不動産の「両手取引」禁止は世界の常識!
「囲い込み」の概念すらないシンガポール

【第1回】2017年11月29日公開(2020年6月10日更新)
風戸裕樹

日本の不動産業界の裏事情に詳しい風戸裕樹氏が、世界から見た日本の不動産ビジネスの“非常識”な点を明らかにしていきます。風戸氏は、「売り主だけの味方になる」という新しいコンセプトの不動産売却サービス「売却のミカタ」を立ち上げ(現在のソニー不動産)、現在もシンガポールで不動産ビジネスに関わっています。第1回は「両手取引」を取り上げましょう。

 日本では、不動産売買における不動産仲介会社の「両手取引」が当然のことのように行われていますが、シンガポールなどの海外では「両手取引」を禁止している国も多いです。日本でも海外でも、エージェント(代理人)と呼ばれる不動産仲介会社に依頼するのは同じですが、なぜ、こうした違いが出てくるのでしょうか。

 日本とシンガポールの不動産取引制度の違いを比較することで、日本では常識化している「両手取引」の問題点が浮かび上がってきます。

シンガポールでは「囲い込み」は起こらない

 まずは、私がいま住んでいるシンガポールでの不動産売買について見てみましょう。

 シンガポールでは、不動産仲介は免許制となっています。シンガポールの資格は、不動産仲介会社を経営できる「KEO(key executive office)」と、一般的な「公認セールスパーソン」(エージェント)の2つに分かれています。物件を案内する際にも、この一般的なエージェントの資格がないとできません。イメージ的には日本より厳しい感じですね。

 そして注目すべきは、売り主または買い主との契約関係でしょう。シンガポールの不動産仲介では、売り主と買い主のエージェントが別々に契約することが義務付けられています。売り主と買い主の両方から手数料を貰うことを「両手取引」と言いますが、明確に「両手取引」は禁止です。

 シンガポールでは、仲介手数料の支払い方法も日本と異なります。日本では、売り主と買い主の両方が宅建士に仲介手数料を支払いますが、シンガポールでは売り主しか支払いません。それでは買い主のエージェントがタダ働きになってしまうので、売り主のエージェントから、得た手数料の何割かを受け取るという仕組みです。その配分は、買い主を紹介する「客付け」の難易度などに応じてエージェント同士が話し合って決めています。

 シンガポールと日本の不動産取引の違いは、以下のようになります。

 日本とシンガポールの不動産取引の違い
  シンガポール 日本
 両手取引 禁止 可能
 売り主・買い主との契約 売り主のエージェントは、買い主のエージェントになれない 売り主・買い主の仲介を一人の宅建士で契約可能
 仲介手数料の支払い 売り主のみ支払う 売り主・買い主の両方が宅建士に支払う

 以上のような状況にあるため、シンガポールでは「囲い込み」行為は起こりません。理由は、大きく2つあるでしょう。

 第一に、そもそも両手取引が法律で禁止されており、エージェントは売り主、買い主どちらかの要望に応じて行動するだけなので、1人のエージェントによる「囲い込み」ができません。売り主と買い主は、どちらかが得すれば、どちらかが損するという関係になりやすいため、対立する存在であり、1人で両方のエージェントを務めることなど到底できません。「囲い込み」という概念すら、シンガポールには存在しないのです。

 第二に、「囲い込み」行為をしても儲からないからです。実は、シンガポールでは同じ不動産仲介会社に所属していても、売り手と買い手のエージェントが別人であれば、その取引は合法です。つまり、事実上「両手取引」は可能です。それでは、「囲い込み」をしたくなるのではないかと考えるでしょう。

 しかし、先ほど話したように、買い主側のエージェントの手数料は、業務の難易度に応じて手数料を決めているので、同じ不動産仲介会社内で取引しても、外部のエージェントを使って買い手を見つけても、かかるコストはほぼ一緒です。そうであれば、売り主のエージェントは、外部の様々なエージェントに依頼して早期に買い手を見つけた方が得なので、社内での取引(両手取引)には、さほどメリットがないというのが実情です。

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日本では、不動産仲介は「利益相反行為」がOK

 一方で、日本の不動産売買について見ていきましょう。

 日本では不動産仲介を行うために、国家資格が必要となります。2015年4月から名称が変わり、「宅地建物取引主任者」が「宅地建物取引士(宅建士)」へと変更になりましたが、基本的に国家資格は1種類だけです。日本の制度は緩めに作られているので、売買などの重要事項説明の際には「宅建士」の資格がないとできませんが、物件を案内するなどの業務は資格者でなくても可能です。

 そして、シンガポールとの最大の違いは、売り主と買い主の両方の仲介を一人の宅建士が行う「両手取引」が認められいる点です。日本の民法では、利害関係が異なる2人の代理人となる「双方代理」は利益相反行為として禁じられていますが、不動産仲介は例外です。「仲介の依頼を受けただけで代理人として行動しているわけではない」と解釈されるからです。

 仲介手数料の支払い方法も異なります。日本では、売り主と買い主の両方が宅建士に仲介手数料を支払います。売り主と買い主の両方から仲介手数料を得られるので、「両手取引」にすると手数料が2倍になります。そのため、不動産仲介会社は何とか両手取引に持ち込もうと物件の「囲い込み」行為を行うのです。

「囲い込み」とは、売り主から物件を任された宅建士が、他の宅建士による客付け(買い主を見つけること)を妨害するため、正当な理由もなく買い主の紹介を断って物件を囲い込む行為です。宅建士の報酬を成約件数に応じて「歩合給」で支払う不動産仲介会社では、同じ社内であっても、同僚に取引を取られなくないため、物件の「囲い込み」が起こることすらあります。

 物件の「囲い込み」によって、買い主は欲しい物件を自由に選ぶことができなくなります。なりより、売り主も買い主がなかなか付かなくて売却期間が長期化したり、売り出し価格を下げざるを得なくなったりするなどの不利益が生じます。「囲い込み」行為は民法や宅建業法などに違反しているのですが、「囲い込み」を見破るのは素人はもちろんプロでも困難で、防止するのは簡単ではありません。

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「囲い込み」を防げない、日本の不動産取引制度

 日本でも「囲い込み」行為などせずに、短期間で買い主を見つけた方が効率がいいと思う人もいるでしょう。確かに、客付けが長期化して売り出し価格を下げれば、仲介手数料が減って損です。しかし、不動産仲介会社としては、値下げにより仲介手数料が少し減ったとしても、「囲い込み」をしてでも「両手取引」にすれば手数料収入は、ほぼ2倍になり、その方が得になるので、なかなか「囲い込み」行為を撲滅できないのです。

 世界でも「両手取引」を合法としている国はさほど多くありません。日本の当局が今後、どう動くのか注目したいところです。

(編集協力=ジャーナリスト・千葉利宏)

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