現在住んでいる自宅の住み替えを行う際、売るか貸すかで悩まれる方は多いと思います。売却か賃貸かの考え方は、メリット・デメリットを正しく把握した上で判断をする必要があります。今回の記事では、その判断基準となる考え方を5つのステップに分けて、順を追ってご紹介いたします。
ステップ1:引越し先は、購入か賃貸か
最初のステップとして、引越し先が買い替えなのか、賃貸や実家なのかで、売却か賃貸に出すかが変わってきます。
①引越し先を住宅ローンで購入する場合(買い替えの場合)
まだ住宅ローンの残債がある状態で、2軒目をさらに住宅ローンで購入されるということであれば、銀行が新たな住宅ローンを貸し出す条件として、現自宅を売却することを求める「売却条件」が付くケースがほとんどです。
そうなれば、もはやご自宅を売却するしかありませんので、その時点で賃貸に出すという選択肢はなくなります。
まれに、現自宅のローンが残っていても、残債が少なく、与信に対して買い替え先の予算が控えめであるという場合は、売却条件が付かないケースもあります。
その時は現自宅を売却する必要がないので、賃貸に出すという選択肢も検討できます。
よって、買い替えをする場合は、次の購入先の住宅ローンの借入条件次第で、賃貸に出せるかどうかが決まります(キャッシュで購入される方は関係ありません)。
②引越し先が賃貸、またはご実家の場合
現住居が手狭になったので、いったん、賃貸で郊外の広いお部屋に引越しをしたいという方も一定数いらっしゃると思います。
または、お仕事の都合で一時的に転勤になったり、親の介護で実家に帰る必要があったりなど、やむなく引越しせざるを得なくなった方もいらっしゃるでしょう。
その際は、ご自宅の売却を焦る必要もなく、賃貸に出すという選択肢も検討できます。こちらの場合は、ステップ2に進みましょう。
ステップ2:現自宅の借入れ銀行へ、賃貸に出してもいいか確認する
ステップ1の②であえて「賃貸に出すという選択肢を検討できる」という表現にしたのは、誰しもが現自宅を賃貸に出せる訳ではないからです。
多くの方は、ご自宅を住宅ローンで所有されていらっしゃると思いますが、原則、住宅ローンで購入したお部屋を賃貸に出すことはできません。銀行が賃貸に出すことを許可した場合のみ、住宅ローンを借りたまま賃貸に出すことが可能です。
銀行担当者との話し合い次第では一定の条件が付いたり、金利が上がったり、借り換えを提案されることもあります。
無断で賃貸に出すと契約違反となりペナルティーが科せられますので、くれぐれもご注意ください。
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賃貸に出すことを許可されなかったら?
では、銀行から賃貸不可と言われた場合どうするか。その時は、投資用ローンに借り換えるか、残債を完済するかのどちらかしかありません。
なお、投資用ローンに借り換える際は金利に注意が必要です。金利は賃貸に出す上で非常に重要な指標です。金利によって残債の減るスピードもキャッシュフローも大きく変わってくるからです。
わざわざ高い借り換え費用を支払って投資用ローンに切り替えたにもかかわらず、全然利益が残らなかったということがないようにしましょう。
筆者の感覚ですが、もし目安を挙げるなら、金利が1.5%以下なら安い、1.5%~2%なら普通、2%~2.5%ならやや高い、2.5%以上ならかなり高いという感覚です。
前述のステップをクリアし、賃貸に出すことの目処がついた前提で、ステップ3に進みます。
ステップ3:賃貸に出すメリット・デメリットの比較①(ライフプラン編)
いよいよここからは、現自宅を賃貸に出すことのメリット・デメリットを比較して判断していきます。ステップ3では、ライフプラン面から検討していきましょう。ライフプランとは、具体的には下記の通りです。
・いったんは賃貸や実家に住むけれど、いずれまた物件を購入したいと思っている
・転勤などで最初の数年は賃貸に住むが、所有物件はいずれ手狭になるため戻る予定はなく、別の物件の購入も視野に入れたい
・一棟などの投資物件を購入したいと思っている
上記に該当する方は特にお気をつけください。
なぜなら、賃貸に出すデメリットのひとつが、今後、売却しにくくなるということがあるからです。
つまり、もし近い将来、また購入(買い増し)を検討しているなら、結局はステップ1と同じで「売却条件」がついてしまう可能性が高いです。
この売却条件が足かせになり、次の物件が購入しにくくなります(※賃貸中のご所有物件の残債がないという場合は問題ありません)。
売却条件付きの物件を無理やり売ろうとすると、「オーナーチェンジ※」で売却する形になるので、相場より5%以上安くしないと売却できないケースが多く、かつ売却活動も長期戦になる傾向があります。
※オーナーチェンジとは、賃貸物件の所有者が、入居者が入ったままの状態でその物件を売却すること
もし、賃借人さんを追い出そうとしても、借地借家法上は入居者の方が立場が強いためなかなかうまくいきません。
それであれば、初めから居住用の相場で売却するのがいいでしょう。安売りすることもなく、残債もなくせるので身軽になり、ご自身の好きなタイミングで再度物件を買うことができるというメリットがあります。
一定期間は新規に購入をしない場合は?
もし、「一定期間は新規購入を検討することは絶対にない」ということなら、その期間中は「定期借家契約※」で賃貸に出して、賃借人さんが退去してから、売却条件を付けて新しく購入するというプランを組むことをおすすめします。
※定期借家契約とは、事前に契約期間が設定されており更新のない契約のこと
深く考えずに利益が出ると思い、普通借家契約で賃貸に出してしまうと、前述のとおり「買いたい物件があるのに買えない」「オーナーチェンジで安売りもしたくない」「賃借人さんが出ていってくれない」というジレンマに悩まされ、身動きが取れなくなるのでご注意ください。
現自宅を賃貸に出した後のライフプランは非常に重要となります。近い将来、また家を買いたいと思っているなら、賃貸はやめておいた方が無難です。
ステップ4:売却と賃貸のメリット・デメリットの比較②(タックスメリット編)
こちらのステップでは、売った場合・貸した場合のタックスメリットを比較して検討します。具体的に比較するものは以下の通りです。
・住宅ローン控除
・賃料収入
昨今のマンション価格上昇を受け、購入時の価格から大幅に値上がりしたという方も多いと思います。
そのような方は、物件を売却すると多額の譲渡所得税が発生します。もし、5年以内の短期譲渡だとすると、所得税は売却益に対して41.1%(所得税率30.0%+住民税率9%+復興所得税率2.1%)かかります。
約4割ということですから非常にインパクトがあります。仮に、1,500万円の譲渡所得が出れば、約600万円も納税しなければなりません(※譲渡所得税の計算は国税庁HPをご覧ください)。
そんな時の強い味方が「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例(通称:3,000万円特別控除)」という税金優遇です。
【関連記事】>>不動産を譲渡(売却)した時の税金の計算方法とは? 節税特例や減価償却の考え方なども解説!
この特例を使えば、所有期間の長短に関係なく、譲渡所得が3,000万円以内なら納税額をゼロにすることができます(※特例を受けるためには複数の要件がありますので、詳しくは国税庁HPをご覧ください)。
この特例を使いたいということであれば、基本的には賃貸ではなく売却がおすすめです。
3,000万円特別控除は「住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること」が要件のひとつですので、期間を過ぎるとこの優遇は使えなくなるためです。
また、買い替えの際に3,000万円特別控除と住宅ローン控除は併用できませんので、判断ポイントは、3,000万円特別控除を放棄してでも、住宅ローン減税と賃料収入を優先する価値は本当にあるのかという点です。
例えば、先ほどの例で600万円の3,000万円特別控除のメリットがあるとします。その600万円のメリットを放棄してでも賃貸を選ぶという場合、不動産所得(賃料収入)と住宅ローン減税の合算(買い替えの方限定)で、何年で600万円分を回収できるかを試算してみましょう。
個人差がありますが、筆者の感覚では以下の判断になります。
それは、お金の価値を考える際に「時間価値」という視点もあり、即金で手に入るお金の方が後から手に入るお金よりも価値が高いという側面もあるためです。
具体的なシミュレーションは、次回の記事でご紹介します。
ステップ5:賃貸のリスク・デメリットを許容できるか
最終ステップです。安定的な賃料収入を得るというメリットと引き換えに、貸主さんはさまざまなリスクを背負います。そのリスクとデメリットを理解し、ご自身の中で許容できるかどうかを判断していきます。
具体的なリスクとデメリットは以下の4つがあります。
②部屋を汚されるリスク
③確定申告と管理が面倒
④所得税・住民税が上がる
それぞれ解説していきましょう。
①物件価格の下落リスク
現在はバブル期を超えるほどのマンション価格高騰の時代ですが、物件価格が将来にわたり維持されるという保証はございません。
また、長く所有するほど故障も増え、リフォーム代も発生し、修繕積立金などの固定費も高くなっていきます。
今後の不動産価格が上がるか下がるか、どう将来を見通しているかも重要な判断基準です。今が不動産価格のピークだと思われるなら、賃貸よりも売却の方が良いでしょう。
②部屋を汚されるリスク
賃貸に出すと大切にしていたお部屋を想像以上に汚されたり、設備や建具が壊されたりするというトラブルも頻繁に発生します。
借り主による原状回復の義務はあるのですが、敷金では回収できないこともあり、原状回復が物理的にできないような場所だったりすると、賃借人と裁判沙汰になるというケースもあります。
また、どんなに契約で縛っていたとしても、勝手にペットを飼育してお部屋をボロボロにしたり、たばこを吸ってお部屋全体に臭いが染み付いていたりという悪質な事例もあります。
万が一、告知義務に該当するレベルの事件が起きれば、売却時に重要事項説明義務が発生するため、資産価値に影響することもございます。
③確定申告と管理が面倒
賃貸に出すということは、収入と経費をしっかり計算し、毎年確定申告をしなければなりません。
最近はペアローンで購入されている方も多いと思いますが、その際は持ち分割合に応じて不動産所得を按分して申告する必要があります。ネット申請ができるようになったため簡易的にはなりましたが、それでも確定申告をご自身で行うのは労力がかかります。
また、細かい入居者に当たってしまうと、事あるごとにクレームや修理依頼がきます。管理会社に委託しているとはいえ、費用が発生する修理はオーナーの判断となるので、容認できないような賃借人からの無理難題に悩まされるということも少なくありません。
④所得税・住民税が上がる
賃料収入は不動産所得※のため、総合課税となります。つまり、給与所得と合算されるため、ご自身のトータルの年収・所得が上がります。
※賃料収入から諸々経費と減価償却を差し引いたものが不動産所得となります
総合課税制度に該当する所得は、累進課税が適用されます。トータルのご自身の所得が上がると、累進課税のパーセンテージの変わり目を超えてしまい、税金の負担が現状よりも重くなる可能性があります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
その結果、賃貸に出したら税率が増えて、想定よりも利益が残らなかったということも考えられます。
まとめ
以上、住み替える際に、今の家を売るか貸すかを判断する5ステップでした。
- 【今の家を売るか貸すかを判断する5ステップまとめ】
ステップ1(本文に戻る)
①引越し先が購入(買い替え)→ 売却
②引越し先が賃貸や実家→ 賃貸に出す選択肢もあり<ステップ2へ> - ステップ2(本文に戻る)
賃貸に出す場合、現自宅のローンが残っているなら銀行に許可を得る
①許可された→ 賃貸に出せる<ステップ3へ>
②許可されなかった→ 投資用ローンに借り換えるか、残債を完済する - ステップ3(本文に戻る)
メリット・デメリットを将来のライフプラン面から判断する
①近い将来、また家を購入する予定→ 売却しておくのが無難 - ②新たに購入する予定はない→ 賃貸(定期借家契約も検討する)
- ステップ4(本文に戻る)
- 3,000万円特別控除を放棄してでも、住宅ローン減税と賃料収入を優先する価値があるかで判断する
- ①2年以内に賃料収入が売却価格を上回る→ 賃貸
- ②2年以内に賃料収入が売却価格を上回らない→ 売却
- ステップ5(本文に戻る)
賃貸に出した場合のリスクとデメリットを許容できるかどうかで最終判断する
①許容できる→ 賃貸
②許容できない→ 売却
諸々のリスクをしっかり把握した上で、ご自身のライフプランや考え方に合った選択をしていただければと思います。
次回の記事では、ケーススタディーとして具体例を挙げながら、実際に売るか貸すかのシミュレーションをしていきたいと思います。
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