以外(船舶や飛行機)の投資も視野に
ーー最後に、業界の課題や今後の展望について聞かせてください。
横田: 業界の大きな課題の一つが、セカンダリーマーケット(流通市場)がないことです。投資家が途中で換金したい場合に、それを可能にする仕組みがまだありません。
これは業界全体で取り組むべき課題だと考えています。セカンダリーマーケットの創設には、関連省庁の認可などさまざまなハードルがありますが、実現すれば投資家の利便性が大きく向上するでしょう。
また、情報開示の標準化も重視しています。各社が異なる基準で情報を開示していては、投資家が正確な判断をするのが難しくなります。業界全体で、どのような情報をどのように開示するか、統一的なガイドラインを作る必要があると考えています。
クリアル自体の展望としては、不動産以外のオルタナティブ資産(代替資産)への投資も視野に入れています。例えば、船舶や飛行機、太陽光発電所などへの投資も将来的には可能になるかもしれません。
また、ホテルや物流施設、医療・高齢者施設などのヘルスケア施設といった、施設の運営の良し悪しによって物件の収益が大きく異なる「オペレーショナル・アセット」と呼ばれる分野にも大きな可能性を感じています。こういった分野も開拓できれば、投資家の皆さまにより多様な選択肢を提供できるようになるでしょう。
アクセンチュア、オリックス、ラサールインベストメントマネージメント、新生銀行を経て、2017年4月にクリアル代表取締役社長に就任。2022年、(一社)不動産テック協会理事就任。2023年、(一社)不動産特定共同事業者協議会理事就任。同年、(一社)不動産クラウドファンディング協会代表理事に就任。宅地建物取引士 、不動産証券化マスター
本社 | 東京都港区新橋二丁目12番11号 新橋27MTビル8階 |
資本金・上場の有無 | 12億4542万4950円・東証グロース市場上場 |
事業内容 | 資産運用プラットフォーム事業 不動産ファンドオンラインマーケット「CREAL(クリアル)」 個人向け不動産投資運用サービス「CREAL PB(クリアルピービー)」 機関投資家や超富裕層向けの資産運用サービス「CREAL PRO(クリアルプロ)」 |
売上高 | 210億4000万円(2024年3月期通期、連結) |
投資家数 | 約7万5000人(2024年6月時点) |
累計調達額 | 535億円(2024年6月時点) |
組成ファンド数 |
113(2024年6月時点) |
「不動産クラウドファンディング」サービス一覧 |
CREAL (クリアル) | |
ポイント | ・東証グロース上場企業が運営し、安定性がある ・投資対象の物件がバラエティー豊か ・新規案件数と口数が多く、応募しやすい |
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想定利回り |
4%~5%(直近10件、2024年6月時点) |
最低出資額 | 1万円 |
物件種別 | アパート・マンション、商業施設、オフィス、保育園、学校、宿泊施設など |
サービス開始 | 2018年 |
運営会社 | クリアル株式会社 |
COZUCHI(コヅチ) | |
ポイント | ・募集件数と口数が多く、初心者でも投資しやすい ・業界トップの累計調達額600億円超で、運用実績が豊富 ・途中解約が可能 |
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想定利回り |
4%~18%(直近10件、2024年6月時点) |
最低出資額 | 1万円 |
物件種別 | アパート・マンション、商業施設、オフィス |
サービス開始 | 2019年 |
運営会社 | LAETORI株式会社 |
利回り不動産 | |
ポイント | ・想定利回りが比較的高めの案件が多い ・運用期間が「半年」と短めの案件がメイン ・不動産開発会社が運営している |
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想定利回り |
5.3%~7.8%(直近10件、2024年6月時点) |
最低出資額 | 1万円 |
物件種別 | 戸建て、アパート・マンション |
サービス開始 | 2021年 |
運営会社 | 株式会社ワイズホールディングス |
TSON FUNDING | |
ポイント | ・新規案件数が多い ・対象不動産は戸建てやアパートがメイン ・全期間家賃保証などリスク低減の取り組みがある |
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想定利回り |
5.5%~5.8%(直近10件、2024年6月時点) |
最低出資額 | 10万円 |
物件種別 | 戸建て、アパート・マンション |
サービス開始 | 2020年 |
運営会社 | 株式会社TSON |
Rimple(リンプル) | |
ポイント | ・Rimple独自のポイントでも投資できる ・劣後出資割合は30%程度と高い ・想定利回りは低め |
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想定利回り |
2.7%~5.0%(直近10件、2024年6月時点) |
最低出資額 | 1万円 |
物件種別 | アパート・マンション |
サービス開始 | 2020年 |
運営会社 | 株式会社プロパティエージェント |