近年、注文住宅で主流となっているのが「リビング階段」です。リビング階段にすると「寒いのでは?」といった話もありますが、なぜリビング階段の間取りが増えているのでしょうか? リビング階段のメリット、デメリットを紹介しながら、解説していきます。(株式会社かえるけんちく代表・一級建築士 船渡亮)
室内階段は「リビング階段」が主流に
家づくりにおいて、階段をどこに配置するかは重要な問題です。最近では、リビング階段を採用する人も多いのですが、どんな特徴があるのでしょうか?
住宅における室内階段のパターンは、「リビング階段」か「独立階段」しかありません。この記事内では「階段につながる動線」によって、リビング階段と独立階段の違いを分けたいと思います。
●リビング階段
「リビング階段」は、玄関からリビングを通って階段を上り、上の階の居室に入る間取りのことです。最近の住宅では、多くの場合このリビング階段が採用されていますから、見覚えがある人も多いのではないでしょうか。
●独立階段
「独立階段」は、リビングを通らずに階段を上り、上の階の居室に入ることができる間取りのことです。ホール階段と呼ばれることもあります。この画像は、玄関から入ると正面に階段があるタイプの独立階段ですね。
2つの階段を分けるのは、リビングを通るか通らないかという動線です。そのため、リビング階段だとしても、リビングには階段がないというケースもありえます。
近年は半数以上の人がリビング階段を採用
ひと昔前までは、独立階段の間取りを採用する家が一般的でした。ところが最近になって、リビング階段を採用する家が増えてきています。実際、株式会社かえるけんちくが、家づくり中の施主100人に対してアンケートした結果、57%がリビング階段を採用していることがわかりました。
ところが、施主の実家の方はというと、リビング階段を採用していたのが14%、独立階段を採用していたのが86%と、ほとんどのケースで独立階段だったのです。ということは、この数十年間で、リビング階段を採用する家が一気に増えてきたといえます。
リビング階段が選ばれる理由とは?
先述のアンケートでリビング階段を採用した施主に対して、「リビング階段を選んだ理由」を聞いてみると、71.9%の方が「家を出入りする時に、家族間で顔を合わせて挨拶できるようにしたかったから」と回答しています。
2位には「子どもが将来引きこもりにならないようにしたかった(28.1%)」、3位には「スケルトン階段にしてリビング空間を演出したかった(21.1%)」という結果になりました。
【調査:リビング階段を選んだ理由】
つまり、リビング階段を採用する背景には、リビング階段にすることで、以下の3点を期待しているといえるでしょう。
- ・家族間のコミュニケーション
- ・子どもの引きこもり防止
- ・おしゃれな空間の演出
ちなみに、2位の「子どもの引きこもり防止」ですが、リビング階段が引きこもり防止になるというエビデンスはありません。引きこもりは主に学校や仕事場など、家庭以外での問題が主な原因です。リビング階段にしたからといって、引きこもりが防止されるわけではありません。
リビング階段のメリットとは?
家族間のコミュニケーションが円滑になる
先ほどのアンケート結果にもあるように、7割の人がリビング階段に対してコミュニケーション上の利点を挙げています。2階や3階に上がるときにも自然とリビングを通ることになるので、家族と自然に顔を合わせます。そうして、コミュニケーションが円滑になることを期待しているのですね。
確かに独立階段の場合、リビングと玄関の位置関係によっては、子どもの出入りが分かりにくく、「いってらっしゃい」「おかえり」といった声掛けがしにくい場合もあります。その点、リビング階段では必ずリビングを通るので、親が在宅ならその心配はなさそうです。
ただし、夫婦共働きで子どもの通学帰宅時間に親が不在の場合には、リビング階段のメリットはあまり活かせません。
ちなみにリビング階段を選んだ方の57%が、「自宅の間取りが親と子どもとの人間関係に影響を与える」と考えています(独立階段では41%)。そのように考えるからこそ、リビング階段を採用しているのですね。
リビングの空間をおしゃれに演出できる
先の調査でリビング階段を選んだ理由の3位となったのが、「スケルトン階段にしてリビング空間を演出したかった」というものでした。
スケルトン階段とは、下の画像のように階段の向こう側が透けて見える階段をいいます。シンボリックに見えるため、リビングの演出としても使えます。吹き抜けと組み合わせるとカッコいいですし、階段部分をリビングの一部として利用できるので空間を広く見せる効果もあります。
ただ、リビングを横切って2階に上る動線になりがちなので、テレビの前を通らなくてすむようにするなど、動線検討は十分に行ってください。
リビング階段のデメリットとは?
それでは、リビング階段のデメリットについても確認しておきましょう。
リビング階段は暖房効率が悪く、冬は寒い?
私が設計業務を始めた90年代にも、リビング階段を採用することはありました。ただ、階段を通じて2階部分と空間が一体になるので、吹き抜けの間取りと同様、暖房効率が著しく落ちてしまいます。そのため、床暖房は必須とした上で「暖房効率が悪いので、冬は寒いかもしれないですね」と施主に説明しなければなりませんでした。こうした流れから「リビング階段は寒い」と思っている方も多いのではないでしょうか。
それが2015年くらいからは、世界的な脱炭素の流れにより、国が住宅の高断熱化を推奨したことで、一定の断熱性能を備えた住宅が供給されるようになります。さらに、大手ハウスメーカーからも高断熱化した商品が次々と販売され、この5年くらいで状況が急速に変化しました。
日本の戸建て住宅は「冬は寒くて夏は暑い」のが定番でしたが、現在のように断熱性が高ければ、開放的な空間でも暖房効率は悪くなりません。その結果、リビング階段でもそれほど寒くなくなりました。
当初の予定では、2020年に全ての戸建て住宅の断熱義務化が実施される予定でしたが、不動産協会など業界団体の圧力で頓挫しています。また、国が当初、最低基準として考えていた「断熱等性能等級4」をクリアするだけでは、(寒がりの入居者の場合)冬でも快適なリビング階段にはならない場合もあります。
ただ「断熱等性能等級4」にした上で、樹脂サッシなど高断熱窓を採用すれば、ほとんどの入居者にとって(体感温度に個人差はありますが)それほど寒くはありません。必要な性能をクリアできれば、「リビング階段は寒い」ということはなくなりました。
1階と2階で、音・匂いが伝わりやすい
リビング階段の大きなデメリットとして「音が聞こえやすい」「料理などの匂いが伝わりやすい」という点があります。先ほどの暖房効率の話と同じく、どちらも1階と2階の空間がつながっているからこそ起こる問題です。
この問題をクリアするには、下図のようにリビング階段前に引戸などをつけるのが有効です。引き戸の前にはちょっとした廊下があり、「リビング→廊下→階段」となるため、2階に音や匂いが伝わりにくくなります。
ただ、別途、廊下スペースが必要になるので、狭小住宅の場合は採用しにくいかもしれないですね。
また、日当たりの良い分譲マンション住まいだった方にとっては、戸建て住宅は断熱性能をかなり高くしないと、リビング階段では寒いと感じる場合があります。「樹脂サッシ」の採用だけでは足りない場合には、引き戸設置がおすすめです。
リビング階段は性質上、落ち着かない空間になりがち
リビング階段だと、LDK内を通って階段まで行くという動線になります。そのため、リビングやダイニングを横切ったり、テーブルやソファの周辺、テレビの前などが動線になる場合があり、落ち着かない空間になりがちです。
下の間取図ようなリビング階段の場合、リビングの真ん中にソファやテレビ、ダイニングテーブルが配置されており、その間を通り抜けて階段に向かうことになります(緑の点線部分)。
動線上にはゴミ箱などモノを置くこともできませんし、くつろぐ空間になりにくいという側面があります。2階への動線は、なるべく短くシンプルにするのが良い間取りのコツとなります。
独立階段のメリット・デメリットとは
それでは、独立階段のメリットとデメリットも見ていきましょう。リビング階段が増えてきたとはいっても、4割の人が独立階段を選んでいます。独立階段を選んだ施主は、以下のような理由から独立階段を選択したといいます。
- 1.家族同士のプライバシーを守れる 48%
- 2.リビングの暖房効率を高められる 48%
- 3.音や匂いが2階に行かない 44%
- 4.家族の友人がリビングを通らなくてよい 41%
調査:かえるけんちく
家族のプライバシーを守れるという意味では、確かに独立階段は有利ですね。またリビング階段で問題となりがちな、暖房効率や音、匂いの問題も解決できます。
4位の「家族の友人がリビングを通らなくてよい」ですが、休日にくつろいでいるのに、子どもの友達がリビングに入ってきてほしくない、と感じる方は一定数いらっしゃいます。
リビング階段にしてしまうと、そのような理由で「子どもの友達は家に入れない」という家庭もあります。「友達を気軽に家に呼べない」というのは、子どもにとってストレスになりますから、自分たちがそういう性格だと思う場合は、独立階段を選んだ方がいいですね。
ちなみに独立階段を選ぶ施主は、リビング階段を選ぶ場合より親との関係が良好である傾向があります。自分たちが、「間取りとは関係なく、親と良い関係を築けている」という自信があるので、独立階段を選べるということかもしれないですね。
独立階段でも挨拶しやすい間取りはできる
独立階段を選んだ施主の37%が、「挨拶やルールは習慣付けで問題ない」と考えています。確かに、ある程度はルールや習慣で解決は出来ますが、家族に未成年がいる場合は、帰宅した、出かけた、ということがリビングからわかる方がいいですね。
そうでないと、子どもが「いってきます!」と玄関で言った場合でも「いってらっしゃい」と返せないので、子どもとしても、挨拶をする意味を見いだしにくくなり、挨拶が習慣になりにくいかもしれません。
そのためには、どのような独立階段の配置がよいでしょうか?
例えば、上記のような間取りの場合、リビングから玄関ホールが見えるので、家族の出入りがリビングから認識できますね。家族が出入りする場合には、必ずリビングで挨拶する、というルール付けもしやすくなります。
階段だけでなく間取り全体で判断する
リビング階段、独立階段について解説しましたが、一般論として、どちらが良いということを考えても意味がありません。あくまでも、「自分たち家族が住む場合には、どちらが最適なのか?」ということを、間取り全体の動線やプライバシー、暖房効率等も考えた上で判断しましょう。
子どもが小さい場合には、自分たちの実家の間取りを思い出して、どのように親と接していたかを考えてみるのもいいですね。子どもがまだいない夫婦にとっても、親子関係は未知のものではなく、(子どもという立場として)既に経験済みです。両親が健在なのであれば、話を聞いてみるといいと思います。
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