注文住宅を建てる際、長期優良住宅やZEH(ゼッチ)などの省エネ性能の高い住宅なら、長く快適に住めて環境にもやさしい。さらに各種補助金が期待でき、減税額も大きくなるというメリットがある。大手住宅メーカーの大半はこれが標準仕様だが、対応が難しい中小工務店で家を建てるなら「住宅性能表示制度」を活用する手もある。(住宅ジャーナリスト・山下和之)
省エネ性能の高さで補助金や減税額が変わる
2021年度の補正予算案が閣議決定され、22年度(令和4年度)予算、税制改正の方向性が固まってきた。そこで見えてきたのが、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、脱炭素化の動きがいよいよ加速されてきたという点。住宅関連の予算や税制も例外ではない。
たとえば、21年度補正予算では、「こどもみらい住宅支援事業」として、子育て世帯・若者夫婦世帯向けに、1戸当たり最大100万円の補助金制度が組まれたが、100万円の補助金の対象になる住宅は、ZEH(※)などの省エネ性能の高い住宅に限られる。同時に、住宅のリフォームも補助金の対象になるが、それも住宅の省エネ改修が必須条件となっているのだ。
(※)ZEHとは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略称であり、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロにすることを目指した住宅のこと。
また、22年度の税制改正では住宅ローン減税制度が大きく変更された。年末ローン残高に対する控除率が従来の1.0%から0.7%に引き下げられ、対象となる年末ローン残高も、一般の住宅は4000万円から3000万円に減額された。
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しかし、耐震性、耐久性のほか省エネ性能の高さなどが条件となる長期優良住宅や低炭素建築物などの認定住宅については、5000万円のままで変わらない。一般の住宅が、年間21万円(3000万円×0.7%)が限度になるのに対して、認定住宅なら、年間35万円(5000万円×0.7%)になる。また、ZEHについても4000万円または4500万円になる見込みだ。
長期優良住宅というのは、通常の使用であれば、構造軀体を200年使い続けられる耐久性を有し、耐震性が高く、省エネ性能に優れていることなどが条件となっている。
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低炭素住宅というのは、一次エネルギー(※)消費量が「省エネ法」の基準よりもマイナス10%以上となることが条件など、省エネ性能に特化した住宅ということだ。
※一次エネルギーとは、石油や石炭、天然ガス、ウランのような採掘資源のほか、太陽光、水力、風力といった再生可能エネルギー、また、薪や木炭など、人為的な変換加工していいない自然界にあるエネルギーのこと。
いずれも国が定める条件をクリアして、都道府県などの認定を受ける必要がある。
新築住宅に占める長期優良住宅の割合が高まっている
もちろん、長期優良住宅やZEHなどは、一般の住宅に比べると価格が高くなるが、その分、長く快適で健康に住めるから、人にやさしい。CO2排出量の削減に貢献し、地球環境にもやさしい。そして光熱費も下がって家計にもやさしい――とトリプルメリットがある。その上、補助金や減税額の拡大が期待できるのだから、頼もしい限りだ。
では、実際にこうした住宅がどれくらい建てられているのだろうか? 国土交通省のデータや、大手住宅メーカーを中心とする業界団体の住宅生産団体連合会(住団連)の、『2020年度戸建注文住宅の顧客実態調査』を中心に見てみよう。
長期優良住宅は2009年度から認定制度がスタートし、図表1にあるように、毎年ほぼ10万戸前後が建設、認定されている。認定戸数は横ばい傾向だが、新設住宅着工戸数が減少するなかでの横ばいだから、新設住宅に占める長期優良住宅の割合は高まっているといえる。
図表1 長期優良住宅建築等計画の認定実績
また、一見して分かるように、認定戸数のほとんどを一戸建ての住宅が占めている。
マンションは一戸建てに比べて耐震基準が厳しいなどの声がある上、そもそも一戸建てよりマンションのほうが長く使えて、地震などの災害にも強いといった一般的なイメージが強い。そのため、マンション分譲会社は、長期優良住宅の認定にさほどこだわらない傾向が強いといわれている。
反対に、一戸建ての供給サイドでは、マンションに負けない安全性、耐久性や居住性などが確保されていることを強調するため、大手住宅メーカーを中心に積極的に認定を受けるようになっているという違いがありそうだ。
注文住宅では大半の大手メーカーが、標準仕様で長期優良住宅になっている
事実、最近の大手住宅メーカーが建てる注文住宅の大半は、標準仕様で長期優良住宅の条件をクリアできるようになっている。当初は標準仕様では難しいため、一定の費用を上乗せしないと実現できないことが多かったが、いまでは当たり前になっているといっていいだろう。
住団連の調査でも、図表2にあるように、大手住宅メーカーで注文住宅を建てた人の84.3%が、長期優良住宅の認定を受けている。ほとんどが長期優良住宅なのだ。
図表2 都市圏別の長期優良住宅、低炭素住宅の適用割合
ただし、都市圏によってかなりの差があるので注意しておきたい。
三大都市圏では名古屋圏が93.0%と最も高く、反対に東京圏は78.6%と8割を切っている。標準仕様で長期優良住宅にできる商品が増えてきたとはいえ、東京圏では地価や建築費が高いため、狭い敷地しか確保できず、長期優良住宅対応が難しいといったケースがあるのかもしれない。
反対に、名古屋圏は確保できる敷地も広く、ゆとりを持って長期優良住宅を建てられるといった違いがあるのだろう。
専門家が性能をチェックする「住宅性能表示制度」の採用率も年々高まっている
長期優良住宅の認定制度がスタートした当初は、技術水準の高い大手でないと対応が難しいといわれてきたが、最近では中堅ビルダーでも対応できるようになりつつある。とはいえ、中小の工務店ではまだまだ難しい面があるようだ。
そこで、住宅の基本性能を確保する制度として知っておきたいのが、「住宅性能表示制度」。これは、耐震性、耐久性、省エネ性など、10分野32項目(新築住宅の場合)について等級を定め、第三者機関の専門家が全国一律の基準で評価する制度だ。
たとえば、耐震性であれば、等級1が建築基準法に定める新耐震基準(※)をクリアできるレベルで、等級2はその1.25倍の強度、最高の等級3は1.50倍の強度になる。
(※)新耐震基準とは、震度5強レベルの中規模地震では軽い損傷、震度6強から震度7レベルの大規模地震では倒壊を免れる耐震基準など、1981年から現在まで耐震基準として使用されているもの。
専門知識の乏しい消費者でも、住宅の性能をチェックしやすくなる。建売住宅や分譲マンションなどは、分譲会社がこの制度を利用するかどうかを決めるが、注文住宅では、施主と住宅メーカー、工務店などが話し合って「住宅性能表示制度」の利用を決めることができる。
「住宅性能表示制度」の採用率は年々高まっている。図表3にあるように、18年度には51.2%と5割をわずかに超える程度だったのが、19年度には60.5%と6割に乗せ、20年度は66.2%と、ほぼ3戸に2戸は性能表示を行うようになっている。
図表3 年度別「住宅性能表示制度」の採用状況
中小工務店で注文住宅を建てる場合は、「住宅性能表示制度」を活用しよう
では、実際にどの項目でどの等級を取得しているかといえば、図表4にある通り。住宅性能表示制度における認定条件の必須項目である、「地震対策」「劣化対策」「維持管理対策」については、いずれも最高の等級3を取得している物件がほとんどだ。
図表4 住宅性能表示制度による取得等級割合
ただ、断熱等性能等級においては、最高の等級4は68.7%と7割を切っている。一次エネルギー等級については、「分からない」とする回答が多く、どの程度の等級を取得できているのか不明な部分も多い。
いずれにしても、「住宅性能表示制度」を利用すれば、住宅メーカーや工務店などが勝手に判断するのではなく、第三者機関の専門家が設計図や建設現場などでチェックしてくれるので、性能への安心感が高まる。
大手住宅メーカーで注文住宅を建てるのであれば、長期優良住宅の認定を取得すれば、ほとんどの項目で最高等級を取得できるだろうから、性能表示にさほどこだわることはない。
しかし、長期優良住宅への対応が難しい中小の工務店などで、人や環境、家計にやさしいマイホームを建てたいという場合には、費用はかかるが「住宅性能表示制度」を活用するのがいいだろう。
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