マイホームの売却では、課税が緩和できるよう特別控除や特例が用意されています。これらの控除や特例は、併用して使えない場合があるため、一番節税効果のあるものを選ぶ必要があります。具体的なケースを例に、正しい知識を身に付けておきましょう。また、相続した空き家や更地に関する特例についても説明します。
マイホームを売却したときの特別控除は4つある
マイホームを売却する場合、特別控除の金額が大きいほど、支払う税額は少なくてすみます。特例を受ける条件は、売却した物件が所有者本人が生活の拠点として利用していた居住用財産であることです。実際には税務署や税理士に相談することをおすすめしますが、不動産購入当時の契約書や領収書が必要になりますので、そろえておきましょう。
①居住用不動産を譲渡した場合の3000万円特別控除
マイホーム売却の際、所有期間の長短に関係なく、譲渡所得(利益)から最高3000万円まで控除される特例です。ただし譲渡の前年、前々年にこの特例を適用している場合は使えません。
また、ほかの特例や住み替え用の物件を購入する際の住宅ローン控除との併用もできません(②10年超所有軽減税率を除く)。古い物件を売ったときの3000万円特別控除と、新しい物件を購入するための住宅ローン控除は併用できないため、どちらかを選ばなければなりません。選び方については、後ほど説明します。
3000万円特別控除は、さほどハードルは高くないので、ほとんどの人が利用可能です。なお、売却益が3000万円を超える場合は、超えた部分について、「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」の区分に応じて一定の税率で所得税・住民税がかかります。
◆「譲渡所得」の税率 |
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長短区分 | 短期 | 長期 |
所有期間 | 5年以下 | 5年超 |
税率 | 39.63% (所得税 30.63%、住民税 9%) |
20.315% (所得税 15.315%、住民税 5%) |
税率には復興特別所得税として所得税の2.1%相当が上乗せされている。 |
②10年超所有軽減税率の特例
「3000万円特別控除」の適用があり、マイホームの所有期間が10年を超えたもの(取得後にお正月を11回迎えている)である場合には、長期譲渡所得(所有期間が5年を超えたもの)の税額より低い軽減税率が適用可能です。
①3000万円の特別控除とも併用できるため、以下のように大きな節税効果が期待できます。
◆所有期間が10年超の自宅売却の税率 |
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課税長期譲渡所得金額(※) | 税率 | |
6000万円以下の部分 | 14.21% (所得税 10.21%、住民税 4%) |
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6000万円超の部分 | 20.315% (所得税 15.315%、住民税 5%) |
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復興特別所得税を含む。※ 課税長期譲渡所得金額は、3000万円特別控除による3000万円を超えた部分 |
③居住用財産の買い換え等の場合の、譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(買い替えを伴う場合)
所有期間5年を超える(取得後にお正月を6回迎えた)マイホームを売却して損失が出た場合、一定の要件を満たすマイホームに買い換えることにより、譲渡損失をその年のほかの所得と損益通算※して、税金を安くすることができます。
※損益通算とは、損失から利益を差し引いて計算すること
1年で控除しきれなかった損失は、翌年以降3年間繰り越して控除可能です。この特例を受けるためには、税務署に確定申告をしなければなりません。
④特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(買い替えを伴わない場合)
所有期間が5年を超えるマイホームを売却して損失が出た場合、「譲渡所得の損失金額」と「住宅ローンの残高から売却価額を差し引いた金額」のいずれか少ない金額を限度として、その年のほかの所得と損益通算できます。
売却契約締結日の前日時点で、住宅ローン償還期間が10年以上ある場合に適用できる特例です。損益通算しても赤字となった金額は、確定申告で翌年以降3年間繰り越して所得から控除できます。
【関連記事はこちら】>>不動産売却で利益が出たら確定申告が必要! 必要書類や課税の仕組みを解説
「3000万円特別控除」と「住宅ローン控除」どちらを選ぶべきか
住宅ローン控除とは、個人が住宅ローンを組んでマイホームを購入した場合などに、入居年以降の所得税が減税される制度です。マイホームを買い換える場合、前の物件の売却に対する3000万円特別控除と、新しい物件購入の際の住宅ローン控除は併用できません。どちらを選択するのが有利か、具体的な事例で検証してみましょう。
ここでは分かりやすく説明するために、減価償却のプロセスを省いています。実際の中古住宅・マンションの売却では、建物の取得費から減価償却費※を差し引いて計算してください。
※減価償却費とは、建物は年数を経るごとに一定の劣化をしており、減価償却とは劣化分に相当する金額のこと
3000万円特別控除を受けたほうがよいケース
・マンションを4700万円で購入して4年後に7000万円で売却した。
(取得費は4700万円、譲渡費用は250万円)
・その後個人の売主から中古マンションを7500万円で購入した。
頭金1000万円、住宅ローン借り入れ6500万円(借入期間10年以上)
*住宅ローン控除は、年40万円の最大控除が受けられるものとする
*購入したマンションは認定住宅(耐久性、耐震性、省エネ性能などの措置が講じられている住宅)ではないものとする
①3000万円特別控除を適用した場合の税額
課税譲渡所得 = 売却価格(7000万円)-取得費(4700万円)-譲渡費用(250万円)= 2050万円
3000万円より低いため課税なし
②住宅ローン控除を適用した場合の税額
⒜課税譲渡所得(2050万円)×短期譲渡税率(39.63%)= 812万4150円
⒝住宅ローン控除総額(40万円)×10年 = 400万円
812万4150円⒜-400万円⒝ = 412万4150円
判定
①0円 < ②412万4150円
3000万円特別控除を適用するほうが有利
住宅ローン控除を受けたほうがよいケース
・マンションを5900万円で購入して8年後に7000万円で売却した。(取得費は5900万円、譲渡費用は250万円)
・その後個人の売主から中古マンションを7500万円で購入した。
頭金1000万円、住宅ローン借り入れ6500万円(借入期間10年以上)
*住宅ローン控除は、年40万円の最大控除が受けられるものとする
*購入したマンションは認定住宅ではないものとする
①3000万円特別控除を適用した場合の税額
課税譲渡所得 = 売却価格(7000万円)-取得費(5900万円)-譲渡費用(250万円)= 850万円
3000万円より低いため課税なし
②住宅ローン控除を適用した場合の税額
⒜ 課税譲渡所得(850万円)× 長期譲渡税率(20.315%)= 172万6775円
⒝ 住宅ローン控除総額(40万円) × 10年 = 400万円
172万6775円⒜ -400万円⒝ = ▲227万3225円
判定
①0円 > ②▲227万3225円
住宅ローン控除を適用するほうが有利
計算上ではこのような判定になりますが、住宅ローンの控除額は年収(所得税・住民税の額)によるため、ずっと年収が下がらない保証がない限り、確定的な見通しが立たない面があります。「3000万円特別控除」と「住宅ローン控除」のどちらを利用するか、将来の働き方や家族構成なども考えて、負担の少ない選択をするようにしましょう。
【関連記事はこちら】>>住宅ローン控除の目安額を、年収別にシミュレーション!年収300万円なら75万円お得になる!?
空き家や土地の売却で使える特例
マイホーム以外にも、不動産を売却した人が使える特例があります。ここでは、「①相続した空き家の3000万円特別控除」「②土地の1000万円特別控除」の2つの特例を紹介します。
①相続した空き家の3000万円特別控除
この特例が受けられる条件は、耐震リフォーム化または更地にして売ることです。相続した空き家を、2016(平成28)年4月1日から2023(令和5)年12月31日までの間に売却する場合、家屋に耐震リフォームを施して売却するか、家屋を解体して更地で売却することで、最大3000万円までの控除が受けられます。
それも相続人それぞれ3000万円の特別控除の適用が可能です。ひとりで代表相続してしまい、適用枠が最小にならないよう、相続人全員が適正な相続持ち分になるように手続きをしましょう。
ただ、更地にするなら売却先が決まってからにすべきです。大多数の人は、「建物を取り壊して売却」を実施することになりますが、販売開始後の早い時期に建物を取り壊してしまうと、その費用を先出ししなくてはなりません。しかも更地にすることで、固定資産税は最大約6倍と増額してしまいます。
そこで家屋はそのままに、販売図面上は「現状古家あり解体後更地渡し」という表記で売りに出します。売却先が決まってから建物を取り壊せば、増税リスクも回避できます。
ほかにも満たすべき要件を確認します。この特例は適用要件が少々複雑です。不動産の売却前、もしくは相続登記を行う前に、不動産仲介会社に詳しい説明を求め、相続人全員がよく内容を理解したうえで準備をしてください。
「相続空き家の3000万円特別控除」を受けるための主な要件・注意点は、次のとおりです。
・故人の居住用家屋とその敷地などを、相続や遺贈で取得した
・1981(昭和56)年5月31日以前に建築された建物である
・マンションなど、区分所有建物登記がされている建物ではない
・相続日から3年が経過する日が属する年の、12月31日までに譲渡
・譲渡価格は1億円以下
・相続の開始直前に、故人以外の人が居住していなかった家屋である
・譲渡相手は、直系血族、生計同一親族、同族会社ではない
・住宅ローン控除と重複適用が可能
・故人が老人ホーム等に入所していた場合は、要介護認定を受けていた、または本人の荷物があるなど、入所中も家屋が使用されていた
・相続時から譲渡時まで、事業、貸し付け、居住用に利用していない
・譲渡時点で、建物が現行の耐震基準に適合しているか、更地にしている
【関連記事はこちら】>>「空き家」になった実家を、上手に売却する方法は? 一戸建ては"空き家の譲渡所得3000万円特別控除"や自治体が補助してくれる"解体助成金"を活用しよう!
②土地の1000万円特別控除
これもうっかり見逃しがちな特例です。2009(平成21)年から2010(平成22)年に取得した土地に適用します。2009年または2010年に取得した土地の譲渡では、要件を満たせば譲渡所得控除を受けることができるというもの。賃貸していた土地、セカンドハウスの土地、マンションの敷地権部分(土地部分)についても、特例の適用が可能です。ただし、相続、遺贈、贈与、交換などによって取得した土地には適用できません。
また、複数の土地は年度をまたいで売るほうが得になります。対象年に土地を2カ所所購入し、2カ所とも同じ年内に売却した場合、譲渡益の合計が1000万円を超えても、その年の譲渡所得から控除できるのは1000万円までです。
反対に、2カ所の土地を違う年に売却すれば、その都度1000万円の特別控除が受けられます。また、共有で取得した土地を売却した場合は、共有者それぞれが1000万円特別控除を受けることができます。
そして、この特例は3000万円特別控除との併用は不可ですが、住宅ローン控除とは併用可能です。「3000万円控除」と「当該1000万円控除+住宅ローン控除」を比べて選択してください。
ほかには次のような要件があります。
・所有期間5年超(取得からお正月を6回迎えたもの)であること
・譲渡相手が、直系の血族、生計同一親族、同族会社ではないこと
・3000万円特別控除、買い換え特例との重複適用は不可
・住宅ローン控除との重複適用が可能
特例の適用を受けるには、確定申告などの手続きが必要です。紹介した特例などは2020年4月1日時点のもので、法令の変更、特例等の緩和や適用内容の変更、適用期限の延長や廃止がありえますので、売却前に国税庁ホームページで再度ご確認ください。
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