「不動産エージェント」の存在をご存じだろうか。買主・売主の代理で不動産取引を行うプロフェッショナルを指す。まだ日本ではあまり知られていないが、場合によっては、一般的な不動産売買仲介会社よりも満足度の高い取引ができる可能性がある。この記事では、不動産エージェントの仕組みや役割、一般的な不動産仲介会社との違いやメリット・デメリットなどを紹介する。(ライター、宅地建物取引士:杉山明熙)
目次
不動産エージェントとは

不動産エージェントとは何を指すのだろうか。ここでは、不動産エージェントの仕組みや役割を解説する。
不動産取引を行う買主・売主の代理人
結論から言えば、不動産エージェントとは買主・売主の代理で不動産取引を行うプロフェッショナルのことである。不動産を「購入したい」または「売却したい」という方をサポートして、取引を円滑に進める専門家だ。
これまでの日本では、不動産仲介を行うのは法人、いわゆる不動産会社が中心であった。しかし、昨今の住宅ニーズや働き方の多様化により、個人のスキルやキャリア、得意分野を活かした不動産エージェントが注目を集めている。
不動産エージェントの役割は、売主・買主の利益が最大限になるようにすることだ。購入や売却に関する不安を解消して、顧客にとって最も良い方法で不動産取引をサポートすることで、顧客の利益を最大化するのである。
アメリカでは一般的な制度
日本ではまだ聞き慣れない「不動産エージェント」という言葉だが、アメリカでは一般的な制度として知られている。アメリカなどの中古不動産の取引がメインで、不動産の流動性が高い国では、会社単位ではなく個人単位で不動産取引のサポートをしている。
アメリカでは「RE/MAX」や「ケラーウィリアムズ」などの不動産エージェントを多く抱える会社ができ、何十万人ものエージェントが生まれることになった。日本にも海外の不動産エージェントの企業が進出するようになり、不動産エージェントという仕組みが広がりつつある。
一般的な不動産売買仲介会社との違い
では、不動産エージェントは一般的な不動産売買仲介会社とどのような違いがあるのだろうか。ここからは、それぞれの業務の違いや特徴について解説する。
片手仲介がメイン
まず、一般的な不動産仲介会社では、「両手仲介」が行われるケースがある。両手仲介とは、売主・買主の仲介を同じ会社が対応することである。そのため、両手仲介になった場合は、不動産仲介会社が売主・買主双方の要望を聞いた上で取引条件を調整することになる。
一方、不動産エージェントは売主・買主どちらかのサポートを行う「片手仲介」が基本だ。売主・買主のどちらかの立場に立って取引をサポートするため、いずれか一方をサポートする傾向が強いのが、不動産仲介会社との違いである。こうした特徴から、不動産エージェントは依頼人の利益を優先して交渉を進めることができる。
商品ではなく顧客にとって利益のあるアドバイスを行う
一般的な不動産仲介会社は、「物件」が商品であることがほとんどである。物件の問い合わせがあった顧客に対して、その物件について説明して購入を促すことが、不動産会社の主な業務である。そのため、顧客の中には、押し売りされて「本当にこの物件でいいのか?」と疑問を持ちながら営業されることもあるだろう。
その半面、不動産エージェントの商品は「売買のサポート」である。契約成立よりも顧客の利益を優先するのが不動産エージェントの業務であるため、顧客にとって利益になるアドバイスをサービスとして提供しているのだ。
たとえば、顧客が気になっている物件についてプロの視点から助言をしたり、メリット・デメリットを踏まえて複数物件の比較検討のサポートをしたりする。そのため、不動産エージェントのサポートを受けると納得のいく取引がしやすいことが特徴となる。
匿名でやり取りできる
不動産エージェントが行う業務
ここで、不動産エージェントから受けられるサービスについて見てみよう。
買主サポートの場合
「物件を買いたい」という顧客が不動産エージェントから受けられるサービスは以下のとおりである。
希望に沿う物件紹介
購入希望者がサポートを受ける場合、「なぜ購入したいのか」や「どんな物件を購入したいのか」などのヒアリングから始まる。ケースによっては「本当に買うべきか」という前提から一緒に考えてくれることもあるため、購入に関して改めて考え直す良い機会となるだろう。ヒアリングが完了すれば、要望に合った物件情報を紹介してもらうことになる。
内覧のサポート
気になった物件が見つかれば、内覧の手配やスケジュール調整を行ってもらい、エージェントの立ち会いのもとで実際に内覧する。その後、内覧したことで得られる情報からさらなる要望を伝えれば、より確度の高い物件候補情報を提供してもらえるだろう。
契約条件の調整と売買契約の取りまとめ
購入希望物件が見つかれば、エージェントに条件交渉を依頼する。価格や引き渡し時期、その他の条件で交渉してもらいたいことがあれば代行してもらう。条件が整えば、重要事項説明や売買契約書への署名・捺印を経て、物件の引き渡しまでサポートを受けて、取引終了となる。
売主サポートの場合
「物件を売却したい」という方は、以下のサポートが受けられる。
集客・広告活動のサポート
まず物件の売り出し価格を決めるために、物件周辺の類似物件や競合物件の情報提供が行われる。この際も、「そもそも売るべきなのか」という前提から一緒に考えてくれるため、売却が一番良い方法なのかを今一度考えてみよう。
売り出し価格を決定すると、売却活動が開始される。売却活動では、チラシ・インターネットへの物件情報掲載や、他のエージェントへの情報提供などが行われる。
内覧の実施
内覧希望があれば、内覧日程の調整や立ち会いのサポートが受けられる。具体的には、内覧時に気をつけるべきポイントのアドバイスがもらえたり、売主に代わって買主との質疑応答に対応してくれたりするサポートなどがある。
契約条件の調整と売買契約の取りまとめ

購入希望者が現れると、売主に寄り添った立場で条件交渉に応じることになる。売主の希望に合わせて価格や引き渡し時期などの交渉を行い、売主にとって最も良い形での取引を目指す。
条件がまとまれば、重要事項説明や売買契約書への署名・捺印、抵当権抹消手続きのサポートなどを受けて取引完了となる。
不動産エージェントを利用するメリット
ここでは、不動産エージェントを利用することで得られるメリットを3点紹介する。
経験豊富なエージェントからサポートが受けられる
1つ目のメリットは、経験豊富なプロフェッショナルからサポートが受けられる点だ。
一般的な不動産仲介会社の場合、新入社員や経験が浅いスタッフが担当に付くことがある。不動産選びには深い専門知識や法律の知識が必要になるため、経験が浅い担当者が付くとトラブルが発生したり、的外れな提案をされたりすることがあるのだ。

一方、不動産エージェントは豊富な経験や知識を備えているのが前提だ。不動産初心者が不動産エージェントになることは難しく、エージェントとして活躍するためには、一定の経験やスキルが必要になるからである。
このように、安心して不動産取引に臨めることは、不動産エージェントの大きなメリットの一つと言えるだろう。
公平性・客観性がある
不動産エージェントからのサポートを受けると、公平性・客観性があるアドバイスを受けられる点もメリットである。不動産エージェントは売りたい物件があるのではなく、顧客の利益を優先することを第一の使命としているためだ。
売買が適切な方法ではないと判断した場合、「売らないほうがいい」「買わないほうがいい」というアドバイスを送る不動産エージェントもいる。このことからも「第三者目線でアドバイスがほしい」という方には、不動産エージェントの利用が向いていると言えるだろう。
押し売りされる心配が少ない
不動産エージェントを利用する3つ目のメリットは、押し売りされて契約をせかされることが少ない点である。不動産エージェントは、一般の不動産仲介会社と違い、会社の利益や売上目標を気にする必要がない。顧客にとって不必要な利益を追いかける必要がないため、顧客と良い関係を築きながら営業活動を行えるのだ。
それにより、不動産会社の利益を重視した物件の押し売りや、契約をせかされることがなくなるだろう。「自分のペースで物件を見つけたい」「良きパートナーとしてアドバイスがもらいたい」という方は、不動産エージェントの利用を検討してみるのがよいだろう。
不動産エージェントを利用するデメリット
不動産エージェントを利用する際は、メリットだけでなくデメリットにも注目しなければならない。
エージェントによってスキルや経験に差がある
不動産エージェントの1つ目のデメリットは、エージェントによってスキルや経験、得意分野に差があることだ。不動産エージェントは経験豊富でなければならないと伝えたが、中には期待するほどのスキルやキャリアを持ち合わせていないエージェントもいるだろう。
また、エージェントの得意分野が顧客とマッチしないことも考えられる。たとえば、マンション取引が得意なエージェントに土地探しを依頼しても、100%の力を発揮するのは難しい。さらに、エージェントによって得意エリアも存在する。このように、エージェントの力量によって不動産選びの質が左右される点に注意しなければならない。
エージェント制度を採用している企業が少ない
デメリットの2つ目は、不動産エージェントを採用している企業が少なく、エリアによっては利用できないケースがあることだ。日本で不動産エージェントが普及し始めているとはいえ、一般的な不動産仲介会社に比べると、まだまだ少ない。
希望するエリアで不動産エージェントが利用できないこともあり得るため、都市部でない場合は注意が必要だ。
不動産エージェント制度を取り入れている企業
先述したように、まだ数は少ないものの、不動産エージェントを取り入れている日本企業が出てきている。ここでは、主な3社を紹介しよう。
SREリアルティ

SREリアルティは、2014年にソニーの社内ベンチャーとして立ち上がったソニー不動産としてスタート。現在は、東証プライム上場のSREホールディングスの不動産事業として展開している。
SREリアルティでは、購入・売却の担当者を完全に分けて、各担当者が顧客利益最大化を目指すエージェント制を導入。1人の担当者が売買を担う両手仲介ではなく、片手仲介で売主・買主の取引をサポートしている。
また、ソニーグループと共同開発したAIソリューションを取り入れているのも特徴だ。売却活動では、AIを活用して不動産の適正価格を算出し、スムーズに高値売却することをモットーにしている。
専属エージェントが担当
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TERASS(テラス)

TERASS(テラス)は、2019年に創業した不動産エージェント会社だ。TERASSのエージェントは、選考通過率平均5%の基準をクリアした不動産売買仲介経験者で構成されているという。
購入または売却希望者は、同社が運営する「TERASS Offer」にメールアドレスを登録して希望条件を入力すると、不動産エージェントから物件の提案や売却査定書が届く仕組みだ。購入・売却ともに、ユーザーは氏名や電話番号を登録する必要がなく、匿名でやり取りできる点がポイントだ。
TERASSでは、住みたいエリアやリノベーションなどに精通した不動産エージェントを指名できるのが特徴だ。また、外部のファイナンシャルプランナーによる予算づくりも行っており、顧客が希望する10年、50年後の暮らしから逆算したライフプランを提案している。
らくだ不動産

らくだ不動産は、日本で初めて個人向け不動産コンサルティングサービスをスタートさせた「さくら事務所」のグループ会社で、エージェント制を取り入れた不動産会社である。
売却を検討している顧客に対しては、そもそも売るべきかという前提から考え、売却タイミングのアドバイスを行っている。また、売却活動の可視化とレポートによる振り返りを通して、満足度の高い取引を目指している。購入を希望する顧客には、物件のメリットだけでなくデメリットも共有し、サポートする。
また、らくだ不動産では、エージェントによる無料のセカンドオピニオンサービスを行っており、すでに売却活動を行っていても気軽に相談することができる。
「売り出し価格を下げるべきか」や「金額交渉に対してどのように対応すべきか」など、売却を依頼している不動産会社に聞きづらいことも含めアドバイスが受けられるため、第三者視点でのアドバイスが欲しい方にとっておすすめのサービスと言える。
まとめ
今回は、近年国内でも利用者が増加しつつある不動産エージェントについて解説した。不動産エージェントとは、個人で顧客の代理として不動産取引を行うプロフェッショナルのことである。企業や物件の利害に関係なく、顧客の利益を最優先して営業活動を行うため、満足度の高い取引が実現するだろう。
不動産エージェントを利用するメリットとして、経験豊富なプロフェッショナルからサポートが受けられる点や、押し売りされることなくエージェントと良い関係を築きながら取引を進められる点などが挙げられる。ただし、エージェントごとに得意分野や質に差があることや、エリアによっては利用できないケースがあるので注意が必要だ。
「一般的な不動産仲介会社を利用したけれど満足のいくサービスが受けられなかった」という方は、不動産エージェントの利用を検討してみてはどうだろうか。
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最大紹介社数 | 10 ※物件所在地によって異なる |
9 | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 | 10 | 7 | 6 |
主な対応物件 | マンション、戸建て、土地 | マンション、戸建て、土地 | マンション | マンション、戸建て、土地など | マンション、戸建て、土地など | マンション、戸建て、土地など | マンション、戸建て、土地など | マンション、戸建て、土地など | マンション、戸建て、土地 | マンション、戸建て、土地など | マンション、戸建て、土地など | マンション、戸建て、土地など | マンション、戸建て、土地など |
対応エリア | 全国 | 全国 | 全国 | 全国 | 全国 | 全国 | 全国 | 東京、千葉、神奈川、埼玉 | 全国 | 全国 | 全国 | 全国 | 全国 |
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