「目がチカチカする」「鼻水が止まらない」…。それはもしかしたらシックハウス症候群かもしれない。もしそうなら放っておいても治らない。シックハウス症候群は、原因を知り、適切な対策を講じることが必要だ。ここでは、シックハウス症候群を未然に防ぐ方法と万一発症した場合の対策をまとめた。
シックハウス症候群の原因と症状
シックハウス症候群とは、住宅建材、家具などから発生する化学物質やカビ、ダニといった空気汚染物質によって健康を害することだ。昨今は住宅の高気密・高断熱化が進み、ホルムアルデヒドなどの化学物質などによる室内の空気汚染が起こりやすくなっている。さらに湿気がこもりがちになり、カビやダニも繁殖しやすい住環境になってきている。そのため、何も対策をしないとシックハウス症候群になる可能性が高まっているのだ。
ただし、シックハウス症候群は、単一の症状を示す疾患ではなく、化学物質やカビ、ダニなど住宅内の空気汚染を原因とするさまざまな健康障害の総称だ。一般的な症状には次のようなものがある。
・鼻水が出る
・目がチカチカする、涙が出る
・のどの乾燥、痛み
・じんましん
・頭痛
・めまい
・吐き気
・倦怠感
中には上記のような症状が重篤化し、ほとんど寝たきりの生活を送らざるを得ないケースもある。一方で症状が発症するか否かは、個人差が大きく、たとえ症状に苦しむ人と同じ家に住んでいても、全く影響がない人もいる。
国は具体的な指針を発表し、注意を喚起!
われわれの健康を大きく損なうシックハウス症候群。国はそのことを理解しており、次のようなさまざまな取り組みを行っている。
・化学物質の室内濃度指針値を策定
厚生労働省では、ホルムアルデヒドなどの13種類の化学物質に対して下記の室内濃度指針値を定めている。これらは現状の科学的知見に基づき、一生涯暴露を受けたとしても健康に影響がないだろうと判断した値だ。ただし、前述のように影響の有無には個人差がある。そのため、これらの値はあくまで指針であって、守ることが義務化されている訳ではない。
出典:住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住宅づくりのためのシックハウス対策ノート」
・内装仕上げ材について、制限を設定
政府は2003年に建築基準法を改定し、シックハウス対策に乗り出した。
建物の内装材仕上げ材については、「JIS、JASにおけるホルムアルデヒドの等級制度」を設けた。
JISとは「日本産業規格」の略。JASは、「日本農林規格」のことだ。これは日本の産業製品の規格や測定法などが定められた国家規格だ。
JISでは、ホルムアルデヒドが飛散する製品に対して、その発散量を下の図のように星の数で表す基準を設けている。星の数は1つから4つまであり、F☆☆☆☆(エフ・フォースター)がもっとも発散量が少ない。
ホルムアルデヒドの発散が多い建築材料については、使用が禁止された。また、発散量が多めの建材については、使用面積が制限されている。
・24時間換気設備の義務付け
ホルムアルデヒドに関しては、上の図のように飛散する建材の使用面積が制限されたが、飛散する建材を使用しない場合でも、家具からの飛散が考えられるため、原則としてすべての建築物に「機械換気設備の設置」が義務付けられた。
住宅の場合、換気回数は0.5回/時間以上の機械換気が必要だ。これは1時間当たり、部屋の空気の半分を入れ替えるということだ。
せっかく24時間換気システムを入れていても、「24時間換気システムの音がうるさい」などといって、換気システムを止めてしまっている家は意外と多い。シックハウス症候群の原因になることもあるので、気を付けよう。
・天井裏などからのホルムアルデヒド流入を制限
天井裏、床下、壁内、収納スペースなどから居室へのホルムアルデヒドの流入を防ぐことも義務付けられた。対策としては、①天井裏などにはF☆☆☆☆、F☆☆☆の建材しか使わない、②通気止めなどの対策をすることで、居室と完全に区分けする、③天井裏なども喚起する、のいずれかの対策が必要となった。
・クロルピリホスについては使用を禁止
従来、シロアリ駆除剤などに用いられていたクロルピリホスは、居室がある建築物には使用禁止となっている。
・住宅性能表示制度の創設
住宅性能表示制度とは、耐震性や省エネ性などの住宅性能を国が定めた基準で評価・表示する制度だ。この中で内装材のホルムアルデヒド発散量を等級(1~3)で表示する項目がある。これは下記のようにJIS規格と連携しており、等級が高いほど、ホルムアルデヒドの発散量が少ない住宅となる。
等級3:ホルムアルデヒドの発散量が極めて少ない(JIS又はJASの☆☆☆☆等級相当以上)
等級2:ホルムアルデヒドの発散量が少ない(JIS又はJASの☆☆☆等級相当以上
等級1:その他(天井裏等にあっては「-」と表示されます)
試してみれば効果が分かる、9つの対策
このように政府は、さまざまなシックハウス症候群への対策を講じている。しかし、繰り返すがシックハウス症候群になるか否かは、個人差が大きい。いくら国で対策を徹底しても、全ての人が絶対にシックハウス症候群にならない状態にはならないだろう。また化学物質は、建材や家具以外にも洗剤や家電、衣類などからも飛散するし、カビやダニといった日々増殖する生物もシックハウス症候群の原因となる。従って、国の制度に頼るだけでなく、個人としても以下のような方法でシックハウス症候群を予防することが重要だ。
1.できる限り化学物質が飛散しない建材を使用する
住宅を新築またはリフォームする際は、できる限りホルムアルデヒドなどの化学物質が飛散しない建材を使用することが大切だ。ハウスメーカーに依頼する場合は、シックハウス症候群対策を意識した建材を取り入れているかを確認したい。
比較的飛散しないと言われているのが自然素材だ。たとえば、無垢材の柱や梁で建築し、床材も無垢フローリングにする、内壁は珪藻土や漆喰を塗る、などが考えられる。壁紙の接着剤にはホルムアルデヒドなど人体に悪影響のある化学物質が使われることが多いため、できるだけ避けたいところだ。また、工業製品でも壁材の「エコカラット」(LIXIL)のように化学物質を吸着し、空気環境をよくするものもある。
2.化学物質を吸着する建材を使う
ホルムアルデヒドなどの化学物質を吸着、分解する機能があると考えられる建材は以下の通りだ。ただし、製品によって効能は違うので、各社の試験結果などをよく読みこみたい。
・多孔質塗壁材=珪藻土、ゼオライト、ホタテ貝殻粉末、シラスなどを原料とする塗料など
・壁材=多孔質セラミックタイル、天然ゼオライトボード、珪藻頁岩セラミックスボード、化学薬剤含有石膏ボードなど
・天井材=化学薬剤含有ロックウール天井板など
・床材=備長炭入り畳、化学薬剤含有カーペットなど
・設備系=空気清浄機能付き換気扇、空気清浄機能付きエアコンなど等
中でも、樹皮やモミ型を炭化させてボード状に固めた「炭ボード」「くん炭ボード」は石膏ボードなどに比べると、化学物質の吸着性能が高く、その性能を維持し続けるという結果が出ている。調湿性能も高く、こだわりたいという人には選択肢の一つとなるだろう。
また、ホルムアルデヒドなどの化学物質を吸収、分解してくれるスプレーなどのグッズも市販されている。
3.換気・通風を徹底する
室内の化学物質を取り除くため、換気・通風を徹底することが重要だ。
もし、24時間換気システムがあるのであれば、換気モードを「強」などに設定することで換気量を増やせる。24時間換気とは別に、トイレや浴室台所などの局所換気設備がある場合は、それも連動させるといいだろう。
また、古い住宅の場合、室内の通風が考慮されていない場合が多いので、空気がこもりがちだ。換気計画を見直して、換気扇を設置したり、室内のドアに通気のためのアンダーカットを設けたりする必要があるだろう。
4.新品の家具は、しばらく引き出しを開けておく
家具に関しては、商品によってF☆☆☆☆のものもある。できればこのような商品を選びたい。また、家具を新品で購入した際は、しばらく引き出しを開けておくことでホルムアルデヒドなどの化学物質を発散させることができる。その際は、換気を十分に行うこと。
5.ニオイのきつい柔軟剤の使用は避ける
柔軟剤の中には香りが長く留まるようにフタル酸エステル類が利用されていることがある。この室内濃度が高くなるとシックハウス症候群を引き起こす場合もあるので、過度な使用は避けたいところだ。
6.室内をこまめに水拭きする
フタル酸エステル類は、ハウスダスト(家のホコリ)に吸着する。また、ダニは糞や死体がシックハウス症候群の原因(ダニアレルゲン)になるので、室内はこまめに水拭きしてそれらを除去する必要がある。
7.ペットを飼う前に病院でペットアレルギーの有無を調べる
犬、猫、ハムスターなどのペットが喘息などのアレルギー症状を引き起こすこともある。
そのため、これらのペットを飼う際は、事前に病院で特定の動物に対してアレルギー反応がないか調べるといいだろう。
8.空気清浄機を利用する
ストーブなどから発生するPM2.5のような粒子状のアレルゲンには、高性能集じんフィルター(HEPA)を利用した空気清浄機が有効だ。家電量販店などで多数の商品を展示しているので、調べてみるといいだろう。
ただし、シックハウス症候群の原因がクロルピリホスといったVOC(揮発性有機化合物)などガス状の物質の場合は、あまり効果がない。
9.エアコン内部を乾燥させる
エアコンの内部は湿気によってカビが発生する。この状態で使用すればエアコンの風によってカビを拡散してしまうだろう。対策としては、冷房停止後に一定時間送風運転にして内部を乾燥させることが有効だ。最近のエアコンは、自動的に乾燥させる機能が付いたものも多い。
もちろん、定期的なフィルターの清掃も忘れないようにしたい。
相談窓口はどこにあるのか?
シックハウス症候群は、素人にとって風邪や花粉症との違いが分かりにくかったり、原因物質が特定しにくかったりする場合が多い。やみくもに市販の風邪薬を飲み続けて、いっこうに完治しないということもあるだろう。そのため、もしシックハウス症候群の疑いがあるのなら、専門機関へ相談するのが得策だ。私たちに身近な専門機関としては主に次のような施設がある。
・保健センター
各市町村には、保健センターが設置されている。ここでは保健師などの専門家が常駐し、住民に対する健康相談を受け付けている。
・保健所
保健所は、都道府県、政令指定都市、中核都市などに設置されている公的機関だ。この機関は、地域保健法第6条第4号によって、シックハウス症候群への相談業務が位置付けられている。
・衛生研究所
都道府県や政令市には衛生研究所が設置されている。ここでは地域の保健衛生のための調査研究、試験検査、研修指導などが行われている。この機関の中には、VOC(揮発性有機化合物)測定の専門家がいる場合もある。事前に連絡をしてシックハウス症候群の相談に応じてくれるか確認してみよう。
まとめ
以上が、シックハウス症候群の症状、政府による対策、そして自分でできる対策だ。住宅の高気密・高断熱化が進んだことで、こうした症状が出やすくなっているので、きちんと対策することで、シックハウス症候群を未然に防ぎ、発症してもすぐに改善させたいところだ。住宅を建てる場合にも、シックハウス対策を充分に考える必要がある。
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