個人が土地や建物の不動産を譲渡すると、他の所得と区分されて税金が計算されます。不動産の売却では必ず税金が発生するものではなく、譲渡所得と呼ばれる所得が生じると発生するのが原則です。譲渡所得は一定の要件を満たすと特例が利用でき、税金を大幅に節税できます。よって、不動産の譲渡では「譲渡所得の計算方法」と「特例」の2つの知識をしっかり身に付けることがポイントです。
・不動産の譲渡で発生する4つの税金
・譲渡所得の計算方法
・マイホームの減価償却費の計算方法
・所有期間で税率が異なる(短期譲渡所得と長期譲渡所得)
・個人が利用できる主な節税特例
・まとめ
不動産の譲渡で発生する4つの税金
不動産の譲渡とは、所有する不動産(土地や建物など)の権利を有償で譲り渡すことです。つまり、譲渡とは不動産売買を行うことに当たります。無償で権利を移転する相続や贈与とは異なるのがポイントです。
不動産を譲渡した際には税金が発生する場合があります。不動産譲渡時に生じる税金は、主に以下の4つです。
図表1 不動産を譲渡した時に発生する税金の内容
税金の種類 | 内容 |
---|---|
譲渡所得税 |
譲渡所得が生じた場合に発生する所得税および住民税、復興特別所得税の総称 |
印紙税 | 売買契約書に貼り付ける印紙代のこと。 印紙税は売買契約書に記載する金額によって決まる |
登録免許税 |
売却と同時に抵当権を抹消する場合は、 売主に抵当権抹消の登録免許税が生じる。 |
消費税 | 仲介手数料や測量費などに対して消費税がかかる |
この記事では、譲渡所得税について詳しく見ていきます。
譲渡所得の計算方法
個人が不動産を売却したときに得た所得を「譲渡所得」と言います。譲渡所得は売却額ではないので注意してください。
また、譲渡所得にかかる税金は、給与所得など他の所得とは合算せず、譲渡所得のみに対してかかるのがポイントです。このように他の所得とは分離して税金が計算されることを「分離課税」と呼びます。
譲渡所得は、以下の式で計算します。
譲渡価額
譲渡価額とは、売却代金に固定資産税精算金を加えたものになります。
固定資産税精算金とは、引渡日以降の固定資産税および都市計画税の実質的な負担を、買主へ移転するために買主から受領する精算金のことです。
取得費
取得費とは、売却する不動産を購入した時の購入額です。ただし、建物に関しては建物購入額から減価償却費(後ほど解説)を控除したものが建物取得費となります。
取得費が不明な場合は、「譲渡価額の5%」(概算取得費という)が取得費となります。また、相続した物件を売却する場合、取得費は親の購入額を引き継いで計算します。
譲渡費用
譲渡費用とは、仲介手数料や印紙税などの売却に直接要した費用のことです。ただし、抵当権抹消費用や引越し代、遺産分割のために要した支出などは譲渡費用に含めることができません。
特別控除がある場合の計算方法
一定の要件を満たす不動産の売却では、節税特例を利用することが可能です。節税特例は、主に特別控除によって譲渡所得を少なく計算できるものが多くなっています。
特別控除を適用した場合の譲渡所得の計算式は以下のとおりです。
計算の結果、譲渡所得がプラス(譲渡益という)であれば、譲渡所得税が発生します。それに対して、譲渡所得がマイナス(譲渡損失という)であれば、譲渡所得税は発生しません。
なお、税金が発生しない場合であっても、特例を利用するためには、売却の翌年、2月16日~3月15日までの間に確定申告を行うことが必要です。
【関連記事はこちら】>>不動産売却で確定申告が必要な人は? 必要書類や課税の仕組みを解説!
マイホームの減価償却費の計算方法
不動産の取得費は、土地の場合は購入額がそのまま取得費となります。一方で、建物は購入額から減価償却費を控除した価額が取得費となります。
よって、取得費の計算の流れとしては、まず「①購入額を土地と建物に分け」、その次に「②建物だけ減価償却計算を行う」ことです。
①購入額を土地と建物に分ける
購入額を土地と建物に分ける方法としては、主に以下の3つがあります。
(1)売買契約書の内訳を利用する
(2)消費税から建物価格を逆算する
(3)国税庁の示す標準的な建築価額から求める
(1)売買契約書の内訳を利用する
売買契約書に内訳があれば簡単に分かる、最もオーソドックスな方法です。
(2)消費税から建物価格を逆算する
売買契約書に土地と建物の内訳がない場合、消費税から建物価格を逆算します。なぜ消費税から建物価格が分かるかというと、不動産は建物にしか消費税がかからないからです。
消費税によって土地と建物価格を求める方法は以下のようになります。
土地価格 = 税抜総額 - 建物価格
消費税率は購入当時のものを用いることがポイントです。消費税率は以下のように変遷しています。
1997年(平成9年 ) 4月1日~2014年(平成26年)3月31日⋯5%
2014年(平成26年)4月1日~2019年(令和元年) 9月30日⋯8%
2019年(令和元年) 10月1日~ ⋯10%
(3)国税庁の示す標準的な建築価額から求める
個人から不動産を購入しているケースでは、消費税が非課税であるため、この方法が使えません。
消費税が非課税の物件は、国税庁の「建物の標準的な建築価額表」を用いて購入時の建物価格を求めます。標準的な建築価額を用いる場合は、2段階の減価償却計算を行います。
図表2 2段階の減価償却計算の考え方
最初に新築当初の建物の建築費を求め、新築時から購入時点までの減価償却を行い、購入時の建物購入価額を求めます。
次に、購入時から売却時までの減価償却を行い、売却時点の取得費を求めます。
②建物の減価償却費を計算する
取得費は建物価格に対してのみ減価償却計算を行います。
マイホーム等の居住用不動産の減価償却の計算式は以下の通りです。
マイホームの償却率は、建物構造によって決まっており、以下の数値を用います。
図表3 構造別のマイホームの償却率
構造 | 居住用の償却率 |
---|---|
木造 | 0.031 |
木造モルタル | 0.034 |
鉄骨造(3mm以下) | 0.036 |
鉄骨造(3mm超4mm以下) | 0.025 |
鉄骨造(4mm超) | 0.020 |
鉄筋コンクリート造 | 0.015 |
鉄骨鉄筋コンクリート造 | 0.015 |
※経過年数とは、購入の引き渡しから売却の引き渡しまでの所有期間のことです。
経過年数は1年単位で計算し、6カ月以上は切り上げ、6カ月未満は切り捨てで計算します。「24年2カ月」なら「24年」、「15年9カ月」なら「16年」です。
なお、アパートや賃貸マンション等の事業用不動産の減価償却では、居住用とは異なる「計算式」と「償却率」を用います。
事業用不動産を売却する場合は、別途、計算方法を確認するようにしましょう。
所有期間で税率が異なる(短期譲渡所得と長期譲渡所得)
譲渡益が生じている場合、譲渡所得税は譲渡所得に税率を乗じて計算します。
税率は所有期間によって異なり、短期譲渡所得と長期譲渡所得の2種類に分類されます。
短期譲渡所得とは、売却する年の1月1日時点において所有期間が5年以下のケースです。
それに対して、長期譲渡所得とは、売却する年の1月1日時点において所有期間が5年超のケースになります。
所有期間は売却する年の1月1日を基準としており、減価償却費で用いる経過年数とは異なる点がポイントです。
短期譲渡所得と長期譲渡所得の税率は下表のようになります。
図表4 短期譲渡所得と長期譲渡所得の税率
所得区分 | 所得税率※ | 住民税率 | 合計税率 |
---|---|---|---|
長期譲渡所得 | 15.315% | 5% | 20.315% |
短期譲渡所得 | 30.63% | 9% | 39.63% |
※所得税率は復興特別所得税率2.1%を含むものとなります。
相続した不動産を売る場合、所有期間は親の所有期間も引き継ぐことがポイントです。
なお、所有期間が10年超となるマイホームの売却で軽減税率の特例を利用する場合、税率は以下のようになります。
図表5 所有期間が10年超となるマイホームの売却で軽減税率
所得区分 | 所得税率※ | 住民税率 | 合計税率 |
---|---|---|---|
3,000万円特別控除後の譲渡所得のうち、 6,000万円以下の部分 |
10.21% | 4% | 14.21% |
3,000万円特別控除後の譲渡所得のうち、 6,000万円超の部分 |
15.315% | 5% | 20.315% |
※所得税率は復興特別所得税率2.1%を含むものとなります。
個人が利用できる主な節税特例
個人が利用できる主な節税特例について解説します。
マイホームで利用できる節税特例
マイホーム(居住用財産という)で利用できる特例には、以下の5つがあります。
図表6 居住用財産で利用できる特例一覧
特例(一般名称) | 内容 |
---|---|
3,000万円特別控除 | 譲渡所得から3,000万円を控除できる |
軽減税率の特例 | 所有期間が10年超の物件を売却したときに長期譲渡所得よりも税率を下げられる |
特定の居住用財産の買い換え特例 | 売却時の税金を繰り延べすることができる |
譲渡損失の買い換え特例 | 譲渡損失を繰越控除限度額とし、損益通算によって税金の還付を受けることができる |
オーバーローンの特例 | オーバーローン※の額を繰越控除限度額とし、損益通算によって税金の還付を受けることができる |
※オーバーローンとは、住宅ローン残債が売却額を上回っている状態のことです。
居住用財産の特例は、親族間の売買では適用できません。また、特例を適用できるのは3年に1度だけになります。
【関連記事はこちら】>>不動産売却時に活用したい特別控除を解説! マイホームの買い替えでは「3000万円特別控除」と「住宅ローン控除」どちらがお得?
マイホーム以外で利用できる節税特例
マイホーム以外でも、一定の要件を満たすと節税できる特例が存在します。一般的に利用される主な特例には、以下の4つがあります。
図表7 居住用財産以外に利用できる主な特例一覧
特例(一般名称) | 内容 |
---|---|
相続空き家の特例 |
一定の要件を満たす親の自宅を売却した場合、譲渡所得から3,000万円を控除できる |
取得費加算の特例 | 相続税を納税した人が、一定期間内に相続した不動産を売ると計算式で求められる控除額を差し引くことができる |
低未利用土地等の特例 | 都市計画区域内で一定の要件を満たす500万円以下の物件を売ったときに利用できる |
平成21年及び平成22年に取得した土地の特例 | 2009年(平成21年)1月1日から2010年(平成22年)12月31日までの間に取得した土地を売ると1,000万円を控除できる |
【関連記事はこちら】>>不動産売却にかかる税金の節税方法を解説! 特別控除は自宅、賃貸、相続した空き家などで異なる
まとめ
以上、不動産譲渡の税金について解説してきました。
不動産の譲渡では、譲渡所得が発生すると所得税および復興特別所得税、住民税は発生します。
譲渡所得の計算では、減価償却費の計算をすることがポイントです。税率は、所有期間によって異なります。
不動産譲渡の税金の概要がわかったら、まずは税金の計算をしてみましょう。
不動産売却の税金に関する記事一覧
・不動産売却にかかる税金の節税方法を解説
・マイホームの買い替えお得な節税特例は?
・不動産売却で確定申告が必要な人は?
・マンション売却時の税金
・土地売却時の税金
・一戸建て売却時の税金
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