耐震リフォームを検討しているなら、まずは耐震に関する知識を備えたうえで、「費用相場」や「一般的な工期」について確認することが大切だ。また、耐震リフォームで注意すべきポイントや、失敗しない業者の選び方について解説する。
耐震リフォームが必要な理由
日本が地震大国である以上、耐震への備えは欠かせない。
近年においては、以下のように震度7を超える大地震が相次いで発生している。
1995年 | 阪神・淡路大震災 |
2004年 | 新潟県中越地震 |
2011年 | 東日本大震災 |
2016年 | 熊本地震 |
しかし、日本では、これら震度7の地震に耐えられない住宅が多く存在している。それは、住宅が建築された年によって、求められる耐震基準が異なるためだ。住宅の耐震基準は、建築基準法により定められており、大地震により甚大な被害が発生する度に見直されてきた。
耐震基準は、大きく以下の3つに分けられる。
- ①旧耐震基準
- ②新耐震基準
- ③現行耐震基準
それぞれどのような違いがあるのか、確認しておこう。
①旧耐震基準
旧耐震基準は、1981年(昭和56年)5月31日以前に建築確認された住宅に適用されている。なお、建築確認から完成(竣工)までは戸建てで半年前後、マンションで1年以上が一般的。完成年月しかわからない場合は、1982年以降の完成物件であれば、新耐震基準と考えていいだろう。
旧耐震基準では、「震度5程度の地震でも倒壊しない」ことが求められていた。しかし、近年、震度6以上の地震が頻発していることを考えると、旧耐震基準は現状に即していない。旧耐震基準で建築されている住宅は、耐震リフォームを検討することが重要だ。
②新耐震基準
新耐震基準は、1981年(昭和56年)6月1日以降に建築確認された住宅に適用されている。新耐震基準は、1978年に発生した震度5の宮城県沖地震で、多くの住宅が甚大な被害を受けたことを受けて制定された。
新耐震基準では主に壁量の規定が見直され、「震度6強〜7程度の地震でも倒壊しない」ことが求められるようになった。
③現行耐震基準
現行耐震基準は、2000年(平成12年)6月1日の建築基準法改正の際に定められた基準を指す。1995年に発生した震度7の阪神・淡路大震災で、新耐震基準の弱点が露呈したのをきっかけに改定された。
現行耐震基準は、新耐震基準同様に「震度6強〜7程度の地震でも倒壊しない」とされたうえで、さらに地盤の強さに応じた基礎構造にすること、「引き抜き力」によって柱が抜けないよう接合部を補強すること、耐力壁のバランスを取ることなどが義務づけられ、強化が図られた。
2000年以前に建築確認された住宅は耐震診断を受けると安心
基本的には、1981年以降に建築された新耐震基準に沿った住宅は、震度7程度の地震には耐えるため問題ないとされている。
しかし、1981年から2000年の間に建てられた住宅は、現行の耐震基準には沿っていない可能性がある。
そのため、旧耐震基準で建てられた家はもちろん、2000年以前に建築された現行の耐震基準の規定を満たしていない住宅は、耐震診断を受けることをおすすめしたい。
耐震・制震・免震の違い
耐震と似た言葉に制震と免震がある。それぞれどのような違いがあるのか、確認しておこう。
耐震とは
耐震とはその名の通り、揺れに「耐える」ことを意味する。
住宅においては、壁量を増やしたり、接合部を強化したりすることで補強し、住人が避難するまで倒壊させないことを目指すのが「耐震」だ。
耐震は繰り返しに弱いのが特徴で、何度も地震を体験することでビスや釘が緩み、性能が落ちてしまうデメリットがある。このデメリットを補うには、制震を併用するのが効果的だ。
制震とは
制震とは、揺れを「小さく抑える」ことを目的としている。
具体的には、建物の内部におもりやダンパー(地震の揺れのエネルギーを吸収する装置)などの部材を組み込んで、揺れを吸収する。強風による揺れにも効果的なので、高層建築物には有効な手法の一つだ。制震は耐震と異なり、繰り返しに強いことが特徴であるため、耐震と合わせて対策をすると高い効果が期待できる。
免震とは
免震とは、揺れを「受け流す」ことを目的としている。
たとえば建物を積層ゴムなどの免震装置の上に建てれば、揺れが建物に直接伝わりにくくなり地震の影響を受けにくくなる。
免震は、建物の倒壊はもちろん、家具の破損など建物内部の損傷を防ぐのにも有効だ。
耐震リフォームの価格・費用相場・工事期間
耐震リフォームにかかる費用は、住宅の構造や大きさにより大きく異なる。一般財団法人 日本建築防災協会の「耐震改修工事費の目安」によると、木造住宅の耐震リフォームで最多の価格帯は以下のとおりとなっている。
リフォーム内容 | 費用(目安) |
---|---|
木造住宅(平屋〜2階建て) | 100万円〜/戸 |
ここでは個人が実施することが多い、木造住宅の耐震リフォームの費用目安を紹介しよう。
木造住宅の耐震リフォームの費用目安
木造住宅の耐震補強の費用目安は、平屋か2階建てか、また、広さがどれくらいかにより異なる。
リフォーム内容 | 費用(目安) | 工期(目安) |
---|---|---|
50㎡ | 110万円〜 | 1週間〜1カ月(工事内容により異なる) |
75㎡ | 140万円〜 | |
100㎡ | 160万円〜 | |
125㎡ | 180万円〜 | |
150㎡ | 200万円〜 | |
175㎡ | 220万円〜 | |
200㎡ | 240万円〜 | |
225㎡ | 250万円〜 | |
250㎡ | 270万円〜 | |
【出典】一般財団法人 日本建築防災協会の「耐震改修工事費の目安」 |
リフォーム内容 | 費用(目安) | 工期(目安) |
---|---|---|
75㎡ | 150万円〜 | 1週間〜1カ月(工事内容により異なる) |
100㎡ | 180万円〜 | |
125㎡ | 200万円〜 | |
150㎡ | 230万円〜 | |
175㎡ | 250万円〜 | |
200㎡ | 270万円〜 | |
225㎡ | 280万円〜 | |
250㎡ | 300万円〜 | |
300㎡ | 340万円〜 | |
【出典】一般財団法人 日本建築防災協会の「耐震改修工事費の目安」 |
部位ごとの耐震リフォーム費用目安
続いて木造住宅のリフォーム部位ごとの費用目安を紹介しよう。
リフォーム内容 | 費用(目安) | 工期(目安) |
---|---|---|
基礎補強 鉄筋コンクリートベタ基礎増打ち | 150万円〜 | 3〜5日 |
鉄筋コンクリート基礎抱き合わせ | 95万円〜 | 4〜6日 |
壁補強 筋交いの新設 | 15万円〜/箇所 | 3〜4日 |
壁補強 構造用合板の新設 | 15万円〜/箇所 | 3〜4日 |
瓦屋根から金属屋根へのふき替え | 250万円〜 | 6〜8日 |
ブロック塀をアルミフェンスに変更 | 60万円〜 | 5〜7日 |
ブロック塀の補強 | 60万円〜 | 5〜7日 |
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耐震リフォームの計画から施工の流れ
耐震リフォームを希望するときには、以下の4つのステップを踏むのが一般的だ。
- 1. 耐震診断
- 2. 耐震改修計画
- 3. 耐震リフォームの見積もり・計画
- 4. 耐震リフォームの実施
順番に見ていこう。
1. 耐震診断
耐震リフォームを検討するときには、まずは耐震診断が必要だ。
まずは、一般財団法人 日本建築防災協会が提供している「簡易診断」でセルフチェックしてみよう。
セルフチェックは、建てられた年やこれまでの被災歴、増改築歴、建物の形状など全10問に回答し、スコアを出す仕組みとなっている。
セルフチェックで耐震性に不安があると指摘された場合や、初めからプロに依頼したいときには、自治体に相談するといいだろう。
ほとんどの自治体は、主に旧耐震基準に沿って建築された木造住宅を対象に、耐震診断の補助制度を設けている。
【関連記事】>>耐震補強をするなら、補助金制度、税制優遇制度を活用しよう!
耐震診断は以下のように行われるのが一般的だ。
①予備調査
耐震診断を申し込むと、まずは建築士などの専門家が、建物の設計図や増改築の有無などの情報を収集し、概要を確認することから始める。設計図などがない場合には、新たに作成する必要があり、実費となる可能性がある点には留意しよう。概要を把握したら、建物の構造に適した耐震診断の方法を検討し、決定する。
②現地調査
耐震診断の方法が確定したら、必要なデータを収集するために、実際に現地で現状を確認する現地調査が行われる。現地では、地盤や基礎の状況、壁の配置や強さ、劣化状況などが調査され、総合的に評価される。必要と判断されると、内外装の一部をはがすなどし、精密診断が行われる場合もある。
③耐震性能評価
調査の結果をもとに、耐震性能の評価が実施される。診断の結果によっては、耐震リフォームよりも建て替えを選択したほうがよい場合もあるだろう。
2. 耐震改修計画
耐震リフォームを実施すると決めた場合、専門家に目的に応じた計画を立ててもらおう。
計画については、平面図などで内容をチェックし、なぜそこの補強が必要なのかをきちんと確認することが大切だ
一般的に耐震リフォームは高額になるため、予算を伝えたうえで、その金額で最大限耐震性を高められる計画を立ててもらう必要がある。予算に合わないときには、優先順位をつけてもらい、効果が高い箇所からリフォームを進めよう。
なお、計画を立てる業者を探す場合は「一括見積もりサイト」もおすすめだ。複数の業者に一度に連絡することができ、業者を探したり連絡する手間を省くことができる。
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3. 耐震リフォームの見積もり・契約
計画に納得したら、リフォーム業者に見積もりを出してもらい、問題がなければ契約を結ぼう。
なお、耐震リフォームに際し、自治体の補助金制度を活用する場合には、工事に入る前に申請が必要になるケースが多い。事前に確認し、対象外とならないように注意しよう。
4. 耐震リフォームの実施
契約を結んだら、計画に従って工事が実施される。
耐震リフォームをする際のポイントとは?
ここからは、耐震リフォームをする際のポイントを3つ紹介していく。
建物の部位ごとのポイント
まずは建物の部位ごとのポイントをチェックしよう(なお、ここでいう建物は、木造住宅を想定している)。
壁の補強
壁の補強は、以下の3点を行う。
- ・壁を増やして配置バランスを改善
- ・構造用合板や筋交いで補強
- ・接合部を金具で固定
四角い箱を想像してみよう。中が空洞の箱は、横から押すと負荷に耐えられず容易に凹んでしまう。家も同様に、中に壁が少ないほど横からの負荷に弱くなる。
そのため耐震リフォームでは、家の中に壁を増やし、横からの負荷に耐えられるようにしなければならない。ただし、やみくもに壁を増やすのではなく、配置バランスを考えることが重要だ。
また、四角い棒だけでできた枠も、負荷を加えると容易にゆがむことがわかるだろう。そのため柱と柱の間に「筋交い」と呼ばれる木材を配し、さらに板を打ち付けることで、負荷に耐えられるようにすると耐震性を向上できる。
接合部に関しては、柱が抜けないように金具でしっかり固定することも大切だ。壁や柱を増やしても、しっかりと接合されていなければ、揺れたときに抜けてしまう。2000年の建築基準法改正では、接合金具の取り付け規定が設けられた。2000年以前に建築された住宅では、接合部が十分に固定されていないケースがあるため注意しよう。
屋根の軽量化
屋根の耐震対策としては、軽量化が基本となる。建物は重心が高くなるほど不安定になり、揺れの影響を受けやすくなるためだ。
とくに瓦屋根はほかの屋根材と比較して重い。阪神・淡路大震災では、粘土瓦を乗せた家が多く倒壊したため、屋根を軽量化する動きが加速した。屋根材を軽いものに変更すると、建物の重心が下がり安定するため、耐震性が向上するというわけだ。
屋根材をふき替えるときには、現在の屋根材よりも軽量な屋根材を選ぶことがポイントになる。そのため、耐震性の向上を目的とするリフォームでは、屋根材のなかではもっとも軽量な金属屋根が選ばれるのが一般的だ。屋根のふき替えによる住宅の軽量化は、耐震性を向上させるだけでなく、住宅寿命を延ばすのにも貢献するため、費用対効果が高い。優先的に実施するといいだろう。
基礎部分の補強
基礎部分の補強は、主に以下の2つが考えられる。
- ・ひび割れを補修
- ・基礎を増し打ちする
基礎にひび割れがある場合には、エポキシ樹脂などを注入して穴を防ぐ必要がある。ひび割れから雨水が浸入することにより中の鉄筋がさびて膨張し、基礎が割れる「爆裂」を防ぐことが目的だ。
既存の基礎に鉄筋が入っていない場合は、鉄筋コンクリート造の基礎を足す「増し打ち」で一体化させる方法を取る。いくら壁や柱などで建物を補強しても、土台である基礎がしっかりしていなければ、耐力が落ちてしまう。基礎が無筋である場合には、壁と合わせての補強を検討しよう。
合わせて制震補強も行うとベター
耐震補強は地震による揺れに耐え、家の倒壊を防ぐ効果があるが、繰り返しの被災に弱いのが特徴だ。
そのため、建物の揺れ幅を小さくする「制震補強」を同時に行うと、より地震に強い家にできる。耐震補強に合わせ、揺れを吸収するダンパーなどの部材を設置すると、高い効果を得られるだろう。
ただし、制震はあくまで住宅に十分な耐震性が備わっていることが前提であることを忘れてはならない。予算に問題がある場合には、まずは耐震を優先しよう。
助成制度を活用すると費用を抑えられる
耐震診断や耐震補強に関しては、多くの自治体が助成制度を用意している。自治体内にある耐震性の低い建物を減らすことは、地域全体の防災につながるためだ。
とくに旧耐震基準の建物については、自治体が積極的に助成しており、耐震診断については無料としているケースが多い。また、熊本地震で現行の耐震基準の耐震性の高さが評価されたことから、近年は現行の耐震基準に沿わない1981年から2000年までの建物を対象にする自治体も増えている。
さらには耐震診断だけではなく、耐震リフォーム設計や、耐震補強工事に対する助成をしている自治体もあるのでチェックしよう。
なお、自治体がどのような耐震リフォームを支援しているかは、一般社団法人 住宅リフォーム推進協議会が提供している「支援制度検索サイト」から確認できるので利用しよう。
失敗しない耐震リフォーム業者の選び方
耐震リフォーム工事で失敗しないためには、業者選びが重要だ。耐震リフォームは一般的なリフォームと異なり、耐震設計など高度な知識が必要になるためだ。業者を選ぶときのポイントを3つ紹介しよう。
耐震に関して高い知識のある建築士や建築施工管理技士がいるか
耐震リフォームを依頼する業者を探すときには、住宅の構造や耐震性に関する高度な知識を有した建築士や建築施工管理技士がいる業者を選ぶようにしよう。
耐震リフォームは床やクロスの張り替えといった、表面的なリフォームとは大きく性質が異なる。家の構造から抜本的に見直し、耐震設計する必要があるため、それだけの技術を要した人材がいるリフォーム業者でなければ対応できない。
耐震技術認定者がいる業者なら安心
とくに木造住宅に関しては、耐震技術認定者がいる業者を選ぶと安心だ。耐震技術認定者とは、日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(木耐協)が設けている「耐震技術認定者講習」を受講し、考査試験に合格した人を指す。
受講資格は一級・二級・木造建築士、もしくは木造建築工事で7年以上の実務経験がある者に限定されている。3年ごとの更新受講も義務づけられているため、耐震に関する高い知識を有していると期待できるだろう。
自治体の耐震化支援事業に対応している業者であるか
自治体が耐震リフォームに対する補助事業を利用する際には、利用要件の中に自事業者の指定があるかを確認しよう。指定があれば、その業者に依頼することになる。
まずは自治体で耐震リフォームに対する補助事業を行っているかを確認し、登録事業者のリストをもらうといいだろう。
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