家は一生に一度の買い物。大きな買い物であることから、買い手以上に売る側である営業スタッフも真剣になります。人が真剣になりすぎると、時に滑稽なことが起きたり、周りを驚かせたりすることがあります。元不動産営業スタッフが出会った、神客とモンスター客のお話です。
不動産営業が出会った「神客」
不動産営業では、高額な物件を取り扱うため、契約の成立にあたって多大な労力を要します。新築の分譲マンションは抽選となるケースがあり、比較的手が掛からないこともある一方、完成在庫となると販売は難しく、値引き交渉も発生します。お客さまの来場がない現場でポツンと一人で待ち続けるほど辛い時間はありません。
そんな時、天使のように舞い降りる救世主こそ「神客」です。
申し込み金を持ち歩く神客

会社に問い合わせがあり、パンフレットやチラシを送付したのち、先方に訪問しました。公営団地に家族で住んでいるお客さまで、ひと通り弊社の住宅購入の一般的な進め方などをご説明します。そして、筆者が担当する物件を紹介し、週末に来場のアポイントを取ります。それは、1棟だけ売れ残っていた物件です。
他にもお客さまの希望に該当する現場はあったのですが、営業スタッフの中での優先順位もあります。断られたら他の現場も案内するという手順がセオリーです。
このお客さまは素直な方という印象で、夫婦ともに無口で、私の説明に頷くばかりです。とくに細かいことを聞いてくることもありませんでした。
逆に言うとまだ何を聞けばいいのかも分からない段階なのでしょう。探し始めたばかりで、とりあえずどんなものか見てみよう、というパターンが圧倒的に多いのです。
当日、お客さまはご家族で来場しました。しかし車から降りるなり、物件をちらっと見ただけでカバンから封筒を取り出しました。
「これ、申し込みのお金です」
現地訪問をした際の、ご説明で、「現地を見学」→「購入申し込みの意思表示(申し込み金)」とお伝えしていたので、このお客さまはその流れ通りにされたわけです。
その後、家の中を見て回り、翌週に正式契約となりました。間取りやロケーションにも文句ひとつ言わず、ただニコニコしながらご捺印をされました。
最後まで値引き交渉などはありませんでした。すべて、引き渡し・入居まで忠実に住宅購入の流れに沿って完了しました。
決断をスタッフに委ねる神客
住宅購入の現場では人の性格が出やすいので、決断を営業スタッフに委ねる人たちがけっこういます。
理由は人それぞれですが、投資用の物件では、仕事などで時間的な余裕がなく、信頼がおける営業スタッフに物件選びから手続きまで一任したいという、いわば多忙なエグゼクティブ層のようなケースです。
投資用不動産に限らず、居住用でも営業スタッフに任せてしまう方々がいます。もちろん、営業スタッフとある程度の付き合いがあり、信頼関係があった上でのことです。
一方で、ほとんど初対面にもかかわらず、住宅購入の決断を営業スタッフに任せるお客さまもいらっしゃいます。
ひと通りモデルルームをご案内したあと、雑談などを交わします。この間も、営業スタッフはお客さまの年齢や服装、アンケート内容、乗っている車や仕事などの情報から、購入確度(買う可能性)、どの物件でクロージングできるか、などを考えています。しかし突然、営業スタッフに質問を投げかけてこられます。
「あなたならどれが良いと思う?」
直感やフィーリングを重視するタイプ、または単に考えるのが面倒なだけかもしれません。いずれにしろ、論理的な判断よりも、営業スタッフとの相性や物件の第一印象を重視し、「この人に任せれば大丈夫」「この物件に呼ばれている気がする」といった感覚で決断するケースがあります。
早く言えばノリが良い性格です。ただ、こういうお客さまは会社勤めの方には少なく自営業の方が多いので、全額キャッシュかそれに近い現金を支払うケースがあります。手付け金も残金も支払いは口座振り込みが原則ですが、ノリが良すぎるあまり、引き渡し時に数千万円を現金で持ってこられるお客さまもいました。
数千万円をその場で数えるのもしんどい作業ですが、車に積んで会社へ持って帰るのも怖いものです。
ちなみにこのタイプのお客さまは、営業スタッフだけでなく会社自体も気に入ってもらったうえでの購入が多いので、数年後に転職したいなどと相談を受けることがあります。今まで一人だけ、筆者が勤めていた会社に転職されたお客さまがいます。
不動産営業が出会った「モンスター客」
神客に助けられる一方で、不動産営業にとって避けて通れないのが、モンスター客です。
大きな社会問題となっているカスタマーハラスメント(通称:カスハラ)ですが、不動産営業の世界では昔からしんどいお客さまは存在しています。
モンスター客はクレーマーとかカスハラに近いのですが、対応に極めて時間や労力がかかり、精神的な負担も大きいです。不動産営業の世界ならではのモンスター客をみていきましょう。
付箋が足りない!モンスター客

マンションでも戸建てでも、物件が完成して引き渡しをする前に必ず施主検査が行われます。外観、内部をひと通りチェックし、不具合があれば修正し、再確認した後、引き渡しとなります。
施主検査は、お客さまの性格がもっとも出やすい現場かもしれません。チェック項目がほとんどなく、10分もかからずに終了する大ざっぱな性格の人か、3時間かかっても終わらない細かい人か、大きく2つのタイプに分かれます。
立ち会う営業スタッフや施工管理スタッフは、チェックポイントを忘れないようにするために貼り付ける付箋を用意しています。それが足りなくなるほどチェック項目が入るお客さまもいらっしゃいます。
壁のクロスでは、キズや汚れがあればチェックが入りますが、なかにはキズなのか汚れなのか模様なのか分からないほど微妙なものもあります。
床のフロアーは、傾きがあることはまずないのですが、フロアー材のジョイントなどにはわずかな段差が発生することもあります。
その加減で微かに勾配ができ、確認のために床に置いたビー玉が動くことはありますが転がっていくことはありません。
たしかに不動産の購入は人生最大の買い物の一つです。それだけ高額なものを購入するからこそ、「完璧な状態であってほしい」という強い願望や、不備があった場合に「損をしたくない」という心理も分からなくはありません。
また、以前に住宅購入などで不満な経験があったり、身近な人がトラブルに巻き込まれたりした経験があると、より慎重になり、細部にわたるチェックを徹底する傾向があることも一定の理解はできます。
しかし、住宅は車や電化製品とは違って人の手で仕上げられています。「新築でも多少の傷や汚れはあり得る」ということをやんわりと伝えるものの、営業スタッフの声に耳を傾けようとするお客さまは多くはありません。
結果、物件の外も中も付箋だらけになります。
また、付箋が活躍するのは施主検査だけではありません。お客さまのなかにはごくまれに、重要事項説明書を事前にチェックする方もいます。
契約当日、付箋だらけの書類は百科事典のように膨れ上がり、契約に4時間かかったこともあります。
訴訟ハードルが低いモンスター客
とくに問題ないと思っていたお客さまから、いきなり内容証明が届いたことがありました。
戸建てのお客さまで、建築の途中から頻繁に現場へ出向き、写真を撮影していました。問題は、木材が雨で濡れている、ということでした。
建築中は壁を張るまでの一定期間に木材がむき出しとなり、雨に濡れることがあります。「木材は狂いを抑えるために乾燥期間を設けている」、という説明は必ずしています。「にもかかわらず雨に濡らすとは何事か」、とおっしゃいます。
ただ、木材を乾燥させるというのは水分を抜くというより樹液を抜くことで、水に濡れること自体に問題はありません。これは建築や不動産に精通している弁護士さんでもご存知ない方はけっこういらっしゃいます。
施工のやり直しか契約の白紙撤回を要求されますが、誤解の場合は説明すればおさまることが多く、むしろ営業スタッフより弁護士から伝えてもらったほうが治りが早いこともあります。
隙があれば訴えようとしているお客さまは確実にいます。マンションや複数棟の分譲戸建て団地では、問題があると旗振り役のリーダーのようにまわりを焚きつけて集団で訴訟に持ち込もうとするモンスター客もいます。
金銭目当てではなく、単に争いが好きなようにさえ見えます。その団地でいちばん被害を受けている人に、
「これは訴えた方がいい」「〇〇不動産にとっては数あるうちの1人かもしれないが、私らにとっては1回きりのことだよ」「大丈夫、私は弁護士さんも知ってるし、フォローするから一緒に頑張ろう」
というようなことを囁いて、その人を「被害者の会」のリーダーに担ぎ上げてしまうのです。
営業スタッフとしては、大きな問題になると会社の顧問弁護士に任せてしまうので、中途半端な状態がもっとも神経を削られます。
まとめ
不動産営業の現場では、営業スタッフの労力と精神的負担を大きく左右する2つの極端な顧客タイプが存在します。
申し込み金を持参して物件を一目見ただけで購入を決断するような「神客」がいる一方、すぐに訴訟をちらつかせてくる「モンスター客」。このような顧客への対応は、営業スタッフにとって最も神経を削られる業務となっています。
高額な不動産取引という特殊な業界において、お客さまの性格や行動パターンが営業成果に与える影響は計り知れません。神客の存在が営業を天国にする一方で、モンスター客の対応は地獄のような体験となり、不動産営業の醍醐味と苦労を如実に表しています。
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