近年、広がりを見せている「平屋ブーム」。平屋の建築を希望する人は増えていますが、実際に建てるのは全体の2割程度との調査もあり、理想と現実の間には大きなギャップがあるようです。平屋を建てることにどんなハードルがあるのでしょうか。一級建築士の船渡亮氏が自身のYouTubeチャンネル「アキラ先生の住まいの間取り教室」で解説。ハウスメーカーの平屋商品戦略についても話しています。
なぜ平屋が注目を集めているのか
ここ数年、平屋住宅の人気が増しています。LIXIL住宅研究所の調査(※)によると、既婚女性の約65%が「平屋に住んでいる」または「平屋を検討している」と答えています。なぜここまで平屋が注目されているのでしょうか。同調査では、平屋を建てたい理由の上位3つを次のように挙げています。(※)「人気が高まる平屋の魅力に関する調査報告書」
1.家事・生活動線の効率化
1位は、家事や生活動線の効率化です。「洗濯物を2階に運ばなくていい」「掃除機を持って階段を上り下りしなくて済む」といったことですね。
2.階段がなく昇降の必要がない快適さ
2番目に多かった理由は、階段の上り下りが不要であること。年を重ねてると階段を使うのが負担になることを考えると、理にかなっています。
3.高齢者や小さな子どもが安心して暮らせる
小さなお子さんが階段から落ちる心配もありませんし、将来介護が必要になったときも安心だというのが3番目の理由です。
中間領域への関心が90%近くあった
興味深いのは、屋内でも屋外でもない中間的な空間への関心が89.2%もあったことです。平屋だから実現しやすい庭やウッドデッキとの一体感のある暮らしへの憧れがあるようです。
ちなみに、LIXIL住宅研究所が、なぜ中間領域についてアンケート内で聞いているのかというと、LIXIL傘下のアイフルホームがこのような中間領域のある商品を出したからだと思います。マーケティングの要素もあるのでしょう。
希望しても平屋を建てられないケースがある
しかし、リクルートが出しているデータでは、実際に新築で建てられている平屋の割合は、全国平均で22.1%に留まっている現実があります。先述したように、65%の人が希望しているにも関わらず、なぜ3分の1の人しか実現できていないのでしょうか。平屋を建てることに対するハードルは何なのか、見ていきましょう。
1.広い敷地が確保できない
平屋はすべての部屋を1階に配置するため、2階建てと同じ延べ床面積を確保しようとすると、倍近い敷地面積が必要になります。特に都市部では土地が高く、また駅近ほど土地が細分化されているため、広い土地を確保するのが難しくなります。
2.日当たりや眺望が悪くなる
地方では近隣環境が良く、採光を確保しやすいですが、都心の駅近など便利な立地では、住宅が密集していて近隣環境が厳しいです。2階建てなら南側の隣地から距離を取ったり、吹き抜けを設置して光を取り込むなどできますが、平屋ではそうもいきません。
3.建築コストが割高になる
一般的に平屋は2階建てよりも割高になるケースが多いです。これは、2階建てと比較して、基礎と屋根の面積が大きくなるためです。例えば、同じ100㎡の家であれば、2階建ては50㎡×2ですが、平屋では100㎡分の基礎と屋根が必要になります。基礎と屋根の工事はコストの高い部分であるため、総建築費が上昇しやすいのです。
ただし、平屋には階段がない分、床面積を削減できるというメリットもあります。階段がないことで1階と2階の廊下部分も減らせるため、その分の建築コストを吸収できる場合もあります。
4.都心部ではマンションの選択肢がある
また、都心部では平屋を建てる以外の選択肢があるのも大きいです。先ほど平屋が注目されている理由をお伝えしましたが、これらはマンションを購入すれば実現可能で、土地を購入して平屋を建てるよりもマンションの方が現実的で確実な選択といえるでしょう。
平屋を建てる理想と現実のギャップを見ていきましたが、新築における平屋の割合は実際増えています。2012年度は6.8%だったのが、2019年度は10.6%、2024年度は17%と確実に増加しており、全体の傾向として平屋への関心が高まっていることは間違いありません。
ハウスメーカーが平屋商品の開発に注力
こうした状況を受けて、ハウスメーカー各社は、近年、平屋商品の開発に力を入れるようになりました。
ただ、平屋は2階建てを平屋にするだけとも言えるので、新たに商品を作るのではなく、大和ハウス、セキスイハイム、タマホーム、トヨタホームは、既存商品で平屋に対応できるという扱いです。一方、積水ハウス、住友林業、アイフルホームは、平屋専用の商品を打ち出しています(動画では各社の商品名、特徴・強みについて表示しています)。
平屋専用商品の特徴は、軒の出を大きく出し、縁側のような中間領域を作れるように設計されている点です。軒下でのんびりくつろげるような暮らしを訴求しています。
ただし、実際にこのようなイメージの間取りを実現できるかどうかは、最終的に土地の条件次第です。再現性はあまりないかもしれませんが、他社との差別化や、平屋への夢を膨らませるような演出をしている感じかもしれません。
都心部での中間領域の活用や屋外での暮らしを考えた場合、ヘーベルハウスの「アウトドアリビング」や、桧家住宅の「青空リビング」といった商品の方が実現しやすいかもしれません。いずれにせよ、屋外の空間を考える際には、近隣環境の分析が重要となります。
平屋ブームに乗って、ただ建てるのは要注意
このようなブームのときに注意すべきなのは、「平屋ありき」で家を建てることです。
例えば、コロナ禍のときに流行した「玄関手洗い」が、今では絶滅状態で希望する人は激減しました。当時は、暮らしを深く考えず「とにかく玄関手洗いが欲しい」と設置していたのです。実際には、荷物やコートを脱いでから近くの洗面所で手洗いすれば済むため、玄関に手洗い場を設置する理由はさほどありません。
平屋も同様に「とにかく平屋にしたい」という理由だけで計画を進めるのは問題があり、特に都市部では注意が必要です。
理想の暮らしができるかを最優先に
私が間取り診断を行う際、施主が抱いている「平屋が良い」という希望はもちろん大事にしますが、それ以上に重要なのは、入居してから理想の暮らしを実現できるかという点です。そのための選択肢として、平屋があると考えています。
実際、検討するには、平屋と2階建ての間取り、どちらも見てみないと分からないので、迷っている場合は、ハウスメーカーにお願いして両方の間取りを作ってもらった方が良いでしょう。
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