不動産売買契約書でチェックすべきポイントを解説!
家やマンションの売却で起こるトラブルを回避しよう

2018年10月13日公開(2018年11月6日更新)
ダイヤモンド不動産研究所

「不動産売買契約書」を交わした時点で、原則、売買は成立したことになる。それ以後は、売主、買主とも、例外的なケースを除いて、無条件に契約を白紙に戻すことはできない。それだけに、売主自身が契約内容を正しく理解しておくことが大切だ。不動産仲介会社任せにせず、何かあったときに一方的に不利益を被ることがないよう、自分の目でしっかりとチェックしよう。

不動産売買契約書は、4テーマ、11項目をチェック!

不動産売買契約書の一例不動産売買契約書の一例

 不動産売買契約書は、取引する物件を特定し、売買契約成立後に売主と買主がそれぞれ守らなければならない取り決めを記載したものだ。購入代金の支払時期や物件の引き渡し日、契約解除する場合のルール、物件の引渡し後に瑕疵が見つかった場合の修理費の負担など、その内容は多岐にわたる。

 そのため、買主との交渉や契約書の作成を不動産仲介会社に任せきりにしてしまい、なかには契約当日まで記載内容を確かめもせずに判を押してしまう人もいる。しかし、いったん契約を結んでしまえば、簡単に破棄(解除)はできない。事前に契約書のコピーをもらい、気になる点があれば詰めておく必要がある。

 では、具体的にどんな点に注意して、不動産売買契約書の内容をチェックしていけばいいのだろうか。まず知っておきたいのは、不動産売買契約書の形式には法的な決まりがあるわけではないこと。契約書の内容も、条項の数や順序もさまざまだ。

 とはいえ、売主と買主が合意できる内容でなければ契約は成立しない。そのため、契約書の標準的な内容は決まっていて、「印紙代の負担割合」など細かなものまで含めると、おおむね15~20の契約条項で構成されるものが多い。

 そのなかでも重要なのは、以下A~Dの4つの条項にかかわる11項目のチェックポイント

 まずは、「売買する物件・設備」に関する条項から順に、チェックポイントを見ていこう。

【チェック(1)】売買物件の記載情報に誤りはないか?

 売却する物件の所在地や地番、地積(面積)、構造などの記載が登記簿(登記事項証明書)どおりになっているかを確認する。売買対象となる物件が明確になっていることが重要だ。

 注意したいのは、複数の「筆(ふで)」があるケース。筆とは登記簿上の土地単位のこと。分譲マンションは一戸ごとに一筆(ひとふでorいっぴつ)となっているが、一戸建ての場合、実際の物件を見ても、何筆で構成されているかはわからない。

 よくあるのは、建物の建つ敷地とは別に、私道持ち分として一筆ある場合など。契約書では、一筆ごとに地番や地積を記載することになるため、漏れがないか確認しよう。

【チェック(2)】対象面積の測り方は?

 物件にまつわる面積には、測り方の違いによっていくつか種類がある。

 マンションでは、壁の内側の線で囲んだ登記簿上の「内法面積」(いわゆる「床面積」)を記載することが多い。ただ、パンフレットなどに記載されることの多い「壁芯面積」(壁の厚みの中心線で囲んだ面積)でもいいことになっているため、どちらの面積かを明示しておく必要がある。

 一戸建てについては、登記簿上の「公簿面積」ではなく、測量による「実測面積」を記載するのが通例だ。公簿面積には明治時代の測量も交じっているため、実測面積と差異のあることが少なくないからだ。ただし、売主による測量が契約締結時に間に合わないときは、契約書には公簿面積を記載するケースもある。

【チェック(3)】引き渡す付帯設備や備品は
正確に記載されているか?

 契約書の別紙として、照明やエアコン、給湯器など、買主にそのまま引き渡す設備や備品をまとめた「付帯設備表」を添付する。エアコンなどは売主が新居に移すこともあるため、買主との行き違いのないようにするためだ。

 注意したいのは、各設備の状態を正しく記入すること。不具合があるのに未記入にしていると、後でトラブルに発展しかねない。

 特に「給湯」「水回り」「空調」「インターホン」などの主要設備については、故障・不具合を「無」として引き渡した後、買主から7日以内に故障や不具合の修復請求を受けた場合、売主が責任を負う契約になるのが一般的なので注意しよう。

 次に、「代金の支払いや引き渡し」に関する条項で、チェックすべきポイントを見ていこう。

【チェック(4)】売買代金の支払い額や支払い方法は?

 売買代金や手付金、残代金の支払い額や支払い期限が正しく記載されているか確認する。一般的には、売買契約締結時に買主から物件価格の5~10%程度の手付金を受け取り、引き渡し時に残代金を精算することが多い。

 手付金については、形式的なやり取りと考えている人も少なくないが、あまりに少額に設定すると、解除されるリスクが高まることを頭に入れておこう。

 なお、「チェック(7)」で述べるように、契約書に「公簿面積」を記載している場合、「実測面積」による精算が必要かどうかの確認が必要だ。

【チェック(5)】所有権の移転と引き渡し時期は?

 売主から買主への「所有権の移転」と「物件の引き渡し」は、残金決済時に同時に行われることがほとんどだ。ただし、売主の都合で「引き渡し猶予」を希望する場合はその旨の記載が盛り込まれているか確認しよう。

 引き渡し猶予とは、所有権の移転を済ませた後、退去するまで猶予期間をもらうもの。よくあるのは、売主が物件の売却と同時に新居の購入を進めているケースだ(いわゆる「買い替え」のケース)。

 新居の住宅ローンを組むためには、現在住んでいる物件(売却する物件)の住宅ローンを先に完済しなければならない。その返済に売却代金を充てる場合、「売却→住宅ローンの完済→新居の購入(=新たに住宅ローンの借入れ)」といった流れになるため、売却から新居への引っ越しまでに猶予期間が必要になるのだ。

 どれだけ猶予をもらえるかは買主との話し合い次第だが、数日から1週間程度に設定されることが多い。

【チェック(6)】抵当権の抹消など、引き渡しの条件は?

 売却する物件に、住宅ローンが残っているなど抵当権が付いていたり、賃貸に出していたりする場合は、抵当権や賃貸権を抹消してから買主に引き渡すのが原則だ。言い換えれば、売主は決済前に、買主が所有権を完全に行使できる状態にしなければならないということだ。

 ただ現実には、売主が売却代金で住宅ローンを完済する場合、抵当権の抹消前に買主に決済してもらわなければローンを返済できない。所有権移転登記と抵当権抹消登記はその後に行うことになる。

 これらは通常、同日に行われるが、数時間とはいえ、買主は抵当権付きの物件を所有するリスクを負うことになる。そのため、買主によっては話が違うと、契約を渋るケースも出てくる。

 そこで、住宅ローンの残債がある場合には、「売主の負担の消除の際、買主の残代金にて抵当権の抹消を行うことを、買主は承諾する」といった一文を契約書に明記しておくこと。売主が抵当権を抹消しなければ買主が罪に問われることになるため、買主の不安を軽減することができる。

【チェック(7)】一戸建てを「公簿面積」で引き渡した場合の売買代金の精算は?

 「チェック(2)」で述べたように、一戸建てでは測量による「実測面積」を記載するのが一般的だが、契約締結時までに測量が間に合わないときは「公簿面積」を記載する。

 その際に「公簿売買」と記載してあると、仮に売却後に測量を行った結果、実測面積と差があったとしても、売買価格の調整は行わない。また「売買対象面積」などの条項名で、「本物件の売買対象面積は、表記の面積とし、測量した面積との間に差異が生じたとしても、売買代金の増減の請求等は行わないものとする」と記されている場合も、価格調整は行わない。

 一方、「実測売買」と記してある場合は、面積差に応じて価格を調整し、精算を行うことを約束したことになる。

 続いて、「契約解除」に関する条項のチェックポイントを解説しよう。

【チェック(8)】住宅ローン特約の有無は?

 住宅ローン特約とは、買主が住宅ローンの借入れができなかった場合、売買契約を無条件に白紙撤回できる権利を記した条項のこと。契約書には住宅ローンの申込金融機関名や融資金額、特約に基づく契約解除期日などが記載される。

 売主にとっては、契約を解除されるリスクが出てくる条項だが、この条項なしで買主と合意するのは難しいだろう。自衛策としては、購入申込書を受け取った段階で勤務先や収入を見て、確実にローン審査に通りそうな買主を選ぶしかない。不動産仲介会社の意見も聞きながら、判断しよう。

(※関連記事はコチラ!)
⇒住宅ローン特約で、不動産の売買契約を白紙にできなかったら、どうする? ローン特約のトラブルを回避する5カ条を紹介!

【チェック(9)】手付解除や契約違反による解除のルールは?

 手付金の授受の後、売主、買主の自己都合により、契約を解除する場合のルールを記したのが「手付解除」だ。買主は手付金を放棄することで、売主は手付金を倍返しすることで契約を解除できる。

 ただし、いつでも解除できるわけではない。民法では「当事者の一方(=相手)が契約の履行に着手するまで」と規定されている。ただし、表現が曖昧なため、手付解除に相当するかどうかでトラブルになるケースもある。

 一般的な契約では、手付解除のほかに、「契約違反による解除」という条項が設けられていて、手付解除の期限を過ぎてからの解除には、売買代金の10~20%の違約金が発生することになっている。

 そのため、手付解除については、具体的な期限を契約書に明記しておこう。手付解除を申し出る可能性は買主のほうが高いので、売主なら必ず設定すべきだ。標準的な期限は、決済まで1カ月以内の場合は引渡し日の1週間~10日前まで、2~3カ月ある場合は1カ月前までといったあたりだ。

 最後に、「不測の事態」に関する条項の、2つのチェックポイントを見ていこう。

【チェック(10)】売主が負う「瑕疵担保責任」の期間は?

 「瑕疵担保責任」は物件の売却後、雨漏りやシロアリ被害など、隠れた瑕疵が発覚した場合に、売主の負担で補修したり、損害賠償に応じたりすることを定めたもの。買主を守るための条項だ。

 売主からすればありがたくない条項だが、そもそも民法で、買主が瑕疵を知ってから1年以内の申し出については、原則、売主が瑕疵担保責任を負わなければならない旨が定められている。

 そのため、契約書に売主が瑕疵に対して責任を負う範囲を明確にしておいたほうがむしろ有利になる。中古物件の場合、経年劣化も進んでいて、どこまでが瑕疵か判別しにくいことから、個人の売主が責任を負うのは、引き渡しから2~3カ月、長くても6カ月とすることが多い。

【チェック(11)】危険負担についての売主の責任範囲は?

 万が一、売買契約を結んでから引き渡しまでの間に、地震や火事、台風などによって建物が損傷した場合の責任範囲について確認しておこう。

 ほとんどの契約では、売主が修復して物件を引き渡す取り決めとなる。この際、修復可能な状態にもかかわらず、買主が一方的に契約を破棄することはできない。ただし、物件の修復に過大な費用がかかるときや、修復を試みたとしても原状回復に程遠い場合、契約を無条件に解除できる権利を、売主、買主ともに持つ。

 なお、マンションの共用部などが損傷した場合、売買契約の対象ではないため、売主に修復の義務は生じない。

不動産売買契約書の責任を負うのは売主

 以上のほかにも、売主、買主の間で合意したことについては、無用なトラブルを避けるため、極力、契約書に盛り込むようにしよう。「売主は引き渡しまでに、隣地所有者の立ち会いのもと、境界を確定する」「固定資産税については、引き渡し前まで売主の負担、引き渡し後は買主の負担とする」「売主は引き渡し前に専門業者によるルームクリーニングを行う」など、契約書からこぼれている条項があった際は、「たぶん大丈夫だろう」で済ませないで不動産仲介会社に条項の追加を必ず依頼しよう。

 不動産仲介会社のなかには、契約当日まで契約書を見せるのを嫌がったり、契約内容について相談すると「当社の規定ですので」と取り合おうとしない担当者もいる。こうしたケースの多くは「修正を依頼されると面倒」「早く売却を成立させるため、買主に譲歩した内容になっているから見せたくない」というのが理由だから、余計にしっかり確認したほうがいいだろう。

 どんなにうるさい客と思われても、契約を結んで責任を負うのは売主自身。契約内容に十分納得したいうえで、判を押すようにしよう。

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