マンション売買に携わってきた長年の経験から、マンション管理は資産価値を左右する重要な要素だと言えます。公正取引委員会のメスが入った大規模修繕工事の談合問題をふまえて、マンション管理業界の問題点や改善点、管理会社の良し悪しについて解説します。(一心エステート株式会社代表取締役:高田一洋)※画像:マンション大規模修繕の様子/出所:PIXTA
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「マンションは管理を買え」は、本当なのか
「マンションは管理を買え」という言葉をよく耳にします。私自身、長年実需のマンション売買に携わってきた経験から、つくづくこれは正しいと感じています。適切にマンションが管理されているかどうかは、住まいの快適性だけでなく資産性にも大きな影響を与えます。
マンションの老朽化などが取りざたされている昨今、マンション管理に関する課題はいくつもあります。その一つが、修繕積立金の不足です。多くの場合、マンションの修繕費は物価上昇を考慮せずに設定されています。建材や材料費、工事の費用が上昇していく中で、当初予定していた金額で大規模修繕工事を行うことは難しくなってきています。
特に、総戸数が少ないマンションでは思うように大規模修繕ができず、外観の美しさや共用部の維持管理に支障をきたすことがあります。これはマンションの基本的な価値自体を毀損(きそん)することになり、かなりリスキーな状況だと言えるでしょう。
単純に考えても、住戸数が多いマンションの方が修繕費用を分配する際の1戸あたりの負担が少なくなります。例えば、2,000万円の工事費用を10人で負担するのと、3,000万円を50人で負担するのとでは大きな違いがあります。適正な管理が行われていれば問題ないかもしれませんが、リスクはなるべく軽減しておくことが望ましいでしょう。
修繕積立金の金額は、資産価値に直結する
都内にも管理が十分でないマンションは少なからず存在します。そのような物件でも都心部であれば価値があると言えるのか、それとも避けたほうがよいのかという判断は難しいところです。
私は、修繕積立金が所有者(住民)で賄えず、借り入れをしている物件は絶対におすすめしません。一見すると、マンションの管理組合が赤字でも個人には関係ないように思えるかもしれません。
しかし、例えるなら自身が出資している企業が赤字であるようなものです。修繕計画書などを見て借入金があるマンションの場合、返済計画は立てられるでしょうが、その分月々の積立金が高くなります。
修繕積立金が高くなることは、市場価値の低下に直結します。同じ広さで同じ価格のマンションがあった場合、一方は修繕積立金が月5万円、もう一方が月50万円(極端な例ですが)だとすれば、どちらを選ぶかは明らかでしょう。
修繕積立金の金額は、不動産を売却する際の競争力の一因となっているのは間違いない事実です。もちろん、美しさや清潔さ、利便性や管理状態など、他の要因も合わせて評価されますが、修繕積立金の金額が価格競争力に影響するのは明白です。
このような情報は一般的な不動産ポータルサイトでは見つけにくく、実際に物件を見ないとわからないことが多いです。
マンション管理会社の良し悪しはどう判断する?
マンション管理会社の良し悪しを判断する際は、いくつかの重要な要素があります。最も基本的なポイントは、管理費とサービス品質のバランスです。同じ価格なら高品質のサービスを提供する会社を選ぶべきですし、同じ品質なら安い方がいいのは当然です。
最近では、管理費の値上げ要請が増えていますが、その背景には人手不足や最低賃金の引き上げがあり、業界全体の傾向と言えます。しかし、単に値上げに応じるのではなく、そのサービス内容が適切かどうかを見極める必要があります。
管理会社を変更すべき事案としては、以下のようなケースが考えられます。
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1.管理委託費がサービスの質に対して明らかに割高である
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2.理事会からの要望や質問に対して適切に対応しない
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3.清掃や設備点検などの基本業務の質が低下している
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4.修繕積立金の運用や会計処理に不透明な部分がある
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5.大規模修繕工事の際に不適切な業者選定や価格設定を行う
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特に注意が必要なのは、修繕積立金の管理です。マンション管理組合の財産である修繕積立金を適切に管理し、透明性のある運用を行っているかどうかは、管理会社の良し悪しを判断する重要な指標となります。
私が実際に見てきた中では、理事会との連携がスムーズで、マンション住民のニーズに敏感に対応できる管理会社が、長期的に見て資産価値を維持・向上させる傾向にあります。逆に、コミュニケーションが不足していたり、修繕計画や費用に関する説明が不十分な管理会社は、将来的な資産価値の低下リスクを高めてしまうことがあります。
最近の新築・高級マンションでの管理会社や管理方法のトレンド

最近の新築マンションや高級マンションでは、管理の質をより重視する傾向が顕著になっています。高級マンションの場合、単に清掃や設備管理だけでなく、コンシェルジュサービスやセキュリティー強化、共用施設の充実など、より付加価値の高いサービスが求められています。
管理会社の選定において、大手デベロッパー系の管理会社が依然として強い影響力を持っていますが、最近では住民の満足度や評判を重視する動きも出てきています。
管理方法のトレンドとしては、IT技術を活用した効率的な管理方式が増えています。例えば、スマートフォンアプリを使った住民向け情報提供や、オンラインでの各種手続き、IoT機器による設備の遠隔監視などです。これにより、少ない人員でも質の高い管理サービスを提供できるようになっています。
また、環境への配慮も重視されるようになり、省エネルギー設備の導入や、ゴミ分別の徹底、共用部のLED化など、環境負荷を減らす取り組みも管理会社の評価ポイントになっています。
高級マンションでは、管理会社の選定が物件の価値を大きく左右するという認識が広まっており、デベロッパーも販売時点から将来の管理体制について具体的に説明するケースが増えています。良質な管理体制が整っていることが、購入希望者にとって重要な判断材料になっているのです。
談合問題に見るマンション管理業界の問題点

マンション管理会社は、ともすればブラックボックス化しやすい面があります。2025年3月、マンション大規模修繕工事における談合疑惑が表面化し、業界に大きな波紋が広がっています。
公正取引委員会は2025年3月4日、マンションの大規模修繕工事で談合を繰り返した疑いがある施工会社約20社に、立ち入り検査を実施しました。その後も追加の立ち入り検査が行われ、現在では約30社が調査対象となっています。
これらの会社は、マンションの外壁や内装、防水などの工事を巡る見積もり合わせや入札の際に、事前に情報交換をし、工事価格や受注業者をあらかじめ決めていた疑いがあるとされています。
公正取引委員会は、これらの談合行為がタワーマンションを含め、数十年前から繰り返されており、工事会社が受注価格の低下を防ぐことや、各社が分担して利益を得ることを目的としていたとみています。その結果、工事費が不当に高騰し、管理組合側の負担が増加した可能性があります。
さらに問題となっているのは、設計コンサルタントやマンション管理会社の関与です。マンション住民で構成される管理組合は専門知識が乏しいため、発注業務を外部に委託するケースが多く、これらのコンサルタントや管理会社が談合に関与していた可能性も指摘されています。
今回の談合疑惑以外にも、マンション管理業界では不祥事が度々報告されています。1月には、大阪で9億円もの修繕積立金が着服された疑いのある事件が発覚し、管理組合の理事長や管理会社社員による横領事件も報告されています。修繕積立金という多額の資金を管理している立場を悪用した不正は、マンション管理会社の信頼を大きく損なう問題です。
マンション管理業界の改善点と今後の対策
マンション管理業界の改善すべき点については、大きく分けて以下のような点があると思います。
1. 管理費や修繕積立金の使途について透明性を確保
まず、透明性の確保が最も重要です。管理費や修繕積立金の使途について、すべての住民が理解できるよう、わかりやすい形で情報公開する仕組みが必要です。特に大規模修繕工事などの高額な支出を伴う案件については、複数の業者から見積もりを取る際の基準を明確にし、選定プロセスを透明化することが必要です。
今回の談合問題を受けて、管理組合は入札プロセスをより慎重に監視すべきでしょう。業者選定時には、必ず複数の独立した情報源から相場観を把握し、適正な価格で工事が行われるようチェック機能を強化する必要があります。また、設計コンサルタントや管理会社と施工会社の関係性についても、注意深く確認することが重要です。
2. 第三者によるチェック機能を強化
次に、第三者によるチェック機能の強化です。マンション管理士などの専門家を定期的に入れて、管理組合の運営や管理会社のパフォーマンスを客観的に評価する仕組みを作るべきです。これにより、管理会社と管理組合の間の情報の非対称性を減らすことができます。
管理会社の選定や評価の基準を標準化することも重要です。将来的には管理の質がスコア化され、インターネット上で比較できるようなシステムが生まれると思います。そのような仕組みがあれば、管理会社間の健全な競争が促進され、サービスの質の向上につながるでしょう。
3. 住民が管理組合の活動に主体的に関わる
最後に、住民の管理意識の向上も不可欠です。マンション管理は管理会社に丸投げするものではなく、住民自身が主体的に関わることで、より良い管理が実現します。管理組合の活動に積極的に参加し、必要な知識を身に付けることで、管理会社に対する適切なチェック機能を果たすことができるでしょう。
今回の談合問題を機に、マンション管理業界の体質改善が進むことを期待しています。適切な競争環境の中で、真に住民(管理組合)の利益を考えたサービスが提供されることで、マンションの資産価値の維持・向上につながるはずです。
管理会社の選択は、マンションの資産価値を大きく左右します。適切な管理体制を構築し、定期的に見直すことで、マンション住民全体の財産を守ることができるのです。そのためには、管理組合と管理会社、そして住民がそれぞれの役割を理解し、協力し合うことが何よりも重要だと言えるでしょう。