台風や地震など、自然災害によって被災してしまった場合、どのような公的サポートが受けられるのでしょうか? 現金の支給や貸付制度、住宅ローンの返済負担軽減など、生活再建の支えとなる制度はきちんと確認しておきましょう。(優益FPオフィス 代表取締役:佐藤 益弘)
前回は、実現可能な災害対策を行うために必要な発想「リスクマップ」という考え方と、時系列に沿ってどのような災害対策があるかをお伝えしました。今回は、仮に被災した場合に備えて、経済負担を緩和する手段である公的なサポートをいくつか紹介していきます。
災害対策については、ある程度の割合で「予防(事前対応)」ができていれば、万一被災した場合でも「応急(被災直後に行う事後対応)」、「復旧(元の生活に戻ることを目指す事後対応)」がスムーズに行えるはずです。
ただ、被災した際の「応急」や「復旧」といった事後対応の全てを自分だけで行えることはまれです。もし自然災害に遭ってしまった場合は、さまざまな支援制度「公助」がありますから、まずはお住まいの居住地で「どのような公的制度があるのか?」「利用するためにどうしたら良いか?」を事前に知っておくことが大切になります。
被災後の「住宅」に関する公的支援は?
それでは早速、住宅に関する特徴的な支援制度を6つ紹介しましょう。
(1) 被災者生活再建支援制度
この制度は、被災者生活再建支援法及び災害救助法施行令に基づき、自然災害によって住んでいた住宅(自宅)が全壊するなどして生活基盤に甚大な被害を受けた世帯に対して、「被災者生活再建支援金」を支給し、生活の再建を支援するものです。
全壊の場合、最高で300万円(基礎支援金100万円+加算支援金〈建設・購入〉200万円)になります。この支援制度を受けられるのは、実際に住んでいた住宅になりますから、空き家や別荘、賃貸住宅などは対象になりません。
※参照:内閣府 防災情報のページ「被災者生活再建支援法」
(2) 住宅の応急修理制度
この制度は、災害救助法に基づき、大規模半壊または半壊の被害を受けた住宅(自宅)のうち、屋根、壁、床や居室、台所、トイレ等日常生活に必要な場所に応急的な修理(原則、災害発生から1ヵ月以内で完了)を行えば住み続けられる場合に利用できるものです。
り災証明書や応急修理見積書など、所定の書類を住まいのある自治体窓口に提出して手続きを行うと、かかった費用を自治体が業者へ直接支払ってくれます。自治体によっては、限度額の上乗せや借家やマンションの共用部分への適用が可能なケースもあるので、確認しておきましょう。
なお、この制度は、応急仮設住宅や民間賃貸住宅の借上げを利用すると、対象になりません。
※参照:内閣府「災害救助法の概要(令和2年度)」
(3) 災害援護資金(貸付制度)
この制度は、被災により負傷をしたり住宅(自宅)・家財の損害を受けたりした場合に受けられる優遇融資制度です。都道府県内で災害救助法が適用された市区町村が1つ以上ある災害が対象で、
①世帯主が災害により負傷し、その療養に要する期間が概ね1カ月以上である
②家財の1/3 以上被害に遭っている
③住宅が半壊または全壊、流出した
上記いずれかの被害を受けた世帯が対象ですが、世帯人数によって所得制限があります。貸付限度額は、住宅の損害状況等(家財の損害、住居の半壊または全壊等、世帯主の負傷)に応じて異なり、150万〜350万円となります。
(4) 災害復興住宅融資(住宅金融支援機構)
自然災害や住宅金融支援機構が、個別に指定する災害により被害を受けた住宅(自宅)を復旧するための融資です。こちらは国が主体ではなく、民間銀行と共同でフラット35の貸付を行っている、住宅金融支援機構が主体となっています。
フラット35とは異なり、住宅金融支援機構からの直接融資になります。住宅金融支援機構の定める融資可能な住宅の基準や借入限度額、融資金利などが決まっていますので、まずは住宅金融支援機構に相談して、資金繰りなど問題ないように融資を受けましょう。
災害復興住宅融資を受ける際には、り災証明書が必要になるので、発行を忘れないようにしましょう。
※参照:住宅金融支援機構「災害復興住宅融資」
(5) 被災時に行われる住宅ローンの返済負担軽減策
東日本大震災などの大規模災害の際には、住宅ローンを借りている被災者(住宅が半壊・全壊となった人等)を対象に、ローン金利の負担軽減措置等のさまざまな対応が広範囲に行われました。
例えば、フラット35(住宅金融支援機構)の場合、最長5年の返済金払込みの一部、または全部の据え置き猶予や返済期間の延長、据え置き猶予期間中の金利の引下げ等の軽減策が取られました。被災しても住宅ローンはなくなるわけではありませんから、軽減策を上手に活用し、困難な時期を乗り切り生活再建していくことになります。
また、被災者が住宅ローンなどを返済できなくなってしまった場合、一定の要件に該当する場合に、生活再建のために「破産」等によらない債務整理が可能です。
例えば、平成28年(2016年)4月から適用が開始された「自然災害債務整理ガイドライン※」により、銀行などの金融機関との話し合いをすることで、ローンの減額や免除を受けることができます。詳しく知りたい方は、政府広報オンラインの該当ページをご覧下さい。※正式名称:「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」
(6) 災害復興公営住宅
災害により住宅(自宅)を失ってしまった被災者の中で、自力再建が難しいなど住まいに困っている被災者に、安い家賃で住宅を貸し出す制度です。仮設住宅から移り住む恒久的な住まいで、国の補助を受けた県や市町村が整備しています。
支援制度を受けるために必要な「り災証明書」とは?
被災後の公的な支援制度を受けるためには、「り災証明書」の取得が必要になります。
り災証明書とは、地震や津波といった災害で受けた住居の被害状況を証明する書面です。保険金の申請や、復興のための融資などを申請をする場合にも必要になりますから、災害によって住宅が被害に遭ったら、必ずり災証明書を取得するようにしましょう。
り災証明書の取得の流れは下記になります。
1.お住まいの自治体に「り災証明書」の発行を申請
2.自治体の担当者(主には建築士)が家屋の損壊具合を調査
3.被害の度合いに応じて「全壊」「大規模半壊」「半壊」「一部損壊」などという区分に分けられた証明書が発行される
しかし最近は、自治体の人手不足から「り災証明書」の発行が遅れる傾向にあります。2020年、台風15号による千葉県南房総市の建物被害においては、9月の段階で2000件を超える「り罹災証明書」の発行申請がありましたが、1日に10軒程度しか調査することができないため、調査までに1カ月以上も間が空いてしまう方もいるようです。
そんなに長い間、壊れた住宅を修繕しないわけにはいきませんから、仮に自治体の調査前に家屋を修繕する場合には、被害状況が分かるように被害を受けた場所と外観の写真を撮り、修理の見積書や領収書は保管しておくようにしましょう。
現在の被害認定基準には、全壊、大規模半壊、半壊、一部損壊、床上浸水、床下浸水、全焼、半焼等があります。被害認定調査の結果、内閣府が定める災害の被害認定基準に該当した場合に、その内容のり災証明書が発行されます。地震保険の認定基準とは異なりますので注意してください。
住居以外の建物、塀、門扉などの付帯物、自動車などの動産や家財など、住居以外の被害の事実を証明する書類に「被災証明書」というものもあります。これは、被災した場合の休業証明など、各種手続きに必要となりますから、こちらも取得するようにしましょう。
まとめ
被災してしまった場合に備えて、利用できそうな公的な支援制度があることを知っておくことは非常に大切です。事前にこうした情報や知識を得ていれば、最悪の事態でも、早期の復旧に向け動き出すことができます。
万一被災しても、なるべく早く元の生活に復旧するためには、定期的な住まいの安全性チェックや、そのためにかかる費用を確保するための家計管理が重要になってきます。ですから、公的サポートだけに頼らず、自分でできる事前対策は怠らないようにしましょう。
また、被災時にはこうした「自助」や「公助」だけではなく、地域住民やマンションの住民と助け合う「互助」も重要になってきます。次回はこの「互助」について、今現在の傾向と、それを踏まえた上でどれだけの事前対応が必要なのか説明したいと思います。
【関連記事はこちら】>>大震災や自然災害によって自宅が崩壊して、住宅ローンだけが残ったらどうする?【第1回】返済が苦しければ、私的整理ガイドラインで減免を
災害対策コラムのリンク集 |
1.命と住まいを守る「リスクマネジメント」とは? 2.「リスクマップ」を使って災害対策の優先度を知ろう 3.給付金など、災害後に受けられる6つの「公助」を紹介 4.災害発生時に頼りになるのは、助け合いの精神 5.もしもの備えには「生活費6カ月分」の預貯金が必要! |
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