浮き草稼業の芸人にも
老後もあれば家族もいる
お金持ちが多いというイメージのある芸能界。しかし、一発屋という言葉に代表されるように、浮き沈みの激しい業界としても有名だ。当たり前だが、芸能人にだって老後もあれば家族もいる。そんな中、愛するファミリーのために一大決心をしたお笑い芸人がいた。
2011年2月、TIMのツッコミ担当として知られるレッド吉田家に、5人目の子どもである運(めぐる)君が誕生した。そんな幸せ真っ只中のレッドさんが最近、子育てと同じくらい夢中になっているものがある。不動産投資だ。
きっかけは、6年ほど前に息子が通っていた幼稚園の父兄仲間に、サラリーマン大家さんがいたことだった。「お金が大好き。実は大学時代にはあやしい商法に手を出して損をした経験もある(笑)」というレッドさんは、それまでも妻と「副収入が欲しいね」と話していたことから、少しの労力で収入が得られるという不動産投資の仕組みに引かれた。
早速、都内の中古アパートを探し始めたのだが、なぜか紹介されるのはイマイチな物件ばかり。芸能人だから何もわからないだろうと、不動産会社にクズ物件ばかり押し付けられていたらしい。「お買い得物件」と紹介されたアパートの資料を銀行に持ち込み、銀行員から「すぐ埋まらなくなる物件。無駄な買い物になりますよ」と忠告を受けたこともある。
それでも、不動産投資に積極的な妻と一緒に、関連本での勉強や物件チェックはやめなかった。
転機はそのあと訪れた。幼稚園で専業大家をしている別の父兄と親しくなり、設計士や現場監督などの人脈が増えたため、思い切って新築アパートを建てることにしたのだ。
「中古物件は修繕や管理に手間がかかり、忙しい自分には合わないかも…」と感じ始めていたのも要因のひとつだった。
心を込めたアパート経営で
がっぽり稼ぎたい(笑)
レッドさんが狙ったのは、一種低層地域が多く参入障壁が高いために、ライバルとなる新築マンションやアパートが建ちにくい都内城南地域だ。そこで、世田谷区か目黒区の駅から徒歩10分以内という条件を決め、知り合いの不動産業者に土地の紹介を依頼した。
そして2010年12月、人気路線の駅から徒歩5分の場所に54坪の土地を購入。通常なら坪300万円はする区内でも人気の立地だが、知人のルートを通じて格安で手に入った。すぐに設計プランは決まり、2012年秋、ロフトつきの8戸のアパートが完成した。数百万円の区分から始める案もあったが、「3〜4万円の儲けなんて辛気臭い」と1棟で始めることを選んだ。
総事業費のうち、頭金は約15%で、残りは某銀行で30年ローンを組んだ。金利は高いが、芸能人である自分に貸してくれるだけありがたいと考えている。とはいえ、もともと借金は嫌いだし、1億円以上のローンを組むことには正直、抵抗があった。
「銀行から融資の返事を待つ間は、ダメになった方がいいかも…と弱気になりました。担当者から、融資がおりたという電話を受けて、腹が据わったんです」
満室時の月収は約100万円。ローンの返済後も、数十万円のキャッシュフローが残る。利回りは高くないが、立地と間取りの良さが、高い入居率を維持してくれることを期待している。
「正直、プレッシャーはあります。でも、先の収入が見えない芸能界で何もしないのは一番のリスク。妻と5人の子どものためにもがんばります」
テレビではにぎやかなお笑い芸人も、私生活では家族を大切に思う一人の父親なのだ。
レッドさんには、甲子園出場、サラリーマンからお笑い芸人への転身と、これまで何度も大きな夢を叶えてきた実績がある。
「雑な大家さんと思いやりのある大家さんでは、入居率にも差が出ると思う。心を込めたアパート経営でがっぽり稼ぎたい(笑)」
そんな目標を語るレッドさんが、“大家芸人”として活躍の幅を広げる日も近そうだ。
レッドさんの人生履歴
1965年 京都府生まれ。高校時代は東山高校で甲子園に出場
1990年 大学卒業後、サラリーマンとして勤務も、役者を志し、上京
1994年 ゴルゴ松本さんとTIM結成
1998年 結婚
2003年 自宅をローンで購入
2006年 子どものパパ友の不動産投資家に出会う
2010年12月 世田谷区の駅5分の場所に土地を購入
2010年2月 第5子誕生
2011年11月 新築木造アパート(1R+ロフト×8戸)完成
TIM
レッド吉田さん
TIMのツッコミ担当。京都での会社員生活を経て、25才で芸能界をめざし上京。アパートの隣人だったゴルゴ松本さんとTIMを結成し、人気芸人となる。売れない頃にバイト先で知り合った妻との間に5人の子どもがいる。
構成/加藤浩子
(ダイヤモンドZAi 2011年5月号に掲載)