近年、地球温暖化による異常気象を要因とした水災害や山火事などが多発しており、世界的に脱炭素化が急務の課題になっている。わが国でも、その一環として住宅の脱炭素化を加速させるため、検討会を設置。実現のためのロードマップが作成された。これから住宅の取得を考えている人は、太陽光発電設備の搭載やZEH(ゼッチ)化などの動きに注目しておく必要がある。(住宅ジャーナリスト・山下和之)
住宅取得支援策などで、2050年のカーボンニュートラル実現を目指す
菅義偉首相は2020年10月、国会の所信表明演説で2050年のカーボンニュートラルの実現を世界に公約している。
その実現のためには、産業構造や経済社会の変革が不可欠であり、住宅についても同様だ。
そこで、経済産業省、環境省、国土交通省の3省は2021年に入って、「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方研究会」を設置。数度の検討会を経て、2021年8月にカーボンニュートラルを実現するためのプロセスとして、2030年までに必要な省エネ対策の考え方をロードマップにまとめて公表した。
そのなかには、省エネ対策を加速させるための規制の強化などが盛り込まれている一方、各種補助金など、省エネ対策の進んだ住まいに対する「住宅取得支援策」が盛り込まれている。これから住宅の取得を考えている人は、その内容について注目しておく必要がある。
2022年度からは省エネ基準適合が補助金の条件に
図表1は、そのロードマップのポイントをまとめたものだ。これによると2022年度から各種の補助金制度において、住宅の省エネ基準適合化を要件とする一方、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)化のためのリフォームへの支援を拡充する、技術力に課題を残す中小工務店への援助を拡大することなども挙げられている。
図表1 2030年までのロードマップのポイント
住宅金融支援機構が民間と提携して実施している住宅ローンのフラット35については、2023年度から省エネ基準適合を要件化することになっている。現在も、金利が0.25%引き下げられる「フラット35S」は、省エネ基準への適合などが要件のひとつとなっているが、それをフラット35全体に適用し、住宅の省エネ性能の底上げを図ろうというわけだ。
さらに、2024年度からは新築住宅の販売・賃貸時における省エネ性能表示の施行が盛り込まれている。
つまり、売買契約や賃貸契約の重要事項説明において、その住宅の省エネ性能を明確に説明することが求められるようになる。不動産会社と消費者の省エネ意識を高めていこうとする狙いといっていいだろう。
2030年度には、新築住宅の約6割に太陽光発電設備を搭載する
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、政府は2030年度までに温室効果ガスを2013年度比で46%削減する目標を打ち出している。
それに沿って、2021年7月の経済産業省のエネルギー基本計画では、太陽光や洋上風力などの再生可能エネルギーを「主力電源化」すると明記。2030年度の総発電量に占める再生可能エネルギーを現行の22~24%から、36~38%に大きく引き上げるとしている。
住宅部門において、その再生可能エネルギーの柱となるのが太陽光発電であるのはいうまでもない。
ロードマップでは、2025年度には新築住宅の省エネ基準への適合を義務化し、2030年度には、新築一戸建ての太陽光発電搭載率約6割を目指すとしている。
また、先の「検討会」の報告書では、「大手住宅メーカーの戸建については、現状5割程度に留まると想定される搭載率を、2030年度に約9割とする。また、現状の搭載率が1割に満たないと想定される中小工務店の戸建等については2030年度に約5割とする。これらを合わせて新築戸建ての約6割に太陽光パネルを搭載することを目標として検討している」としている。
当初は、検討会のメンバーの一部から、太陽光発電設備の搭載を義務化してはどうかという意見もあったそうだが、私有財産にコストのかかる措置を強制するのは難しいということから、今回は見送られている。
とはいえ、今後、ロードマップ通りに搭載が進まないなどの問題が発生したときには、その点が再びクローズアップされる可能性もある。
2020年時点では、新築注文住宅の太陽光発電設備搭載率は約4割
太陽光発電の現状をみると図表2にあるように、注文住宅の新築については搭載率が39.1%に達しているものの、建て替えによる注文住宅は26.4%に落ちる。しかも、分譲戸建て、いわゆる建売住宅では26.4%で、分譲マンションは3.0%、中古戸建て住宅は5.0%にとどまっている。
図表2 住宅種類別の太陽光発電搭載率
これを新築住宅の平均で6割に引き上げるのは容易ではない。
自治体が補助金などを実施して、積極的に導入を進めている地域では搭載率が極めて高いところもあるが、現実的には北海道や日本海側の積雪地帯などでは日照時間が短く、太平洋側でも大都市の住宅密集地域でビルに囲まれた場所では、やはり太陽光発電のメリットは小さい。
それでも搭載を進めるためには、検討会の資料にも示されているように補助制度に加えて融資や税制などの面でメリットを拡充すると同時に、多少のコストがかかっても地球環境の改善に貢献するという国民の意識を高める努力も欠かせないだろう。
太陽光発電設備の搭載率や技術力は中国や欧米に後れを取る
かつて、わが国は世界一の太陽光発電設備の搭載率を誇り、技術力でも世界をリードしてきた。化石エネルギーに恵まれないわが国でも、太陽光発電などの再生可能エネルギーなら資源大国になり得る可能性を示したといえよう。
しかし、行政改革の流れのなかで太陽光発電搭載に対する補助金が廃止され、うま味が乏しくなったことから搭載率が急速に低下。技術力や価格競争力などさまざまな面で世界に後れを取ることになった。
国際エネルギー機関・太陽光発電システム研究協力プログラムの「世界の太陽光発電市場の導入量速報値に関する報告書」によると、日本の2000年〜2018年末時点の太陽光発電システム累積導入量は、56.0GWとなっている。世界でもっとも導入量の多い中国(176.1GW)に対して3分の1程度で、アメリカ(62.2GW)にも遅れを取っている状況だ。
わが国の太陽光パネル生産メーカーは、2010年までに世界のトップ10から姿を消し、近年では世界のシェアは10%を切るレベルにまで低下しているのが現実。わが国で搭載される太陽光発電設備のほとんどは、中国製または韓国製になっているのは周知の通りだ。
そのため、経済産業省を中心に太陽光発電装置に関する開発や生産体制の再整備が進められるなどの改革が促進されている。このほどロードマップを公表した「検討会」の設置もその一環といっていいだろう。
これから住宅を取得する人は、省エネ性能の高い住まいを選ぼう
以上のように、省エネ性能の高い住まいに対しては、これから住宅取得支援策が一段と充実する可能性がある上、取得後の光熱費負担が軽くなるというメリットもある。
したがって、今後、住宅の取得を考えている人は、太陽光発電設備を搭載したり、ZEH化のリフォームを行うなど、省エネ性能の高い住まいづくりをおすすめする。そうすることで、カーボンニュートラルといった社会貢献にもつながるだろう。
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