新型コロナウイルスの影響で景気の先行きは不透明感を増しているが、首都圏のマンション価格は過去7年間でこれまでにないほど高騰している。仮に売却を検討しているのであれば、住宅ローン金利状況も含めて、今が買い替えをする最後のチャンスかもしれない。そして、これから住み替えるのならマンションではなく、安くて広い「一戸建て」への買い替えへと発想を変えてみてはどうだろうか。(住宅ジャーナリスト・山下和之)
首都圏中古マンション価格は、7年連続で上昇
「マンション価格の上昇」というと、新築マンションのことと思いがちだが、実は中古マンションの価格も上がっている。図表1にあるように、首都圏の中古マンション価格は、2013年から7年も連続して上がっているのだ。
首都圏中古マンションの近年の底値は、2012年の2500万円。その後、7年連続して価格が上がってきた結果、2019年には3442万円に達している。つまり、7年間で37.7%も上昇した。新築マンション価格も上がっているものの、2012年から7年間の上昇率は31.7%。中古マンションのほうが、価格上昇率は大きいことが分かる。
こんなふうに中古マンションの価格が上がってきた結果、「いまならいい値段で売れる」と、買い替えに動き始める人たちが増えているようだ。
売却損が出る人が、5割台まで減少
1980年代のバブル期から1990年代のバブル崩壊後にマンションを買った人たちは、購入価格が高かったため、売却すると大幅な赤字になることが避けられず、買い替えをためらうケースが多かった。
それが最近は、中古マンション価格の上昇で、その売却損が小さくなりつつある。むしろ、2000年以降に新築マンションを買った人たちは、売却益が出るケースが増えているのだ。
不動産流通経営協会の調査によると、図表2にあるように、2013、14年度の調査では、買い替えによって売却損が出る人が8割を超えていて、売却益が出る人は1割強に過ぎなかった。しかし、2019年度の調査では、売却損が出る人は55.2%に減少し、売却益が出る人が37.8%に増えているのだ。
築10年以内の物件では、売却益が出るケースが増えている
この不動産流通経営協会の調査は全国が対象だが、中古マンション価格の上昇が著しい首都圏ではその傾向がいっそう強まる。
民間調査機関の東京カンテイでは、10年前に分譲された新築マンションが、現在いくらで取引されているかを調査し、「リセールバリュー」を算出している。リセールバリューとは、新築購入時の価格に対する売却額を、パーセンテージで示したものだ、
たとえば、10年前の分譲価格が4000万円で、現在の流通価格が3000万円なら、リセールバリューは3000万円÷4000万円で0.75だから、75%ということになる。反対に、4000万円の物件が10年後に5000万円で売れれば、リセールバリューは5000万円÷4000万円の1.25で、125%ということになる。リセールバリューの数値が大きいほど、購入後値上がりした物件というわけだ。
2018年の調査では、首都圏の各駅の平均リセールバリューは91.5%にもなった。さらに、調査対象630駅のうち138駅は、リセールバリューが100%以上だった。ということは、10年前に分譲されたマンションのうち、2割以上のエリアで分譲価格より高く売れたことになる。
リセールバリュー100%以上の駅は、山手線の内側やその周辺エリア、城南・城西から横浜・川崎など、マンション分譲の多いエリアに集中している。このエリアでは、マンション売却で利益が出る人が4割近くに達しているのだが、近年の都心回帰の傾向からみても、当然の結果だろう。
買い替えで、高額な住宅ローンを組むのはリスクが高い
しかし、いくらマンションが高く売れて、多少なりとも売却益が出るにしても、買い替え先のマンションがそれ以上に高くなってしまっては意味がない。特に、新築マンションにこだわると、どうしても高額になってしまう。図表1にあったように、首都圏の場合、現在の新築マンションの平均価格は6000万円近くもするのだ。
いま住んでいるマンションが、首都圏平均の3500万円ほどで売れたとしても、売却の手数料などを差し引くと手元には3000万円ほどしか残らない。6000万円に対して、3000万円の不足だから、それを住宅ローンで調達するとなると、再び20年、30年の返済が続くことになる。それも、現在の家の住宅ローンの返済が終わっているとしての計算だ。住宅ローン残債があれば、買い替えに回せる資金はもっと少なくなって、資金計画は格段に厳しくなるだろう。
若いうちならリタイアまでに完済できるような計画も可能だろうが、買い替えとなると、年齢もそれなりに高くなっているはずだから、住宅ローンを利用しての購入計画はかなり厳しくなりそうだ。
値上がりしていない「一戸建て」に買い替えるのが得策
そこで、注目したいのが一戸建て。マンションの高騰の陰で、実は一戸建ての建売住宅は買いやすくなっているのだ。
図表3にあるように、2019年の首都圏の建売住宅の平均成約価格は3510万円。2009年の平均価格は3565万円だったから、10年前と比べるとむしろ安くなっている。
仮に、住宅ローンの返済が終わっていて、いま住んでいるマンションが3500万円で売れたとしよう。諸費用などを除くと、約3000万円が手元に残る。
3500万円の一戸建てを買うとすると、あと500万円ほどの自己資金があれば、ローンなしで建売住宅が手に入ることになる。
現在の住まいを売却して売却益が出た場合、税金がどうなるか気になる人もいるだろうが、心配は不要だ。「居住用財産の3000万円特別控除」という制度がある。自己居住用の住まいであれば、売却益3000万円までは税金がかからないというもので、これを利用すれば、売却益をフルに買い替え資金に回すことができる。
しかも、図表3でも分かるように、首都圏建売住宅の成約価格と新規登録価格との間には、大きな差がある。売りに出されたときの新規登録価格が4046万円に対して、実際にはそれより536万円安い価格で成約している。
まったく同じ物件の比較ではないので、単純な比較はできないものの、少なくとも、かなりの値引き交渉が行われている可能性が高い。うまく交渉すれば、もっと安く手に入る可能性がないとはいえないだろう。
一戸建てへの買い替えなら、延床面積も格段に広くなる
しかも、一戸建てなら延床面積が格段に広くなるのが大きなメリットだ。
図表4は国土交通省が毎年行っている「住宅市場動向調査」から、住み替え前と住み替え後の延床面積がどう変わったかを比較したものだ。
分譲戸建て住宅、いわゆる建売住宅を買った人は、それまでの72.0㎡から110.3㎡へと、38.3㎡も広くなっている。1畳1.62㎡とすれば、畳数にすれば約24畳分も広くなる計算だ。
それに対して、分譲マンションを買った人は、71.4㎡から75.8㎡で、ほとんど変化がない。せっかく買い替えても、マンションだと住まいのゆとりを求めることは難しいのが現実だ。
とはいえ、建売住宅は郊外の不便な場所にあるのがふつうで、通勤・通学時間が長くなるのでは――と不安を感じる人がいるだろうが、必ずしもそうとは限らない。
やはり、国土交通省の「住宅市場動向調査」によると、建売住宅に住み替えた人の通勤時間は42.0分から42.7分でほとんど変化はない。一方、マンションに買い換えた人は48.7分から44.9分に若干短くなっているが、建売住宅とマンションを比較すると、むしろ建売住宅のほうが、通勤時間は短いという結果だ。
あまり先入観にとらわれないで、買い替え先の選択肢を広げてみれば、世界が広がってみえるかもしれない。
今なら中古マンションが高値で売れる!
住み替えは一戸建ての方にメリットが多い
そうはいっても、まだまだ売却損が出る人が少なくないのが現実。損を出してまで売却することはない。しばらく様子をみてもいいのではないか、と考える人もいるだろう。もしも売却損が出てしまったら、その売却損を給与所得などと損益通算・繰越控除をすることによって所得税をゼロにしたり、減らしたりできる。
たとえば、売却損が1000万円出た場合、その人の会社員としての年間所得が400万円であれば、損益通算によって売却した年の所得はゼロになり、所得税がかからない。翌年も所得が変わらない場合、繰越控除でやはり所得はゼロになり、3年目は1000万円-400万円(1年目分)-400万円(2年目分)で、年間所得が200万円となって、税金を少なくすることができる。
もちろん、売却損のすべてを取り戻せるわけではないが、高額所得者ほどメリットが大きいので注目しておきたい。
中古マンションの価格上昇がいつまでも続くとは限らないし、いまなら超低金利の住宅ローン金利が利用できるのは、買い替えの大きなメリットだ。金額によるが、多少売却損が出ても、いまのうちに買い替えてておいたほうが得策なのではないだろうか。
そして、住み替えるのであれば一戸建てを勧めたい。一戸建てはマンションほど価格が上がっていないし、実際に戸建てに住んでいても、マンションに住んでいる人と比べて通勤・通学時間に大差はないのだ。
また、現在のコロナ禍で、働き方が大きく見直されてきており、広い家を望む人が増えてきているという兆候もある。せっかく高値でマンションを売却するのであれば、次の住まいでは、ゆったりとした暮しを考えてもよいのではないだろうか。
【関連記事】>>新型コロナウイルスで、家の買い替えが難しくなる? 中古住宅の平均売却期間「3カ月」を知らないと、買い替えで大損することも!
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