不動産を売りに出したお客様から「突然、知らない不動産仲介業者から電話がかかってきて(家に直接来られて)、お宅の不動産を売らわせてくれと言われて困っている」という相談を受けることが、稀にあります。これは、不動産業界の用語で「抜き行為」と言われているものです。なぜそんなことが起こってしまうのでしょうか。その原因と対策について説明します。(株式会社 正直な家代表取締役 田中輝一)
どの不動産仲介業者も、売主を探している

どこの不動産仲介業者も、不動産の売却物件を売主から預かれるように必死に頑張ります。不動産仲介業者の営業担当者は、勤務時間の7割以上の時間を使って、「売却できる物件はないか」と必死に売主を探しているといわれます。売却契約をとれば、うまくいけば、買手からも手数料をもらえるチャンスがあるからです。
ところが、不動産仲介業者の一部には「現在売りに出ている物件の売主に声をかけて、不動産仲介業者を乗り換えてもらえば良い!」と考える会社もあり、営業をかけてくるのです。これを業界で「抜き行為」といいます。
弊社のお客様でも先日、他の不動産会社から電話がかかってくるようになって困っているとご相談を受けました。そんなとき、どのように対処すればいいかお伝えします。
売却中の物件情報から住所や個人情報を特定できる
そもそも、頼んでもいない不動産仲介業者なのに、どうやって売主の個人情報を入手するのでしょうか。「抜き行為」のカラクリを知っておくことも大切です。
不動産仲介業者に物件売却を依頼すると「レインズ」という、不動産仲介業者が販売物件を共有しているサイトに登録をしていきます。その際、販売図面、間取り図をはじめとした、いくつかの情報はレインズに登録している不動産仲介業者全てに知られることになります。その情報をもとに住所が特定されていきます。
■土地・戸建の場合

売却しているのが土地や戸建ての場合は、販売図面に住所を記載しているものの、「枝番」と呼ばれる住所の最後は記載しないのが一般的です。通常、不動産仲介業者は、購入を検討してくれそうなお客様が自社にいる場合に、売却物件の管理会社に電話をして枝番を確認し、お客様に伝えます。そうしなければ、購入を検討できないからです。
こうした業界の慣習を悪用し、購入を検討しているお客様がいないのに、枝番を聞いてくる会社もゼロではありません。枝番さえ分かれば物件を特定することができるので、直接物件を訪問する営業担当者もいます。
また、物件が分かればそこから紐づけて電話番号などの個人情報を得ることも可能になるので、直接電話がかかってくることもあるという仕組みです。物件情報から個人情報を得る流れについては、後程詳しく説明します。
■マンションの場合

売却しているのがマンションの場合は、住所だけでなく、マンション名、さらには階数まで販売図面に記載するのが一般的です。
もちろん、売却活動をしているお客様に配慮をして部屋番号までは記載しませんが、販売図面の間取り・平米数を確認できれば、新築時のパンフレット等を東京カンテイなどのマンションデータを持っている会社から取り寄せて、何号室が売りに出ているかをほぼ特定することができます。
部屋番号まで分かれば、戸建てのケース同様に直接お部屋に訪問できるというわけです。
売却物件の所有者氏名や、電話番号の調べ方
戸建て・マンションともに、販売している場所と部屋番号までわかれば、登記簿謄本を取り寄せて所有者を特定することができます。この登記簿謄本は、法務局に行けば一般の方でも取得できます。現在は法務局のページからオンライン請求もできるので、割と手軽に所有者氏名を得ることができてしまいます。また、そこに住んでいない場合は、現在住んでいる住所も表示されているので、連絡を取ることができます。
なお、「抜き行為」をする不動産仲介業者の中には、電話をしてくる会社もいます。電話番号はどうやって調べているのでしょうか。
一番単純なのが、104の電話番号案内で売主の連絡先を調べる方法。ですが、今の時代は電話番号案内に登録している人も少ないので、あまり意味はありません。
実際にそういった不動産仲介業者が利用しているのは、個人情報が記載されている名簿。たとえば、新築当時ワンルームを購入したお客様の情報が一括で記載されている名簿などを、どこかの会社から購入して、それを利用しているのです。このケースで、名簿に掲載されている人に手当たり次第、電話することになります。
抜き行為をする不動産会社の営業トークは?
「抜き行為」をする不動産会社から連絡が来るとすれば、媒介契約の更新となる、媒介契約後3カ月前後になることが多くなるでしょう。不動産の売却をする時に、不動産仲介業者と取り交わす「媒介契約」は通常3カ月間。3カ月経てば、媒介契約を延長するか、打ち切って他社に乗り換えるかを決めることになります。
営業トークとしては「○○様が売りに出している不動産をうちのお客様が欲しがっている」という内容がほとんどです。
売却をされるお客様が「早く、高く売って欲しい!」と不動産仲介業者に思うのは、当たり前のこと。ただ、売りに出している不動産をちょうど、欲しいと思っていた人がいて販売に出してすぐに売れることは大手不動産仲介業者であっても稀で、これらの文句は媒介契約を結ぶためのトークだと思って間違いありません。
現在の不動産取引上は、売却依頼をしている不動産仲介業者が物件を紹介しているはず。ですから、このように断りましょう。
「現在、○○不動産に売却をお願いしているのでそちらに電話をかけて下さい。」
きっちり断っても、食い下がってくる怪しい不動産仲介業者であれば、現在売却依頼をしている不動産会社の担当者にきちんと対処してもらいましょう。
【関連記事はこちら】>>不動産売却の現場でのえげつない営業手法とは?アポ取りの定石トーク、初回で契約する方法、値下げさせるためのテクニックなどを公開
専任媒介で、他社にも販売を依頼するのは契約違反
「抜き行為」をする不動産仲介業者からの営業をきっちり断れることが出来る方なら問題ありませんが、つい色々答えてしまって、何も知らずに売却依頼をしてしまった場合、現在依頼している不動産仲介業者とのトラブルに発展することがあります。媒介契約に関するものです。
販売を不動産会社にお願いする時は、一般媒介契約、専任媒介契約、専属専任媒介契約の3種類があります。一般媒介契約の場合は同時に数社で販売活動を行えるので問題ありませんが、専任媒介及び、専属専任媒介契約の場合は、1社にしか販売を任せる事が出来ないので注意が必要です。
その内容は、媒介契約書にも記載があります。
「この媒介契約の有効期間内に乙以外の宅地建物取引業者に目的物件の売買または交換の媒介または代理を依頼し、これによって売買または交換の契約を成立させたときは、乙は、甲に対して、約定報酬額に相当する金額を違約金として請求することができます。」
専任媒介契約・専属媒介契約の期間中に、他の不動産仲介業者に売却依頼をしてしまうと契約違反になります。二重に仲介手数料を取られてしまう場合もあるので注意が必要です。
今の媒介契約終了後なら良いの?
前述したように、媒介契約は最長3カ月の契約更新なので、3カ月後に媒介契約が切れた後であれば他の不動産仲介業者に依頼しても問題はありません。媒介契約は自動延長ではないので、延長をしないと不動産仲介業者に伝えれば自動的に媒介契約は終了します。
ただ、契約期間中に自己都合による解約をする場合は、それまでにかかった広告料や営業活動にかかった費用を請求される場合もあります。
契約期間中に解約をする場合は、なぜ解約をするのかをしっかりと伝えて解約をしましょう。担当との人間関係等の理由であれば営業担当を変えてもらえば解決することかもしれませんし、お願いしている不動産仲介業者の販売方針が悪いのであれば、それを指摘することで、きちんと営業をしてくれるようになるかもしれません。
また、売却依頼をした不動産仲介業者が「レインズに登録しない」「レインズに登録しても削除している」「他の会社から問い合わせがあっても無視する」など、いわゆる「囲い込み」をしている場合は、3カ月の契約を待たなくても不動産会社を変更することが可能ですし、違約金等の請求をされる心配もありません。
【関連記事はこちら】>>不動産がなかなか売れないとき、不動産会社を変える時期、最適な方法は?契約解除のリスクとペナルティも確認を
乗り換えるのなら、信頼できる会社に
3カ月経過しても売れていない場合、物件価格の引き下げが必要かもしれません。実際の販売価格を決めたのは売主のお客様です。いまの販売会社との契約を打ち切り、新しい不動産仲介業者に任せるのも一つの手かもしれませんが、問い合わせが少なかった場合は、「値下げ」も考えた方がいいかもしれません。
また現在、販売依頼をしている不動産仲介業者に不満を持っているのであれば、不動産仲介業者の変更を検討しても良いのではないかと思います。
ただし、こちらから情報を渡した覚えがないのに、直接電話をかけてきたり、訪問してきた不動産仲介業者に任せるのは大丈夫でしょうか?
いくら手数料を安くすると言っても、信頼できる相手なのかは甚だ疑問です。
最近は「不動産一括査定サイト」に登録して、販売検討段階で複数の不動産仲介業者にまとめて査定してもらう方もいます。一度、査定依頼をした会社であれば、こちらの連絡先も分かっていますし、3カ月をめどに問い合わせが来る場合もあるでしょう。不動産仲介業者の変更を考えているのなら、印象の良かった営業担当に、一度話を聞いてみるのも良いかもしれません。
【関連記事はこちら】>>「不動産売却の流れ」を総まとめ!不動産を高値で売るための査定方法、費用、手続きの手順、注意点を徹底解説
【注目の記事はこちら】 【査定】相場を知るのに便利な、一括査定サイト&業者"25社"を比較 【業者選び】売却のプロが教える、「不動産会社の選び方・7カ条」 【査定】不動産一括査定サイトのメリット・デメリットを紹介 【業界動向】大手不動産会社は両手取引が蔓延!? 「両手比率」を試算! 【ノウハウ】知っておきたい「物件情報を拡散させる方法」 |
<不動産売却の基礎知識>
相場を知るために、まずは「一括査定」を活用!
不動産の売却に先駆けて、まずは相場を知っておきたいという人は多いが、それには多数の不動産仲介会社に査定をしてもらうのがいい。
そのために便利なのが「不動産一括査定サイト」だ。一括査定サイトで売却する予定の不動産情報と個人情報を一度入力すれば、複数社から査定してもらうことができる。査定額を比較できるので、不動産の相場観が分かるだけでなく、きちんと売却してくれるパートナーである不動産会社を見つけられる可能性が高まるだろう。

ただし、査定価格が高いからという理由だけでその不動産仲介会社を信用しないほうがいい。契約を取りたいがために、無理な高値を提示する不動産仲介会社が増加している。
「大手に頼んでおけば安心」という人も多いが、不動産業界は大手企業であっても、売り手を無視した手数料稼ぎ(これを囲い込みという)に走りがちな企業がある。
なので、一括査定で複数の不動産仲介会社と接触したら、査定価格ばかりを見るのではなく、「売り手の話を聞いてくれて誠実な対応をしているか」、「価格の根拠をきちんと話せるか」、「売却に向けたシナリオを話せるか」といったポイントをチェックするのがいいだろう。
以下が主な「不動産一括査定サイト」なので上手に活用しよう。
【注目の記事はこちら】 【業者選び】売却のプロが教える、「不動産会社の選び方・7カ条」 【査定】相場を知るのに便利な、一括査定サイト&業者"主要25社"を比較 【査定】不動産一括査定サイトのメリット・デメリットを紹介 【業界動向】大手不動産会社は両手取引が蔓延!? 「両手比率」を試算! 【ノウハウ】知っておきたい「物件情報を拡散させる方法」 |
■相場を知るのに、おすすめの「不動産一括査定サイト」はこちら! |
◆SUUMO(スーモ)売却査定(不動産一括査定サイト) | ||
対応物件の種類 | マンション、戸建て、土地 | |
掲載する不動産会社数 | 約2000店舗 | ![]() |
サービス開始 | 2009年 | |
運営会社 | 株式会社リクルート住まいカンパニー(東証一部子会社) | |
紹介会社数 | 最大6社 | |
【ポイント】 不動産サイトとして圧倒的な知名度を誇るSUUMO(スーモ)による、無料の一括査定サービス。主要大手不動産会社から、地元に強い不動産会社まで参加しており、査定額を比較できる。 | ||
◆HOME4U(不動産一括査定サイト) | ||
対応物件の種類 | マンション、戸建て、土地、ビル、アパート、店舗・事務所 | |
掲載する不動産会社数 | 1500社 | ![]() |
サービス開始 | 2001年 | |
運営会社 | NTTデータ・スマートソーシング(東証一部子会社) | |
紹介会社数 | 最大6社 | |
【ポイント】 強みは、日本初の一括査定サービスであり、運営会社はNTTデータグループで安心感がある点。提携会社数は競合サイトと比較するとトップではないが、厳選されている。 | ||
◆イエウール(不動産一括査定サイト) | ||
対応物件の種類 | マンション、戸建て、土地、投資用物件、ビル、店舗、工場、倉庫、農地 | |
掲載する不動産会社数 | 1600社以上 | ![]() |
サービス開始 | 2014年 | |
運営会社 | Speee | |
紹介会社数 | 最大6社 | |
【ポイント】 強みは、掲載する会社数が多く、掲載企業の一覧も掲載しており、各社のアピールポイントなども見られる点。弱点は、サービスを開始してまだ日が浅い点。 | ||
◆LIFULL HOME'S(不動産一括査定サイト) | ||
対応物件の種類 | マンション、戸建て、土地、倉庫・工場、投資用物件 | |
掲載する不動産会社数 | 2399社 | ![]() |
サービス開始 | 2008年 | |
運営会社 | LIFULL(東証一部) | |
紹介会社数 | 最大6社 | |
【ポイント】強みは、匿名査定も可能で安心であるほか、日本最大級の不動産ポータルサイト「LIFULL HOME'S」が運営している点。弱点は大手の不動産仲介会社が多くはないこと。 | ||
◆イエイ(不動産一括査定サイト) | ||
対応物件の種類 | マンション、戸建て、土地、投資用物件、ビル、店舗、工場、倉庫、農地 | |
掲載する不動産会社数 | 1700社 | ![]() |
サービス開始 | 2007年 | |
運営会社 | セカイエ | |
紹介会社数 | 最大6社 | |
【ポイント】 強みは、サービス開始から10年以上という実績があるほか、対象となる不動産の種類も多い。「お断り代行」という他社にないサービスもある。弱点は、経営母体の規模が小さいこと。 | ||
◆マンションナビ(不動産一括査定サイト) | ||
対応物件の種類 | マンション | |
掲載する不動産会社数 | 900社超、2500店舗 | ![]() |
サービス開始 | 2011年 | |
運営会社 | マンションリサーチ | |
紹介会社数 | 最大9社(売却・買取6社、賃貸3社) | |
【ポイント】 強みは、マンションに特化しており、マンション売却査定は6社まで、賃貸に出す場合の査定は3社まで対応している点。弱点は、比較的サービス開始から日が浅く、取り扱い物件がマンションしかない点。 | ||
◆おうちダイレクト「プロフェッショナル売却」(不動産一括査定サイト) | ||
対応物件の種類 | マンション、戸建て、土地、一棟マンション、一棟アパート、店舗、事務所 | |
掲載する不動産会社数 | 9社 | ![]() |
サービス開始 | 2015年 | |
運営会社 | ヤフー株式会社、SREホールディングス株式会社(ともに東証一部子会社) | |
紹介会社数 | 最大9社 | |
【ポイント】ヤフーとソニーグループが共同運営する一括査定サイト。不動産会社に売却を依頼後も、ヤフーとおうちダイレクトのネットワークを使い、購入希望者への周知をサポートしてくれる。 | ||