住宅ローン「フラット35」を使って不動産投資をする不正利用事件が2018年頃から次々と発覚したことで、住宅金融支援機構がチェック体制を強化している。不正利用を徹底して取り締まるため、最近は不動産投資が疑われる物件については訪問調査をおこまで行っているほか、事前審査も厳しくなっている。(フリージャーナリスト:福崎剛)
将来不安から、不動産投資のワナにはまる
住宅ローンはマイホームを購入するための金融商品だ。不動産投資用のローンに比べると金利が低く設定されている。そこで「自分で住む」と偽って投資用不動産を購入する不正が以前からあった。
特に事件化したケースとしては、シェアハウス「かぼちゃの馬車」事件を覚えている人も多いだろう。2018年に破綻した不動産会社・スマートデイズは、シェアハウスをサブリース付きで販売。「不動産投資をすると、毎月家賃収入があるので安心ですよ」と、投資家にささやいて販売していた。
その購入代金を融資していたのはスルガ銀行。融資を申し込む際に年収を証明する書類などを捏造(ねつぞう)したほか、銀行側も不正融資に加担していた。結局、オーナーのほとんどの人が1億円以上の融資を受けて投資したものの、返済不能となる投資家も多く、不動産投資とサブリースに潜むリスクがクローズアップされた。
実はこの頃、別の不動産販売会社や不動産ブローカーたちは、フラット35の住宅ローンを使った投資物件購入をすすめていた。金融支援機構が提供している「フラット35」は固定金利で、民間の住宅ローンに比べれば審査が甘いとも言われており、悪質な業者などからターゲットにされたのだ。
その手口はこうだ。将来に不安を抱えている人たちに新築・中古マンションの購入をすすめ、家賃収入が得られる堅実な不動産投資だと説得する。カードローンなどの借金がある場合は、「うまくすれば住宅ローンで借金をおまとめできます」などと説明する。利用するローンは、不動産投資用ローンに比べれば格段に金利が低い、住宅ローンの「フラット35」が使われた。
そんな甘い話は、詐欺であることを疑うべきだろう。ところが、まさか自分だけは巻き込まれないと誰もが思っているようだが、意外にも身近な人から不動産ブローカーを紹介されたり、中にはマッチングアプリで知り合った先で投資物件購入の話をすすめられた事例もある。
自宅訪問調査から不正が発覚
フラット35を使って投資用不動産を購入したことが判明したら、どうなるのか? 住宅ローンに詳しいファイナンシャルプランナーに興味深い話を聞いた。
「私の関わった案件で、30歳の男性会社員A氏から中古マンションを買いたいという相談がありました。1Kの中古マンションで、3000万円超えたくらいでした。独身だというし、何となく嫌な予感がしたんです。リフォーム代も含んでいたようですが割高な印象でした。フラット35をフルローンで使いたいというので、自分の居住物件としての購入なのかを何回も確認しました。『自分で住むため』とA氏が答えるので、フラット35の申込書類のアドバイスをし、審査も通り購入できたところまではよかったのです。それからしばらくして住宅金融支援機構から私のところにも問い合わせがあり、投資用物件の購入だったことが判明しました」
住宅金融支援機構は融資後に居住確認の調査をして、A氏が居住していないことを確認している。A氏は逃げようがなく、正直に投資用物件であることを認め、物件を斡旋した不動産会社からの指示だったと認めることになった。なお、投資セミナーを開催していた不動産会社にA氏が連絡を取ろうとしたときには、すでに連絡が不通となっていた。
そこで住宅金融支援機構側は、A氏に対し住宅ローン残額を一括返済するよう求めたのである。
「彼もある意味で不動産会社の被害者ですが、投資用とだましたことで加害者でもあるので当然でしょう」(住宅ローンに詳しいFP)
住宅金融支援機構は、居住確認のために現地まで調査しに来ることがあると説明している。当然、居住確認をすれば、賃貸に出していることはすぐにバレるだろう。
不正利用が発覚した場合、住宅ローン残額を一括返済しなければならない。多くは不正を行うことでフルローン状態となっており、そんな人は一括返済できるはずもない。売却して利益が出ればいいのだが、大抵は悪質な業者に高値づかみさせられているので、売却しようとしても負債が残る状態だ。不動産投資用ローンに借り換えるか、親戚から借りることができればラッキーだ。それがかなわなければ、競売して負債を抱えるか、最悪は自己破産に至ることになる。
住宅支援機構の2019年の調査で、162件の不正利用が判明。不正利用者は一括返済を迫られる事態になり、大きな負債を抱え自己破産者まで出している。さらに取扱金融機関にも厳しい指導を行い、損害賠償請求をする構えを見せている。
うっかり甘い不動産投資話に乗ったために、負債地獄へ転落することもある。不動産投資は常にリスクがあることを肝に銘じておくべきだろう。
フラット35の審査基準が厳格化
フラット35の不正利用が次々判明した結果、住宅金融支援機構ではフラット35を取り扱う金融機関に強い指導をして、不正防止を強化している。不正利用の審査を受け付けた金融機関に対しては損害賠償責任を問うという厳しい姿勢だ。そのため、フラット35を取り扱う各金融機関では、独自の審査基準を設けて厳しくしているという。
「金融機関によって内規のルールを設定しているようです。例えば、独身男性で1Kなどの物件購入は怪しいとされます。特に、頭金もなくフルローンで申し込むケースは、さらに怪しいと見なされます」(住宅ローンに詳しいFP)
一部の金融機関が独自に内規ルールを用いることで、投資用物件の購入に不正利用しにくくなっている。特に「独身男性」、「1K」、「頭金なし」の三拍子がそろうと、不動産投資の可能性があるとみなされて厳しくチェックされるという。
また、中古マンション購入の場合などは、過去に賃貸用として利用されていないかもチェックされる。分譲マンションで賃貸用物件が多いマンションについても、投資用物件の購入と判断されやすいため、審査は通りにくくなる。
「将来を考えてマイホームを購入しようと思ったとしても、50㎡前後の1Kだと投資用だろうと疑われます。結婚して子どもが生まれる可能性も考えれば、2LDK以上を検討するのが自然というロジックです。最近は、購入理由をかなり突っ込んで聞かれます。仮に結婚予定ですと言ったとしても金融機関側は、『婚約者の書類を出してくれ』とか、『一緒に債務者になることが前提となります』というところもあります」(住宅ローンに詳しいFP)
要するにフラット35を不正利用されないため、明文化されない暗黙のルールのようなものが各金融機関内で設けられ、審査が厳格化される傾向にあるという。
マッチングアプリの出会いでローン地獄に
悪質な業者はどうやって個人投資家を探しているのだろうか。
多いのが、ネット広告による集客だ。「節税になる」「老後の資産作成」などをうたい文句にセミナーを開催し、不動産投資をすすめるものだ。広告の段階では「不動産投資」とは説明せず、接触して初めて不動産投資であると説明する悪質な業者もいる。また、副業としての不動産投資が人気を博していることから、副業関連のイベントでの集客も多い。
さらには、マッチング(出会い系)アプリを利用した手口も散見される。簡単に概要を説明すると、婚活を考えていた女性がマッチングアプリで出会った男性にすすめられて投資用マンションを購入するというものだ。
住宅ローンは、本人または家族が住む家を購入するために借りるローンだ。利用目的よく理解せずに業者まかせで不動産投資をしてしまうと、トラブルに巻き込まれることがある。
【関連記事はこちら】>>フラット35の住宅ローン金利ランキング! メリット、手数料、おすすめの主要銀行を紹介
まとめ 不正利用に巻き込まれないために
住宅金融支援機構では、フラット35の不正利用を防ぐべく審査のチェックを厳しくするだけでなく、借り手に対する注意喚起を行っている。
フラット35を利用するときの注意点について確認しておこう。利用目的は、「本人(または家族)が居住する住宅取得」に限定されている。
次のような利用は認められないと事例を示している。
• 自らは居住するつもりがなく、投資目的で住宅を取得すること。
• 自動車の購入費用など住宅取得費以外の費用を上乗せして申し込むこと。
• 消費者ローンなどの返済に充てる費用を上乗せして申し込むこと(おまとめローン)。
※参考:住宅金融支援機構「【フラット35】の不正利用に巻き込まれないために」
不正利用の事例でも分かるように、不動産投資を持ちかけるのは不動産販売やブローカーだけではない。友人の知人やマッチングアプリの出会いをセールスにしている悪質な事業者らもいる。不正利用の犯罪に巻き込まれないよう、住宅ローンの内容は必ず自分自身で確認することだ。
重ねて、「不正な目的で融資を受けた認識がなかったとしても、融資を受けたのはお客さまであることから、お客さまが犯罪に巻き込まれ、責任を問われることになります」(住宅金融支援機構)としている。
もし不正が発覚した場合は、住宅金融支援機構は以下のように対応する。
(2)不正事案の警察への通報
(3)不正に関与した事業者の監督官庁への通報
(4)不正を行った者に対する損害賠償請求
(5)不正に関与した取扱金融機関に対する処分
※参考:住宅金融支援機構「【フラット35】の不正利用に巻き込まれないために」
もし、借入申込みの内容に虚偽があれば、融資の不正利用になるため詐欺行為になる。不正利用に巻き込まれないために、住宅ローンを申し込む際は自分自身で間違いがないか確認しておくことだ。
「だまされた!」と叫んでも、すべての責任は住宅ローンを不正利用した本人が問われるだけに、業者の甘い言葉に乗らないことが重要だ。