大家さんからはまだまだ接点の薄い塗装などの業者さん。ペイント先生こと原島信一さんはもっと距離を縮めることでコスト削減やよりよい提案を行ないたいという。今回は、紆余曲折の末に家業を継いだ経緯、有名人とのお付き合い、そして最近力を入れていることなどを赤裸々に語ってもらった。
[参考記事]
●塗装のプロが教える家のリフォーム「コスト削減」テクニック。よい業者さんの選び方、好かれる方とは?
ペイント先生 原島信一氏 第1回
●素人でも失敗しない「DIYペイント術」入門編 道具は? 塗料は? コスト削減を実現しよう!
ペイント先生 原島信一氏 第2回
調理師から不動産の営業を経て、再び家業に戻った
――原島さんはもともと調理師だったんですね。どうして塗装の道に?
実家が塗装業だったんです。でもすぐ継いだわけではなく、高校を卒業して有名デパートの中にある日本蕎麦店に勤めていました。しかしそこが大変な激務で。朝8時から23時まで休憩時間もなく働いていたら、腰を痛めてしまい、ついには立てなくなってしまいました。それでやむなく退職し、喫茶店やカタログ会社の営業などいろんなアルバイトを経て、実家の塗装店に職人として就職したんです。でも、父が雇っていた職人さんと考え方が合わなくて1年くらいで退職。その後、小学校の先輩が経営する不動産会社に就職をし、賃貸営業として働いていました。
――不動産の営業もされていたんですか。
はい。長く続けるつもりだったんですが、父親が塗装の仕事中に事故にあい、重傷を負ってしまいまして。当時、実家の塗装店はガソリンスタンドの塗り替えをメインの仕事にしていたんです。それで、父がいつものようにガソリンスタンドの塗装をしていたら、突然、現場前の車道で大型トレーラーとワゴン車が激突。ワゴン車が逆さまになりスタンドに滑り込み、父親のところへ……。父は骨盤と左腿を骨折し、しばらく現場に立てなくなりました。困ったことにものすごく忙しい時期で、急遽、僕が戻ることになったんです。
――息子さんが助けてくれて、お父さん、喜んだでしょう。
はい。父は1年間リハビリして、現場復帰したんですが、実はそのころから、ガソリンスタンドが相次いで廃業し、スタンドの塗り替えの仕事が激減し始めて。今でこそ、個人のお客さんから直請けで仕事がきますが、25年前の塗装業は、下請けで仕事をもらうのが当たり前でした。そんな状況で下請けの仕事が激減して困り果ててしまいまして。
――その危機をどうやって、切り抜けたんですか?
お客さんに来てもらおうと、店の外壁に「原島塗装店」という看板を付けました。これまで下請けや孫請けの仕事ばかりでしたから、看板がなかったんです。でも、それだけではお客さんは来てくれないので、訪問営業を始めたんです。だけど全然うまくいかなくて、公園で飲んだくれていましたが(笑)。詳しくは『次期二代目ペンキ屋が行く「下請け脱却奮戦記』」』(コーディングメディア社刊)を読んでみてください(笑)。
その後、チラシを配ってみたんですがこれもダメ。すぐ捨てられちゃいますからね。それで思いついたのがタウンページの広告です。前の年のタウンページを見てみると、「親切丁寧〇〇塗装店」といったありきたりのコピーを出している会社は、翌年消えてしまっていた。それで、目立って、かつお客さんに安心してもらえるような広告にしようと、自分の顔写真を入れたんです。これは功を奏し、1年目で12件の問い合わせをいただき、9件成約しました。
――確かに、お客さんとしてはどんな人が塗装するのか、知りたいですよね。
ちょうどインターネットの黎明期だったので、ホームページの制作も始めました。会社の宣伝だけでなく、スタッフの顔写真と趣味の写真も載せました。加えて、「賢い業者選びの方法」というコラムも書きました。あと、当時では珍しく掲示板もつくったんです。お客さんと意見交換ができればと思ったのですが、誰からも書き込みがなかったので(笑)、自分の業務日記を書くことにして。お客さんからの感想とか、いただいたものとか、今でいうブログのようなものです。
最初は全然反響がなくて、ホームページでの集客は難しいのかなとあきらめかけていたところ、しばらくして「お宅のようにいろいろ情報を公開してくれる会社を探していた」と、お客さんから連絡があって。開設して1年半で、初めてのインターネット受注をもらいました。そこから徐々にお客さんが増えていったんです。
元サッカー日本代表の前園さんとは20年来のお仲間
――もとJリーグ選手の前園真聖さんも古くからのお客さんだと聞きましたが、そのころからのお付き合いですか?
1998年実家の塗装店に戻った頃ですが、先に前園さんの後輩Jリーガーの方と知り合い、仲良くなりまして、別の機会にとあるイベントで前園さんをご紹介頂きました。まさかそれ以来、お付き合いが始まるなんて思ってもみませんでした。アトランタオリンピック、あのブラジルを撃破した、「マイアミの軌跡」の絶頂期ですから。
余談ですが、一緒に街を歩いていると、当然前園さんはサッカーで日焼けしてましたが、私はペンキ職人で日焼けしてたので、隣にいただけでJリーガーに間違われました(笑)。あっ、直ぐに違うとバレましたけどね(大笑)。
一度期間が空きましたが、また偶然にもお仕事で遭遇しました。前園さんから仕事を頼まれるようになったのは、7~8年前です。前園さんのお友達が経営するお店の内装等です。一度だけ某所でDIYペイントを一緒に行いました。前園さんはペイントするの、ローラーや刷毛使いめちゃめちゃ上手なので、DIY系の企画を持ってらっしゃる関係者様は、是非オファーお待ちしております。あっ、私にではなく直接本人にお願い致します(笑)
――インターネットの黎明期からホームページを立ち上げるなど、未知の分野に挑戦されていますが、最近ではどんな試みを?
新しいところでは「ドローン見積もり」ですね。見積もりは無料ですが、2万円で点検もできます。「台風の被害がないか、ドローンで屋根を見てほしい」と頼まれることもありますよ。ドローンからの画像で屋根が割れていないか見ることもできますし、水漏れの原因も推測することもできます。
プロから見て「買ったら大変な物件」とは?
――プロから見て、「買ったら大変」という物件はどんなものでしょう?
例えば、外壁のサイディングが「直貼り工法」のものですね。築20~25年の物件に多く見られます。本来は、外壁の防水シートとサイディングの間に通気用の空気の壁を作らなくてはならないんです。しかし防水シートの上に直接サイディングを貼ってしまうと、熱がたまってしまい、カビや結露ができる原因に。ひどい場合は、防水シートが腐敗し、その下の合板まで傷むことも。お風呂場とか特に危なくて、壁が割れてしまうこともある。直貼りの場合は、そのまま再塗装できないため、サイディングから貼りなおさなくてはなりません。
――修繕に大変な費用がかかりますね。見分け方はありますか?
クリップの先などを90度に曲げてL字型にしたものを、防水シートとサイディングボードの間に入れて、回せるかどうかでわかります。回せたら、通気スペースがあるということですから大丈夫です。
――ほかにも要注意物件は?
割れているサイディングですね。本来はサイディングのきわから2センチ離れたところにクギを打たなくてはならないんですが、それより内側に打ってあるとサイディングが割れてしまうんです。そういうサイディングの打ち方がされていると、「施行した業者さん、大丈夫かな」と思ってしまいます。
ほかにも2011~2014年くらいに内装に使われていたクロスで、時間がたつとボロボロと剥がれ落ちるため大問題となっているものもありますよ。そのクロスはある工務店では高級仕様とされていました。ここではメーカー名が出せないのが残念です。
――大きな声では言えないことがいろいろありそうですね。
(取材・文/タカチホ 撮影/和田佳久)
原島信一さん(ペイント先生)プロフィール
高校卒業後、日本そば・手打ちうどんの店に就職。その後、実家が経営する原島塗装店(現ウォールデザインハラシマ)に入社するも方針が合わず退職。不動産会社で賃貸営業に従事していたところ、父親の交通事故がきっかけで実家の塗装店に再就職。2015年より代表に就任。全国の塗装業者が集まる「日本塗装交流会」も主宰。