年々、住宅トラブルが増えている。国土交通省が管轄する公益財団法人に寄せられる相談件数は、この20年間ほぼ毎年増加しており、2018年度には過去最多となった。住宅トラブルは、雨漏り、ひび割れ、床鳴りなどが多いというが、トラブルに巻き込まれないためにはどうすればいいのだろうか。(住宅ジャーナリスト・山下和之)
トラブル電話相談件数は、過去最多
新築・リフォーム合わせて年間3万件超

公益財団法人の住宅リフォーム・紛争処理支援センターは、国土交通大臣から指定を受けた住宅専門の相談窓口。その電話相談窓口である「住まいるダイヤル」では、住まいに関するさまざまな相談に対して、経験豊富な建築士が、無料で電話相談を受けている。
また、図表1にあるように、過去10年間で見ても相談件数は右肩上がりに増えている。直近では、2017年に前年比6.7%の減少だったのが、2018年には一転して14.6%相談件数が増加。年報では「新築等住宅に関する相談」と「リフォームに関する相談」に分けて集計しているが、2018年度にはともに2けた台の増加だった。同センターでは、毎年、電話相談の件数と内容をまとめた『住宅相談統計年報』を公表している。その最新版である住宅相談統計年報2019によると、2018年度の相談件数は過去最多の32,253件で、20年前と比べると相談件数は約6倍になっている。

住宅トラブルの半数以上が、築3年以内に発生
トラブルに巻き込まれないためにも、現実に「いつ」「どんな住宅で」「どんなトラブルが多いのか」を知っておく必要がある。
まず、トラブルの発生時期について見てみよう。なんと、驚きなのは「新築等住宅に関する相談」の35.5%が、築1年未満に発生しているということだ。
【不具合発生時の築年数】
・1年未満 35.5%
・~2年未満 9.8%
・~3年未満 5.9%
・~5年未満 8.9%
・~10年未満 22.6%
・~15年未満 6.1%
不具合発生時の築年数でいうと、「~2年未満」が9.8%、「~3年未満」が5.9%で、4年目以降は各年6%未満だ。
築年数を重ねるごとに相談件数はおおむね下がっているのだが、築0~3年未満のうちにトラブルが発生し、相談があったケースをまとめると、なんと51.2%と半数にものぼる。トラブル相談のタネは築3年未満に発生することが多いのだ。
戸建てに関する相談が8割
なかでも木造住宅のトラブルが多い傾向

次に、相談が多い住宅の形式を見てみよう。戸建てかマンションかで比較すると、「新築等住宅に関する相談」「リフォームに関する相談」ともに戸建てが80%近くを占め、マンションなどは20%程度にとどまっている。
また、「新築等住宅に関する相談」では持ち家が約90%、「リフォームに関する相談」でも約95%を持ち家が占めている。
住宅の構造では、「新築等住宅に関する相談」の約75%、「リフォームに関する相談」の約70%を木造住宅が占めている。
つまり、木造の戸建て、それも持ち家に関する相談が多いということになる。
新築でのトラブルの多くはハード面
ひび割れ、雨漏り、性能不足など
では、トラブル相談の内容はどうだろうか。
不具合の中身をみると、戸建て住宅の相談で最も多かったのは、外壁や基礎などの「ひび割れ」で、次いで外壁や屋根などの「雨漏り」、設備機器、外構などの「性能不足」などが続き、そのほか「はがれ」「変形」「汚れ」などとなっている。

「新築等住宅に関する相談」では、「雨漏り」「ひび割れ」などの不具合が生じているケースがほぼ8割弱。不具合はないものの、取引関係のトラブルなどの相談が2割強となっている。相談の多くが、ハード面のトラブルだということが分かる。
さらに、主なトラブル事象の発生時期についても特徴がある。「床鳴り」「雨漏り」「ひび割れ」の3つとも、築3年未満に発生していることが多い。
特に「床鳴り」は、相談の6割以上が築1年未満に寄せられている。一方、「雨漏り」は年数が経過してからも比較的多く発現する傾向にあるようだ。 それに対して、マンションなどの共同住宅でも「ひび割れ」がトップだが、外壁のほか内壁でも多くみられるのが、戸建てとの違いになっている。次に、外壁・内装などの「はがれ」、設備機器・内壁などの「性能不足」が続き、以下「雨漏り」「漏水」「汚れ」などとなっている。
リフォームトラブル相談では「はがれ」がトップ
訪問販売の押し売りも
マンションでも、「はがれ」がトップだが、戸建てと違って内装・外装のはがれが多いのが特徴。次いで、床・開口部・建具などの「変形」、設備機器・開口部・建具・屋根などの「性能不足」と続いている。以下、「漏水」「汚れ」「きず」などとなっている。

なお、リフォームに関しては、依然として訪問販売によるトラブルが多い点も指摘されている。訪問販売によるトラブルに関する相談は年間600件を超えており、リフォーム相談全体の10%近くを占めている。この傾向はここ数年ほとんど変化がないそうだ。
相談者は60歳代以上の高齢者が多いので、本人だけではなく周りの家族も十分に注意しておく必要がありそうだ。
不動産業者と買い主の、知識・経験の差が
トラブル解決の大きなネックに
住宅やリフォームのトラブルは、発生してしまってからでは、解決が簡単ではないといわれている。
売り主などの「事業者」と、買い主である「消費者」の間には、経験や知識に関して大きな差があるのだが、住宅トラブルの解決を難しくしているのが、この経験・知識の差だ。
不動産会社や仲介会社、住宅メーカーといった不動産会社の担当者は、長年の経験を持つその道の専門家。しかし、買い主である消費者にしてみれば、住宅の取得やリフォームなどの機会はそうそうあるものではなく、せいぜい一生に1回か2回のことだ。当然、詳しい知識を持っている人は多くない。取引をする双方の、知識や経験の非対称性が極めて大きいのだ。
売り主である業者側のほうが圧倒的優位な立場にあるわけで、トラブルに巻き込まれた消費者が相手の言い分に負けないようにするのは容易なことではない。
かといって、住宅トラブルなどに強い建築家、弁護士などに交渉を依頼するとけっこうな費用負担になる。仮に、弁護士に依頼したとしても、交渉で解決するのは容易ではなく、往々にして裁判ざたになってしまう。
その結果、裁判で勝訴して賠償金などを得たとしても、弁護士費用の負担などで大幅なマイナスになるのが普通といわれている。
トラブル後の相談ではなく、事前の相談が肝心
それだけに、大切なことは「知見相談」――つまり、事前に相談して、トラブルが発生しないようにするということだ。
ある自治体の不動産業担当部署の相談担当者はこんなふうに語っている。
いかに事前の相談が重要であるかを示すコメントだが、残念ながら事前に住宅に関する知識を取得するための「知見相談」の割合は全体の2割から3割前後にとどまっているのが現実だ。
トラブル発生後の相談が6割を超える
電話相談全体の相談内容をみると、図表2にあるように、「住宅のトラブルに関する相談」が64.0%で、「知見相談」が22.2%、「その他相談」が13.7%だった。
また、「新築等住宅に関する相談」「リフォームに関する相談」の別にみても、「住宅のトラブルに関する相談」が6割を超えている点で共通している。

つまり、多くの人たちが、住宅の取得やリフォーム工事などによってトラブルが発生してしまってから、電話相談していることになる。
これは、大きな問題だ。住宅を購入する際には、不動産会社からの情報をうのみにするだけでなく、こうした窓口を利用して、知識を得ておくことが望ましい。
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