「生産緑地」は、維持するべき? 売却するべき?
"相続税の納税猶予"を受けているか否かが分かれ目

2018年4月13日公開(2021年5月11日更新)
ダイヤモンド不動産研究所

「生産緑地」の指定が2022年から順次、30年の期限を迎える。新たにできる「特別生産緑地」として10年ごとの延長を選ぶのか、フリーハンドを得て宅地への転用、有効活用、売却などを考えるべきか、難しい判断を迫られる。

「生産緑地」のメリットは、農地以外への転用が禁止される一方で、相続税の支払いを猶予してもらえること。指定を外されて生産緑地でなくなると、支払いが猶予されていた相続税だけでなく、猶予された期間に応じて所定の割合を乗じた税金(利子税)を上乗せして支払わねばならず、大きな負担となる。

「生産緑地」の指定を受けると、
固定資産税と相続税が大幅に軽減される

 大都市周辺で農地を見ることは少なくなったが、いまだにところどころ畑が残ったりしている。これが「生産緑地」だ。

 三大都市圏の特定市の農地のうち、一定の要件を満たすものについて地元の自治体が指定したものである。

 「生産緑地」の指定を受けると、農地以外に転用することが原則禁止される一方、固定資産税と相続税が大幅に軽減される。

 そもそも、固定資産税において農地は、「一般農地」と「市街化区域内農地」に区分される。「一般農地」は農地として使われることを前提として評価(農地評価)されるので、固定資産税も軽い。

 一方、「市街化区域内農地」は都市部の市街化区域にあり、固定資産税は宅地並みに評価・課税されるのが原則。相続税についても、「市街化区域内農地」は周辺の類似した宅地の評価額が基準になり、本来の税額はかなり高額だ。

 しかし、「市街化区域内農地」は「生産緑地」に指定されることで、固定資産税は宅地並みに評価・課税される場合に比べて固定資産税の負担を100分の1以下に抑えられる。

 相続税についても、「生産緑地」の指定を受けていると、本来の相続税額の大部分が、一定の要件を前提に支払いを猶予することができる。たとえば東京都では、土地の相続税評価額のうち、㎡当たり、田は900円、畑は840円、採草放牧地は510円を超える部分の相続税の納税が猶予される。

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「生産緑地の2022年問題」とは?

 このように「生産緑地」に指定された都市部の農地は、固定資産税や相続税が大幅に軽減されるメリットがあった。

 しかしそれは同時に、「生産緑地」を所有する農家にとって、基本的にずっと農業を続けなければならないなどの制約がともなう。

 ただし、以下のいずれかのタイミングであれば、「生産緑地」の所有者は市区町村に対し、「生産緑地」の買取りを申し出ることができるとされている。

(1)指定告示日から30年経過したとき
(2)主たる従業者が死亡したとき
(3)主たる従業者がなんらかの故障によって農業に従事することが困難になったとき

 市区町村は、農家から「生産緑地」の買取り申出があると、「時価」で買い取らなければならないことになっている。

 だが、財政難を理由に買い取りされることはほとんどなく、通常は「生産緑地」としての制限が解除され、自由に建物を建てたり、宅地に転用したりすることが可能になる。

 特に、2022年には生産緑地が最初に指定されてから30年目を迎え、上記の(1)にあたる「生産緑地」は買取りの申出が可能になる。

 「生産緑地」を所有する農家が一斉に地元の自治体に買取りの申出を行い、多くが宅地として不動産市場で売り出されたり、新築アパートなどが建てられたりするのではないかと危惧されているのが、「生産緑地の2022年問題」だ。

 最近は大手ハウスメーカーやアパート専業メーカーが、「生産緑地」をテーマにしたセミナーを盛んに開催している。これはまさに、2022年以降の受注を狙って、「生産緑地」を所有している農家を囲い込もうという営業活動にほかならない。

"相続税の納税猶予"を受けているなら「特定生産緑地」へ

 30年の期限切れを迎える「生産緑地」について、地元自治体へ買取りを申し出る農家はどれくらいあるのだろうか。

 実際には、30年の期限切れを迎える「生産緑地」を所有する農家にとって、「"相続税の納税猶予"を利用している」か「していない」かが、大きな分かれ目になるといわれる。

◆「相続税の納税猶予を利用している」場合の有力な選択肢
生産緑地」の指定を再び受ける
 ※再び30年間、営農
特定生産緑地」の指定を受ける
 ※10年ごとに再申請
◆「相続税の納税猶予を利用していない」、あるいは、
相続人が死亡(相続税は免除)した場合の有力な選択肢
生産緑地の指定を解除して「売却」する
 ※買取り申出後、購入者がいない場合
生産緑地の指定を解除して「有効活用」する
 ※買取り申出後、購入者がいない場合

 「生産緑地」における相続税の納税猶予では、農地を相続した人(相続人)が生涯、農業を続けることが条件だ。その間、毎年、利子税(相続税の延納額に所定の割合を乗じて算出)が付くが、その相続人が亡くなったりした場合に相続税は免除され、利子税も遡ってなくなる。

 逆に言うと、三大都市圏の特定市の市街化区域にある「生産緑地」の場合、一生農業を続けなければ猶予された相続税は免除されない。もし、途中で「生産緑地」でなくなると、それまで支払い猶予されていた相続税に、それまでの期間分の利子税を合計した額を支払わなければなくなる。

 仮に、相続税で2000万円の納税猶予を受けて、その後の10年後に農業をやめたとしよう。利子税は時間の経過でどんどん加算されるので、納税猶予を受けていた2000万円だけでなく、プラス数百万円の利子税を支払うことになる。

 そのため、指定から30年経ち、買取り申出が可能な「生産緑地」であっても、相続税の納税猶予を受けている場合、買取りの申出はあまり現実的ではない。

 相続税の納税猶予を受けている場合は、指定から30年経ったとしても、従来の「生産緑地」の指定を再び受けるか、新たにできた「特定生産緑地」の指定を受けるというのが有力な選択肢だろう。

 「特定生産緑地」とは、2017年4月に都市緑地法等の一部が改正され、新たに設けられたもの。これは、市区町村が利害関係者の同意のもと、新たに「特定生産緑地」として指定を受ければ、買取り申出が可能となる時期を10年先送りすることができるとするものだ。

 この改正では、指定面積の要件を従来の500㎡以上から市区町村の条例によって300㎡まで引き下げることや、「特定生産緑地」内において農産物直売所や農家レストランなどの設置が可能になった。従来の「生産緑地」より使い勝手がよい。

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"相続税の納税猶予"がなければ、売却を含めて検討を

 一方、相続税の納税猶予制度を利用していない場合、指定から30年経って「生産緑地」の買取り申出を行い、指定を解除しても、「相続税を遡って支払わないといけない」といった問題はない。

 もちろん、「生産緑地」や「特定生産緑地」の指定を再度受けるという選択肢もある。そうなると、再び30年ないし10年間の営農義務が発生する。その間に相続が発生した場合、その時点で「生産緑地」や「特定生産緑地」の買取りを申し出てもよい。

 ただ、それでは単なる先送りに過ぎない。この機会に買取り申出をして、計画的に売却や有効活用を検討するほうがよいのではないか。

 売却や有効活用といっても、農地から宅地への転用、土地の造成、その後、宅地として売却するのか、建売住宅として分譲するのか、アパートや賃貸マンションを建てて賃貸するのかなど、様々な選択肢がありえる。

 税理士をはじめ様々な専門家のアドバイスを仰ぎながら、またそれぞれの事情などを踏まえて慎重に検討することが欠かせないだろう。

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