Netflixの人気ドラマ「地面師たち」を皆さんは見られたでしょうか。公開直後から大きな話題となり大ヒットしたドラマですが、不動産業界の人間から見ても非常にリアルな描写が多く、業者同士の間でも「地面師たち」の話題で持ちきりでした。今回は、「地面師たち」を通じて感じた業界の問題や地面師以外の不動産詐欺の手口、詐欺被害を防ぐための安全に取引を進めるポイントについて解説します。(一心エステート株式会社代表取締役:高田一洋)
目次
ドラマ「地面師たち」を通じて感じた不動産業界の問題
作品のなかで特に印象的だったのは、地面師たちの緻密な準備と巧妙な手口です。地面師とは、不動産の所有者になりすまして売却を持ちかけ、買い主からお金をだまし取る詐欺師です。本人確認の甘さを突き、偽造書類を駆使して高額をだまし取る様子は、まさに現実の地面師の手口そのものでした。
プロも納得するリアルさがあるからこそ、業界の問題や課題について深く考えさせられる作品でもありました。
売り主の本人確認の脆弱性
ストーリーの大きな山場となるのが、不動産会社の会議室やホテルのロビーで行われる売り主の本人確認のシーンです。本人を前にして免許証の顔写真と照合し、いくつかの質問に答えてもらう。これは現実の不動産取引でもよくある光景です。実際、免許証の写真と本人が似ていれば、それ以上の確認はほとんど行われません。
免許証の中に入ったICチップを透かして確認する方法は、ドラマ同様ありますが、ICチップを読み込んで情報を確認するといったことはありません。
また、印鑑証明書は、基本的に印鑑カードがなければ本人しか取得できないものです。ドラマでは地面師たちがこれを巧妙に偽造していました。これも、残念ながら現実にできてしまうことなのです。
登記識別情報の扱いも的確でした。ドラマでは登記識別情報をなくしたという設定で取引を進めていました。これもあり得ないわけではありません。登記識別情報がなくても、地面師とグルになった司法書士が「本人に間違いない」という書類を作れば取引ができてしまうのです。
このように、売り主の本人確認という作業に、たくさんの”脆弱(ぜいじゃく)性”があることを「地面師たち」は浮き彫りにしました。
登記の仕組みは改善の必要がある
また、登記の仕組みについても改善すべき部分があります。ドラマでは売買決済の取引から数日後に、法務局から移転登記の却下の封書が届き、ここで偽の所有者から土地を購入していたことが判明します(騙されたことを受け入れられない、という熱の入った演技は見ものでした。笑)。
実際の取引においても、実際の取引から登記の移転までにはタイムラグがあります。しかし、今はなんでもオンラインでリアルタイムに完結する時代です。売買契約と登記の移転が同時に行われるといったことも、工夫すれば可能なのではないかと感じました。
本人確認の方法を強化したり、取引のプロセスをより透明化したりする取り組みが求められます。
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地面師以外の不動産詐欺の手口
地面師詐欺は、不動産会社のようなプロを標的とした詐欺行為です。一方で、不動産取引には、一般消費者を相手取った多くの詐欺が存在します。いくつかの手口をご紹介します。
手付金詐欺
詐欺師が正当な売り主を装い、買い主と売買契約を結びます。通常、手付金は売買価格の5~10%程度です。契約後、詐欺師は連絡を絶ち、手付金を持ち逃げします。被害者は金銭的損失だけでなく、希望していた物件も失うことになります。地面師同様、売り主の身元確認や不動産の権利関係を十分に調査することが重要です。
二重譲渡
同じ物件を複数の買い主に売却するというものです。最初の買い主に売却した後、登記移転前に別の買い主にも売却します。結果として、後から購入した買い主は物件を取得できず、支払った代金を失う可能性があります。
原野商法
古典的な手口ですが、今でも形を変えて行われています。将来的に価値が上がる可能性がある土地として、実際には価値のない土地(多くの場合、開発が困難な山間部や湿地帯)を高額で販売します。偽りの開発計画や将来の価値上昇を誇大に宣伝することで、買い主をだまします。
工事詐欺
工事を請け負って着手金だけもらって逃げてしまう手口です。被害者は金銭的損失だけでなく、必要な工事が行われないという二重の被害を受けます。
インスペクション詐欺
比較的新しい手口で、建物検査(インスペクション)を悪用するものです。例えば、実際には問題のない箇所を「要修繕」と判定し、不要な工事をすすめるといったケースや、点検と称して家の設備や屋根を破壊して、修繕工事を行うといった手法があります。
不動産会社の身近に存在する詐欺やグレーゾーンの事例
私自身不動産業界で長くいますが、詐欺被害に遭ったことも加害者になったこともありません。しかし、業界内でさまざまな事例を耳にしてきました。
事故物件や訳あり物件の販売
たとえば、事故物件や訳あり物件などの”告知事項”がある投資物件を買ってリフォームし、何も言わずに販売するといったケースは10年~20年前まで結構ありました。
今では「大島てる」のような事故物件サイトで調べられるようにもなり、なかなかやりづらくなった手法ですが、 全ての告知事項を網羅しているわけではありません。地方の人が東京の投資物件を買うといったケースでは、分からないまま買ってしまうケースはいまだにあるようです。これも立派な詐欺の一つです。
投資物件の内見を拒否する理由
投資物件つながりでは、ある同業者は投資物件の販売において、購入検討者から物件の内見があると拒否するそうです。
理由を聞くと、まるで優良誤認させるような方法で物件を提案しているため「見せたら決まらない」と豪語していたそうです。法律的な罰則はないかもしれませんが、明らかに問題のある悪質な販売手法です。
詐欺被害を防ぐための安全に取引を進めるポイント
このような詐欺被害を防ぐには、どうすればよいのでしょうか。詐欺被害を防ぐための安全に取引を進めるポイントと、信頼できる業者の選び方を解説します。
知識と経験のある担当者を選ぶ
まず、担当者の知識と経験が重要です。例えば、宅地建物取引士の資格を持っているかどうかは、最低限のチェックポイントです。その物件や取引形態に関する専門知識を持っているかも確認しましょう。
不動産取引に関する法律や制度は頻繁に変更されます。担当者が最新の情報を把握しているかどうかは、その人の専門性を測る良い指標となります。「新耐震と旧耐震」基準の違いや測量法の改正、最新の税制改正、対象エリアの市況などについて質問してみるのもよいでしょう。
会社の信頼性を確認する
担当者個人だけでなく、会社自体の信頼性も重要です。会社のウェブサイトでスタッフ紹介が丁寧に行われているか、経営者や社員の名前で検索してヒットするかなどをチェックしましょう。全く情報がない、あるいは悪評ばかりの場合は注意が必要です。
各段階で確認を怠らない
手続きの各段階で必要な確認を怠らないことが重要です。物件の内見は必ず行う、重要事項説明をしっかり聞く、登記簿を確認する―などです。「急いでいるから」「特別な案件だから」といった理由で、通常のプロセスを省略しようとする業者には要注意です。
また、「今日中に決めないと他の人に売れてしまう」「この特別価格は今だけ」といった、取引を急がせるような発言には要注意です。焦らされて冷静な判断ができなくなるのを避けるため、必要な時間はしっかりと確保しましょう。
疑問点はすぐに確認する
取引中に少しでも疑問に思ったことがあれば、すぐに確認することが大切です。「後で聞こう」と思っているうちに、取引が進んでしまうことがあります。小さな違和感も見逃さないようにしましょう。
複数の専門家に相談する
不動産取引は複雑で、一人の専門家だけでは全てをカバーできないことがあります。規模の大きな取引や大切な不動産の売買の場合は、必要に応じて、不動産業者だけでなく、弁護士、税理士、建築士などの専門家にも相談するのが賢明です。
【関連記事】>>「複数の専門家に相談する」のところに関連記事を入れる?土地売却の相談は誰にすればいい? 税理士や司法書士など売却の流れに沿って解説!
新しい詐欺の手口に警戒し、高い意識を持とう
「地面師たち」は、不動産取引の闇を鮮やかに描き出した素晴らしいドラマでした。現実の不動産取引における詐欺は、ドラマ同様に非常に複雑で巧妙です。
私たち不動産業者も、常に新しい詐欺の手口に警戒し、取引の安全性を高める努力を続けています。しかし、完璧な対策というものは存在しません。最終的には、取引に関わる全ての人々が高い意識を持ち、慎重に行動することが重要です。
不動産業界に身を置く者として、これからも皆様の大切な取引のお手伝いができることを願っています。安全で公正な不動産取引の実現に向けて、私たちも日々努力を重ねていく所存です。
【関連記事】>>なぜ積水ハウスは「地面師たち」にだまされたのか? 不動産詐欺にだまされないための対策も
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