競合物件が「ある場合」と「ない場合」とで異なる、
家やマンションの正しい「売却」戦略とは?

2018年7月30日公開(2021年10月12日更新)
ダイヤモンド不動産研究所
監修者 高橋正典:価値住宅株式会社 代表取締役

家やマンションを売却する際、まずチェックしたいのは競合物件の有無だ。同じエリアに似たような間取り、築年数の物件があるのとないのとでは、売出価格の設定や目標売却期間など、販売戦略に大きな影響を及ぼすことになる。一方で、不動産仲介会社の多くは「価格を下げてでも早く売ってしまいたい」というのが本音だ。ぜひ知識を身に付け、不動産仲介会社との交渉を有利に進めよう(監修:高橋正典・不動産コンサルタント)

不動産仲介会社に、競合物件の有無を調べてもらう方法とは?

 住宅を売却する際、同じエリアにどんな物件が売り出されているかは、販売戦略を考えていくうえで、重要なチェックポイントとなる。特に最寄り駅から前後1駅くらいのエリア内に、間取りや築年数などが似ている競合物件があるかどうかで、売りやすさが大きく違ってくる。買主にとって、同じような物件が複数あれば、より安いほうを買いたくなるのは言うまでもない。

 競合物件の状況については、売主自身が「スーモ(SUUMO)」や「ライフルホームズ(LIFULL HOME’S)」といった大手不動産ポータルサイトで調べることもある程度可能だが、やはり正確な情報を得るためには、不動産仲介会社に「レインズ(REINS)」で調べてもらうのが間違いない。

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⇒家を高値で売りたいのなら、絶対に知っておきたい「売主のためのレインズ活用法」。売主が損しても分かりにくい仕組みなので注意を!

 レインズは国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営しているシステムで、「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」を結んだ物件についてはデータベースへの登録が義務付けられている。そのため、不動産ポータルサイトに未掲載で、レインズだけに登録されている情報も少なくない。

 調べてもらうタイミングとしては、媒介契約を結ぶ前段階で、複数の不動産仲介会社に頼むのがベストだろう。自社にとって都合のいい情報だけを上げてくるようであれば、売却に対するスタンスもおのずと知れる。複数の不動産会社から情報を上げてもらうことで、そうした比較も容易に行える。

 すでに媒介契約を結んでしまっている場合でも、競合状況を調べてもらうことで、不動産仲介会社の担当者に、「知識があるうるさい客だ」と思わせたほうが、手を抜かずに販売してもらいやすい。後述するが、担当者にとっては自分の売上ノルマの達成が第一のため、”うるさくない売主”ほど、価格などの条件面を下げさせ、さっさと売却を成立させようという心理が働くからだ。

競合のない場合は「強気&スピーディー」に!

 調べてもらった結果、同じエリア内に競合物件がなければ、価格を強気に設定しやすくなる。そのエリアで物件を探している人にとって、比較対象となる物件がないため、売主に有利な条件をつけやすい。

 かといって、価格を高くし過ぎて、売却が長期化するのは避けたいところだ。その間に競合物件が出てくると、状況が一変してしまう。そうなる前に、そこそこの価格で売却してしまうのが基本戦略となる。

 価格が適正かどうかを見極めるには、情報掲載直後、2週間以内に2組以上の内覧希望者があったかどうかを目安にするといいだろう。大手不動産ポータルサイトやレインズ等へのアクセス数は掲載直後が最も多く、時間が経つごとに減少していく。内覧希望者が少ない場合は、ためらわずに値下げを行うことをおすすめする。

 また、売り出し中に競合物件が現れた場合は、その後の内覧希望者数の増減などによって対応を考えたい。価格差が大きく、内覧希望者が激減するようであれば、値下げせざるを得ないが、そうたくさん競合物件の出ないエリアであれば、そのまま価格を維持し、競合物件が早期に売却されるのを待つというのも手だ。

競合のある場合は、値下げよりも「売れるチャンス」をつくる!

 一方、売り出し前に競合物件の存在がわかっている場合は、どのような戦略を取ればいいのだろうか。注意したいのは、安易に価格競争に走らないことだ。

 買う側の気持ちになれば、容易に想像できることだが、競合物件に比べて50万円、100万円安いからといって、購入を決断するケースは少ない。本当に気に入った物件であれば、予算的に不足するお金を用立ててでも買いたいと思う人のほうが多いはずだ。

 そのため、値下げを検討する前に、建物の付加価値を高めることを考えるのが先だ。たとえば、競合物件が既存住宅売買瑕疵保険付きでないのなら、出費は伴うが費用をかけても同保険に加入し、そのぶん価格を上げたほうが得することも多い。

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 特に相場より明らかに安い物件には、売主が住み替えで売却を急いでいたり、なかには事故物件であったりするケースもある。不動産仲介会社にその理由を探ってもらい、やむを得ない事情があることがわかれば、無理に価格を下げる必要はない。

 なお、売り出しの開始から成約までの期間の平均は3カ月程度。競合する物件数が限られるようなら、前項で記したようにあえて価格を高く設定し、相手が売れてから本格的に販促を行う方法も考えられる。いずれにしても、競合物件のある場合は、成約まで時間をかけたほうが得するケースも出てくるので、3カ月~6カ月程度は見込んでおいたほうがいいだろう

 以上、競合物件のない場合、ある場合の販売戦略をまとめると、下図のようになる。

◆競合物件の有無と販売戦略
  競合のない場合 競合のある場合
価格の考え方 ●競合と比較されないので、多少強気の価格設定でも売れる可能性が高い
●価格が妥当かどうかは希望見学者数で判断する
●安易な価格競争を避け、適正価格を心がける。価格を下げるよりも、建物の付加価値を高めて売ることを考える
●競合の価格が極端に安い場合、多くはワケあり物件。過度に意識するのは無意味
目標販売期間 ●物件情報を掲載して新鮮味のあるうちが勝負。3カ月以内を目安に ●販売期間が長くなる可能性もある。3カ月~6カ月を目安に
そのほか ●価格が適正かどうかは、物件情報を公開して、2週間のうちに2組以上の内覧希望者があるかどうかで判断
●短期決戦を心がけ、競合物件が現れる前に成約させる
●競合相手の価格が安い場合、その理由を不動産仲介会社に探ってもらう
●競合数が限られている場合はあえて高い価格を設定し、競合相手が先に成約し、競合なしの状態をつくるのも手

不動産仲介会社の「値下げ」の提案には注意!

 ところで、不動産仲介会社の担当者がどんなに売主の利益を第一に考えて動いてくれているようでも、本当の第一は自分の営業成績であることは致し方ない。「できれば売出価格を低めに設定し、早く成約にこぎつけ、ノルマを達成したい」というのが、多くの担当者の本心だ。

 価格を下げれば、得られる手数料が減るのは確かだが、それは物件一つひとつに限ってのこと。担当者や不動産仲介会社レベルでは、価格の高い物件を一つ成約させるよりも、安くても複数の物件をさばいたほうが、手数料収入は多く見込める。

 そのため、ほとんどの営業マンは早く成約させるために、買主の候補が見つかった際に、売出価格よりもマンションなら200万円、戸建てなら300万円程度の値下げまでは、売主に譲歩してほしいと考えている。なぜ200万円、300万円なのかといえば、100万円程度ではインパクトが薄いからだ。

 仮に買主の予算が3000万円だとすれば、2900万円の物件の案内も受けているだろう。おそらく建物のグレードにも大差なく、値下げが購入の決め手とはなりにくいのだ。ところが、2800万円まで値下げに応じると、買主にとってお得感がかなり出てくる。さらに2600万円の予算の買主も食いついてくる可能性があるため、案内できる買主の裾野を広げることもできる。

 ただし、これらは不動産仲介会社にとってのメリットであって、値下げなしで売却できるなら、売主にとってはそれに越したことがない。よくあるのが、「4月に入ると急激に売れなくなりますから、早めに値下げして売ってしまいましょう」という不動産仲介会社からの提案だ。しかし、賃貸物件ならいざ知らず、4月に入ったからといって、売り物件の需要が大きく減ることはない。

 また、買主は景気が悪いと慎重だが、景気が良いときは勢いで購入を決めてしまうような人も増えてくる。不動産仲介会社から値下げの提案を受けた場合は、その根拠をしっかりと確認するようにしよう。

売り出す前に決めておきたい「3つの価格」

『プロだけが知っている! 中古住宅の魅せ方・売り方』などの著書がある、不動産コンサルタントで、価値住宅代表取締役の高橋正典氏によれば、ミスプライスを防ぐには、売りに出す前に不動産仲介会社との間で、次の3つの価格について合意しておくといいという。

<合意しておきたい3つの価格>

①売れたらいいなという価格

②おそらく売れるであろうという価格

③これ以上は下げられないという価格

 不動産仲介会社から提示された査定価格を参考に、まずは自分の希望価格を伝える。そして、担当者の意見を聞きながら、3つの価格について話し合っていく。その際に「各価格の根拠」はもちろんのこと、「売り出しから成約までの予想期間」「値下げする場合のタイミングと条件」についても確認を行い、目標を共有しておくと、安心して販売を任せることができる。

 たとえば、過去の取引事例に基づく相場が3000万円の場合、競合物件がなければ、「①売れたらいいなという価格」を売出価格として3300万円でスタート。内覧希望者数が多ければ、そのまま3300万円での売却をめざし、少なければ、「②おそらく売れるであろう価格」に設定した3000万~3100万円までは譲歩。もし、売り出し中に競合物件が現れた場合でも、「③これ以上下げられない価格」とした2800万円までは下げない、といったように決めておくと、ミスプライスのリスクを減らすことができる。

 「一番してはいけないのは、競合物件がある場合に価格を欲張り過ぎることです。相手より安くする必要はありませんが、初めに売出価格を高くし過ぎて、徐々に価格を下げていくうちに4カ月、5カ月経過してしまうと、買主から”売れない物件”=”問題のある物件”というイメージを持たれてしまいます。そうなると、最終的に買取業者に相場の7割程度の安い価格で買い取ってもらうしか手段のないケースも出てきます」(前出の高橋氏)

 以上のように、競合相手のある場合とない場合とで、それぞれに適した販売戦略を準備・実行していくことが、早期売却のための近道となるはずだ。

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