不動産投資を行っていても借りやすい住宅ローン「フラット35」について、不動産投資家にとっては利用が難しくなってしまうという制度改定が、2020年4月から実施される。特にワンルームマンション投資を行っている人の中には、「自宅が購入できなくなる」人も出てくることが予想される。(住宅ジャーナリスト・山下和之)
年収400万円以上なら返済負担率35%が上限に
フラット35は、全期間固定金利型としては金利が低い住宅ローンとして人気がある。性能が高い住宅に当初の金利が引き下げられる「フラット35S」などがあるため、年間10万人前後の利用者がある人気の住宅ローンだ。不動産投資を行っていても比較的、融資が出やすい住宅ローンとしても知られる。
住宅金融支援機構と民間金融機関が連携して実施されている住宅ローンだが、融資額や融資基準などの制度の枠組みは住宅金融支援機構が決定している。時代の変化に合わせて、毎年のように制度改定が行われているが、2020年4月にも「総返済負担率」の算定方法が見直される。
返済負担率というのは、年収に占める年間返済額の割合のことで、たとえば、年間返済額が120万円(月10万円)で、年収が600万円なら、
120万円÷600万円=0.2
となり、返済負担率は20%だ。年間返済額が150万円になれば返済負担率は25%で、年間返済額200万円だと返済負担率は約33%になる。
この返済負担率、フラット35では、
・年収400万円未満は30%が上限
・年収400万円以上は35%が上限
と決まっている。利用者の健全な家計運営に鑑みて、上限が設定されているわけだ。
年収には投資用物件の不動産所得を加算できる
返済負担率の計算に当たっては、さまざまな条件がある。不動産投資を行っている人は、投資先不動産から得られる不動産所得を年収に加えることができることになっている。
たとえば、下記の図表1にあるように、会社員などとしての年収が600万円で、投資用不動産からの年間の不動産所得が50万円ある場合、年収は600万円+50万円で650万円として計算していいことになっている。
一方で、年間の返済額に関しては、住宅ローンの返済額と、自動車ローンなどの住宅以外の返済負担がある場合には、それも加えて総返済額として計算する必要がある。そして、投資用物件の返済については加算する必要がない(2020年3月末まで)。図表1では、計算を分かりやすくするため、ほかの返済はなく、住宅ローンの返済だけとして試算する。
この人が、今回4000万円のフラット35を借り入れてマイホームを取得する場合、フラット35の年間返済額が135万円とすれば、返済負担率の計算では、図表1の➂にあるように、住宅に関する年間返済額の135万円が分子となって、年収600万円+不動産所得50万円の合計650万円が分母となる。
結果、0.207ということだから、返済負担率は20.7%になる。
これなら、返済負担率35%以下という基準をクリアできるから、問題なくフラット35を借り入れることができるわけだ。
投資用物件の返済額も返済負担率に算入される
しかし、2020年4月の借入申し込み分より、年間返済額に、投資用物件に関するローン返済額の120万円を加えて返済負担率を計算しなければならなくなる。
その試算が図表1の④。返済負担率計算における分子である年間の総負担額は、住宅ローンの年間返済額135万円に、投資用物件ローンの年間返済額120万円を加えた、255万円に増える。それに対して、分母の年収600万円+年間賃料収入50万円の合計650万円は変わらないので、返済負担率は0.392となって、上限である35%を超えてしまう。これでは、フラット35を借りることはできないことになる。
それでも、どうしても利用したいという場合には、借入額を減らして、住宅に関する年間返済額を107万円に抑えることができれば(つまり物件価格を抑えれば)、返済負担率は34.9%となって、基準をクリアできる計算だ。
アパート経営のローン返済額はセーフ
2020年4月の改定では、不動産投資用物件が1棟の共同住宅、たとえばアパートなどであれば従来通り、返済負担に算入しなくていいことになっている。それに対して、ワンルームマンションのように、区分所有の物件が算入対象になるという違いがある。
これは、本来不動産投資には利用できないフラット35が、区分所有マンション投資に悪用されるケースが問題になったことが影響しているともいわれる。二度と同様の問題が発生しないようにするため、マンション投資に対するスタンスが厳しくなっていると言っていいだろう。
今回の改定に関して、住宅ローンコンサルタントの淡河範明氏はこう語っている。
「これまでは、年間返済額に、投資用物件の返済額は算入対象外となっていましたが、投資から得られた不動産所得は年収に加算されるという、不自然な計算方法となっていました。つまり、不動産所得は算入されるけれど、返済は算入されないため、現在のキャッシュフローでは過剰となる可能性のある金額が借りられてしまうため、大きな欠陥があると思っていました。2020年4月以降は、どちらも算入されるので、妥当な計算方法だと思っています」
過剰な融資を抑制するという意味では、妥当な改定ということだが、不動産投資を行っている人にとっては、かなり厳しい改定だ。
なお、民間の銀行・金融機関は、フラット35のように甘い審査基準を設けていないことが多い。フラット35という”ラストリゾート”が崩壊することで、ワンルームマンション投資をしている人が多額の住宅ローンを借りるのは今後、難しくなるだろう。
買い換えで住宅ローンが残っているときには要注意
なお、2020年4月の改定においては、上記のほかにいくつかの改定が実施される。
ひとつは、住宅の買い換え時の総返済負担率の算定における基準の見直しだ。
現在は、住宅の買い換え予定がある場合、原則的に売却予定の物件に関する返済額は総返済負担に算入されない。ただし2020年4月以降は、売却予定額によって売却予定物件の住宅ローン残高を一括返済できる場合に限り、返済予定額に加えなくてもいいことに変更される。つまり、ローン残高が売却予定価格を上回っている場合には、そのローンに関する返済額も加算しなければならなくなる。売却する住宅と新規に購入する住宅のローンが重なって、“ダブルローン”にならないようにするわけだ。
ただし、「住宅ローンの残額と売却予定額の差額を手持金などでまかなうことができることが資料などで確認できる場合」には、返済負担率計算から除いていいことになっているので、買い換えの場合にはその点に注意しながら、計画を立てるようにしたい。
【参考記事はこちら】>>「住み替え」の流れとノウハウを紹介!「不動産売却」と「買い替え」のどちらを先にすればいいのかを徹底解説
借り換えでは返済期間が15年以下でもOKに
このほか、現在はセカンドハウス向けのフラット35を複数申し込むことができるが、4月からは1つだけとなる。当然、すでにフラット35のセカンドハウス融資を利用している人が、フラット35で新たにセカンドハウスを取得することはできなくなる。
これも賃貸目的の不正理由を防ぐための措置であり、制度改定のリリースにおいては、「フラット35の返済中にセカンドハウスを第三者に賃貸することはできませんのでご注意ください」と告知している。
いまひとつ、フラット35の借り換え融資の借入期間が変更される。3月までは借り換えに当たっての返済期間は、原則的に15年となっているが、2020年4月からは15年未満でもOKに変更される。
これまでは借り換え後の返済期間が15年を切ってしまう人は、フラット35への借り換えはできなかったが、2020年4月からは借り換え後の返済期間が15年を切ってしまう人でもフラット35に借り換えて負担の軽減を図れるようになるわけだ。
まとめ
2020年4月のフラット35の制度改定は、対象となる以下の人々には大きなインパクトとなる。なお、駆け込みでの借り入れは可能だが、3月末までの時間は限られており、かなり厳しいだろう。
・ワンルームマンション投資家のフラット35借入
・価値が下がった物件からの住み替え
・セカンドハウスの取得
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