家を売りに出す前に、インスペクションや瑕疵保険の加入、住宅履歴情報の登録を済ませて、高値売却を狙おう!

2020年1月2日公開(2021年10月12日更新)
ダイヤモンド不動産研究所
監修者 高橋正典:価値住宅株式会社 代表取締役

不動産を高く売るための戦略を立てるうえで、建物の価値を上げることは重要なポイントになる。築年数を経るとともに、売れにくくなる大きな理由は、買主が中古住宅の品質に不安を感じていることが大きい。こうした買主の不安を軽減するために有効な「インスペクション」「瑕疵保険」「住宅履歴情報」という3つの方法について知っておこう(監修:高橋正典・不動産コンサルタント)。

建物部分の価格を数百万円単位でアップ!

 中古住宅の購入者にとって最も心配なのは、欠陥住宅を掴まされることだ。特に築後15年、20年と古い物件ほど、劣化の進み具合が焦点となりやすい。逆に、もし目に見える形で中古住宅の品質を証明できれば、買主の不安を軽減し、物件の価値を高めることもできる。

 こうした買主に安心してもらうための方法が「インスペクション」「瑕疵保険への加入」「住宅履歴情報の用意」だ。それぞれ、かかる費用は10万~15万円程度なのに対して、売却価格を数百万円単位でアップさせることも不可能ではない。

 「通常ゼロ査定とされる築20年以上の木造住宅でも、インスペクション等を行うことで、200万円~300万円アップする例は珍しくありません。ゼロ査定の建物が800万円で売れた例もあります」(不動産コンサルタントで、価値住宅代表取締役 の高橋正典氏)

 このように早期&高値売却の実現に見逃せない方法となっている。以下、各方法について見ていこう。

【買主に安心してもらう方法(1)】
建物の状態をチェックする「インスペクション」を行う

●目視による診断だからお手軽に利用できる

中古住宅のインスペクション

 建築士など住宅に精通したインスペクター(検査士)が行う、建物の診断サービスのことを「インスペクション」「住宅診断」「建物検査」などという。第三者の立場から建物の劣化状況や欠陥の有無を調べ、リフォームが必要な箇所や費用の目安、補修の時期などを明らかにするものだ。目視で行う一次診断と、別料金で専門的な機材を使って行う二次診断があるが、売却価格のアップを図るためには、一次診断で通常済む。

 一次診断の検査は、依頼者の立ち会いのもと、基礎や外壁、屋根の状態のほか、小屋裏や床下の点検口から雨漏りや劣化の有無などを、前記のとおり、目視でチェックする。たとえば、一戸建てであれば床下を見て、「基礎工事はベタ基礎(床下全体を支える形の基礎)か布基礎(平均台のような形の基礎)か」「基礎に鉄筋は配してあるか」「木部の腐食はないか」「シロアリの被害はないか」などをチェックしていく。マンションであれば、給排水管や換気扇などの設備の不具合、雨漏りや水漏れの痕跡、床の傾きなどを診断する。

 費用は検査を行う会社によって異なり、一次診断の場合、5万~10万円程度。所要時間は住宅の規模や検査範囲にもよるが、建物面積が100m2(約30坪)程度で2~3時間かかる(二次診断の費用は依頼内容による)。

 診断から数日して、詳細な報告書が届く。「構造には問題がないが、外壁は5年以内に塗り替えたほうがいい」といった軽微な指摘については、売主側で無理に改修工事を行う必要はない。その情報を買主に提供するだけで十分だろう。リフォーム済みで耐震性が不明な3000万円の物件よりも、数年後にリフォームが必要でも、構造上の問題がないことが明らかな3200万円の物件のほうが安心できるからだ。

 耐震性など重大な欠陥を指摘された場合は、売却前に耐震補強工事を行うことも選択肢となってくるが、耐震補強工事の費用は一般に100万~200万円前後。その分、物件の価値を高め、売却価格をアップさせることができるため、インスペクションによって損をするケースは少ないと考えていいだろう。

●大手不動産検索サイトでも有利な扱いに

 実際、大手不動産検索サイトでは、「インスペクション」「住宅評価物件」や、次に紹介する「瑕疵保険」などのキーワードで、物件検索できるところが増えている。またエリアで通常検索した場合も、「インスペクション済み」と表示されたり、ライフルホームズなどでは、インスペクション済み物件が上位に表示されるようになっている。

 法的にもインスペクションを後押しする動きが強まっている。2018年4月1日には改正宅地建物取引業法が施行され、不動産仲介会社は売主から売却の依頼を受けた場合、インスペクションの告知・斡旋を行うことが義務付けられた。

 ただし、制度の施行から日が浅く、その効果について勉強不足だったり、早く売却して売上を上げたいがために、インスペクションに消極的な不動産仲介会社も多いのが実情だ。もし自分でインスペクターを探すなら、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会のサイト(https://www.jshi.org/)にアクセスしてみよう。

 同サイトでは、物件の所在地や物件タイプ(戸建てか、マンションか)などにより、全国各地のインスペクションに対応している設計事務所を検索できるようになっている。各インスペクターの経歴なども紹介されているので、業者選びの参考になるはずだ。

【買主に安心してもらう方法(2)】
引き渡し後の不具合を補償する「瑕疵保険」に加入する

●加入により、買主も売主も安心できる

 瑕疵とは、欠陥のこと。新築住宅では、物件の引き渡しから10年間、構造部分の瑕疵については、売主または施工会社が保証してくれることになっている。中古住宅でも、売主が不動産会社の場合は、2年間の保証をつけることが義務付けられている。

 ところが、中古住宅の売主の中心は個人であり、その場合、瑕疵担保保証をつけるかどうかは当事者間、すなわち買主との合意に委ねられている。そのため、約6割の物件が保証のない売買となっていて、保証をつけている場合でも、引き渡しから1~3カ月程度としていることが多い。これでは買主は安心して購入できない。

 そこで注目したいのが、中古物件のための「既存住宅売買瑕疵保険」(以下、「瑕疵保険」)だ。「既存住宅売買瑕疵保険」に加入することで、引き渡し後に発生した構造的な不具合に対して、1000万円までの補償費用が最長5年間保証される。構造的な不具合とは、柱や基礎などの「構造耐力上主要な部分」と、外壁や屋根などの「雨水の浸入を防止する部分」における欠陥のこと。このほか、給排水管などの保証も追加できる。

 一般的な瑕疵担保保証では、保証期間中に瑕疵(欠陥)が見つかった場合、買主は売主に対して損害賠償を請求したり、売買契約を解除したりすることになる。買主からすれば、本当に損害を賠償してもらえるのかなど、不安は大きい。その点、瑕疵保険に加入していれば、保険で対応してもらえるので安心して購入に踏み切れる。また、売主にとっても、金銭的な補償や契約解除のリスクを負わずに済むようになる。

●築古物件でも住宅ローン減税が適用される

 さらに瑕疵保険への加入によって、買主にはもう一つ大きなメリットが生まれる。本来、住宅ローン減税の対象外である物件でも、控除が受けられるようになるのだ。住宅ローン減税の住宅の要件は、木造は築20年以内、マンションは築25年以内となっているが、瑕疵保険に加入していると、これらの築年数を超えていても、住宅ローン減税が受けられるようになる。
【関連記事はこちら】>>築20年超の古い家でも高く評価させる裏ワザとは? 買主にお得な「住宅ローン減税」を適用させよう!

 住宅ローン減税とは、その人の年収に対する所得税が控除(軽減)されるものだが、たとえば、令和1年10月1日から令和2年12月31日の間に中古住宅(一般住宅)に入居した人であれば、毎年ローン残高の1%分(最高20万円まで)の所得税が10年間にわたって控除される。

 その人の年収やローン残高、そのほかの控除などによって個人差があるが、扶養者のいない会社員であれば、年収600万円で所得税の年額は約20万円。つまり、10年間にわたって所得税がほぼゼロで済むということ。年収400万円でも、所得税額は年間約8万5000円のため、10年間で85万円も得することになる。

 このように瑕疵保険に入っていると、買主は10年間で数十万円から最高200万円の割引を受けるのと同じ効果が得られることになる。売主からすれば、当然、買主がつきやすく、強気な売値をつけることも可能になるのだ。

●瑕疵担保責任を検査事業者が肩代わり

 では、瑕疵保険に加入するには、どのような手順と費用が必要なのだろうか。

 まずは住宅瑕疵担保責任保険協会の「登録事業者の検索サイト」(http://search-kashihoken.jp/)にアクセスして、専門の検査機関を探し検査を受ける。検査内容はほぼインスペクション(一次診断)と同じだが、瑕疵保険の検査のほうが限定的となっている。

 なお、検査対象となる物件は、原則として、新耐震基準に適合した1981年6月1日以降に建築確認を受けた住宅に限られる。ただし、新耐震基準であることが確認できない住宅でも、別途、耐震基準についての検査を受け、耐震基準適合証明書等を取得できれば可能になる。前記、検査機関に相談してみてほしい。

 検査の結果、加入が認められれば、保険付保証明書が発行される。これにより、築古物件でも、住宅ローン減税が受けられるようになる。補修すべき点が見つかった場合は、売主が引き渡し前に補修し、再検査で適合すれば保険に加入できる。売主が補修しない場合は、買主が物件の引き渡し前に耐震基準適合証明書の仮申請を行い、引き渡し後から居住開始までの間に改修工事を行っても、保険への加入が認められる。

 覚えておきたいのは、実際の保険の加入者は検査事業者になること。瑕疵保険に加入後に瑕疵が発見された場合、買主は検査事業者に補修を求め、その費用が保険金によって支払われる。万が一、検査事業者が倒産してしまった場合は、直接保険会社に保険金を請求できる。

 以上、検査費用が6万~7万円前後(インスペクションとまとめて行っても10万円前後)。そのほか、実際に瑕疵保険に加入する際に、保険料+現場検査手数料として4万~8万円を負担する。瑕疵保険を取り扱っている保険会社は検査機関とは別で、国土交通省から指定されている以下の5社となる。

既存住宅売買瑕疵保険の取り扱い会社
 

・住宅保証機構 https://www.mamoris.jp/

・住宅あんしん保証 https://www.j-anshin.co.jp/

・日本住宅保証検査機構 https://www.jio-kensa.co.jp/

・ハウスジーメン https://www.house-gmen.com/

・ハウスプラス住宅保証 http://www.houseplus.co.jp/

【買主に安心してもらう方法(3)】
建物の「住宅履歴情報」を用意する

●住宅履歴が明らかな物件は購入しやすい

 「住宅履歴情報」とは、自動車でいえば「整備記録」のようなもの。新築時の図面や建築確認書類に始まって、入居後の点検結果やリフォーム記録、また戸建てなら住宅性能評価書、マンションなら管理組合の規約や長期修繕計画書などのことだ。

 住宅履歴情報が揃っていると、不動産仲介会社に物件の価値を正しく査定してもらえる。修繕などがきちんと行われていれば、当然、物件の価値は高く評価されるし、「住宅性能評価書付き」「〇〇年リフォーム済み」など、広告の材料としても使える。また、買主にとっても、建物の性能やリフォーム状況を把握できるため、購入しやすくなる。住宅履歴情報を整えておくだけで、不明点の多い物件よりも優位に立つことができるということだ。

 履歴は個人で管理してもかまわないが、将来的に売却を考えている人は、国土交通省が定めたルールに則った住宅履歴情報サービス機関に依頼して、履歴を管理してもらうのもいいだろう。住宅履歴情報サービス機関は、一般社団法人の住宅履歴情報蓄積・活用推進協議会のホームページ(http://www.iekarute.or.jp/)にアクセスし、会員名簿で確認できる。

 住宅履歴情報サービス機関に前記のような住宅履歴情報を渡すと、電子化してデータベース化してもらえる。データ管理は各機関をまたいで一括して行われるため、依頼先の機関に万が一のことがあっても、データを利用できなくなるようなことはない。

 なお、サービス内容や費用は機関によって異なる。たとえば、定期的なインスペクションと住宅履歴情報の登録・管理がセットになっているところもあるので、自分のニーズと費用のバランスを考えて検討しよう。

2018年4月から新たに「安心R住宅」も登場

 ここまで見てきた「インスペクション」「瑕疵保険」「住宅履歴情報」という3つの方法以外に、2018年4月から新たにスタートした「安心R住宅」制度も利用が広まっている。「安心R住宅」制度は、中古に対するマイナスイメージを払拭するために、一定の基準に合致した中古住宅に対して、国が定めた「安心R住宅」のロゴマークを、不動産検索サイトや広告で掲載できるようにしたものだ。

 じつはこの「一定の基準」は、「インスペクション+新耐震」とほぼ同じ内容になっている。「安心R住宅」を取得した物件は、無条件で瑕疵保険に加入でき、築年数を問わず住宅ローン減税の対象にもなる。買主からすれば、国からお墨付きをもらった物件が一目でわかる、シンプルな制度となっている。

 ただし、売主からすると不便な面もある。まず、「安心R住宅」のロゴマークを取得できるのは、国から認定を受けた事業者団体に限られること。また、売却を依頼する不動産仲介会社は1社に限定しなければならないため、契約形態は「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」に限られることだ。そのため、前述の3つの方法をチョイスするか、安心R住宅を取得するかは、売却しようとした時点での広まり具合を見て判断するのがいいだろう。
【関連記事はこちら】>>家を売るときの契約方法は、「一般媒介」「専任媒介」「専属専任媒介」でメリットが大きいのはどれ?

 いずれにしても、売却に向けてインスペクション等の実施が当たり前の世の中に変わりつつあるのは間違いない。2016年から2019年時点の首都圏の中古マンションの成約率は新築マンションを上回っている。かつてない現象である。中古市場が賑わうということは、高値売却のチャンスであると同時に、ライバル(物件)間の競争も激しくなるということ。より戦略的に早期&高値売却を考えていくことが重要になっていくだろう。

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